トリップ娘は願望少女
姫宮愛子はトリップを願っていた。
大好きな乙女ゲームをプレイするたびに、各ルートの攻略を楽しみ、どこまで同時攻略ができるか試す少女だ。彼女が望むのは逆ハーレム。そして、大好きな乙女ゲームの世界にトリップして逆ハーレムを作ることを望んでいた。
転生を願わなかったのは、また一から育っていくのが面倒だったからだ。舞台と役者がすべて揃っている時期の方が楽。
可愛い自分が転生してから、周りにちやほやされるのも素敵だが、攻略対象全員に早く会いたい彼女にとって、トリップが一番適していた。
叶えられるはずのない願いは、生け贄を差し出すことで叶った。少女は歓喜した。自分は特別なのだと笑みを浮かべた。
乙女ゲームのヒロインがもしいたとしても、攻略対象の望む受け答えをばっちり覚えている。相手の好みに合わせるのは簡単だ。
元の気に入らない容姿を捨て去り、現実ではありえない淡いパステルピンクの髪と瞳を手に入れた愛子は、真新しい制服に袖を通す。
この乙女ゲームの世界ではありえない髪色や瞳が当たり前のようにある。もちろん、選ばれた人のみに与えられた色彩である。
少女はスキップをしながら、校門を潜る。自分のために用意された舞台で愛されるために、学校へ向かう。
舞台が自分のために用意されているのだ、そう無邪気に、傲慢にも信じてトリップ少女は歩いていく。世界が自分のためだけにあるのではない、という事実に気付かぬまま、設定がすべてではないと知らぬままに――……。