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10月27日 決闘編その10 君に笑顔を

PM2:50


「成仏せい、クソ婿!!!」


勝也が罵倒と共に

梅原流奥義•梅香殺(ばいこうさつ)

態勢に入った。

このままであれば俺は粉砕されて終わりだ。



だが同時にこの瞬間を俺は狙ってもいたのである。





雨狼名•八咫鏡式(やたのかがみしき)



山ごもりを経ても結局完成させることの

できなかった技であるが、

ベルさんによるとこの技で

俺は強大な3つ首の魔獣の首を一つ

見事に叩き落としたらしい。

何かおかしな機械の効果で

パワーアップ出来ていたとはいえ、

本来なら俺にそれほどのパワーがあるはずがない。



そうこの技の最大の特徴は

相手の技を受けるギリギリのタイミングで

逆に突き上げることで、

相手が技に込めた体重•パワーを

そのまま相手に跳ね返すことができるのである。

なればこそベルさんはこの技を

日本の故事になぞらえて、

『八咫鏡式』と名付けたのである。




しかしそんな絶妙なタイミング、

そうそう掴めるはずは無いし、

上手く行かなかった時のリスクが

大きすぎるため、

この試合では当初は使わないつもりだった。



だがこの長い戦いにおいて

色々なことが思い出される中で、

一度限りかもしれないが、

確実に決める方法が頭に浮かんだのである。






勝也の竹刀が振り下ろされて来る。



その瞬間俺は山ごもりでの銀髪紅眼の少年の罵倒を思い出すした。


「えぇー君の実力はこんなものなのー?稽古なんでしょ、ほら立って」

「おい斬無斗…やり過ぎるなよ」

「良いんだよ、無白花。

実力以上の相手と戦おうとしているんだから、

これくらいは耐えてもらわないと。」



可愛い顔して彼との特訓は妹さん以上に激烈なもので、

全くとんでもない目に合った。

あれでも俺がユキちゃんの知り合いだから手加減してやったと

後々聞かされた時には、

そうでなかったらどうなっていたのかと、

寒気が走ったよ。

でもおかげでちょっとした不思議な技を身につけることが出来たんだ。





銀伸刀(ぎんしんとう)


俺が意識を切っ先に集中すると、

その先端がほんの10cmほど伸びた様な

感覚が現れる。



本来なら攻撃範囲を2倍近くにしたり、

衝撃波を出せる様になるみたいだけど、

そんなすごいこと俺に会得出来るはずがない。

俺に出来たのはほんの少し手持ちの武器の

リーチを伸ばせる様になっただけ。



ただそれだけだと思っていたから、

さっきまでは使う気はなかったんだけど、

町長さんから話を思い出して

一つ試してみようと思ったんだ。





「清水さん、俺が手品得意なこと

ご存知ですよね。

手品って面白いんですよ。

その種って多くの場合はほんの些細な錯覚なんかを

利用しているんです。

ちょっとしたことが大きな驚きや感動を生む。

そこが好きなんですよね。

俺も町長としてまだまだちょっとしたことしか

出来ていないですけど、

それでこの町の多くの人が喜んでくれているなら

本当に嬉しいですよ。」



その時はどこまでも謙虚な人だと

尊敬半分呆れ半分だったのだが、

この『ちょっとしたこと』が

俺の八咫鏡式には欠けていたのではないかと、

さっき『彼女』に諭されたことで思いついたんだ。






勝也の刀は俺の脳天にそのまま振り下ろされて来る。


その速度はあまりに早く、

俺程度では見切ることはできない。

しかし『見ること』は出来なくても、

『感じること』は出来るんだよ。




今にも俺の頭に斬撃が浴びせられようとした瞬間、

その刀の動きが急に『ぶれた』。

まるで『見えない何か』にぶつかったかのように。



その瞬間、

俺は全力で竹刀を突き上げる。

その竹刀はそのまま勝也の喉元を、

彼の竹刀が逸れて俺の肩口に届く寸前に

突ききった。





「雨狼名•八咫鏡式 笑 向日葵」




これは皆を笑顔にすることを願った

人達の願いの技。

俺は勝利よりも何よりも、

『君』に笑顔を届けたい。






「それが貴様の剣か。」



頭上から勝也の声が聞こえる。



「全くふざけた技だ。

そんな一か八かのことをしていて

本当に司を守れるのか。

儂の持っているのが真剣なら

貴様の左手は吹っ飛んどるぞ。」

「なら右手で守るさ。

いや違うね、

右手で司さんと手を繋ぎ、

お腹の子達を抱き上げてやるさ。

首なし遺体が適当なことを言うんじゃない。」



敗れてなお憎まれ口を止めない勝也に対して、

公然とそれでいて堂々と

家族を守り続ける誓いを口にする。

それが勝者の務めだろう。





「屁理屈を。

とにかく浮気でも

しようものなら

次こそ両断してやるから

覚悟しておけ。」

「そっちこそ

孫に嫌われない様に

笑顔の練習でも

しておくんだな。」

「大馬鹿もの。

だが笑顔か、

なるほどな。

それがお前と儂の

『差』か。

•••見事だ。」




勝也が崩れ落ちる様に

床に倒れる。




「勝者、清水渉!!」

「「「「「おおおおーーーーーー!!!!!」」」」」



魚沼先生の宣言と共に

湧く会場。



俺の戦いは漸く終わったようである。








PM3:30



「藤堂先生、

渉は大丈夫ですか?」

「まあ全身ボロボロだし、

最後の一撃で左肩が脱臼しかかったってたから、

しばらくは安静にしていてくださいな。

全く、何で負けた本人は

奥さんに声をかけられただけで

むすっと立ち上がったり出来るんだよ。

でも奥さんが手当てした後で、

病院に連れて行ったみたいだし

そっちも大丈夫だろう。

でもいいのかい、勝手に行かせちゃって。

ちゃんと結婚式に出るとか何とか、

全然言ってなかったじゃないか。」

「まあ、父様は父様ですから。

でもあの後で魚沼先生やユキちゃんが

ちゃんと話をしてくれたみたいだから

大丈夫でしょう。

それに『これ』も

渡してくれましたから。」



気づくと司さんに膝枕されている様で、

側では審判をしてくれていた藤堂先生が

俺の手当をしてくれているみたいだった。



遠くではうろラジのスタッフさん達と

直澄が話しているのが見える。

会場の片付けも順調に進んでいるようだ。





俺はというと勝つには勝ったが、

その後気を失ってしまったらしい。

あれだけ無茶苦茶やったんだから、

しょうがないか。




そんなことを考えながら、

ふと横に眼をやると、

「げっ!!そ、それは!!!」

驚くべきものが置いてあって、

俺は声を上げてしまった。




「ああ、渉、気がついたのか。」

「は、はい。

ご心配おかけしました。

えっと、お義父さんの方はどうしましたか。」

「すぐにむくっと起き上がって帰ってしまったよ。

あとは母様に任せておけば大丈夫だろう。」

「そうですか。

•••ちなみにその刀がなんでここにあるんですか?

それ、俺を斬りつけた奴ですよね。」





俺がトラウマ半分おっかなびっくりそう言うと、

司さんは苦笑しながら事情を教えてくれた。



「そう言えばそうだったな。

これはうちの道場に代々伝わる守り神みたいなものなんだが、

それをそんな風に使うのは全く父様らしいというか何と言うか。

ああ、帰る間際に

『結納の品だ。そこで寝ているアホが目覚めたら

渡しておけ。』と父様が置いていったんだ。」

「そんなもの貰っても困るんですけど•••」

「まあ、そう言うな。

実際金額的にもそれなりの価値がある古刀ではあるし、

色々謂れもある刀なんだ。

名前は『愛護丸(あいごまる)』。

その昔希代の女鍛冶士が絶望的な戦場に赴く夫の為に

身命を賭して打った名刀で、

愛する者を災いから守るという風に言い伝えられているんだ。

父様も『あのときこの刀で斬れなかったということは

あいつは紛い物ではないということだったのだな。』とか

今になって言われてもと思うのだがな。」



どうやら司さんにはその刀を渡されたことで、

勝也の心情が色々分かったようである。

それなら、まあ、それでいいか。



とにかく疲れた。

さっさと家に帰って寝たい。





「では渉、もう少ししたら

家に帰ろうか、

そうしたら。」



司さんが耳元に口を寄せながら

囁いて来る。



お、こ、これは久しぶりの

『お誘い』か!!

ヒャッホー!!!

苦しい修行に耐え、

強敵を打ち破った甲斐があったぜ!!!!



そんな風に浮かれる俺を

次の彼女の言葉が凍らせた。



「さっきの写真ばらまきについて

みっちり説教してやるから覚悟しておけ!!」



見上げると司さんのこめかみには

ピキーンと筋が入っていた。

やべ、マジで怒らせてるわ。

ああ、やっぱりこんなことになるのねーーー!!





笑いで終わらせた戦いは

やはりそのオチもギャグになってしまうようである。

その晩、俺が受けた精神的ダメージは

笑い事ではなかったが。





でもまあ、それも悪くはないだろう。

この戦いの最大の功労者は、

それをも含めて笑って見守ってくれているのだろうから。



『彼女』の見守るこの町に絶えることのない笑顔を。



この戦いはそのことを改めて誓い直すためのものであった。

そんな風に後々俺はこの日々を思い出すのだった。

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。



すいません、昨日までには終わりませんでした。


とはいえ無事修行編•決戦編を終わらせることが

出来ました。

後ほど活動報告等でも改めてご報告させていただきます。


朝陽真夜さんからはベルさんのお名前を、

銀月妃羅さんから斬無斗くん、無白花ちゃんのお名前を、

シュウさんから町長さんを、

桜月りまさんからはユキちゃんのお名前と魚沼先生を、

綺羅ケンイチさんからは藤堂先生を

寺町朱穂さんからは彼女と

お話のタイトルを技名としてお借りしました。

本当に修行編•決闘編を通じての皆様のコラボのご協力

ありがとうございました。


次話はこの話の後日談的なものになります。

それを終わらせたらいよいよ

ラスト結婚式話です。

どうぞお楽しみに。

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