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10月27日 決戦編その8 もう駄目なのか・・・

PM2:20



「よっしゃ!決まった!!」

「あれは避けられん!!」



あまりのスピードに

多くの観客は付いていって

いなかったが、

うろなの達人たちは

確かに清水の一撃が

勝也を捉えたと感じ

色めき立った。



彼らが清水の勝利を確信しようとした刹那、

「見事な一撃だ。

あのまま反撃していれば

儂の負けであっただろう。」

しっかりとした勝也の声が

彼らの耳に届いていた。

勿論、渾身の一撃を

あと少しというところで、

竹刀で防がれた俺自身にも。




「クソ・・・」

「梅原流秘技・梓山(しざん)の構え。

この専守防衛の構えを再び取ることに

なるとは。

儂もまだまだという所だな。

ただし勝負は勝負だ。

ここまで儂を追い詰めた貴様に

敬意を表し、

我が最高の一撃で葬ってやろう。」

「渉兄さん、逃げて!!」



勝也の偉そうな演説に混じって、

直澄の悲痛な叫び声が聞こえてくるが、

俺は何とか竹刀を構えているのが精一杯で、

一歩も動けない。

賀川さんのラッシュじゃないが、

この技を防がれた時点で

万事休すなのは分かっていたんだが。

動け、動いてくれ!!




俺が足を引きずるように動かそうとした瞬間、

目の前に究極の守りの構えを解き、

見事な上段に構える勝也の姿があった。

その姿が鬼神そのものであるかのように

脱力状態の俺には思えたのだった。




「梅原流奥義・梅香殺(ばいこうさつ)!!!!」

「が!ぐあああーーーーー!!!」



勝也の縦一閃と横一閃の連続に俺はなすすべもなく

吹っ飛ばされて、

壁へと叩きつけられた。



「渉ーーーー!!!」



司さんの声が遠く聞こえる。



「ごめん。」


俺はそれだけ言うと

意識を手放したのだった。



















???



「俺は負けたのだろうか?

そしてもう試合は終わったのだろうか?

まあ、でも何でもいい。

今はとにかくしんどいし、

もう動きたくない。

流石に死んではいないのだろうけど、

それならそれで構わないか。」

「このアホ清水!

なんて無責任なこと言ってるのにゃ!!

教師で旦那で、

これから父親にもなろうっていう男として

恥ずかしくないんかにゃ!!!」

「にゃにゃー五月蝿いな。

もうどうでもいいから放っておいてくれよ。」



いつか俺を助けてくれた『誰か』の声が

聞こえるが、

今の俺はそれでもやる気を出すことは出来なかった。

それくらい極限まで努力したのに

勝也に勝てなかったことは悔しかったのだ。

そして恥ずかしかったのだ。



「恥ずかしいって・・・、

そんなこと言っていじけている方が

よっぽどカッコ悪いって、

いつものあんたなら言うはずにゃ!!

全く妙に真面目に鬼小梅の父親に

向き合うからそんなことになるのにゃ!!!

そんなんが本当の『清水渉』なんかにゃ?

その程度のことでへこたれたり、

落ち込んだりするのがあんたの

目指した『清水先生』なのかにゃ!!!!

あんたがそんな風で一番悲しみ、

悔しいのは誰か本当に忘れちゃったのかにゃ!!?」

「うるさいって言っているだろ!

誰だか知らないが、

いい加減に放っておいて・・・」



俺が漸く目を開けて

声の方を見るが

声の主の姿は見当たらない。

しかしその方向には

何やら薄ぼんやりした3つの光が

浮かんでいた。



どこか懐かしいオレンジ色の光と

ごくごく小さな二つのピンク色の光。

あれは一体・・・





「全くあっしが気を利かせて

『二人』を連れてきてやったっていうのに、

何情けない姿を晒しているにゃ!

父親としてそんなんでいいと思っているかにゃ!!

仮に相手に負けたって父親は堂々としていなきゃ

いけないにゃ!!!

その点に関してはあんたよりうちの家族の方が

よっぽど立派にゃ!!!!

ほら、『二人』共、

いじけている『パパ』に喝を入れてやるにゃ!!!!!」





大きな光からそんな声が聞こえてきたかと思うと、

小さな光から本当に微かなしかし、

しっかりとした声が聞こえてきた。



「いつもの素敵なパパに戻ってよ!」

「なにみんなを心配させてるんだよ。

親父はそんなつまんない奴だったのか?」



俺はその声が誰なのかを知らない。

いや、『まだ』知らないだけだ。

俺は必ずこの声の主たちを知る。

そうでなくはならないんだ。

だって俺は。




「あんたはこの子達の父親で

鬼小梅の旦那で、

みんなが頼りにする、

そしてみんなを引っ張り回す、

変な先生にゃ。

どんな時でもそれを忘れちゃいけないにゃ。



どうなっても自分は自分。

自分を信じることが、

誰かが信じてくれる自分を信じることが

困難に立ち向かう力になる。

鬼小梅が偉そうに説教していた話にゃ。

あんたはその旦那になったんだから、

このくらいのことで自分を見失って

どうするにゃ。



・・・まだタカトを助けて欲しいし、

もっとしっかりしてくれにゃいと。

あっしをさっさと成仏させてほしいにゃ。」




そうだ、俺はこんなことくらいで負けちゃいられない。

何分かりやすく落ち込んでいるんだ。

どんな手段を使っても、

どれほど困難な状況に陥っても、

全てをひっくり返してみんなを、

大事な人達を笑わせてやる!

それが俺なんだ!!





「最後に聞くにゃ。

あんたは一体何にゃ?

自分の大事な人達を前に

胸を張ってなんと答えるにゃ?」



分かりきったことを聞かないでくれ。

俺は、

俺は。











PM2:30



「俺はマゾ清水だーーーーーー!!!!

これぐらい気持ちいいくらいだーーーーー!!!!!」



シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


最終奥義を破られた清水を子ども達が

励ましてくれるというネタは元々考えていたのですが、

『彼女』のおかげでそれが更に昇華できた気がします。

寺町朱穂さん何度もお借りして申し訳ありませんでした。


それでは次でいよいよ決闘篇も決着がつきます。

ラストをお楽しみに。

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