10月27日 決戦編その7 山篭りの成果、とくと見よ!
PM2:05
相変わらず勝也の攻勢は
続いているものの、
俺は一回きりの大技を
使う機会を集中して
待っていた。
俺は頭の中で改めて雨狼名・響命斬の詳細と
開発に至った経緯を反芻していく。
雨狼名・響命斬は本来切り札として
用いるはずであった雨狼名・八咫鏡式を
完成させようとする中で生まれた技である。
雨狼名の技としての弱点はその攻撃自体は
通常の一撃に過ぎず、
完全に相手の動きを読みきったつもりでもギリギリ防御されてしまう、
あるいはカウンターを食らってしまった場合に打ち負けてしまう
おそれがあることである。
雨狼名・八咫鏡式はカウンターへの対処を目的とした技であったのだが、
基本的に相手の技を受けて返すその性質上、
失敗すれば直撃を被ることになり、
そのまま敗北してしまう危険性がつきまとう
リスクの大きい技であった。
また相手が防御に徹してしまった場合は
使えないことから、
相手の防御を打ち破る、
あるいはカウンターが来ても
弾き返して有効打を与えられる形に出来ないかと、
山篭りの中で話が進んでいったように思う。
具体的な経緯については正直記憶が定かでない部分も多いのだが、
動きの大枠としては葛西さんのアドバイスにあった
『円の動き』に引き込むことを基本にしながら、
山篭りに協力してくれた人たちからの教えを盛り込んで、
こちらの動きで相手を撹乱した上で、
最大級の攻撃を打ち込むというのが技のベースになる。
相手の動きを撹乱する流れはどこかであったことのあるような
狐面の少年が指導してくれて、
まるで分身の術を行っているかのように見える動きを、
ほんの一瞬だけであるが、
行うことが可能になった。
何か彼自身は本当に分身していた気もするけど、
流石に気のせいだよな。
そして最大級の攻撃については
弥彦さんに鍛えてもらったパワーをさらに
増幅させるために、
銀色の髪に銀色の瞳の女の子から、
一回の技の威力を何十倍にも高める方法を
伝授してもらったのだった。
まあ、結局俺がやってもそれ単体では2倍ぐらいに
高めるのがやっとだった気がするけど。
そう言えばお兄さんらしき男の子にも
何か習った気がするけど、
そっちは良く思い出せないな。
とにかくタメ技の方が一回しか使えないことから、
この技全体が一回きりの技となっている。
その代わり全体の流れが上手く噛み合った時には
通常の雨狼名の10倍近い威力を生み出せるはずである。
そう言えば技の完成期には、
最終的に滝壺か何かに放り投げられて、
『滝を斬れ!』みたいな無茶苦茶なことを言われた気もする・・・
ええい、それは置いておいて、
とにかくそれだけのパワーがあれば
勝也が『桃華翔閃』のような
強力なカウンターを放ってきたとしても
決して打ち負けることはないはずだ。
「どうしたさっきの言葉は
口先だけか!?」
「お楽しみは最後に取っておくもんだ!!」
勝也の挑発と同時の攻撃を逸らしながら、
ベストなタイミングを探っていく。
この技はあくまでも雨狼名の派生技であり、
相手が攻撃を放った隙を利用して放つ必要がある。
これで決められなければ勝也に一撃入れるのは
極めて難しくなる以上、
必殺必中のものとしなければ。
「そっちこそ流石に動きのキレが
悪くなってきたんじゃないか!
あんまり無理するなよ、おじいちゃん!!」
「貴様にそのように呼ばれる筋合いはない!!!」
こちらの挑発に応じて
勝也が得意の桜花乱舞の態勢に入る。
よし、ここだ!!
俺はその神速の斬撃から直線的に逃げるのではなく、
かすかに円を描くように動きながら、
相手を円の中心に誘導していく。
「喰らえ!!」
「くっ!!」
相手の斬撃が今まさに
こちらの面を打ち据えようとしたその瞬間、
俺は紙一重で身体を逸らし、
相手を打ち込めるポジションに移動する。
ここから打ち込んで終わればそれで万々歳だが。
「甘いわ!!」
こちらの反撃を予想して
勝也は既に桃華翔閃の態勢に
入っている。
今の間合いではその斬り上げを避けることは
出来ない。
そう本当に俺がその場所にいればの話だが。
「たあ!!」
「渉!!」
「清水先生!!」
相手の必殺カウンターが俺をぶった切る。
客席からは俺が痛打される様子が
『途中まで』見えたはずだ。
「ん!?」
「「え!?」」
斬撃を放った勝也に引き続き、
観客も俺の姿が吹き飛ばされず、
ふっと掻き消えたことに驚きの声を上げる。
ちょっとした目くらましに過ぎないが、
貯めの時間を作るのには十分だ!!
「銀集気!!」
俺は勝也の背後に移動し、
竹刀を振り上げながら、
両腕に力を集める。
力が集まれば集まるほど、
全身の血管が焼けていくようである。
どう考えても人間業とは思えない
この技に俺が耐えられるのは、
このひと月の厳しい修行が
あったからだ。
全てのうろなの力を掛け合わせ、
命を震わせ敵を討つ!!!
勝也は体勢を立て直して、
再度反撃に出ようとしているが、
今の俺を上回る一撃を
このタイミングで打てるとは思えない。
この勝負、もらった!!!
「雨狼名・響命斬!!!!」
俺の全身全霊を振り絞った一撃が、
ついに勝也の面をめがけて振り下ろされた。
バシーーーーン!!!
その直後、
一際大きな打撃音が剣道場に
響き渡ったのだった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
いよいよ勝負も大詰めです。
果たして勝敗の行方は!!
狐面の少年というのは
当然彼をイメージしています。
流石にそのまましっぽなんかをはやして
出ては来ていないと思ったのですが、
寺町朱穂さん、
よろしかったでしょうか?
また銀月 妃羅さんから
無白花ちゃんと斬無斗くんをお借りしました。