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10月27日 決戦編その6 そんなに甘くはないか

PM1:50



「はあはあはあ。」

「息が上がっておるぞ、

未熟者め!!

梅原流・桜花乱舞、

貴様に捌ききれるか!!!」



序盤とは打って変わって

かれこれ30分近く

俺は勝也に追い立てられていた。



流石に疲労が蓄積されてきた

所で繰り出される、

目にも止まらぬ連撃の嵐。

受けるのは最小限にして

可能な限り避けてはいるが

それでもダメージが溜まっていくのを

避けることは出来ない。





「梅原選手また新しい技を出してきましたね。

正直これも何をやっているのかよく分からない

スピードなんですが・・・」

「桜吹雪をイメージした連撃なのであろう。

非常に軽やかな太刀捌きであるが、

受けている渉殿の反応から見て

一撃一撃の重みも相当なものであろう。

こうやって一方的に押し込んでいくのが

勝也殿のスタイルであるようだから、

渉殿はかなり苦しい状況にあると見て間違いない。」

「な、なるほど、

とにかくすごいのだけは分かりました。」




実況・解説にあるように

こちらが押しに押されまくっている

状況が続いていることから、

段々会場の雰囲気も重たくなっている。

どこかで反撃の一手を打っていきたいが、

相手の攻勢が激しく、

かつあまりにバリエーションに富んでいる

ものだから、

読み切って雨狼名の態勢にもう一度持っていくのも難しい。

ましてさっきのカウンターを見せられては、

仮に隙が生まれたとしても

うかつに飛び込むのはためらわれる。

さてどうもっていったらいいものか。



かなり手詰まり感は大きいものの、

同時に何とか俺はただ必死で守りに

徹するだけではなく、

反撃に向けて思考を巡らすことはできていた。

これも多くの師匠たちに鍛えられたおかげである。

彼らの好意に報いるためにも

何とかチャンスを見つけたい。







そんな風に機会を伺っている俺に対し、

斬撃の雨を降らせながら、

勝也が放言を開始した。



「あの細っちょろい

青二才がたかだか

ひと月のあいだに

それだけ体を作り、

尚且曲がりなりにも

儂の剣を捌けることに

なったことは褒めてやる。



しかしそれも全ては

遊びにすぎん。

儂は自らの人生の殆どを

この剣の道に捧げてきた。

貴様にとってはこの試合も

人生の横道に過ぎんのであろうが、

儂にとってはこのような愚かな試合ですら

一期一会の人生をかけた真剣勝負だ。

例え相手が貴様のような力量不足の

相手であろうとも

『死んでも勝つ覚悟』が儂にはある。



貴様はそれ程の覚悟があってこの勝負を

挑んだのか!

そうでないとしたら実力以前に

司の婿としては失格じゃ!!」

「ぐ!!」



最後まで言い切ったと同時の

横1文字の斬撃の重さは

正直ヤバかった。

恐らくその言葉と同様に

かなりの力を込めてきたのであろう。

全く本当に痛いところを付いてくる。







「ああ、確かに俺にはそこまでの

覚悟はなかったよ。」



勝也は間髪いれずに次の攻撃を

放ってくるが、

それに構わず俺は言い返し始める。



「こんな世界、俺にはかつて縁のない

ものだった。

別に荒事と関わりがなかった訳じゃない。

ただそれはいつも俺にとっては手段に

すぎなかった。

だけどな。」





こちらの語りを勝也のコンビネーションが

邪魔してくる。



「あんたの可愛い娘さんと出会って、

こういう武の道に生きる人たちの

真摯さ・誠実さに対して、

かなりの敬意を払うように

なってはいたんだよ。

こんな俺に稽古を付けてくれた

この町の達人たちはいつも真剣で

厳しくて、

・・・でも優しかった。」



トラックでも突っ込んでくるような

突撃を紙一重で躱す。

この猪侍め!





「正直あんたにいきなり襲いかかられて

司さんの悪口まで言われた時には

頭に血が上って売り言葉に買い言葉で

喧嘩の約束をしちまったが、

あんたにはあんたなりの覚悟があったんだよな。

段々自分の修行が進むにつれて、

本当に強くなるには

自分なりの覚悟が必要であることを

痛切に思い知らされたよ。」



相手を認める発言をしたのだが、

それによって勝也の力が緩むことはない。

全くいい性格してるぜ。




「でもそれも含めて教えてくれたのは

この町の人たちで俺ひとりの

力では気づくことなんて出来なかった。

あんたがその強さや覚悟をどうやって

身につけたのかは分からないが、

俺に出来たのは自分の弱さを誰かに

教えてもらうことだけだったんだよ。」



距離を取りながら、

連携担当になってからぶつかった

様々な問題、

そしてこの修行のターニングポイントとなった

上条父の言葉を思い出す。

彼は『殺す覚悟』と言ったが、

そういう覚悟は俺には出来ない。

俺の本質は徹底的に

『生かす』ことだから。

でもだからこそ思い出せた、

俺の全ての原点を。



『ワタル。

弱い、困っている人を助けられる人になりなさい。

そしてできれば、

寂しく、辛い時に頼ることのできる誰かを見つけてください。』



俺はどこまでも自分の弱さと向かい続けた

あの人のようでありたい。

俺が欲しいのは『己を強くするための強さ』ではない。

『誰かの弱さを受け止め、支えるための強さ』なんだ。

だからこそ。




「だからこそ、俺はあんたには負けたくはない。

あんたが強さを求める人間であるように、

俺は弱さを知るために歩き続ける人間であるから。

弱さが強さに劣るものではないことを、

証明したいから。

多くの人の力を借りて

何とかこの場に立っていられる弱い俺だからこそ、

強さを一人追求し続けたあんたには負けられない。

・・・いや、多分それだけじゃない。」



勝也の斬撃と俺の必死の反撃が拮抗する。

そして弾かれるように距離があく。





「あんたは司さんの父親だ。

あんたがいたからこそ、

あんなに優しいのに強い、

泣き虫で怒った顔が可愛い、

素敵な女性(ひと)が育ったんだ。

あんたにも『弱さを育てる強さ』がある。

それを俺が証明してやる!」

「何を偉そうに!!」





再び勝也が距離を詰め、

こちらを両断するが如き

一撃が振り下ろされる。



だが俺はそれを

ダメージ覚悟でしっかりと

竹刀で受け止めた。





「言いたいことは取り敢えずこのくらいだ。

後は結婚式の打ち合わせでもしながら

話そうぜ、『おじいちゃん』!!

とりあえずは刀で語ろうや!!!」

「ぬお!」



弥彦さんに鍛えられた俺の渾身の

かち上げが勝也の竹刀を僅かながらで

あるが弾いた。

俺は再度距離を取りながら、

改めて構えを整え直した。




さてそれではそろそろお目見えと行きましょうか。

俺の最終奥義、

『雨狼名・響命斬(きょうめいざん)』を。

そろそろ決着をつけようぜ!

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。



今回は少し語りを入れてみました。

実際に試合していてこんあに喋れないでしょうが、

この戦いの本旨は二人の語り合いなので、

広い心でみていただけると幸いです。


白黒さんにお借りした

上条君のお父さんの話題を出させていただきました。


綺羅ケンイチさん、

弥彦さんや葵さんの訓練も役に立ってますよ。


引き続きお借りしているみなさんも

ありがとうございます。


それでは次話で

名前だけ出ていた新必殺技を

繰り出したいと思います。

それではお楽しみに。

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