10月27日 決戦編その4 まずは守りだ!・・・と見せかけて!!
PM1:00
互いに剣を構えた状態で
待つこと数十秒。
会場が静寂に包まれ始めたタイミングで、
時計の針が1時を指し示した。
「時間だ。
それでは試合を開始する。
よいか?」
「はい!」
「おう!」
魚沼先生の呼びかけに対して応える
俺と勝也の声が混じり合う。
こちらの勝機はいかに相手の
太刀筋を読み解き、
雨狼名に繋げられるかに掛かっている。
幸い勝負は2時間の長期戦であり、
守りと逃げ足の勝負なら
この1ヶ月立花さんとの近距離組手をマスターし、
鬼モードの藤堂先生から
逃げ続けた俺が負けるはずはない。
勝也、
あんたが全日本剣道選手権大会で見せた技のキレを
未だ維持しているのかどうか、
見極めてやるぜ。
「それでは始め!!」
魚沼先生が掛け声をかけたと同時に一歩下がる。
その瞬間、
微動だにしない勝也に対して、
俺は一歩後退した。
ここからじっくり見てやるぜ!
・・・っていう風に向こうが
勝手に判断してくれると嬉しいな。
「オリャーーー!!」
「「「ん!!?」」」
俺は下がったと同時に
足首に力を貯めると、
そのまま勝也に襲いかかったのである。
「清水先生、守りにいかない!?」
「渉、自分から仕掛けるのか!」
会場にいた俺の稽古相手のうち何人かは
この展開に大変驚いていた。
それまでの俺のスタイルから、
始めは受けながら様子を探っていくものだと
ばかり思っていたからであろう。
さらに彼らの想像と違っていたのは
それだけではなかった。
ガン!!
打ち合わされる竹刀と竹刀。
その打ち込みに対して
「ふん、修行の成果はそんなもの」
「喰らいやがれ!!」
勝也が皮肉を言おうとしたその瞬間、
俺は『回転回し蹴り』を勝也の左側頭部に叩き込んだ。
何とか左手でガードする勝也。
「な!!」
「『どんな手段を使ってでも』なんて言ったのは
そっちだからな!!
続けていくぜ!!!」
いきなりの完全反則攻撃に、
勝也は表情を険しくし、
藤堂先生や河中さんも、
「そんなんアリか?」
という顔をしているが、
魚沼先生は動かない。
まあ、最初に須藤さんも
『どんな手法を用いても基本OK』
と言っていたのだから、
厳密にはこれは反則ではない。
実況席の方では
「え、い、いきなり蹴りが入りました!
解説の天狗仮面さん、
あんなのありなんですか?」
「これは剣道の勝負ではなく、
無差別試合であるからな。
引くと見せかけて攻勢に
出たことといい、
最初の主導権は渉殿が
握ったようだ。
ちなみにさっきの技は
天狗流の『天狗突き』を
改良した『天狗突き改・昇天脚』という
技である。」
「あなたもグルなんですか!!」
とすでに東野さんと天狗くんの漫才が
始まっていた。
会場でも
「マゾ清水、汚ねーぞー!!」
「本当に本番で使うとは・・・」
「何というか実に策清水っぽいけどね♪」
とその反応は様々であったが、
変に緊張したような雰囲気にはなっていない。
うん、やはり会場の空気はこっちにとって
好ましいものになっているな。
張り詰めた訳でもなく、
かつ俺を一方的に応援しているっていう
わかりやすい構造でもない。
なあ、勝也、単なるヒール役より
やりにくいだろ。
勿論そういった会場の雰囲気というのは
副次的なものである。
俺が定石である、
待ちの一手ではなく、
最初からの攻勢、
しかも反則技でなんて
おかしな戦法を選んだのには、
ちゃんとした戦略的な理由があるのである。
「こしゃくな!
神聖なる剣の道を汚しよってからに!!
真っ二つにしてくれる!!!」
こちらの間断ない反則攻撃に、
イライラを募らせた勝也が、
こちらの攻撃が止んだ一瞬の
隙をついて、
全てを破壊するような強烈な斬撃を
放ってきた!
しかし、
「出来るもんならな!」
俺はその強烈な一撃を
紙一重で受け流しながらも、
その斬撃の勢いを利用することで
一気に間合いを詰め、
至近距離から肘打ち、
右左のワンツーへとつなげていった。
「ぐ!!」
無理やり両手を交差させて防ぐ勝也であったが、
相手にカウンターを当てる流れをしっかりと
作り上げることが出来た。
俺がこの奇妙なスタイルを採用したのは、
この流れに持って行きたかったためである。
朝の稽古で山篭りの際に身につけた技を
検証して見たのだが、
天狗仮面直伝の技は殆どこういうトリッキーな
ものばかりであり、
始めは使いどころがないとさえ考えていた。
しかし直澄と打ち込みをしていると、
このトリッキーなスタイルなら
相手のペースをかなり効果的に
崩していけるということが徐々に分かってきた。
しかも山篭りの際にも、
そう言えば純粋な技量では上の天狗くんを
相手にするよりも、
時に『夏祭りの夜はお楽しみだったのね。』
なんて囁き戦術を交えて相手をしてくる、
千里さんの方が非常にやりにくかったのが、
僅かではあるが思い出されていったのである。
達人たる勝也を前に通常の方法で、
かつ予想の範囲内であろう
カウンター戦術をとった場合、
危険なのはそれを察知された上で、
叩き潰す方向で攻められることだ。
そうなれば、
雨狼名に持って行くまでに
決着がついてしまう可能性が出て来てしまう。
それを避けるためにはどうするべきか?
そこで採用したのがこのスタイルである。
達人たる勝也とはいえ、
流石にこんな変則スタイルの相手と
やったことはないだろう。
さっきの斬撃も見事なものではあったが、
明らかに予想の範囲内、
正直リズさんの全力攻撃の方が
威力・スピード共に上であった気さえする。
こちらのペースに巻き込まれ、
全力を出しきれていないのは明らかだ。
この勢いのまま、
勝也の反撃を防ぎつつ、
雨狼名の態勢へ持って行ってやるぜ!
「な、今度は肘打ちにその後連続パンチって、
一体なんなんですかあれ!!」
「あれも天狗流『天狗車』を
バージョンアップさせた新技、
『天狗車強・爆流撃』である。
相手の斬撃の鋭さを効果的に
利用しており、
見事な展開のさせ方である。」
「反則だっつってんだろ!!
あー、二人で何やらこそこそやっているのを
真面目に止めておくべきだったーーー!!!」
「稲荷山くん、大丈夫?」
実況席・客席からの反応も
『上々』の様である。
流れはこっちに来たままだ。
このまま突っ切ってやる!
攻勢を強める俺に対して
時々鋭い反撃を見せはするものの、
未だに勝也は受けに回っている。
それ自体は基本歓迎すべきことである。
ただ懸念がない訳ではない。
彼程の達人が
これくらいの奇策に
いつまでも嵌まっていてくれる
ものだろうか?
彼に逆転の一手を打たれる前に、
こちらが一気に勝負を決められるのかどうか。
そこが問題だ。
微かな不安を俺の胸に残しながら、
序盤戦は俺のペースで始まっていったのであった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
いよいよ勝負がスタートしました。
序盤戦は清水有利の模様ですが
この後の展開は如何に。
引き続き桜月りまさんから
魚沼先生お借りしております。
賀川さんっぽい人も観戦中です。
三衣千月さんからは天狗仮面を引き続き
お借りしておりますが、
いただいたネタをこんな感じにしてみました。
千里さんも話題に出ております。
アイデアをいただけたからこそのこの展開で、
コラボの絆に感謝です。
また関連して寺町朱穂さんより
稲荷山君と芦屋さんらしき人にも
観戦してもらっております。
また綺羅ケンイチさんからは藤堂先生を、
菊夜さんからは東野さんを、
引き続きお借りしております。
それでは引き続き激闘の模様を
お楽しみください。