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10月6日 修行編その4 兄妹陰陽師による呪殺大特訓!?

AM11:00


週末も俺の修行はお休みというわけにはいかない。

土曜は午前中剣道部の稽古に参加した後は、

クールダウンと来週の準備の為ある程度休む様にしているが、

日曜日はまとまった時間がとれるため、

うろなの様々な人にお願いして特訓をしてもらっている。

本日はその一回目なのだが•••






「伊織さん。

これ、本当に『緊急反撃』の修行になるんですか?」

「つべこべ言わずにやれ。

まったくこれだから教師という生き物は•••」




今日は俺は中央公園で

うちのクラスの芦屋梨桜のお兄さんである芦屋伊織さんに

対勝也戦に向けた特訓を授けられているはずなのだが、

現在なぜか「逆立ち」して、

伊織さんが指示したルートを移動するように求められていた。






ちなみになんで伊織さんに指導を仰いでいるのかというと、

陰陽師は攻撃や防御の術を習うだけでなく、

隠密行動や敵についての情報収集も含めた幅広い戦術を学ぶことになっており、

その辺については悔しいけど兄の方が数段自分より上だと

芦屋から聞いたことがあったからである。



それで先月から何故か吉祥寺の家に居候しているという彼を

事情確認も含めて今日訪問した際に、

よければその術以外の戦術について教授いただけないかお願いしたのだ。

彼はその際「なぜ、俺がそんなことを。」と言いたげな顔をしていたのだが、

手みやげとして持っていた『海江田の奇跡』に目ざとく反応した、

元北小学校教師にして、吉祥寺のお姉さん、そして伊織さんの居候主である、

吉祥寺ユリさんが、

「そ、それは伝説の『海江田の奇跡』!

地元以外では滅多に出回らないって聞いてたのに!!

もちろんOKですよ!

この腹黒居候でしたら、いくらでも使って下さい!!

てか、どうせあんた暇でしょ!!!

今から行って来なさい!!!!」

てな感じで、持って来た一升瓶を

半ば引ったくられるようにして奪われ、

伊織さんと共に店の外に放り出されてしまったのだ。



その後若干唖然としながらも、

二人で中央公園まで来て修行を開始したという訳である。





吉祥寺さん、司さんや果穂先生から噂は聞いていたけど、

相当ハチャメチャな人だったな。

宝くじが当たったと勘違いして

先生をやめちゃったなんて噂、

冗談だと思っていたけど•••

まあ、でも元教員の人がお店を

やっているのは連携担当としては

助かるし、

今度職場体験のお願いにも行ってみようかな。





「おい、気が散っているぞ。

あんたは敵と向かい合った際に役立つ技術について

真剣に学びたいんだろう。

気を抜いていると、

すぐ死ぬぞ。」

「ああ、ごめん。

ただこの体勢で集中しろと言われても。」

「だからこそ、その体勢なんだ。

普段の自分とは異なる視界で、

かつ肉体的に辛い状況だからこそ

実戦的になる。

そら、そんなちんたら方向転換するな。

敵の攻撃が飛んで来ておしまいだぞ。」



こちらの反論に対しても、

実にクールにあしらい、

さらに厳しい言葉を浴びせて来る伊織さん。

この人、絶対ドSだよ。








「ふー、何とか終わった!」

「ふん、ヒョロそうに見えて、

多少の体力と反応速度はあるようだな。

今のは上級の訓練を行う為の

チェックを兼ねたものだ。

さっきのがあの時間で行えるなら、

相手の攻撃をかいくぐり、

その死角やタイムラグを利用して

攻撃を行うことが十分出来るはずだ。

ならかつて梨桜の修行で使ったやつを

少しためしてみるか•••」



俺が何とか指示したルートを終え、

芝生で寝転んでいると、

その頭上で伊織さんが何かブツブツ

言っていた。

日々の修行のおかげか、

最初のレベルはクリアできたらしい。

ただ中学生だとはいえ、

一応プロ?の陰陽師らしい、

芦屋も受けたことがある修行って•••







若干の不安を覚えながらも、

伊織さんの指示に従い、

テニスコートに来た俺の前で、

彼は目にも留まらぬ早さでテニスコートの四方に

何かを投げつけた。



「何をしたんですか?」

「ちょっとした準備だ。

今からやる修行は傍からみると

危険なものに見えるからな。

周りからは俺たちが認識出来ない様に

しておいた。

実際は安全だから安心しろ。」

「はあ。それで何をするんですか?」

「お前にはこれから、こいつと戦ってもらう。」



シュッ!



伊織さんがテニスコートの地面に向けて

何かを投げつけた次の瞬間、

その場に何と牛の顔と人間の胴体を

持ったバケモノが現れたのだった!!




「い、伊織さん、何ですか、これ!?」

「おたおたするな。

単なる幻術だ。

お前にはこれから

この幻術で作った妖怪と戦ってもらう。」




「クヮーオーーーー!!!」



「叫び声をしっかりあげていますけど、

本当に大丈夫なんですか!?」

「安全だと言っているだろ。

まあ、実戦的にするため、

攻撃を食らったら痛みは実際に

感じる様になっているがな。」

「•••それって本当に安全なんですか?」

「あくまで『幻術』だ。

死にはしない。

あんたの相手は強大な猛者なんだろう?

これくらいでビビっていてどうする。

相手の弱点は見える様にしておいたから、

向こうの攻撃を見切って、

見事倒してみろ!!」

「うわあ!!」





伊織さんに押されて、

その怪物の前に放り出される俺。

未だ動揺は収まらないものの、

毎日鬼と化した藤堂先生におっかけ

回されているおかげもあって、

少しずつ冷静になって

相手を観察する余裕も少しずつ

生まれ始めていた。



•••確かに身体の数カ所に

周りを文字で囲まれた赤い斑点が

見えるし、あれが弱点なんだろう。

ゲームやSFアニメで言う所の

戦闘シュミレーターみたいなものかな?

こんなものをできるなんて、

日本のオカルトも捨てたもんじゃないな。



「よっしゃ、行くぜ!」

「(•••ふふふ、結界術で封印していた

低級妖怪が役に立ったな。

まあ、力は封印してあるから、

大けがにはならんだろう。

精々頑張って戦うことだ、

色ボケ教師。)」



何か背後で非常にヤバい呟きが聞こえた気もするが

気のせいだろう。

まずは相手の攻撃を見切る所から始めよう。

日々の修行の成果見せてやるぜ!!












PM0:00



幻術?の鬼と戦い始めてから、

30分近くが経過していた。



俺は何発かもらったものの、

立花さんとの修行のおかげか

近距離戦でもクリーンヒットは避けることができており、

逆にかなりの数の打撃を相手に叩き込むことに

成功していた。

直澄の使っていた距離の詰め方も何個か試してみたんだが、

まだまだはじき返されることも多かった。

やはりスピードがまだまだ足りていないな。

勝也相手だったら、

強烈なカウンターを食らっていただろう。





「クーハーハーハー。」

「伊織さん、こいつまだ倒れないんですけど、

本当に効いているんですか?」

「•••相手がそんなに弱くては張り合いがないだろう。

急所にはきちんとヒットしているし、

そのまま続けろ。

(一般人にしては随分良くやるな。

牛鬼の防御力は元のままなのに

大分ダメージを蓄積させられているようだ。

梨桜の担任らしいが、

稲荷山だけでなく、

こいつにも気を付けた方がいいか?)」



OKと言いながらもその後、

また何やら呟き始めた伊織さんを

訝しく思ったが、

相手がまだ戦意を失っていない以上、

気を抜く訳にもいかない。



実際勝也相手ならこんなに上手く

当てられないだろうし、

一撃必殺の攻撃を叩き込める様に

ならないと。

そろそろ決めるのに『賀川ラッシュもどき』

を使ってみるかな。






そんなことを考えながら、

最後の詰めに向けて、

呼吸を整えた瞬間だった。





「清水先生、危ない!!

食らえ、灰燼狼!!!」



ワオーーーーン!!!

「ガーーーーーーー!!!」



いきなりどこかから聞いたことのある

女の子の声が聞こえて来たと思うと、

目の前のバケモノに炎の狼のようなものが

襲いかかり、

瞬く間に相手を灰に変えてしまった。




「清水先生!

大丈夫ですか!?」

「•••芦屋?

さっきのは一体?」

「悪しき妖怪は私が滅しましたから

安心して下さい!」



いきなり現れて、

「やったった。」

みたいな表情で胸を張る

自分のクラスの女子生徒に驚いていると、

その横から来たこれまた毎日のように顔を

会わせている男子生徒がその頭を小突いた。




「アホか!

普通の人間の前で

あんな大技使っていい訳ないだろ!!」

「痛いよ、稲荷山君!

女の子を叩いたりしたらダメだよ!!」

「そういう問題じゃ、ねえだろ!!」



いつも教室で繰り広げられている夫婦漫才を

ここでも開始する、

我がクラスの名物コンビ。



稲荷山も結構モテるよな。

司さんとの仲がまだまだ上手く行かなかった時期には

色々八つ当たりの材料にさせてもらったが、

今は大分広い心で見ることが出来る。

元気な同級生に、幼馴染の高校生、看板娘のロリッ娘なんて、

どこのエロゲーだよって話だけど、

さてさてどうなっていくのだろううか?



先ほど現れた炎の狼のことも忘れて、

目の前の青春に対してほんわかした気持ちになっていると、

背後から何故か怒りに燃えた感じの伊織さんが近づいて来た。

修行を邪魔されたから怒っているのかな?





「兄の目の前で人の妹に手をあげるとは

良い度胸だな、バカ狐。」

「いや、怒るとこ、そこじゃないだろ!

だいたい兄貴だったらちゃんと教育しとけよ、

情報統制とかについて!!」

「ふん、いざとなったら記憶を封じてしまえばいいんだ。

お前につべこべ言われる筋合いはない。

だいたい休日になんでお前なんかが、

妹を連れ回しているんだ。」

「『稲荷山くん、中央公園で妖気がするよ!』

っていきなり家に押し掛けられたんだよ!!

俺は被害者だ!!!」

「二人とも喧嘩はダメだよ!」



何故か、稲荷山に食ってかかる伊織さん。



あれ、何かすげー、既視感がある光景なんだけど•••

もしかして伊織さん、鹿島の同類?

うわー、クールそうに見えて実はってやつ?

何でこの町にはこういう手合いが多いんだろうか?

•••まあ、元シスコンとしては若干親近感が湧いた点もあるんだけど。



とはいえこのままだと修行がストップしたまんまだし、

さっきのでは消化不良だったからな。

いっちょ、状況をかき回してみますか!





俺を蚊帳の外にして

継続されていた口喧嘩を方向転換させるため、

俺はその場に爆弾発言をぶっ込んだ。



「そう言えば稲荷山、

お前、結局誰と今付き合ってるんだ?

やっぱり芦屋なのか?」

「はあ!?」

「な、何を言ってるんですか、清水先生!!」

「•••うちの妹と付き合っているというのだけでも

聞き捨てならんが、

『誰と』というのはどういうことだ?」



三者三様の反応を見せながらも見事に

食いついてくれる3人。

特に伊織さん、目がマジ過ぎます。





「いやー、1学期から二人で色々出かけて行ったし、

夏祭りやバザーとか大きめのイベントも多かったじゃないか。

猫っぽい高校生やちっこい親戚の女の子とも一緒にいることは

多かったけど、

芦屋のうなじに見とれていたり、

デートで支払いはお前がしてやったりと、

やっぱり本命は芦屋なのかなーって思って。

夏休みの間に『一夏の経験』とかなかったのかなーなんてね。」

「•••この妄想エロ教師が!!」

「う、うなじ•••ほ、本命•••」

「ふふっ、どうやらすぐにでも抹殺しなければならい奴が

いるようだな。」



俺の二の矢の発言に対して、

稲荷山は激高して俺に掴み掛かり、

芦屋は事態を飲み込めずに真っ赤になってオーバーヒート状態、

そして伊織さんは•••



シュッシュッシュッシュッ!!



非常に冷酷な笑みを浮かべた後に、

空に向かって何かを投げつけていた。



「•••結界を中央公園全体に展開完了。

他の利用者が全て敷地外に出たことを確認。

梨桜。」

「はわわわわ。」

「まだ正気に戻っていないか•••

ははは、それなら都合が良い。

今度狼娘に制裁を下す予行演習といこうか。

『梨桜、稲荷山と清水にはお仕置きをしなくちゃいけない』よな?」

「•••『はい。エッチな二人には制裁を。』

あれ、どうして身体が勝手に!!」

「よし、いけ!」

「ふっ、二人とも逃げてー!!」

「「ええーーー!!!」」



伊織さんの囁きによって、

身体の自由を奪われた芦屋がこちらに向かって来るのを見て、

俺と稲荷山は言い様の無い恐怖を感じて真っ青になっていた。






「おい、バカ兄貴!

一体芦屋に何をしやがった!!」

「結界術の応用で、

ちょっとした暗示をかけただけさ。

大丈夫、30分ほどで解けるさ。

それまで無事であればいいがな。」

「•••えっと何で俺も巻き込まれているんですかね。」

「貴様も同罪だ。

まあ、終わったら、

ちゃんと記憶を消しておいてやるさ。

念のため一発で死ぬような炎の術などは

使えない様にしておいたから、

安心していたぶられるこった。」



そう言って、

いきなり俺たちの視界から消える、

伊織さん。



「「待て!!」」



姿を消した彼を追いかけようとする俺と稲荷山。



しかしそんな俺たちの前に立ちはだかったのは

「きゃー、術が暴発する!!

二人とも避けてーーー!!!」

と言いながら、

真空波みたいなものをこちらに放って来る

芦屋の姿だった。




「稲荷山、俺、やりすぎたかもしれない!」

「不幸過ぎるー!!!」



芦屋の攻撃を必死になって避けて逃げ出す、

俺と稲荷山。



俺の特訓はどうやら大変な事態に

陥ってしまったようだった。












PM9:00



その後どうなったのか、

俺もよく覚えていない。

というか、芦屋達が来てからの

記憶全体がはっきりとしていないんだ。




まともに覚えているのは夕方になって、

何故か服のあちこちが破れ、

ボロボロの状態で芝生に倒れていた

俺と稲荷山に対して、

「全くしぶとい連中だ。」

と語る伊織さんと

「どうしよう!?

二人ともごめんね!?」

と心配する芦屋の姿だけだった。




一体何が起きたのか、

正直良く分からないが、

とりあえず勝也戦に向けて、

大きな経験値を得られたことは確かな気がする。








夜になってこうしていつものように

日記を書いているが、

こんなことは初めてである。

どうして芦屋の姿を思い出すだけで、

こんなに身体が震えるのだろうか?

全く理解出来ない。






「渉、明日も早いんだろ?

そろそろ寝ろよ。」

「はーい。」



書斎の入口から声をかけてくれた

司さんに応じて、

俺は日記のページを閉じたのだった。








来週の修行も上手くいけばいいな。



そんな風に気楽に考えていた俺の頭には

次の週に起こる悲劇など全く想像も出来ていなかった。

まさか、今日の特訓がそれに繋がっていたなんてことも。



二人の陰陽師による初めての特訓。



それは大きな充実感と共に

その後に起こる理解出来ない悲しみを

呼び覚ますトリガーとして、

いつまでも俺の記憶な中に

掴みがたいもやを作り続けたのであった。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


ということで修行編も休日の特訓部分に突入しました。

まずは伊織兄さんにお願いしております。


寺町朱穂さん、

キャラの皆さんをお借りすると共に、

内容をチェックしていただきありがとうございました。

修正した物を載せましたが、

何か気づいた点が追加でありましたら

ご連絡ください。


綺羅ケンイチさんから

藤堂先生、立花さんのお名前お借りしました。

初完結おめでとうございます。


次は白黒さんの上条パパ、

小藍さんの渚ちゃん達に特訓をつけてもらおうと

思います。


結婚式の予定もBBSにそろそろだそうと思いますので、

そちらもよろしくお願いします。


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