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10月2日 修行編その2 お昼は兄弟喧嘩とだまし討ち!?

PM0:30



「じゃあ、稲荷山、芦屋、

お昼食べたら頼むな。」

「分かりました!

任せてください!!」

「何で俺まで•••」



午前中の授業を終え、

お昼に向かう前に

自分のクラスの芦屋と稲荷山に

後で剣道場に顔を出してくれるように

お願いした。



毎日昼休みには直澄に相手をしてもらっているのだが、

あのバケモノ勝也を相手にするうえで、

多人数に襲いかかられて対応するという

形で練習をしたかったからだ。

ちなみにすでに阿佐ヶ谷部長や

吉祥寺副部長にも頼んである。



生徒の昼休みの時間を削るのは心苦しかったが、

「妖怪のような奴を倒すために協力してくれないか。」

と言ったら、

芦屋は実にいい笑顔で了解してくれた。

それに引きずられ気味の稲荷山は、

お昼ぐらいゆっくりさせてくれと

言わんばかりの顔をしていたが。





「じゃあ、稲荷山君、さっさとお弁当食べましょう。」

「いや、ちょっと、待て!

どうして弁当までお前と一緒に食わないといけないんだ!!」

「食べながらミーティングよ。

私たちも妖狐を倒すためのシュミレーションとして

真剣に取り組みましょう!!」

「そんなアホな!

あー、今日もやっぱり不幸だー!!」





すまん、稲荷山。

お前がいると全体の統率がとれそうなんだ。

芦屋や阿佐ヶ谷は猪突猛進だろうし、

吉祥寺は単独では絶対に面倒くさがるだろうから。

実戦的にやるためにも巻き込まれてくれ。



俺はドナドナの如き物悲しい顔で芦屋に

引きずられて行く稲荷山を見ながら、

心の中でそう謝罪した。










PM0:45



「メン、メン、メン、メン、ドリャー!!!」

「渉兄さん!!

そんな打ち込みじゃあ、

梅原勝也には絶対届かないですよ!!!」




すでに準備室に来ていた直澄と一緒に

司さんお手製のお弁当を食べて、

生徒達が来るまでの間、

俺と直澄はさっさと切り返しから練習を始めていた。



いつもなら司さんもお弁当を一緒に食べ、

横でコーチについてくれているのだが、

本日は生徒との面談があるそうで、

昼休みの練習には不参加となっていた。

ただでさえ練習が忙しくて、

司さん成分が足りていないのに

寂しいなー。

夜も疲れすぎていて、

さすがにハッスルする元気もないし•••





「手元がお留守っすよ!!

そりゃ、小手もらい!!」

「痛てーー!

あー、くそ、もう一本!」



一瞬集中力が落ちた所を

見事に直澄にやられてしまった。

一体この10分やそこらの間に

何本打ち込まれたのだろうか?



「直澄、本気でやってくれって頼んだけど、

兄貴分に対していたわりとか、

手加減とか、少しはもたんのか、

オリャー。」

「遅い、遅い♪

それくらいじゃ、俺の隙は付けないっすよ。

ほら、疲れて腕が下がって来ましたよ。

面、いただき!」

「が!

この野郎、一本くらい譲ったらどうだ!!」

「一本でも入れたら渉兄の勝ちなんでしょ。

簡単に入れさせちゃ、

練習になりませんよ。

ていうか、さっきの打ち込み、

梅原勝也相手だったら、

多分渉兄失神KOっすよ。

小梅センセを悲しませてもいいんですか、

新米旦那さん?」

「まだ田中先生に正式に彼氏として認められても

いないくせに!!」

「あー、いっちゃいけないことを!

でも俺はもう十分倫子さんの愛を感じてるから

いいんです!!

この勝負に勝ったらクリスマスでのプロポーズ、

絶対手伝ってもらいますからね!!!」

「分かってるよ、この熟女キラー!!」

「倫子さんはまだピチピチだーー!!!」





俺たちは互いを罵倒?しながら、

間断なく打ち合いを続けて行った。

まあ、俺が打とうとするのを直澄が

避けて逸らして、合間を縫って一本決めて来る

というのがずっと続いているのだが。



今回の勝負のために本気でやってくれと

改めてお願いしたのだが、

相手が剣道界のレジェンドたる梅原勝也と知って

直澄もテンションがあがったのであろうか、

今まで生徒達の指導をしている時の数倍のスピードで

こちらに相対してくれた。



連日の修行の成果もあり、

何とか形にはなっているものの、

俺はまだこの1週間ほどの稽古で

まだ一本も直澄から取ることができないでいた。

これまでの稽古では何本か取れてはいたのだが、

やはり本気を出した奴の強さは別格であり、

その柔軟な太刀筋に完全に翻弄されていた。





以前この修行を見ていた司さんは

「あいつもあれくらい真剣に現役時代やっていたら、

インターハイ優勝も夢ではなかったんだがな•••」

と若干苦笑気味であったが、

俺にとって直澄の避け、捌いて絶えず優位な体勢を

作って行こうとするスタイルは実に参考になった。



すでに50を超えたとはいえ、

いくつかの映像で梅原勝也の打ち込みの破壊力を

確認していた俺としては、

基本のスタイルとしてはできるだけダメージを負わない

戦法でいく必要があることを痛感していた。

直澄のスタイルを少しでも身体に覚え、

賀川さんのラッシュを避けられる様になる。

これが現段階での俺の課題であった。



同時に攻めの面でも最後に一発入れるには

怒濤の攻めが必要だろうが、

そこへ至る初手には直澄のように

相手の隙を見逃さない、

いや、相手に隙を巧妙に作らせる

手管が必須であろう。

直澄の鋭い打ち込みを身体に何度も受けながらも、

俺はそのシュチュエーションを絶えず反芻し、

頭に叩き込んで行った。

その一つでもあの勝也の鉄壁の守りを打ち崩すための

端緒にしていきたい所だ。






「失礼します!

あ、稲荷山君、

もうすでに高原先輩と

清水先生が稽古してるよ!!」

「そうだな。

じゃあ、俺はかえ」

「お、芦屋と稲荷山か!

先に来てるとは感心、感心。

ホラ、吉祥寺!

もうちょっとしゃっきとしないか!!」

「部長、人が昼寝しているのに

無理矢理引っ張ってこないでくださいよ。

あー、マジでめんどい。」

「何を言ってるんだ。

本気の高原先輩を見られる機会なんて

滅多にないぞ。

しかし高原先輩の剣速、

明らかに剣道大会以上だな。

全く本当に底が知れぬ人だ。」

「先輩もしかして大会でも手加減してたのかな!

だったら今度は本気の先輩からも一本取ってみせるよ!!

頑張ろう、みんな!!!」

「ああ、もう逃げれないんだな、俺•••」

「面倒いけど、新部長命令とあれば、仕方ないか。」




どうやら、生徒達も到着したようであった。

それでは昼修行、第二段階に移行しますか!









PM1:00



「本当に4人一気に行っていいんですか?」

「ああ、気にせず思いっきり打ち込んで来てくれ。」

「いや、そうは言っても、剣道は一対一じゃないとやっぱダメ」

「よし、じゃあ、行こう!

私は右から攻めるから、

稲荷山君は逆側からお願い!!」

「おい、芦屋、ちょっと待て!!」

「では俺は左側から行くとするか!!」

「部長まで!!おい、吉祥寺、

お前は面倒だからこんなこと」

「俺、後で文句言われるの面倒だから、正面から行くわ。」

「お前もか!ああもう、分かったよ!!」



稲荷山の抵抗空しく、

通常ならどこのリンチだとなる、

おかしな一対四の打ち合いが開始された。





「シャー!!」

「ヤーー!!」



始めに左右から迫ってくるのは、

旧部長たる阿佐ヶ谷と新部長たる芦屋の

新旧部長コンビ。

実力(少なくとも稽古場では)は剣道部でも

1,2を争う二人がまず向かって来て

くれたのは意味がある。



心を静めて左右の動きを冷静に観察する。



ほぼ同時に打ち込んでくる様に見えて、

この分だと•••

芦屋の方が少し早い!



「•••ダー!!」

「ク!!」



一気に芦屋の方に駆け寄ると、

芦屋の竹刀にこちらの竹刀をぶつける様にして

相手をはじき飛ばす。

尻餅をつく芦屋。




「シャー!!」

「ホイッと。」

「えっ、ギャー!!」



背後から迫る阿佐ヶ谷の打ち込みを

ぎりぎりのタイミングを待って外すと

足払いをかけて阿佐ヶ谷を素転ばさせた。

阿佐ヶ谷は見事に地面に激突して伸びてしまっていた。



これで一人撃破である。




「そんなんありかよ!!」

「まあ、変則形式だから。

一応怪我しない様に配慮はしたんだよ。

逆にそっちも何をしてもありさ。」

「この性悪ガチロリが•••」



稲荷山が俺の行動に文句を言って来るが、

こちらとしては剣道というよりも無差別格闘技戦

の準備をしているつもりなんである。

多少煽って、向こうにもそのつもりで無茶して

もらったほうがいいだろう。



実はこの訓練、わざと司さんがいない時を

狙ってやっている。

司さんがいればこんなの剣道への冒涜だとして

激怒するだろうしな。







「吉祥寺、何とかそこの変態足止めしてくれ!!」

「へいへい。」



乗り気でなかった稲荷山も

大分熱くなってきてくれたようだ。

とはいえ正面の吉祥寺を何とかしないとな。



こいつは稽古ではやる気があまりないが、

試合となると部長に文句を言われないために、

殆ど負けたことがない。

引き分けも少なくないのだが、

ある意味直澄の指導を一番ものにしているのが

吉祥寺である。





「ドリャー!!」

「ハッ、ハッ!」



こちらの打ち込みを何とか

捌いて行く吉祥寺。

俺も連日の鍛錬でパワー•スピード共に

上昇しているが、

やはり守りを固められるとこいつから

一本取るのは簡単ではない。

もちろんもう少し時間があれば今の俺なら

押し切れるのだろうが、

後ろからは稲荷山が迫っている。

あまり時間はかけていられない。





どうするか。

ん?あれは•••

よし、その手で行こうか。





「後ろががら空きだぞ、

この変態教師!!

メーン!!!」

「オッと!!」



打ち込んで来る稲荷山に対応するため、

後ろに飛び退きながら振り返って、

その剣戟を受け止める。





「今だ、吉祥寺、やってしまえ!!」

「はあ、仕方ない。」



稲荷山の声に反応して

吉祥寺が俺の背中から打ち込もうとするが、

俺が飛び退いた分だけ、

間合いは一挙手一頭足の距離からは少し空いて

しまっていた。

そこで生じるタイムラグが俺の勝利を呼び込んでくれる。



「清水先生、覚悟!!」

「おい、芦屋!!」



吉祥寺が間合いを詰め

こちらを打ち込もうとした瞬間、

俺にはじき飛ばされていた芦屋が戦線に復帰し、

こちらを射程に捉えていた。

その突進に思わず、

足が止まる吉祥寺。



今だ。



「ホイ、胴いただき!」

「チィ!」



俺は稲荷山の竹刀を受け流して

その体勢を崩すと、

そのまま反転して、

止まってしまっていた

吉祥寺の胴を抜いた。



これで二人撃破。





そして俺の背後では•••



「うお、おっとっと。」

「えっ、稲荷山君!避けてー!!」



ガン!!



「ぐえ!」



俺に体勢を崩された稲荷山に

芦屋が体当たりをかましてしまっていた。

何とか芦屋を受け止めようとした稲荷山は

その下敷きに。



これで三人目•••としていいかな?



「だ、大丈夫!?

稲荷山君!!」

「ふ、不幸だ•••」



可愛い女子にのしかかられている稲荷山は

不幸なのか幸福なのかよく分からないが、

稲荷山に気を取られて芦屋は背後の俺に

気を留めていない。

ということで。



「ハイ、これで勝負あり。」



ポン!



軽く俺の竹刀が芦屋の面を打って

この勝負、俺の勝ちである。

うん、初めてにしては上手く行ったな。







「先生、ひどいです!

もう一回お願いします!!」

「望む所だよ。

吉祥寺もまだいけるよな。」

「はあ、まあ。」





その後ダウンしている阿佐ヶ谷と稲荷山は置いておいて、

引き続き一対二で稽古再開となった。

二人が回復してからはまた4人でやったり、

二人ずつ色んなペアになってやったりと

色々なバージョンで攻めてもらった。

なかなかこれはいい練習になりそうだ。











「結構楽しかったね。」

「くっ、あんなに簡単にひっかかってしまうなんて。

次は、次こそは。」

「あー、しんどかった。」

「マジで不幸だ•••。

絶対今度は一本入れてやる。」




昼休み終了10分前に解散となり、

生徒達はリベンジへの熱意を伺わせながら、

着替えを始めていた。



生徒達もそれなりに楽しんでくれたようだし、

次回はもっとコンビネーションを考えて向かって来て

くれるだろう。

単独で梅原勝也クラスの相手と戦うというのは

難しい以上、

こういう練習も組み込んでいきますか。



よし、午後の授業も頑張るぞ!

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。



進行が遅くなっていて申し訳ありません。

お昼の部をお届けしました。

剣道シーンはそこまでリアルなものにはならないと

思いますが、

広い心で見ていただけると幸いです。


寺町朱穂さんから稲荷山君、芦屋さん、阿佐ヶ谷くん、吉祥寺くんを

お借りしました。

せこい手段を使ってすいません。

ただもう一回書く時にはこのメンバーでコンビネーション攻撃

とかしてもらおうと思いますので、

何かいいアイデアがあったらよろしくお願いします。

芦屋さんと稲荷山くんには特訓にもご登場いただく予定です。


次は夜の部になります。

綺羅ケンイチさん、

施術も含めて藤堂先生にお世話になりますね。

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