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10月2日 修行編その1 朝もはよから、賀川さん爆発!

AM4:45



ピピピ、ピピピ。



「ふぁ、もう朝か。

サッサと着替えて

タカさん所に行かないと。」



俺は眠い目をこすりながら、

連日の鍛錬の疲れが残る身体を

何とか持ち上げたのだった。





あのふざけた果たし状が届いてから約1週間後、

10月に入って俺の修行スケジュールも大分整備されて来た。

うろなの達人達は俺と勝也の決闘という不思議展開に苦笑しながらも、

快く俺の修行要請に応じてくれた。



現在のローテーションとしては、

平日は朝はタカさん家、

昼は直澄を始めとした剣道部の面々と剣道場で、

放課後は藤堂先生の道場で稽古を付けてもらっている。

週末は色々な人に特訓をお願いする予定である。







まあ、司さんの妊娠が明らかになる前は

朝昼晩の稽古がデフォルトだったし、

その後も色々バタバタしていたとはいえ、

ちゃんと剣道部副顧問としてやっていたわけだから、

なまっていた訳はないはずなのだが•••



あーーでも、死ぬ程身体が痛い。

放課後の稽古後、

藤堂先生や星野さんに施術してもらっているから、

これでもましなはずなんだがなーー。






とはいえ、愚痴っていても仕方が無い。

相手はあの司さんの実の父親にして

剣道界のリアルモンスター、

梅原勝也なのである。



当然単に真っ正面から突っ込んで行っても

どうにかなる相手ではないため、

各種搦め手を含めて色々と考えているのであるが、

そもそも最低限の実力がなければ

作戦を繰り出す前にお陀仏である。



本番まで一ヶ月弱の間に

何とか相手と対峙出来るだけのものを

作り上げなくてはならない。

素晴らしい師匠陣がわざわざ時間を割いてくれてる以上、

こっちは何とか付いて行かないとな。

それに•••






「渉ー、そろそろ起きろよー。

•••お、ちゃんと用意しているか。

とりあえずおにぎりと味噌汁だけ

用意したから腹に入れておけ。

水筒やタオルはカバンに入れてあるからな。

あとこれ、きんぴらごぼうをパックに

詰めたから、葉子さんに渡してくれ。」

「ありがとうございます、司さん。

でも無理に起きなくてもいいんですよ。」

「朝稽古に行っていた頃はこの時間に

起きていたんだから問題ない。

この前産婦人科に行ったら

大分安定して来たと言われたし、

早めにお弁当を作ったら

軽く室内で運動してから

朝稽古の監督に向かうさ。」

「順調に大きくなってきているんですね。

まだ性別は分からないんですよね?」

「ああ。

今月下旬の検診ぐらいからわかる場合も

あるらしいが、

結局生むまでわからないということも

少なくないらしい。

気長に待つ様にするさ。」



そう言ってまた少し大きくなったお腹を

さする司さんを見ていると更にファイトが湧いて来る。

来月の結婚式に勝也を引きづり出すためにも

絶対に勝たなくては!



子ども達よ、父ちゃん、頑張るぞ!!








AM5:30





タカさん家まではいつものようにロードワークも兼ねて、

ジョギングして向かった。

到着後は寝ている人を起こさない様に、

そおっと物置に向かい、

扉を開けた先にある隠し扉をさらにくぐって、

地下の鍛錬部屋へと降りて行く。



入口の近くで道着に着替えて

中に入るとすでにタカさんを始め、

賀川さん、工務店のお兄さんが何人かが

道着を着て正座で瞑想していた。

日によって魚沼先生や抜田先生が先生が来てくれる時もあり、

特に剣道の有段者である魚沼先生が来てくれる日には、

通常の稽古を変更してわざわざ剣道メインにしてくれたりもしている。

こちらからはお礼として海江田の奇跡を何本か提供しているとはいえ、

本当に有り難い限りだ。






俺も正座をして礼をすると

いよいよ鍛練の開始である。



俺が参加するまではあくまで

基礎を重視して組手は最後少しだけ

だったらしいのだが、

俺が短期間で結果を出さなくてはいけないため、

二時間の鍛練の内、半分ほどは

誰かが俺との組手にわざわざ付き合ってくれている。



もちろん達人であるタカさん達、

重鎮たちとの組手は非常に勉強になるが、

「実戦的」となると実は賀川さんとの

組手が一番緊張感がある。

こちらが決戦時を想定して防具を付けているのを

いいことにいきなり棒や竹刀で殴ってくるわ、

銃に見立てたゴム打ちをはなってくるわ、

もう何でもありである。

流石戦地で実戦を潜り抜けてきたというのは

伊達ではないらしく、

力がまだまだ不足している俺には

最もクリーンヒットを与えにくい相手と

なっている。

たまに流石にやりすぎだとタカさんから

叱られているが、

俺としては一撃必殺のどんな技が

来ても対応しなくてはいけない以上

かなりためになる相手なのである。




しかもである。








「よーし、後5分だ。

最後まで気いれていけよ!」

「「「オス!!」」」



いよいよ稽古がラストを迎えると

彼のフォーム、そして気合いが

一変するのである。




「・・・この血で薄汚れた手で、」



彼の全身に紅い闘気が充満していく。

それはまさに一ヶ月ほど前、

この町に降り立った、

あの紅い麗人を彷彿とさせる

ものであった。



「それでも彼女の愛を勝ち取るために、」



更に彼の目と構えに炎の如き攻撃性が

現れ始める。

それは今までの誰かを逃がすためのような

防御主体のものではなく、

人知を超えた怪物ですらうちたおす

という激烈な決意に満ちた一撃必殺の

構えであった。




「全てを奪う覚悟を俺に!!」




最後に魂を込めた一拍が吐き出された

瞬間、彼は俺に襲いかかってきた。






「おおおおおおお!!!!」

「ぐっ」



そのラッシュは先程までとは

別人のよう、

いや、まるで「誰かが」乗り移って

いるかのように、

凄まじい重さと気迫で、

まさに我が身を捨てて巨大な敵をぶっ殺す

勢いであった。



先程までは何とか反撃出来ていた俺も、

こうなると防戦一方である。

ここ数日で少しは耐えられるように

なったのだが・・・。




「てやっ!!!」

「ぐぁ!!!」



終了時間直前、

賀川さんの渾身の一撃を

最後の最後で食らってしまった俺は

壁まで思いっきり吹き飛ばされてしまった。




「先生、大丈夫か!」

「だ、大丈夫です。」



タカさんの呼びかけに

倒れたままで何とか答える俺。

防具を着ているため、

痛みだけで済んでいるが、

もし道着だけだったら、

確実に怪我をしていること

請け合いであった。





バタン!



「おい、賀川!」

「うっ、やっぱりこれをやると

しばらく動けない•••」



俺を吹き飛ばした賀川さんも

実力以上の力を出し尽くしたためだろうか、

毎度の如く倒れ込んでしまった。

こうやって結局両者倒れてしまうというのが

ここ数日の稽古のお約束なのであった。






AM7:30



工務店のお兄さん達に助けてもらいながら、

俺と賀川さんは何とか防具や道着を脱ぐと、

そのまま風呂に入っていった。



身体を大急ぎで洗い、

少しでも湯船に浸かってゆっくりする時間を延ばす。

本当ならもう少しゆっくりしたい所だが、

8時にはここを出たいから、

それほど休んではいられない。

まあ、葉子さんが朝食を作ってくれているし、

学校までも賀川さんや工務店の人達が

送ってくれるから本当に助かっているんだけどね。





「先生、さっきの大丈夫でしたか?」

「大丈夫ですよ。

いや、でもベルさん直伝の最後のラッシュすごいですね。

気迫だけなら負けてないんじゃないですか?」

「ははは。覚悟だけはそのつもりなんですが•••。

まあ、実際には本気を出されたらタカさん達にも

まだまだ敵いませんけどね。

今回の組み手の動画もベルさんに送っているんですか?」

「はい。ネット上で共有出来るようにしているんで。

色々分析してもらってアドバイスを吹き込んでもらってるんですよ。

賀川さんに対するコメントも入ってますから、

今度見てみます?」

「•••最後倒れた辺りで激怒されそうなんで止めときます。」




気を使って声をかけて来てくれた賀川さんに

問題ないことを伝えた後、

組み手に関して陽月島に戻ったベルさんから遠隔で

受けているレクチャーについて説明すると、

苦い顔をして遠慮していた。

彼も色々あるのだろう。

海外から戻って来たら同居人が増えたみたいだし•••。

とはいえ、仕事前にこれだけ本気で相手してくれているのだ。

あまり詮索しないであげよう。



ともかくまずはあの賀川さんのラッシュに耐えられるよう、

そしてそこから反撃していけるようにならなくてはならない。

実力的に賀川さん以上の人というだけなら

うろなにいくらでもいるが、

あそこまでの「覚悟」で打ち込んで来てくれる人はそうはいない。

しかも実力が離れすぎていると瞬殺されて終わりだろうし、

ぎりぎり何とか対応出来るレベルから

さらに壁を越えて行くというのが、

最終的に自分の目標とするスタイルでもある。

だからこそ彼の存在は本当にありがたいのである。



何はともあれ、

あの気迫を前にしても、

引かずに向かって行く精神力。

それが梅原勝也に立ち向かう上で、

大前提となる部分だろう。

この朝の稽古で身体作りのブラッシュアップと

型の習得と共に、

本気でかかって来る相手と渡り合うための

備えをしていかなければ。



俺は痛みの残る身体をさすりながら、

これから残り一ヶ月で全力を尽くすために、

改めてプランを思い返すのであった。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


ようやく修行編をスタートさせることが出来ました。

まずはタカさんちでの訓練をお楽しみください。



ただ今のペースから考えて修行編•決闘編10月27日に完結させるのは

難しそうです。

折角いただいたアイデアは大切につかっていきたいと思いますので、

完結は11月上旬とさせていただければと思います。

どうぞよろしくお願いします。



桜月りまさんよりタカさん、賀川さん、工務店のお兄さん達を

(あと抜田先生、魚沼先生、葉子さんのお名前も)、

朝陽真夜さんよりベリアルさんをお借りしました。

お二人ともチェックありがとうございました。

また何かありましたらご連絡ください。



また予告的に放課後練習でお付き合いいただく

藤堂先生、星野さんのお名前も出させていただきました。

この二人に施術もやっていただければと考えていますが、

綺羅ケンイチさんよろしくお願いします。



それでは続いて昼の練習に行きたいと思います。

剣道部の面々にも手伝ってもらえればと思いますので、

寺町朱穂さんどうぞよろしくお願いします。

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