9月24日 その3 雨降って地・・・崩壊しちゃった!?
PM5:30
病院を後にし、
覆面とはいえパトカーに乗って
警察署に向かうという貴重な経験を終えた俺は、
うろな警察署内へと足を踏み入れた。
連携担当としてうろな署には何度か足を運んでおり、
別に警察署だからといって緊張したりすることはないのだが、
心にずっしりと重いものがのしかかってきている気がしていた。
義理の父親とこんな場所で
被害者と加害者として対面なんて、
やっぱり罰が当たったのかなー、俺。
あー、マジ、気が重いっていうか、最悪の気分だ。
司さんには、ちょっと事情聴取で必要だから
来てくれないかとしか言えなかったけど、
お義父さんが犯人だなんて知ったらどんな風に思うだろうか。
お腹の子達への影響も心配だし、
あー、もう、何でこんなことになるんだよ!
「先輩!」
「ああ、紙屋か・・・。
どんな様子だ?」
「はい。
すでに聴取は終えましたが、
犯行について全面的に認めています。」
「・・・ウラは取れたのか?」
「証言内容は現場の状況と一致していますし、
何より凶器となった日本刀に付着していた粉末が、
犯行現場の壁材の材質と一致しています。」
「・・・はあ。
どう考えてもクロか・・・。」
池守さんに従って、
警察署の廊下を進んでいくと、
ある部屋の前で若い女性が池守さんに
声をかけて来た。
先輩と呼んでいることから、
恐らく同じ部署の後輩さんだろう。
こんな状況でなければ、
女子生徒の非行関連でお世話になるかも
しれないから、
連携担当として挨拶しておきたいところなんだけどなー。
しかもその会話内容から推察するに、
お義父さん、どうやら犯人確定らしい。
襲われたことについてはそりゃ文句のひとつも
言いたいけど、
もうすぐ家族になるんだし、
出来るなら家族内の揉め事ってころで、
穏便に済ませたいんだけどなー。
よし、とにかく池守さんに言ってみよう。
できれば司さんが来る前に、
話を付けておいたほうがいいだろうし。
「その・・・、すいません。
これだけお騒がせしておいて、
何なんですが、
家族内の喧嘩ということで、
済ますことはできないでしょうか?
意見書でも何でも書きますんで。」
俺が頭を下げながら、
池守さんに頼み込むと、
彼は難しそうな顔をしながらも、
軽くうなづいてくれた。
「まあ、そうなりますよね。
実際、今回は傷害事件として
通報された訳でなく、
現場の住人から喧嘩があったようだ
と連絡があっただけでしたから。
あなたが被害者だと見つけるのも
苦労したくらいですし。」
「近くの住民の方に謝罪なり、
賠償なりが必要でしたら、
こちらで真摯に対応しますので。」
「壁に刀傷を付けてしまった
おうちに対してはそうしてもらわないと
いけないでしょうね。
あと余罪は・・・、
紙屋、
ちゃんと凶器の日本刀には登録証があったんだよな。」
「はい、ちゃんとありました。
・・・というか文化財クラスの一品なんで、
鑑識に回した時に驚かれました。」
「なんでそんな高級品で・・・。
ということで今回の件自体を
傷害事件ではなく、
『事故で』壁を傷つけてしまった物損事故として
処理すれば、
何とか銃刀法違反にもならずに済むと思いますよ。」
「先輩、流石にそれは・・・」
池守さんは何とか事が穏便に済むように
持っていこうと話を進めていたが、
紙屋さんの方がそれに難色を示していた。
そりゃ、そのまま済ましちゃ、
マズイのが決まりからすれば当然だよな。
でも、生まれてくる子供達のために
お爺ちゃんに前科を付けるわけにはいかない。
ここが勝負どころだ!
「紙屋さん、どうかお願いします!
妻は妊娠5ヶ月なんです!!
実の父親が旦那に暴行して逮捕されたなんてことになったら、
どれだけショックを受けることになるか。
お腹の子のためにもどうかご協力いただけないでしょうか!!!」
「・・・紙屋、もちろん法律上はグレーゾーンではある。
だがそういう時こそ、俺たち警察は市民のためになるように
動く必要があるんじゃないか?
それこそお前の言う、『善良なる市民の安全を守ること』
に繋がる事案だろ。」
「そんな・・・。」
「お願いします。
この通りどうか!」
「・・・二人してずるいですよ。
私だって梅原先生には色々お世話になってますから、
悪いようにはしたくないんです。」
土下座する勢いで頭を下げる俺、
取りなしてくれた池守さんの言葉に、
顔を曇らせていた紙屋さんであったが、
しばらくしてから渋々という様子ではあったが、
了承してくれた。
正義感が強そうな人だったから、
どうなるか心配だったけど、
これで何とかなるだろう。
はあ、何で自分を襲った相手を
ここまでしてかばっているんだか。
絶対ちゃんと謝ってもらいますからね、
お義父さん。
心の中で目の前の部屋にいるのであろう
暴走老人に毒づいていると、
遠くからこちらに駆け寄ってくる、
愛しい奥さんの声が聞こえてきた。
「渉ーーー!
父上が自首って、
いったい、どうなったんだ!?」
「ああ、司さん、
まあ、何とか穏便に済みそうですよ。
というか、それ、誰に聞いたんですか?」
「すいません、私の方から
話させていただきました。」
身重にも関わらず、
こちらに飛びついてきた司さんを受け止めながら、
すでにお義父さんの件に知っていたことを聞き返すと、
司さんのすぐ後ろに立っていた若い男性がそうフォローしてくれた。
っていうか、どなたさん、この人?
も、もしかして・・・。
「つ、司さん、若い男を侍らせるなんて・・・。
俺、もう捨てられるんですか!?」
「あ、アホか!
この人は、うちの実家の道場の師範代だ!!
父上が書置きを残してここに来たんで、
わざわざうろなまで追っかけて来てくれたんだぞ。」
俺のボケをチョップで制して、
後ろの男性を紹介してくれた。
「申し遅れました。
梅原道場師範代の河中賢治と申します。
司お嬢さんの旦那さんで、清水渉さんでよろしかったでしょうか?
この度は先生がご迷惑をおかけしたようで本当にすみませんでした。」
色白ではあるが、
がっしりした男性が直立不動で
頭を下げてきたのに少し面食らいながらも、
俺は向こう側の事情を知っていそうな人物が現れたことに、
内心少しだけホッとしていたのだった。
ようやく今回の顛末が理解できそうである。
PM6:30
池守さんが
今回の処分についてお義父さんに
色々説明してくれるということで
改めて部屋に入っていき、
俺たちは紙屋さんの案内で待合室のような
スペースに通され、
河中さんからこれまでの経緯について説明を受けたのだった。
「えっと、つまりは昨日河中さんやお義母さんが外出中に、
偶然俺たちの結婚や司さんの妊娠について
書かれた手紙をお義父さんが見つけてしまい、
激怒した勢いで道場の宝刀を持ち出して、
俺を襲いに来たと・・・。」
「すいません。
奥様がいらっしゃればこんなことには
ならなかったとは思うんですが・・・。
私が気付いたときにはすでに先生は、
『罪人を誅す。後は任せた。』
との書置きを残して道場を飛び出して
しまっておられたのです。
こちらもすぐには何が起こったのか分からず、
奥様がご帰宅されて
状況を把握できたのが
今日になってからでした。
私がこちらに伺う道中でご自宅の方に
渉様を殺害したので、警察に自首するとの
連絡が先生からあったらしく、
泡を食ってお嬢様に連絡したところ、
ご無事と聞いて本当にホッとしました。
その上、先生に罪が及ばぬようご尽力いただいたようで、
梅原道場門下生一同を代表して御礼申し上げます。」
「渉、本当に済まなかった!
この通りだ!!」
「司さんまで頭を下げないでくださいよ!
赤ちゃんに障りますから、やめてください。
河中さんも、
義理とはいえ、
父親のためにやったことですから、
礼を言われることではないですよ。
頭を上げてください。」
「本当にありがとうございました。
奥様から事前にご結婚・ご懐妊のことは伺っていたのに、
先生を説得する機会を作ることが出来ず
こんなことになってしまったのが申し訳なくて・・・。」
「それを言いだしたら、
俺が色々手順をすっ飛ばしてしまったのが
そもそもの原因なんですから、
お互い様ですよ。」
ひたすら頭を下げる二人に恐縮しながらも、
俺は少しずつ事態の全貌を把握することができた。
結局のところ不幸なことに歯止めが利かない状態で
お義父さんが暴走してしまったらしい。
俺に斬りかかった刀も非常に由緒ある刀で、
愛するものを邪悪から守るという謂れがあるそうだし、
娘への愛ゆえに
俺のことを娘を手篭めにした悪党
(完全に否定は出来ないのが心苦しい。)
として成敗しようとしたんだなんて聞くと、
無茶苦茶な話であるはずなのに、
どうも本気で怒る気にはなれなかった。
娘可愛さが余ってというのは、
親バカの極みではあるが、
自分も将来同じ状況になったら
似たようなことをやりかねない気もするし・・・
もっと厳格で話の通じない人かと
思ったけど、
何だか親近感が湧いてきたな。
そんな風に考えているうちに、
池守さんが俺たちを呼びに来たことから、
俺は謝り倒す二人を宥めて、
改めてお義父さんと話をしようと
いうことになった。
これでお義父さんが俺に
嫌々ながらでもいいから
一言詫びを入れて、
「結婚式ではよろしくお願いしますね。
よければ子供達の名前を考えて頂けませんか。」
なんて話になっていれば
今回の事件は雨降って地固まる、
最後はめでたし、めでたし、
で終わっていたのだろう。
そうすれば唯一の懸念材料も晴れ、
10月は新生活を楽しみながら、
ゆっくりと結婚式の準備をしていられた
はずであった。
取調室への道中、
司さんと河中さんはなお不安そうな顔をしていたが、
俺は多分何とかなるだろうとタカを括っていた。
もし俺が義父たる梅原勝也について
もう少しちゃんとした情報を持っていればあのような事態には
決してならなかっただろう。
売り言葉に買い言葉の結果とは言え、
あんな約束をしてしまう羽目になるはずはなかったのである。
そう、我田万来系の俺と謹厳硬直気味なお義父さん、
人格の基礎から根本的に違っており、
そもそも仲良くやるのは相当難しい部類の二人であったのだ。
だがしかし、
先ほど何故か俺がシンパシーをお義父さんに対して感じていたように、
妙な所でこの二人は似ていたのである。
・・・自分の信念を貫くためなら、
争いを厭わないという血の気の多さに関しては。
「この愚か者めが!
誰が貴様のような半端物との結婚なんぞ認めるものか!!
二度と梅原家の敷居を跨ぐことは許さんし、
その腹にいる餓鬼なんぞ、儂の孫でも何でもないわ!!!」
「テメエ、身重の娘になんてこと言いやがるんだ!
俺が半端物っていうんなら、
このご時勢に家だの何だのつまらないものに縛られて、
娘の幸せを素直に喜ぶことが出来ないあんたは、
ただの時代錯誤の大馬鹿者だ!!
全日本剣道選手権大会優勝経験者なんていいながら、
精神が伴っていなきゃ意味なんてないだろ、
この単なる人斬り魔が!!!
あんたなんかうちの子供達の祖父としては分不相応なんだよ、
ボケ老人!!!!」
「・・・言わせておけば!!
口ばかりで儂を実際にはどうすることも出来んくせに!!!」
「は!!
あんたみたいな脳筋に吠え面かかせるのなんてわけないんだよ!!!
力だけで何でも解決できると思うなよ!!!!」
「ふん、語るに落ちたな!!
ならばどんな手段を使ってでも、
儂を打倒して見せよ!!!
そのようなことは絶対に不可能だがな!!!!」
「ああ、いいぜ、やってやろうじゃねえか!!
その代わり俺に負けたら大人しく俺の言うことに従いやがれ!!
結婚式で娘が他の男のものになってワーワー泣くあんたの姿を
永久保存版にして後世まで残してやるからな!!!!」
「やれるもんならやってみい!!
その代わり出来なんだら、地べたに這い蹲り土下座して、
自分が間違っていたことを泣き喚きながら詫びるんじゃ!!!
よいな、この口だけ青二才!!!!」
「その言葉、万倍返しにしてテメエの体に刻みつけてやるよ、
このクソボケジジイ!!!!」
「渉、父上、落ち着いて・・・」
「お二人共、どうか冷静に・・・」
一体どんな話の展開でこうなってしまっていたのだろうか?
笑顔で話し始めたはずなのに、
気づいたらお互いの胸ぐらを掴み合って、
決闘の約束をしてしまっていたのだった。
その後席を外してくれていた池守さんたちが
必要書類を持って戻ってきたため、
その場は一旦休戦となったのだった。
事件の処理に関して互いに協力して
穏便に済むように取り計らったことについては、
大人の対応だったと言っていいと思う。
しかし後日・・・
俺たちの新居に一通の手紙が届けられた。
それは梅原勝也からの正式な
『果たし状』であった。
ご丁寧に血判付きである。
日時は10月27日日曜日。
場所は中学校の剣道場。
勝負は2時間の間に
俺が勝也に一撃入れられるかどうか。
方法は互いに剣道の防具を付けての何でもあり。
試合というよりガチ喧嘩。
やれるもんならやってみろという、
勝也の顔が目に浮かぶ。
「渉・・・、本当に大丈夫か?」
「大丈夫ですよ、司さん。
俺は一人ではないですから。」
心配する奥さんに笑いかけながらも、
俺は心の炎を滾らせ、
1ヶ月後の死闘に向けたプランを
猛スピードで構築していった。
ここうろなにおける
俺の最大級の大勝負は、
こうして幕を開けたのである。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
先週が忙しすぎて
本番1週間前にゴングを鳴らすことになってしまいました。
とはいえ頑張って修行話、そしてラストバトルを描いていこうと思います。
多くの方にご協力をいただいているので、
しっかりと生かしていけたらと思います。
今回も稲葉孝太郎さんより
刑事の池守さん、紙屋さんをお借りしました。
事件の処理については問題のある点も多いと思いますが、
大目にみてやっていただけるとありがたいです。
ただ改善点や明らかな間違いがあればご連絡よろしくお願いします。
それでは修行風景を書いていこうと思います。
そこで出せなかった分も必ず本番では出そうと思いますので、
どうぞよろしくお願いします。
まだまだアイデア募集してますので、
直前でも気にせずご連絡くださいね。
それではどうぞよろしくお願いします。