9月24日 その2 犯人は・・・、えっマジで!!!
PM3:00
朝が来てからは幾つか検査を受けたんだが、
オールOK全然大丈夫とのことだった。
これで明日からはまた元通り勤務できそうで良かった。
司さんにこれ以上負担をかけたくないしな。
あー、暇だけど池守さん達が来るらしいから
帰るわけにもいかないよな。
しょうがないから売店で買ったゼク○ィでも
読んでおくか。
司さん、何回くらいお色直ししてもらおうかねー。
うおー、このドレス、
マジ可愛えー。
こんなん着ている司さんの姿みたら、
もう感動以前にムラムラして、
式の前に襲いかかりそー。
って、そん時には妊娠6ヶ月だもんな。
そんな事したら果穂先生辺りに殺されそうだわ。
というかそれ以前にむこうの親御さんを
これ以上怒らせる真似したらヤバイわな。
大事な一人娘勝手に妊娠させた挙句、
きちんと結納もしないままに籍入れちゃったもんな。
お義母さんは大丈夫だってこの前も
電話口で言ってくれていたけど、
お義父さんの方は本当に大丈夫なんだろうか。
説得が完了してから挨拶に来てくれって話だけど、
俺一人だけでも行くべきだろうか?
でもそんなことをしたら
「死ねー!!!」
とか言って斬りかかられたりして、あはは・・・、
・・・あれ?
冗談で言ったはずなのに震えが止まらない。
まあ、刀持った暴漢に襲われた直後だもんな。
意外とありえる話だということが実証されたわけだし、
気を付けよう。
それにしても犯人は一体誰だったんだか・・・
「へーい、小梅センセー!
うろ高バレー部のムードメーカーこと、
関根正史が参上したッスよ!!
旦那さん無事だったッスか!?
・・・あれ、もしかして俺、フライング?」
俺がだんだんと真面目な思考に入りかけていたのを、
オレンジ髪の体格のいい男の子の大声が見事にストップ
させてしまった。
彼は勢い込んで個室に入ってきたものの、
俺ひとりしかいなくてキョロキョロしてしまっていた。
これは、司さんの元教え子列伝に
面白い子が加わりそうだ。
見た目はいかついけど、
何かいい子そうだし、
楽しい話が聞けるかな。
「まだ司さんは中学から戻ってないんだ。
そこの椅子にでも座って待っててもらえないかな。」
俺は口元をニヤつかせたまま、
戸惑う彼に椅子を勧めたのだった。
PM3:30
「だからあのちっこい割に
おっそろしい小梅センセーをゲット
したっていうんで、
高校の連中の間でも、
清水センセーの名は轟いているんッスよ。」
「ははは。それは嬉しいな。
でもやっぱりマゾ清水とかで広まって
いるんだよね?」
「いや、そんなことはないッスよ。
最近はみんなセンセーの勇気に敬意を称して、
『ガチロリ清水』って呼んでるッス。」
「うん、ネタとして絶対悪化してるよね、それ。」
あの後関根くんに昨日のお礼を述べたあとで、
彼の中学時代を含めて色々と話を聞くことができた。
特に彼が遭遇したという司さんのマル秘エピソードの
数々は涙あり、笑いあり、実に傑作揃いだった。
そう言えば結婚式には大人ばかり呼ぶことを
考えていたけど、
司さんを感動させるには教え子にエピソードを
披露してもらうっていうのもいいかもしれないな。
そう考えると純粋な結婚式場以外にも
学生が参加しやすいような機会も設けたほうがいいよな。
さてさてどうしましょうか?
「センセー、やっぱりガチロリはまずかったッスかね?」
「ん?いや、別にそこを気にするほど野暮じゃないさ。
マゾでもロリでも何でもござれだよ。
そっちはいいから司さんは普通に祝福してやってくれよ。
あの人照れ屋だから、ネタにされると
ついそれに反応しちゃうだろうから。」
「了解ッス。
いやー、小梅センセー、
マジでいい旦那さんもらったッスね。
良く怒られたけど、
俺小梅センセー結構好きだったから、
何だか嬉しいッス。
あー、俺もさっさと、
天波さんにアタックしてー!」
特に関根くんは話も面白いし、
バカな様で結構空気も読めるみたいだ。
何か海江田の勇吾先輩を思い出すよ。
交友関係広そうだし、
結婚式の件で高校生にご協力願うときには
彼にも声をかけようかな。
きっと天塚君や日生兄達とは別の層に
顔が効くだろうから。
コンコンコン
彼とのおしゃべりを楽しみながら、
そんなプランを練っていると、
ドアがノックされる音が聞こえてきた。
「どなたですか?」
「お休みのところ、すいません。
うろな署の池守と申しますが、
清水渉さん、
いらっしゃいますか?」
「あ、池守さん、お疲れ様です。
どうぞ、入ってきてください。
関根くん、悪いけど、
そこにある椅子取ってくれるかな?」
「了解ッス。」
どうやら司さんの前に池守さんが
到着したらしい。
まあ、事情聴取には俺と
関根くんがいれば大丈夫かな。
司さんには後から説明しておこう。
さてさて犯人に繋がる情報は
何か得られるのかな?
俺は襲われかけた時に見聞きした、
犯人の風体、セリフを思い起こしながら、
池守さんの質問に向けて頭の
準備を整えていったのだった。
PM4:30
「ふー、大体こんな所ですかね?」
「そうですね。
ご協力ありがとうございました。
・・・いくつかちょっと信じられない
部分が正直ありますがね。」
「うわー、俺、
清水センセーが倒れている所を
見つけただけだったから、
そんなすごい相手だなんて知らなかったッス!」
「関根君だったね。
発見した時の状況を教えてくれたのは助かったけど、
ここでの話は口外しないように頼むよ。」
「大丈夫ッス、刑事さん。
俺、基本口カタイッスから。
でも美人に迫られるとポロっと
喋っちゃうかもしれませんけど、
あはは!」
「「関根くん・・・」」
最後におバカっぷりを発揮した
関根くんを苦笑いで見つめる俺と池守さん。
でも彼のおかげでリラックスして状況を
理解できた気がするから、
全く憎めない子だよ。
それにしても当時の状況を聞いていて、
良く無事だったもんだと改めて驚いた。
現場検証の結果、
俺が日本刀の斬撃から助かったのは、
体勢を崩してコケたのと持っていた
ビニール袋で咄嗟に
体をかばったおかげだったみたいだ。
俺が倒れていた壁に生々しく残っていた、
斬撃痕や真っ二つにされたビニール袋の中の
トマト缶などの話を聞くと、
まともに直撃していたら命がなかったっぽい。
しかもそのトマト缶や何やらがぶちまけられたことで
俺に致命傷を与えたと勘違いしてくれて、
それで最終的に見逃してもらえたみたいだし。
うわー、この前行った某オムライスチェーン店を思い出して、
晩御飯オムライスにしようって言ってくれた
司さんにマジ感謝だわ、これ。
今後司さんとポ○の樹には足を向けて寝られないな。
結果的に殆ど無傷ではあったのだが、
実際非常に危うい命であったことに
心の底からホッとしていると、
池守さんの実に難しそうな
顔が目に入った。
「池守さん、
犯人の目星はつきそうですか?」
「それはまだ何とも。
異様な風体の犯人ですから、
当時の目撃証言を集めればと
思うのですが、
すでに行った聞き込みでは
その当時現場近辺であなた以外に誰かを
見たという証言が得られていないのでね・・・
あとは部下が署の方で整理している
遺留品から何か犯人に繋がる証拠が
出てくればとは思いますが・・・
清水さん、改めて聞きますが、
心当たりはないんですよね?」
「はい、それがさっぱり。
なんか引っかかってはいるんですけど。
あと学校には怪我をしたとだけしか連絡しなかったんですが、
やっぱり犯人が捕まっていないんじゃ危ないんで、
分かっている範囲で伝えたほうがいいですかね。」
「そうですね。
犯人の口ぶりから、
あなた個人を狙った犯行である可能性が
高いと考えられますが、
確実ではありませんので・・・、
おや、ちょっと失礼。」
署の方から連絡があったのだろうか?
ポケットから携帯を取り出した池守さんは
足早に病室から出て行った。
「うわー、俺、
事情聴取って始めてッス。
あー、織部の奴に自慢してーけど、
言っちゃダメだし辛れーなー。
まあでも俺が颯爽と人命救助を
行った点についてはしっかりと
天波さんにアッピールしないとな♪」
「ははは。
まあ、それなら大丈夫じゃないかな?」
興奮したり、頭を抱えたり、胸を張ったり
忙しい関根くんの反応を、
微笑ましく見ながらも、
俺は結構大変なことに巻き込まれてしまったのを
実感していた。
もちろん他の人々が被害に遭いにくいという点で
無差別通り魔でない可能性が高いことは喜ばしいけど、
俺個人が今後も狙われるというのは正直薄ら寒くさえある。
それこそ司さんと一緒にいる時だったら、
避けることすら出来ないだろうし、
一体どうしようか。
まあ、どうこういう前に明日から朝と放課後は見回りかな。
全く、この平和なうろなに何てトラブルを持ち込むんだよ、
ボケ犯人が!!!
困惑を通り越してだんだんむかっ腹がたってきた俺の耳に、
「何だと、紙屋!
それは本当なのか!!」
という池守さんの大きな声がいきなり飛び込んできた。
あの冷静そうな池守さんが病院で大声で出すなんて、
何があったんだろうか?
犯人に繋がる重要な証拠でも出てきたのかな?
その後声を絞った池守さんの声に聞き耳を立てていたのだが、
暫くして彼は顔を顰めながら病室に入って来たのだった。
「お騒がせしてすいませんでした。」
「いや、大丈夫ですが、何かあったんですか?」
「ああ、はい、先ほど犯人が自首して来たらしいんですが・・・」
「本当ですか!?」
「マジで!?」
驚く俺と関根くんをしりめに、
何故か浮かない顔をしている池守さん。
犯人が自首して来たって言うなら
万事解決のはずなのにどうしたんだろうか?
「池守さん、どうされたんですか?」
「何といいますか、犯人がその・・・」
「犯人の名前とかも分かったんですか!?」
「はい。ただちょっと・・・。
関根くん、悪いけど席を外してくれないかな。
これは君に聞かせる訳にはいかないんだ。」
「そうッスか。分かりました・・・。」
「ごめんね、関根くん。」
「いいッスよ。
部活の練習休んで来たんで、
俺学校に戻りますね。
もしまだ必要だったら連絡くださいッス。
清水センセー、小梅センセーによろしくって
伝えてくださいッス。」
「ありがとう。必ず伝えるよ。」
「ああ、そうなったら、お願いするよ。」
流石に子どもに犯人の名前を聞かせるのが、
まずいのだろうか?
というか被害者だからって、
俺が今の時点で聞いていいのかな?
俺が展開に困惑する中、
少々歯切れが悪く関根くんにご退場願った池守さんは、
少し表情を引きつらせながらも
改めて俺に向き直った。
「それで清水さん、自首してきた人物の
名前なんですけど。」
「はい。」
「ちょっと耳を貸してくれませんか。
今回の場合、出来れば内密にことを進めたいので。」
「はい?いいですけど・・・」
怪訝そうな顔をしたままの俺の耳元に
池守さんがその名前を呟いた瞬間、
俺は一瞬自分が日本語を理解できなくなったのかと、
大混乱を引き起こしかけてしまった!
しかし同時に自分が感じていた違和感が何だったのかが、
一気に明らかになった感覚が頭の中を駆け巡った。
本当に!?
マジで!!?
そんなのあり!!!?
「まだ確認を取れていないですけど、
そういうことだと考えていいんですね。」
「・・・はい。
確かにそういうお名前だったはずです。」
「そうですか。
では申し訳ないですが、
署まで来てくれませんか?
・・・あと非常に言いにくいんですけど、
奥さんにも連絡していただけると助かります。」
「・・・そうするしかないですよね。
あーーーー!
何でこんなことにーーーーーー!!」
俺たち二人がこんなにこそこそしている訳。
それはその犯人が大っぴらにするのが
非常にマズイ人物であったからだ。
俺を襲った暴漢の正体、
和服姿の刀を持った大男が
誰だったかというと・・・
梅原勝也。
俺の愛しい新妻、清水司、
旧姓梅原司さんの実のお父さんだったのだ!
お義父さん、こんな初対面勘弁してよーーー!!
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
間が空いてしまって申し訳ありませんでした。
サツキちゃんの件に関わって気づいたのですが、
これも間違ったら町が厳戒態勢になりかねない
大事件ですよね。
今になってその軽率さを反省しております。
家族内トラブルということで、
内々に処理したということにしようと
思いますので、
関根くんと警察関係者以外、
どなたも事件現場をご覧にならなかったということで
よろしくお願いします。
神楽さんから関根君を
(名前だけでは天波さんと織部くんも)
稲葉孝太郎さんから池守刑事を
(紙屋さんのお名前も)お借りしました。
お二人共がっつり喋らせていますので、
おかしな口調や事実に反する部分がありましたら、
ご連絡いただけたら幸いです。
またアッキさんの天塚くん、
とにあさんの日生の高校生組も
名前だけ出させていただきました。
よろしければ11月の結婚式イベントも、
色々使わせていただけると嬉しいです。
さてそれでは長くなってしまいましたが、
修行話に入るために
早めに次話アップしていきたいと思います。
義父子喧嘩の始まり始まりーー。