9月24日 その1 さらば清水よ、永遠に•••なんてね
ふと気がつくと
妙な浮遊感が身体を包んでいた。
不思議な感覚に戸惑いながらも
目を凝らすと、
黒い服を着た司さん•••なんだろうか?
司さんに良く似た小柄な女性が
二人の子どもの手を握りながら、
あの海江田の墓場を歩いていた。
活発そうな男の子が問いかける。
「お母さん、お父さんどうして死んじゃったの?」
「•••、お父さんはね、お前達がお腹の中に
いる時に暴漢に襲われて亡くなったんだよ。
•••新居に引っ越したばっかりだっていうのに、
ううっ、渉!」
「お母さん、泣かないで!
もう•••ったら、お母さん泣かしちゃだめじゃない!!」
「ご、ごめん!」
男の子と逆の方にいた女の子が
ハンカチを取り出して彼女の涙を拭った。
男の子よりももう少ししっかりとした感じである。
てか、渉!って叫んでたし、
このお母さん、やっぱ司さん!
お、俺は死んでしまったというのか!!
俺が愕然としていると
涙を拭った司さんが
二人に気丈にも微笑み返しながら、
さらに衝撃的な一言を口にした。
「•••、いつもありがとう。
•••もあんまり気にしなくていいからな。
もう心配はいらないぞ。
今日からは新しいお父さんが来てくれるからな。」
「「ホント!!」」
驚きと喜びの混じった叫びをあげる二人。
それを見てホッとした様子の司さん。
するとそんな三人に一人の男性が近づいて行った。
え、マジで、本当に俺死んじゃって、
司さん再婚なの!
イヤーーーーーー!!
一体相手は誰なんだ!!!
「梅原さん。•••ちゃん。•••くん。」
「ほら、新しいお父さんがきたぞ。」
「「わーい!!」」
三人に優し気に微笑みかけるその男性は
なんと•••
町長さんだった。
AM1:00
「まだそのネタ引っ張ってたのーーー!!!」
「わーー!
ど、どーした、渉!?」
叫び声を挙げて飛び起きると、
側にいたらしい司さんもビックリして声を上げていた。
周りを見渡すと、
どうやら病室のようである。
あの後うろな総合病院にでも運ばれたんだろうか?
「だ、大丈夫か、渉?
どこも痛くないか?
というか、汗びっしょりだぞ。」
「つ、司さん•••。
あー、生きてて良かったーーー!!」
「わ、い、いきなり抱きつくな!」
無事だった喜びというよりも
悪夢から解放された喜びにうち震え、
俺は司さんの胸にダイブした。
あー、だいぶ膨らんで来た司さんの胸サイコー。
マジで最悪の未来像だった。
でも妙にリアルだったから、
逆に夢だって気づけたよ。
いやいや、町長さん、もうそんな疑い持ってませんからね。
とはいえ、これが相手が鹿島とかだったら
もう少し悪夢が続いていたかもしれない。
いつもありがとうございます。
「あ、あん!
そ、そんなにごそごそ動くな。」
「いやー、何か安心してしまいまして。
司さん、無事生還できたことですし、
このままベッドで」
「病院のベッドで何をしようとしてるんですか、清水先生?
今何時だか、分かっていらっしゃいます?」
「「ご、合田さん!
す、すいません!!」」
無事生還した反動か、
何だかムラムラしたまま突き進みかけていたが、
看護士さんの注意によって二人とも正気を取り戻した。
しかもこの看護婦さん、
かつて萌ちゃんの担当でもあった合田のお母さんである。
やべー、保護者の前でとんでもない失態をおかす所だった。
「まあ、それだけお元気でしたら、大丈夫でしょう。
一応宿直の先生を御呼びしますね。」
そう言って合田ママが部屋を出ていった後も、
俺たちは二人しばらく赤くなって固まっていたのだった。
「つ、司さん。
ご心配をおかけしてすいませんでした。
「いや、まあ、無事ならいいんだ、無事なら。
病院に担ぎ込まれたと連絡があったときには
流石に肝が冷えたがな。
お腹の子に悪いから、もう勘弁してくれよ。」
「すいません、本当ダメなパパで。」
「そんなことないさ。
ちゃんと無事に帰って来たんだから。」
何とか気を取り直した俺たちは、
お医者さんが来ても大丈夫なように衣服の乱れを直すと、
お互いを労い合った。
それにしても何が起こったというんだろうか?
「でも一体どうなったんですか?
コンビニの帰りにいきなり襲われたのは
覚えているんですが•••」
「詳しくはまだ私も聞いてはいないんだ。
道で倒れているお前を見つけた私の元教え子が
お前を病院まで運んで来てくれたらしいんだが•••」
「車か何かで通りかかったんですか?」
「いや、おんぶして運んで来たらしい•••」
「俺、結構重いと思うんですけど•••」
「いや、関根だからなー。
ああ、助けてくれたのはうろな高校の生徒なんだ。
バレー部で相当がたいの良い奴なんだが、
まあ、なんというか、典型的な筋肉バカでな。
とはいえおかげで無事だったんだから、
礼を言ってやってくれ。
学校の帰りに寄ってくれるらしいから。」
「もちろんですよ。
そこで事情が聞けますかね?」
「あいつがどれだけ状況を覚えているかは怪しいんだが、
その時に刑事の池守さんも事情聴取に来るらしいから、
そこで大体分かるだろうさ。」
「分かりました。」
まだまだ何があったのかは良く分からないが、
取りあえず今後の算段はついているようで良かった。
さすがに明日は学校に行くのは難しそうだから
明日の朝、連絡いれておかないとな。
「清水さん、入ってよろしいですか?」
「どうぞー。」
その後ノックをして入って来た
神原先生に簡単な問診を受けて、
明日きちんとした検査を受けることになった。
司さんは着の身着のまま出て来てしまったいた上、
明日の準備や梅雨の餌やりがあることから、
タクシーで一度帰宅となった。
病院でってシチュエーションも燃えるんだけどなーー、
いかんいかん。
無事だったからって何調子に乗ってるんだ、俺は。
しかしあの暴漢、和服姿で刀持ってるって
どこのサムライだよ。
でも見たこともないおっさんのはずなのに
妙なデジャヴを感じるんだよなー。
何でだろ?
なかなか眠れない俺は、
病院のベッドで自分を襲った犯人について
ずっと考えていた。
単なる無差別の通り魔とは思えない『何か』を
その言動から感じたからである。
俺のうろなで出会った最大級の障壁は
今だその正体を明らかにしてはいなかった。
しかしながら、
その壁を乗り越えた所に真のゴールが待っている。
そんな予感だけは俺の胸にすでに生まれていたのだった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
土日に書くはずが遅れてすいません。
やってみたかった夢オチでした。
シュウさん、町長さんをネタにしてすいませんでした。
色々考えたんですが、
清水に一番衝撃を与えられるのが誰かと考えたらこうなりました。
また稲葉孝太郎さんからは池守刑事、
神楽さんからは関根君のお名前をお借りしました。
お二方とも次話で実際に登場していただこうと思いますので
どうぞ宜しくお願いします。
それでは次回事情聴取話です。
お楽しみに。