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8月25日 その2 ここは腐った桃源郷?

AM11:30


「わー、ぷよぷよだー。」

「ぷちょー。」

「ふふふ。そんなに楽しんでもらえると

久しぶりに作ってみた甲斐があったわー。」




小林姉妹と4人でバザーを回ることになった俺たちは、

果穂先生達のお店の向かい側にある、

このスライム屋台から回ることにした。


二人は始めて触るであろうスライムの感触に

興味津々のようであった。


売り主である安田さんには料金をすでに

払ったし、

もう少し遊ばせておいてもらおうか。




しかしスライムとは懐かしいねー。

昔文化祭とかで意味もないのに買って

いじくり回してたっけ。


にしても果菜ちゃんたちは

あんまり抵抗ないんだな。

結構苦手な女性が多いんだけど。


昔姉さんの腕にふざけて付けたら、

「いやーー!!!」

と叫んで泣かれたあげく、

小一時間説教食らったっけ。





まあ、今は時代が違うよな。

女の子も強くなったし、

男の方もそこまでバカなのは

もういないだろう•••、

ん?

あれは•••一体どうなっているんだ?





「•••」

「いや、ねえ、千草さん。

これはちょっとした事故で。」

「•••」

「そうですぞ、千草ちゃん。

元はと言えばこのダメ浪人生が

このぐにゃぐにゃした物体を見て

『お、院部の仲間がいるぞ。』なんて

言いおったのが原因なんですよ。」

「•••」

「何、人に責任をなすり付けてるんだ!

その後いきなり

『我を下等なジェル状宇宙人と一緒にするとは

不届き千万!

成敗してくれる!!』とか言って、

スライムを投げつけてきやがったくせに!!

100%お前が悪いだろ!!!」

「•••」

「そちらこそ自らの罪を忘れて、

我を糾弾するとはなんたる恥知らず!

そちらも投げ返してきたではござらんか!!

最終的に千草ちゃんに当たってしまったのは、

そちらが『ふっ、遅い』とか言って

我の投擲を避けなどするからですぞ!!!」

「どう考えても投げた方が悪いだろ!

この無責任宇宙人!!」





果菜ちゃんたちが遊んでいる横の

ちょっとしたスペースに目をやると、

涙目で立ちすくむ小学校高学年くらいの少女の前で、

大学生くらいの男性と

なんと表現したらいいのか分からない奇怪な姿をした人物が、

今にも殴り合いを始めそうな様子で罵り合っていた。



二人の会話から、

どうやら喧嘩してスライムをぶつけ合って

いたのがそれて女の子に当たってしまったようで、

その責任を全力で相手になすりつけあっているみたいだ。





関係ない子どもを巻き込んでしまったというなら、

間に入ってやらないといけないが、

どうやら知り合いのようである。


大泣きしている訳ではないし、

もう少し様子を見るか。





そう考えて二人の喧嘩の

推移を窺っていると、

徐々に女の子の顔が

綻んで来た。


は?どうして?

どこに笑う所があった?



「伸太郎さん、院部さん、いけませんよ。」

「「はあ?」」

「とりあえず、正座してください。」

「いや、こんな公衆の面前で•••

大体全ては院部の責任なのに。」

「我が輩は悪くないですぞ!」

「早くしないとロリコンさんにセクハラされたと叫んだ上で、

部屋の押し入れを空にしてしまいますよ。」

「「申し訳ありませんでした。」」



少女の脅迫に気圧されて

正座というか土下座を始めた二人組。

その後少女は嬉々として

お説教を始めていた。






その様子を俺は苦笑いと共に、

どこかうそ寒いものを覚えながら

見つめていた。


千草ちゃんとか言われてたけど、

大丈夫か、あの子•••。

なんか将来が激しく不安なんだが。

来年ぐらいにはうちの学校に来る年っぽいし、

今度小林先生にどんな子なのか聞いておこう。




俺は新たな種類の問題児の予感に

軽い目眩を感じながら、

その場を後にした。







AM11:45



「あれ?田中先生、何しているんですか?」

「ああ、はい。

高原君がお店に補充する分を取りに行っている間、

店番を代わっているんです。

清水先生、梅原先生、ご結婚おめでとうございます。」

「ありがとうございます。

田中先生も近日中にですか?」

「か、からかわないでください!

だいたい澄君とは20歳近く離れているし、

昨年までうちの生徒だったのに•••

彼はそんなこと関係ないって言ってくれるけど•••」

「•••名前呼びになってますよ、田中先生。

まあ、でも上手く行っているようで良かったです。」





恥ずかしがる田中先生を見ているとこちらもニヤニヤしてしまう。

なんか、この人いじめたくなるんだよなー。

この前の訪問の時には思いっきり無間封頼殺決めちゃったし。


しかも体育館の中が暑いせいか、

彼女のTシャツが透けて、

黒い下着がスケスケになっているし。

このアダルティでありながら隙が大きい所が、

直澄を日夜おさるさんにさせている原動力なんだろう。

うーん、眼福、眼福。






「渉•••、新婚の嫁さん放っておいて、

他の女性の胸元を凝視するとはいい度胸だな。

なんか今すぐこのマタニティマークを外して、

剣道場にお前を引きずって行きたい気分なんだが。」

「い、痛いです、司さん!

ごめんなさい、謝りますから、耳を引っ張らないでくださーい!!」

「ちわげんかー。ママ達と一緒ー。」

「ちわーー。」



邪な視線に気づいた司さんに折檻される

俺を見て、何故か喜ぶ果菜ちゃんたち。


つくづく教育に悪い大人だな、俺。

ホント子どもが生まれる時までには

もう少し落ち着かなくちゃな。








「ふっふっふ。

まったく、相変わらずですね、

清水先生は。」

「司先生、マタニティマーク付けて

いただいてありがとうございます。

先生がつけてくださるといい宣伝になりますよ。」

「鹿島さんに、町長さんまで!!」




俺が自分の至らなさを反省していると、

どこか鼻につく笑い声と

朗らかで優し気な声が横からかけられた。


司さんも驚いていたが、

そこにいたのはショッピングモールの営業係長にして

希代の妹狂い鹿島茂と、

先日俺たちの結婚を祝福してくれた、

みんなの町長さんだった。





「いやーでも夏の体育館は暑過ぎますね。

いつもエアコンの効いた場所にいる人間には

応えますよ。」

「でもこういうのも時には良いとは思いませんか?

そとでやるよりはずっといいですし、

ドリンクなんかも各所で売っていて

熱中症対策はしっかりしてますから。

そのARIKA出張版限定、

塩ライチサワーも

いいかんじでしょう?」

「まあ、こういう雑然としたのも

悪くはないとは思いますがね。」




どっちかというと対立してもおかしくないはずの

二人なんだが、

なんか友達のように話している。


すげー意外っていうか、

あの鹿島と仲良くなれるなんて、

町長さんマジ人徳ありすぎー。




「どうしたんですか、清水先生?

暑くてついにボケましたか?

新婚なんですからしっかりしないと。」

「いや、鹿島さんにちゃんと

友達いたんだなーって。」

「ははは、何を言ってるんですか。

清水先生、ちょっと胸元にゴミが。

(テメエ、ぶっ殺すぞ!!)」

「ああ、ありがとうございます。

(そっちこそイチイチ喧嘩売ってくるんじゃねえ!!)」



ゴミを取る振りをして

耳元で凄んでくる鹿島に対し、

頭を下げる振りをして

罵声を浴びせ返す俺。


二重人格同士の喧嘩は実に面倒くさい感じである。






「いやいや、この町を盛り上げてくださるお二人が、

仲良さそうでなによりです。」

「確かにそうですね、町長。

清水先生は本当に頑張っていますから(ブチ!)」

「つーーー!!!

(こいつ思いっきり足ふんずけやがった!!)

いえいえ、鹿島さんこそ、

このバザーの告知をショッピングモールで

大々的にされたっていうじゃないですか?

今日のショッピングモールのお客さんが減るかも

しれないのに、

町の活性化のために一肌脱ぐなんて、

あんた男だ!(バシ!!)」

「ぐ!!

いえいえ、長期的に考えれば

ショッピングモールに親しみをもって

いただくことにつながりますから。」




俺の反撃の突っ込み(みぞおちに一撃いれてやった)

を何とかこらえ、

笑顔で受け答えしながらも

(本気でいてこましたろか、ワレ!)

って感じの目でこちらを見る鹿島に対し、

俺も微笑んだまま

(やるんなら、表出ろや!)

と口パクしてやった。







そんな傍から見ると微笑ましい、

実は一触即発の状況を、

新たな登場人物が更に

混乱させていくことになる。



「遅くなってすいません、

倫子さん。

あれ、渉兄さんじゃないですか!

来てくれてありがとうございます。

小梅センセも赤ちゃんおめでとう。

産まれたら、おもちゃは是非、

ホビー高原でお願いしますね。」

「相変わらず元気だな、お前は。

剣道部の方も見てもらっているし、

そうさせてもらうよ。

稲荷山達を頼んだぞ。」

「梅原先生、でもベビー用品でしたら、

ちゃんとショッピングモールに

専門店がございますよ。

子供服ブランドなんかも揃っていますから、

そちらで安全で格調高いものを

選んでいただければ一番良いかと。」

「うちの商品が安全でなくて安っぽいとでも!

全くショッピングモールの営業課長さんは

ブランド力に頼っているから、

物の本質が分かってないんですよ。

だから渉兄さんにやり込められたんだって

分かってます?」

「自分の手柄でもないのに偉そぶるなんて、

これだから高卒あがりは、まったく。

田中先生、本当にこんなガキでいいんですか?」

「この野郎!汚い手で俺の倫子さんの

手を握ってるんじゃねえ!!

だいたいその年で未だにシスコンを拗らせた、

彼女もいないさびしんぼのくせに、

何を気取っていやがる!

妹の方が彼氏作って大人になろうとしてるんだ、

さっさとあんたも渉兄さんみたいにいい人見つけて、

精神的に自立しろ!!」

「な、なんだとーーーー!!!!

も、萌に彼氏だと!!

誰だ、誰だ、その不届きものの、

名前を言え、クソ玩具屋!!!」

「誰が言うか、ボケ兄貴!!!」

「おい、直澄、落ち着けって!

あと、鹿島、地が出てるから!!」

「ははは、喧嘩はいけませんよ。

でも若い力が切磋琢磨しているのは、

いいですねー。」

「町長ももう少し真面目に

止めてください!!!」





先ほどまで水面下で起こっていた戦いは、

直澄の登場と

言ってはいけない一言により、

見事に表面化してしまった。



分かりやすく互いの胸ぐらを

つかみ合っている鹿島と直澄に、

それを何とか宥めようとする俺、

そしてすぐ側でそれをほんわかと

見守っている町長。





これからのうろなを担う若いリーダー4人衆が

巻き起こしたくだらない小競り合いは、

見かねた司さん、田中先生、果穂先生、

そしてこちらも見回りに来ていたらしい秋原さんも含めた、

女性陣が止めに入るまでしばらく続いていた。









やっぱりうろなは女性達がいないと締まらないとも思ったが、

その後の他の見回りの先生方の報告で、


「きゃーーー!

なんておいしい展開なのー!!

最近大注目の町長×鹿島を観察していたら、

なんと鹿島、清水、町長の三角関係が勃発、

そこに清水の舎弟、高原弟も加わって、

もうここは桃源郷?って感じですーー!!!

あーーー、夏コミは終わっても

私の夏は終わってなかったーー!!

冬コミではうろな本絶対出すぞーーー!!!!」


という意味不明な叫び声をあげる、

住民課の某Uさんの姿が確認されたそうである。







うん、男性がどうとか女性がどうとかじゃなくて、

単に変な人が多いだけだな、

この町。


ちょっと前に妖怪大戦争が起こっていたなんて、

信じられないような噂が流れているけど、

体育館に籠った熱気はお昼が近づくにつれ、

そんな不可思議が起こるのもどこか納得できるぐらい、

最高潮に達しようとしていた。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


今週は忙しくバザーの続きが書けていませんでしたが、

何とか1話書けました。


でもまだ3店舗しか回れていない(アッキさんのお話と

絡めてすでにもう2店舗は実質回れていますが)

シュウさんが作ってくださったモブさんも

しっかり生かして行きたいので、

頑張ります。



出汁殻ニボシさんからは伸太郎君、千草ちゃん、院部さんの

トリオをお借りしました。

始めてのコラボでキャラがおかしかったりしたら、

遠慮なく言ってください。



シュウさんからは町長さんと内村さんに活躍していただき、

あと秋原さんもいたっていうことにさせていただきました。


またARIKAの出張店の新メニュー、稲荷山君の

お名前をださせていただきました。

小藍さん、寺町朱穂さん、小ネタにしてしまってすいません。




長くなってしまったので、

お話ししていたユキちゃん達とのコラボは次回に

しようかと思います。

桜月りまさん、朝陽真夜さん、

よろしくお願いしますね。

どのお店でお会いしましょうか?

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