8月19日 清水司と申します
AM10:00
「血液検査の結果も問題なくて良かったですね。」
「そうだな。
こっちで担当してくれるお医者さんも
腕の良さそうな若い女医さんだったし、
安心して通えそうだよ。
妊娠届出書もちゃんと書いてもらえたしな。」
事前に電話しておいたためか、
はたまた海江田の病院から連絡がいっていたからか、
うろな総合病院においてほぼ朝一で、
産婦人科での検診をしてもらえた。
海江田からの引き継ぎも上手く行ったようで、
というか海江田で担当してもらった先生が
うろなの産婦人科の先生の恩師らしく、
「が、頑張ります。」
と若干意気込み過ぎぐらいの感じで
対応してくれた。
母子手帳をもらうための、
妊娠届出書ももしかしたら
今日は無理かと思ったら、
検査終了後すぐ書いてもらえる
スピード感。
別に特別扱いしてもらえたわけじゃ
ないんだろうけど、
これは宮崎先生や海江田の先生に
お中元送っておいて正解だった気がする。
大事だよね、心遣い。
「じゃあ、町役場に行きますか。」
「でもいいのか?
まだ新居も決まってないから、
引っ越しの時には改めて住所変更
しないといけないわけだし。
その時に一緒にしても」
「『清水司』は語呂が悪いでしょうか?」
「そんなこと言ってない!
•••まったく、こういう所は強引なんだから。
分かったから、
そんな本気で泣きそうな顔をするな。」
最後の抵抗?を試みる司さんを
ウルウル目線で封殺する。
いや、まあ、本気でためらいが
あるようだったら、もちろん考えたんだが、
単に恥ずかしがっているだけみたいで良かった。
「まあ、うろな町内で引っ越しするだけなら、
転居届出すだけでOKですから。
それはちゃっちゃと行って来ますよ。
それよりもいい物件をできれば夏休み中に
探してしまわないと。
引っ越しは新学期以降でもいいですけど、
時間のあるうちにやっておかないと
大変ですから。
うろ南不動産から物件紹介が来てましたから、
今日帰ったら見てみましょう。」
「そうだな。
今も実質お前の家で同居しているようなものだが、
うちのアパートの方の契約もちゃんと考えておかないとな。
長い間住んでいて気心知れた大家さんだから、
相談すればすぐに動いてくれるとは思うけど。」
てな感じで現在一番問題となっているのは
新居をどうするのか。
もちろん長期的には終の住処となる
家をうろなで建てることも考えているが、
とりあえずすぐには無理だし、
まずは二人と梅雨、そして生まれてくる
双子が住むのに適した家を早急に見繕う
必要がある。
司さんも出産までと出産後の産休期間を
そこで過ごす訳だし、
彼女と良く話し合って決めないといけない。
それでいて早いうちに移動した方がいいから
大変だ。
結婚式をどうするかも詰めないといけないけど、
先にこれを決めないことには何ともならないな。
「それに加えて校長先生達の報告も
あるから大変なんだが、
あー、日生達何やったんだろう?」
「そう言えばお兄さんが朝新聞配達に
来てましたけど、
何かあったんですか?」
「どっちかがトラブルに巻き込まれたらしい。
鎮も家出しているらしいし、
あの一家は全く•••」
「あんまり思い詰めないでくださいね。」
「兄貴達も兄貴達だったが、
弟達も色々やらかしてくれるよ。
小生意気だが、
可愛い奴らではあるんだがな。」
どうやら彼女の力が必要な場面らしい。
よし、管理職の報告については俺が
しっかりやって司さんがそっちに
専念出来るようにしないとな。
記念すべき結婚記念日も
司先生は大忙しなようだ。
まあ、それも彼女らしい。
俺はしっかりと彼女を
支えて行こう。
浮かれた気分を少しだけ
引き締めて、
俺はハンドルを握り直した。
AM10:30
「二人の戸籍謄本よし。
身分証明書よし。
婚姻届の記載内容も•••」
ここは町役場の住民課。
うろなの人々の戸籍や住民票の
関係を扱う部署である。
戸籍の変更を伴う婚姻届の
提出もここが担当なのである。
現在榊さんが婚姻届の提出に
必要な書類、婚姻届の記載内容を
チェック中である。
これで抜けがなければ、
晴れて俺と司さんは夫婦、
彼女は梅原司から
清水司になることになる。
結婚式の日はそれはそれで
お祝いしたいが、
今日8月19日が俺たちの
結婚記念日なのである。
すでに榊さんの隣では
内村さんがニコニコ顔でスタンバイ中。
彼女は妊娠届出書の方を
チェックしてくれていたようで、
その手には母子手帳が握られていた。
本来なら先に渡してくれれば
いいんだが、
婚姻届の受理と共に渡してくれようと
いう心遣いのようだ。
他の待っている人に悪いという
思いが本来ならあるんだが•••
「こんな瞬間に立ち会えるなんて
今まで生きててよかったのうじいさん。」
「そうだのう、ばあさんや。
ちょうど小梅ちゃんの入籍を目撃出来るなんて。」
「まるで孫が結婚するみたいで嬉しいのー」
「ねえねえ、梅原先生が新任の先生と
結婚するんだって!」
「つぶやいちゃえ、つぶやいちゃえ。」
どこから湧いて来たのか、
すでに住民課にはたまたま役場に来ていた
町民達がわらわらと集まって来ており、
俺たちの背後でギャラリーを形成していた。
他に順番待ちをしている人は皆無の様で、
そのおかげで手続きがスムーズになるのは
助かるんだが。
というか町民達だけでなく、
「梅原先生も結婚かー。
おめでたいけど、
何かおいて行かれちゃった気分だわ。」
「大丈夫ですよ、秋原さん。
短冊の願いはきっと叶いますって。」
「町長!
その話は内緒だって言ったじゃないですか!!
私のお願いはうろな町の平和です!!!」
「ははは。そうでしたね。」
とギャラリーの最前列に何故か、
町長と秘書の秋原さんまでもスタンバイしていた。
普通ならこういう騒ぎは町長が乗って来ても、
秋原さんは止めそうなものだけど、
今回は二人一緒に仲良く参加中。
司さんと秋原さん仲良かったみたいだし、
今回は特別ってことかな。
町長は•••、
まあ、光栄ってことでよしとしておこう。
そんなことを考えていると
隣の司さんが顔を真っ赤にしながら
プルプル震えているのが目に入った。
「司さん、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫なわけあるか!
なんでこんな大騒ぎになっているんだよ。
今日出すなんて誰にも言ってないよな!!」
「はい。
果穂先生もしらないと思いますよ。
タカさん達には昨日言ってしまいましたけど、
一応明日の昼までは言わないでくれって
口止めしておきましたし。
僕らが二人で町役場に来た時点で
ざわざわしてましたから、
みなさん感づいたんでしょうね。
司さんはうろな町のアイドルですから。」
「ううー。
結婚式とかならまだ分かるけど、
婚姻届の提出でこんなに恥ずかしい思いを
するなんて•••」
まあ、最近発展して来たとはいえ、
基本娯楽の多くはない町だし、
司さんは長年うろなのために頑張って来た
人だからな。
これくらいのイベントになってもおかしくないだろう。
ははは、9月の新学期に学校で正式発表する予定
なんだけど、それまでに大分町中でひろがっちゃいそうだな。
24日の肝試しや25日のバザーでどれくらい弄られるかで、
普及具合が判明するかもな。
「よし、記入漏れはなし!
では受け取りの判子を•••」
「「(ごくり)」」
「「「「「「(ごくり)」」」」」
どうやらチェックが終わったようで、
榊さんが婚姻届に押す判子を取り出した。
息をのむ俺たち二人と
背後のギャラリー達。
一体どこの条約締結会議だよ、ここは。
婚姻届の判子一つ押すのにこれだけの人の一体感が
生まれるって•••、
ホントのどかな町だよな、ここ。
ポン!
そして実にあっさりと婚姻届に
判子が押された。
「「「「「おおー」」」」」
いやいや、リアクション大き過ぎ。
ギャラリーの反応の大きさに
感動しそこねた俺たちに対して
榊さんはフーと息を吐いて、
「問題ありませんでしたので、
受理しました。
おめでとうございます。」
と言ってくれた。
どうやら問題なく俺たちの
婚姻届は受理されたようである。
「おっめでとーございまーす☆
こちらは母子健康手帳になりまーす。
あと福祉課から健康診査の受診票や
検査の助成のご案内、
妊婦さん向け講座のご紹介を
預かってますので、
こちらのバックに入れておきますね。
あとこれまだ試作品なんですが、
よいの先生デザインの
マタニティキーホルダーでーす。」
すると横から内村さんが入って来て、
母子手帳関係を色々渡してくれた。
妊婦さんだとわかるようにする、
マタニティキーホルダーか。
こういうのがなくても
うろななら席を譲ってもらえるんだろうけど、
今の司さんみたいにお腹が目立たない場合には
いいかもしれない。
ユキちゃんのお仕事もちゃんと回っているようで良かった。
「梅原さん、じゃなかった、
清水さん、おめでとう。」
「あ、秋原さん!
ありがとうございます。」
その隣ではどこからか出て来た
花束を秋原さんが司さんに贈呈中。
ギャラリーの皆さん、
写真とりまくり。
「清水先生もおめでとうございます。」
「町長、ありがとうございます。
でも役場でこんなに大騒ぎしていいんですかね。」
「今回は秋原さんも見逃してくれてることですし。
町に多大な貢献をしていただいた、
お二人への感謝の現れとして
受け取っていただければ。」
町長から差し出された手に握手を返す俺。
少しむずがゆいけど、こういうのも悪くはないよな。
「清水先生。カメラがあるんで、
奥さんと二人で記念写真いかがですか?
婚姻届も持って。」
「え、じゃあ、お願いします。」
そんな内村さんの申し出に従って
そこからは大撮影会となってしまった。
その後は二人の写真だけでなく、
町長達も入った4人での写真、
ギャラリーも含めた写真など、
想像もしていなかった思い出が
沢山出来上がった。
おかげで学校に戻る時間に
遅れそうになったけど、
本当にこっちで婚姻届出すことに
して良かったと思う。
町民の皆さん、
本当にありがとうございました。
今後とも清水渉と清水司を
よろしくお願いします!
ちなみにその時は知らなかったんだが、
住民課の外では、
「離してくれ、香我見クン!
僕はあの裏切りものに
一発ヤキをいれてやらないと
気が済まないんだ!!」
「いや、今いいところなんやから、
邪魔したら、アカンって。
堪えな、佐々木君!!」
「嫌だー!!
我らの妖精を手込めにした
アイツを生かしてはおけーん!!!」
と企画課の佐々木達也が殴り込みを
かけようとするのを、
同僚である香我見遥真が
羽交い締めにして止めていたらしい。
「リア充、爆発しろーーー!!
今度の肝試し、
覚えてろよーーこのエロ清水、
策清水ーーーー!!!」
「策士と清水をかけてるんか。
そこん所は冷静なんやな、キミ。」
「ううー、梅原先生ーーー、
うろなターン!!!」
友に裏切られ、
涙する男の復讐が
果たして肝試しの場で結実するのか否か。
そもそも友の怒り自体をを知らない、
その時の俺には想像すらできなかったのである。
とにかく、
俺たちの結婚記念日、
8月19日のうろな町役場は
どこもかしこも大騒ぎであったと、
多くの人の記憶に刻まれたのであった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
相当な大騒ぎにしてしまいましたが、
大丈夫でしょうか?
婚姻届の提出なんて縁のなさすぎるイベントなんで
おかしな点がありましたらご指摘ください。
今回も
シュウさんからは町長さん、秋原さん、榊さん、内村さんを
桜月りまさんからはユキちゃんとうろ南不動産のお名前を、
とにあさんからは126話、128話とのリンクを、
弥塚泉さんからは佐々木君、香我見君の出演と肝試し話へのリンクを
書かせていただきました。
また佐々木君の策清水はアッキさんの発案です。
アイデアありがとうございました。
問題がありましたら、遠慮なくご指摘ください。
また桜月りまさんにマタニティマークの
デザインをしてもらいました。
みなさん、こういうの付けている方を
町で見かけたら、
是非お気遣いを。
今後も梅原は学校では梅原の姓を使いますので、
そのまま呼んでいただければと思います。
もちろん、清水として弄ってもらうのもwelcomeです。
次はバザー話に行きたいと思います。
大分遅くなりましたが、
よろしくお願いしまーす。