表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/124

8月18日 うろなよ!娘よ!私は帰ってきた!

AM11:00


「ふっふふっふ、ふーん♪」

「司さん、ご機嫌ですね。」




今日の午後いよいようろなに帰るので、

現在二人で身支度中。


基本的に二人共着の身着のままで

やってきたため本来ならすぐ終わるはずだったのだが、

校長や先生方へのお土産のお酒・お菓子、

そして司さんにと姉さんや母さんが

プレゼントしたマタニティ用の服などが追加されたため、

現在車に載せる用をダンボールに入れるのに

大忙しである。




さらにはあの二人、

まだ子供の性別も分からないのに、

大量のベビー服や赤ちゃん用のおもちゃまで

買ってきている始末。

流石にそんなものまでもって帰れないので、

基本は美咲用に使ってもらって、

男の子か女の子かわかった時点で

必要な分をうろなまで郵送してくれということで、

何とか言い含めた。


仮に双子が両方女の子で

男の子用の服やおもちゃが無駄になっても

俺は知らない。

まあ、うろなで今年みたいにバザーがあるなら、

そこにでも出すことを検討するけど。





「いや、なに、荷物をまとめていたら

先日ユキから届いた手紙があったから、

読み返していたんだ。

すごいんだぞ、ほら!」

「どんなやつなんですか?」



挿絵(By みてみん)



司さんが差し出した手紙を見てみると、

綺麗な押し花が貼ってあり、

さらには梅雨の肉球スタンプまで

押してある、

実に手の込んだものだった。



「この花、多分ユキがお母さんと

一緒にいた頃にとったやつだぞ。

それをわざわざ、ぐすっ。」

「良かったですね。

うろなに着いたら梅雨を

迎えに行きがてら、

お礼を言いに行きましょう。

ユキちゃんも梅雨も、

あなたが来るのを待ってますから。」

「うん。」




感極まって涙ぐんでいる司さんを

俺は優しく抱きしめた。


久しぶりの故郷は確かに温かかったが、

やはりあの町には俺たちを待っていて

くれる人がいるんだ。


さあ、俺たちの町、うろなへ帰ろう。












PM6:00



司さんの体調を気遣って、

細めに休憩をとっていたため、

予想よりも大分時間がかかってしまったが、

ようやくうろなへと戻ってくることができた。




まあ、でもしかし、

うちの家族には本当に参ったよ。

出発前の昼飯を食べてる時は

ニコニコ、ガヤガヤ喋ってたのに、

いよいよ俺たちが出発となったら、

ビービー泣き出すんだもんなー。


ブレーキ役の雅樹が昼飯の直後に

病院に呼び出されちまったもんだから、

母さんも姉さんもわんわん喚くわ、

行かないでーとか騒ぐわ、

それに釣られて美咲も大泣きし出すわ、

マジで大変だったよ。

おかげで結婚式には必ず呼ぶ、

うろなにもまた来ていいみたいな

言質を与えちまったし、

失敗だったなー。


つうか、最後に姉さん人に

お別れのハグするフリをして耳元で

「呼んでくれなかったら、呪ってやる。」

とかつぶやきやがって、

絶対わざとだろ、あれ!


あーあ、子供が生まれるのは本当に

楽しみなんだけど、

あの母娘がそれを見に来る相手を

しなくちゃならないのが

マジ憂鬱だわ。

頼むから旦那という名の飼い主と

一緒に来てくれよ。





「渉、そろそろタカさんちだぞ。」

「ああ、すいません、そこの奥ですかね?」


司さんの指摘に気を取り直した俺は、

タカさんちに入る道を確認するため、

カーナビを横目で見やった。


梅雨も長い間お世話になったことだし、

皆さん揃っているといいけどなー、

と思いながら。





PM6:10





「梅雨ちゃん、またね。

司さん、良ければまた連れてきてね。」

「おう。その毛玉がいると

ユキが喜ぶし、

何より賀川のをいじめる

ダシにはもってこいだからな!」

「あはは、葉子さんやタカさんにまで

可愛がってもらったようで、

ありがたいです。

なあ、梅雨、良かったなー」

「うなー」


ユキちゃんの腕の中の梅雨を

司さんが撫でると

梅雨が気持ちよさそうに鳴き、

そして母親が帰ってくるのが

待ち遠しかったと言わんばかりに

その手をペロペロと舐め回していた。




到着後呼び鈴を鳴らして来訪を告げると、

葉子さんがまず出てきたのを皮切りに、

ワンピース姿のユキちゃんが梅雨を抱いて

とてとてとやってきて、

その後ろにタカさん、

そしてなんと住み込みのお兄さん達まで玄関に

押し寄せてきていた。




大所帯の前で

こちらが梅雨を預かってもらったお礼と

明日籍を入れること、

司さんのお腹に双子がいることを

合わせて報告すると、

歓声と拍手が起こった。


その後お兄さん達はご一緒に

「ところで、清水先生!あのお酒ってまだあるの!?」

とのご催促。

どうやら我らが『海江田の奇跡』は

なかなかの大好評であったようだ。


こんなことあろうかともう一本追加で持ってきていた

一升瓶を梅雨の迷惑料ということで差し出すと

「太っ腹な清水先生と梅原先生の前途に!

そしてお腹の双子に乾杯!!」

割れんばかりの大喝采が起こった。

そのままそのお祝いを名目に

奥で酒盛りが始まったのには

流石に苦笑するしかなかったが。





まあ、安い買い物ではなかったが、

これで色々な時に男手を借りやすくなりそうだ。

とはいえ、本当はこれ、

賀川さんにと思って持ってきたんだけどなー。




残念ながら今回一番お世話になった

賀川さんは配送が忙しくて昨日から

出ずっぱりとのこと。

葉子さんやタカさんの話からも

ユキちゃんがいない間も

ずっと面倒を見てくれていたらしいから

直接お礼を言っておきたかったんだけど。







そんなことを考えていると

先程からユキちゃんが殆ど喋っていない

ことに気がついた。

司さんが手紙のお礼を行った時には

楽しそうに笑っていたんだけど、

今はどこか疲れた感じで

半分上の空である。




その様子に司さんも気づいたのか、

「ユキ、大丈夫か?

絵の執筆で長い間森に篭っていたんだから、

無理するなよ。」

と声をかけていた。


それを聞いた瞬間、

「だ、大丈夫ですよ、司先生。」

と笑って否定していたユキちゃんだが、

やはり顔に生気があまりないのが気になる。

あれは肉体的・精神的に大きなショックを受けた

後っぽいんだが、大丈夫だろうか?

本人が半分無自覚な感じだから、

余計に気になるが・・・






「そういえば賀川がいないのは、

残念だな。

今回は随分梅雨が世話になったみたいだし、

直接礼を言いたかったんだが・・・」

「賀川さん、賀川さんとキ、はう!」


賀川さんの名前が司さんの口から出た瞬間、

その名前から何を連想したのかポン!っと

赤くなった、ユキちゃん。


あれれ、もしかして彼女の受けた『ショック』

の正体って・・・

ははは、どうやらお礼はすでに

十分支払われてるのかもしれないな。

賀川さん、梅雨をダシにして

一体ユキちゃんに何をしたのかなー?

タカさんや司さんには黙っておいて

あげるから、今度教えてねー。








俺がしばらくニヤニヤしていると

司さんが3人にそろそろお暇する旨、

挨拶を始めていた。


明日は朝から病院で妊娠届けを

受け取ったあとに町役場だからな、

あんまり無理はさせられない。

さて梅雨をキャリーバックに入れると

しますか。




「それじゃあ、梅雨、帰ろうか?」

「梅雨ちゃん、またね。」

「う、う、うにゃーー!」

「お、おい、梅雨、どこに行くんだ!?」



ユキちゃんから俺が梅雨を受け取ろうとした刹那、

先程からキョロキョロしていた梅雨が

珍しい大きな声で鳴くと急にジャンプして玄関から

出て行ってしまった。


あの子、一体どうしたんだ?




驚いてみんなでその後を追うと、

梅雨は縁側で蹲りながら

Tシャツのようなものの上で

「うにゃーうにゃー」と、

どこか寂しそうに鳴いていた。



挿絵(By みてみん)



そんな梅雨の様子を見て葉子さんが、

「あ、それ賀川さんの。

お別れなのに賀川さんがいないから

寂しかったのかしらね。」

と梅雨の奇行の原因を教えてくれた。




「そうなのか?」

と司さんが聞くと、

「うなー」と

いつもの返答があり、

司さんのどこか困った

顔からもどうやらビンゴの

ようであった。




本当に仲良くなったんだな。

この子にこれだけ好かれるってことは

彼の奥底にある優しさは本物という

ことだろう。




俺たちがホッコリとしながらも

どうしようかと思案していると、

「梅雨ちゃん、私が賀川さんの

Tシャツで作ったその座布団

を気に入っているから、

それも一緒に連れて帰ってあげたら。

賀川さん本人が今度会いにいくまでは

その座布団の彼の匂いで我慢して

もらいましょう。」

と助け舟を出してくれた。


それならと座布団ごと

梅雨を抱き上げると

やはり少し寂しげでは

あるものの、

そのままキャリーバックに

入ってくれた。




車が出発する前、

「またこの家にも連れてきて

やるからな。」

「梅雨ちゃん、きっと遊びに行くからね。」

「また来てね。」

「あいつでいいなら、

いくらでも貸してやるからな。」

とみんなに慰められて、

「うななー」

と応えた鳴き声は

すでにいつもの梅雨のものだったから、

大丈夫だろう。




長い期間ほかの家に預けて大丈夫かと

心配していたけど、

この子にとってもとてもいい機会に

なったようだった。


俺や司さんが海江田に行って

色々経験したように

彼女もまた新たな場所で

多くの出会いを果たしたのだろう。

そしてもしかしたら

俺や司さんをそうしてくれたように

ユキちゃんと賀川さんの仲も

少し取り持ってくれたのかもしれない。

また今度

賀川さんを今回のお礼がてら、

飲みにでも誘ってみようかなー。






「すー。」

「なー。」



俺がそんなことを考えながら

我が家に向けて一路、

車を走らせていると、

俺の愛する妻と可愛い長女が出す、

すやすやとした寝息が車内に響いてきた。


これは家に着いてからも

大変かもしれないな、

そんな風に苦笑いが浮かぶと同時に、

俺は温かな、

しかし確かな覚悟が

改めて自分の心に満ちていくのを

実感していた。





俺は明日正式に彼女の旦那になり、

お腹の子供の父親となる。


こみ上げてくるのは喜びだけでなく、

それに伴う責任の大きさに

恐れおののいてしまいそうな部分も

正直言ってあるのだ。





でも大丈夫だ。

俺には遠くの町であっても想い続けてくれる家族もいれば、

いつも支えてくれるうろなの仲間たちもいるのだ。

俺は安心して自分のなすべきことをなせばいい。


俺の覚悟は俺だけのものではない。

だからこそもう一度その想いに向き合い、

背負いなおそう。

それが強さと弱さを共に抱くってことだろ。

そうだろ、父さん。






とある天使の見守るあの町から

多くの異形のものたちと共存しているという

この町に帰ってきた俺たち。

俺たちの行く末に彼らの導きがあるのかは

分からないが、

まあ、大船に乗ったつもりでいよう。

なんたって俺たちには黒い恋のキューピッドが

ついているのだから。



挿絵(By みてみん)



俺は梅雨の背中に羽が生えている姿を想像して

くすりと笑うと、

静かにしかししっかりとアクセルを踏み込んだ。


天使の祝福の元、

二人で愛を育んだ、

うろなの我が家へ急ぐために。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


タイトルがふざけていてすいません。

ようやくうろなに帰って来れました。

離れていた分さらにうろなへの

愛着を深めた二人とお腹の子ども達を

どうぞよろしくお願いします。


また桜月りまさんにはユキちゃん達をお借りしただけでなく、

今回も非常に綺麗なイラストを3枚も使わせていただきました。

本当にいつも感謝しております。

何か気になる点がございましたら、

よろしくお願いします。


次回は19日に町役場に行かせていただきます。

榊さんたちの登場はお願いしていましたが、

話の中で町長さんや秋原さんにもお祝いしてもらっていいですかね?

シュウさん、お願いしまーす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ