8月14日 その2 喜びのお裾分け
PM1:00
港亭でのランチを終え、
姉さんに司さんが攫われたせいで
中止になっていたユキちゃんへの
お返しを探すことにした。
元々はユキちゃんへの個人的な
お返しのつもりだったが、
梅雨の件で賀川さんや葉子さん
たちにも迷惑をかけているだろうし、
大きめのギフトセットとかにしようかな。
あと今回の妊娠の件でお世話になった果穂先生や
お見舞いに来てくれたARIKAの空ちゃん達
にも一緒に送るものを考えないと。
あと連携担当として、
その他うろなでお世話になった人達にも
お中元みたいな形で送っておこう。
それなりに大事になりそうけど、
バリエーションがあった方が
いいよな。
さて、どこで買おうか?
「料理はおいしかったし、
店長さんもいい人だったな。」
お返し購入のプランを練っている俺の
思考を司さんの明るい声が一時ストップさせた。
「行きつけだったんで、
そう言ってもらえると嬉しいです。
でも店長、大分白髪が増えてて、
苦労してるなーとは思いましたよ。」
「なるほどな、長くやっていると色々ある
ということか。
『流星』の葛西さんもこれから大変だな。」
「そうですね。
まあ、一緒に苦労してくれる人がいれば
それが支えになりますからね。
葛西さんの場合は彩菜ちゃんと
どうなるのか•••」
「彼女が店に居着くきっかけになった
勝負には私も一枚噛んでいるからな。
応援してやりたいが、
葛西さんはそっちの方面では中々の
難物な気がするよ。」
「確かに。」
二人で顔を見合わせて
苦笑する俺たち。
今度流星にも報告にいかないと。
「ん?
おー、清水君じゃないか。
こっち、戻ってたの?」
地元の商店街を歩いていると
とある店主から懐かしい声が
かけられた。
タカさんたちが喜んでくれるであろうお土産が
一個見つかったようだった。
PM1:30
それから30分後、
俺たちは綺麗な瓶やお菓子の入った
ビニール袋を携えて、
先ほどお店から出て来た。
「それにしても
お前も本当にちゃんと
生徒会長やっていたんだな。
お酒の開発なんて、
大学ならまだしも
高校でやっているところなんて、
殆どないだろう。」
「まあ、作った商品を
お土産にするにしても、
地域で使ってもらうにしても
お酒は都合がいいですし、
この酒まんじゅうみたいな
派製品もつくりやすいですから。」
先ほどのお店は生徒会長時代、
コラボしてお酒の
開発をやらせてもらった
地元の酒屋さんだった。
当時江田校OB•OGの
協力も得て、
かつて海江田の辺りで作られていた
名酒を復活させた、
大吟醸『海江田の奇跡』は、
今でも主力商品として
海江田中高への合格祝いなどとしても人気らしく、
店主にいたく感謝された。
当時は飲めなかった(建前上は)
自分達の作ったお酒を
じっくり試飲させてもらった上、
後輩達が協力して
近くの和菓子屋やケーキ屋と合同開発したという、
酒まんじゅうや酒ケーキを沢山いただいてしまった。
その分タカさん達や他何人かへのお中元として
『海江田の奇跡』の一升瓶や利き酒セットを購入して送ってもらったり、
雅樹や姉さん達への土産として大吟醸で作った梅酒
なんかを買ったりしたのだが、
目的のお店に行く前に
実に嬉しい出会いをすることができた。
「おいしそうだったけど、
この子達のことを考えたら、
やっぱり我慢だな。」
「すいません、
試飲を断る訳にもいかなくって。
赤ちゃんが生まれたら、
少しだけなら母乳への影響はそれほどない
みたいですから、一緒に飲みましょう。」
「うーん。でも心配だから、
乳離れしてからにしようかなー。」
「あまり無理しないでくださいね。
お母さんのストレスもお腹の子に
よくないと思いますから。」
「ありがとう。
その分帰ったら、
お義母さんや薫さんと
この酒ケーキを一緒に食べよーっと。」
俺が試飲しているのを
物欲しそうに見ていた司さんを見ていて、
かなり罪悪感が湧いていたが、
お酒で作ったお菓子を
随分気に入ってくれたみたいで良かった。
二人で晩酌もしばらくお預けなんだな。
その分色々おいしいものを買ってくるようにしよう。
そんなことを考えながら歩いていると、
今回の目的地である、
高垣染物店についに到着した。
「いらっしゃいませー♪
お中元に高垣の
『海江田染め』いかがですかー!」
「お久しぶりです、高垣さん。」
「え、清水先輩!!
愛する斉藤先輩をお姉さんから奪還するまで、
もう二度と海江田の地は
踏まないんじゃなかったんですか!?」
「勝手に変な設定を作らないでくれ!!!」
相変わらず元気で、
しかし腐ったままの看板娘たる後輩に、
若干頭痛を覚えながら挨拶した。
彼女の名前は高垣在処。
この高垣染物店の一人娘であり、
在学中は生徒会で書記を務めてくれていた
後輩である。
ちなみに文芸部の後輩でもあるのだが、
清水×斉藤など歴代生徒会関連人物を
カップリングしたBL小説を
部誌に堂々と投稿していた、
筋金入りの腐女子でもある。
•••その小説の人気から俺たちの代において
部誌の売り上げが過去最高を記録したというのは
心の底から早く忘れ去られて欲しい事実なのだが。
元女子校恐るべき•••。
そして彼女が売り込んでいた『海江田染め』も
俺が生徒会長時代に開発に取り組んだ、
コラボ商品である。
町に古くから伝わる藍染めを
町振興の目玉に発展させよう!
ということで、地元の染料•繊維•印刷メーカーに、
デザイン事務所や海江田出身の漫画家さんなんかにも
協力してもらって、
洗濯等による色落ちが少なく、
さらに触り心地のいい生地、
多様で可愛いデザインを兼ね備えた、
付加価値の高い商品にすることが出来たのである。
この高垣染物店は娘が当時の生徒会に
属していたことから開発の中心となり、
現在も企画•制作•販売の中心になっているお店である。
当時はタオルぐらいだったのだが、
現在は暖簾やはんてん、
パジャマやTシャツなんかも手広く
販売しているようである。
一人娘である在処も現在美術系の大学に
通いながら企画や販売に携わっていると
店舗webページに掲載されており、
そんな所からも今回お返しの候補として
選出したのである。
「いやー、でも先輩が先生なんて
驚きですねー。
しかもこんなロリっ子な彼女を
さっそく孕ませるなんて•••
流石、鬼畜清水!」
「頼むからおかしな言動は慎んでくれ。
司さんに俺の品性を疑われる。」
「あははは。
中高生の時もあんまり変わらなかったんだな。」
「ですよ、ですよ。
もうやりたい放題、好き放題。
そしていつもその後ろで頭を抱えながらも、
黙ってフォローをこなす斉藤先輩•••
でもそんな貞淑な斉藤先輩が憎っくき薫先輩に
かどわかされて首都に連れて行かれてしまいます。
ショックのあまり、一人被災地北東へと旅立つ
清水先輩•••
あー、悲恋!!!
ちなみに私が部長の代には
この後被災地で苦闘する清水先輩を追って
北東へと斉藤先輩がやって来る
っていう続編も書いたんですよ。
いまだ復旧の目処が立たない夕暮れの海岸線において、
これからはお前をずっと支え続けると
二人が抱き合いながら誓う、
『愛復興編』のクライマックスは大好評で、
過去最高の売り上げを
記録した前年を上回る驚異的な人気が」
「そろそろ商品の話に戻っていいか、
•••マジで頼むから。」
「分っかりましたー♪
こちらがカタログでーす。」
俺は全く聞きたくもなかった本人未承諾のBL小説の
新展開を何とかストップさせて、
今回の目的である、
お返しの話に何とか軌道修正させた。
「お、この新婚さんセットって
ユキちゃんにどうですかね。
賀川さんのパジャマと
お揃いの柄のネグリジュが
入ってるみたいですよ。」
「膝掛けタオルなんかも
入っていて絵の執筆中にも
使えそうだな。
この天使の人形はなんだ?」
「それは海江田の天女伝説をモチーフに
余った布をリサイクルして作っているんですよー。
二人の仲を祝福してくれるということで、
カップルに大人気でーす♪」
「あの話がそんな風に伝わってるのか•••」
その天女伝説の元ネタを人づてにではあるが、
聞いている人間としては正直苦笑せざるを得なかった。
とはいえ、そういった明るい話に変わっているなら、
本人達も本望だろう。
「じゃあ、ユキたちにはこれで。
あとタカさんや葉子さん、
工務店の人達用に
もう一セット欲しいかな。」
「大人数にお送りするんでしたら、
このタオル多めの汗っかきセットはいかがですか。
ガテン系の会社さんなんかにも、
良く汗を吸う上に涼やかでいいって評判ですよ。」
「じゃあ、箱を分けてもらってこっちも送りましょうか。
果穂先生達にはこのファミリーセットがいいですかね?」
「家族構成に応じて、パジャマのサイズや
タオルのお色や枚数なんかも変えられますよ。」
「じゃあ、夫婦二人に小学校入学前の女の子二人で
見繕ってくれ。
あとお見舞いに来てくれた空達の所にも送っておきたいな。
女性ばかり6人家族でお店をやっている人達なんだが、
いいのがあるかな。」
「でしたらレディースセットを拡張させましょうか。
サービスでお揃いのシュシュ付けておきますね。
お店やられてるんだったら、その名前とかも
タオルや手ぬぐいなんかにお付け出来ますよ。」
「時間かからないんですか?」
「通常は翌日までにできるんですが•••、
担当の吉田印刷さんに聞いてみますね。」
電話の所へと駆けて行く在処。
吉田印刷って、ああ、康子先輩のご実家か。
そういえば開発に加わってもらったんだよな。
天使の羽の文様や人形のデザインは
確か勇吾先輩のお母さんだし。
二人とも仲良くやっているのかな?
懐かしい文芸部の先輩達の
ことを思い出していると
在処が右手で○を作りながら
こちらに戻って来た。
「お盆中ですが、大丈夫だそうです。
出来次第、こちらで発送しておきます。
なんていうお店なんですか?」
「ARIKAです。こう書きます。
住所は確か•••」
ARIKAの名前と住所を伝えるために
俺はタブレットを起動させた。
どうやらこちらでのお返しも
中々いいものになりそうだ。
皆さん、気に入ってくれるといいんだが。
PM2:30
「沢山のご注文ありがとーございましたー。
ちゃんと発送しておきますねー。
赤ちゃん生まれたら、
肌着なんかもありますから、
どうぞご贔屓にー。
同じ名前の縁で、
ARIKAのみなさんにもよろしくー。」
店の前で大きく手を振る
在処に見送られ、
俺たちは店を後にした。
「ユキや果穂、ARIKA以外にも
けっこう色々な所に
送っていたな。」
「まあ、連携担当として
お中元も必要な心配りですから。
領収書さえ取っておけば、
ある程度必要経費にしていいと
秋原さんから言われましたし。
ちゃんとユキちゃん達、
お返しの分は身銭切ってますよ。
まあ、大分割り引きしてもらいましたけど。」
「流石、抜け目がないな。
まあ、でも気に入ってくれたら
うれしいよ。
全国に配送してくれるみたいだし、
この子達の性別が分かったら、
カタログ見て注文してみようか。」
「そうですね。
今度北小でバザーが開かれるみたいですから、
そこでも少し見てみましょうか?」
「気が早すぎないか?」
「せっかくですから、楽しみましょうよ。」
「ふふふ。確かにそうだな。」
懐かしの故郷で
なかなか有意義な時間を過ごすことが
出来た。
二人で手にしたこの喜びを
少しでもお世話になったうろなの人達に
返せれば嬉しく思う。
そういえば母さんが夕食後話が
あるとか言ってたけど、
何かな?
まあ、大したことではないだろうし、
いいか。
それよりも明日は司さんの誕生日だ。
プレゼント、それ以前にプロポーズ用の指輪を、
買う隙がなかったけど、
どうするべきか?
明日は墓参りもあるし•••
夕方、こっそり抜け出すか?
「ん?どうした?」
「何でもありませんよ。
そろそろ帰りましょう。
お土産もあることですし。」
「そうだな。」
首を傾げた司さんを促し、
我が家へと歩を進めて行く。
うろなはもちろん素晴らしいが、
俺を育ててくれたこの町も
悪くはないなと、
改めて故郷を見直しながら。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
作品にもあるように
うろなのみなさんにお中元をお送りしました。
桜月りまさんのユキちゃん達、
小藍さんのARIKAの皆さんには
中身をある程度指定してしてお送りしましたが、
他の皆さんもよろしければ、
お酒やお菓子、タオルや衣類なんかを
自由に貰ってやってくださいな。
また綺羅ケンイチさんの
葛西店長と彩菜ちゃんのお名前も
出させていただきました。
また今度妊娠の報告に伺いますね。
あと秋原さんのお名前もこそっと
使わせていただきました、シュウさん。
それでは次で14日の話は最後になります。
ギャグと突っ込みばっかりのお母さん、
ちょっといい話する予定です。