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8月13日 その5 旦那の帰還と妻の悪巧み

PM6:30


ピンポーン


「あ、マー君帰って来たみたーい♪

美咲ちゃん、パパがお帰りですよー。

お母さん、ごはんよそっておいてーー!」

「あーうー♪」

「私がやりますよ、お義母さん。」

「ありがとうね、司さん。

じゃあ、うちはお味噌汁よそうおうかね。」


愛しい旦那のご帰宅にルンルンで

出迎えに行く姉と姪、

夕食の配膳を始める母と恋人。

久しぶりに食べる我が家での夕食は

なかなか感慨深いものになるかもしれない。





「こら、渉!

ぼさーっとしとらんで

取り皿や箸出しようて!

司さんのは新しいお箸が

食器棚に入っとうから、

開けたってな!!

あ、オネストのエサやり忘れたわ!

廊下の押し入れに缶詰が入ってるから

開けたって!!

もう噛む力が弱いから、

ようほぐしてやってや!!!」

「へいへい。」


残念ながら長いこと家に帰って

来なかった不良息子に、

物思いに耽る自由は与えられないらしい。


まあ、司さんも我が家に馴染んでくれている

みたいだし、大人しくしておきましょうか。

とりあえず、先にオネストの餌やりしておきますか。

梅雨、タカさんちで元気にやっているかなー。




老猫用のネコ缶を開けながら、

俺はうろなで自分たちを待つ長女のことを

ふと案じていた。






PM7:30


「ごちそうさま。

薫さん、お義母さん、

いつもおいしいお料理ありがとう

ございます。

司さん、お芋の煮っころがし、

すごくおいしかったです。

母が良く作ってくれたんですが、

それ以上に味わい深かった気がします。」

「そ、そんなことないと思いますよ。」

「斉藤のお義母さん料理すごくお上手だけど、

確かに司さんの味付けも負けてなかった気がするー。

ねえ、司さん、マー君の実家すぐ近くだから、

時間がある時に遊びにいかないー?

絶対司さん、気に入られると思うよ!」

「嫁の立場がなくならないか?」

「へーんだ、ワー君の意地悪!!

お義母さんとは何度か二人で旅行に

行ってるし、大の仲良しだもーん。

『こんな可愛い娘ができてすごく嬉しい。』

って言ってもらってるんだから!」

「マジ?」

「マジだ。だいたいうちの母さん、

昔から薫さんのこと気に入ってただろ。

『薫ちゃんが娘に欲しい』って

台詞聞いたことないか?」

「そういえばおばさん、

そんなこと言っていた気も•••」

「こんなお転婆ならいつでもやるよって

斉藤さんには言ってたんだけど、

まさか本当に貰ってもらえるとはねー。

雅樹君、ホントありがとうね。」

「いえいえ、そんなことは。

こちらこそまだ学生の身分で

大してお金もいれられずにすいません。」

「何言ってるのよ!

産休でこの子がうちに長期滞在するから、

家に美咲を連れて来てって、

車一台ポンと買ってくれるなんて、

流石お医者様のご家庭だわ!!

それに比べてうちのどら息子は

年末年始もまともに帰ってこなかったし•••」




デザートのアイスを食べながら、

ジト目でこちらを睨んでくるうちの母親。


食後の団欒で雅樹も含めて仲の良い

会話が展開されてると思ったら、

いきなり矛先がこちらに向いて来た。


うわー、俺もしかして帰省中ずっと

こんな扱いなんかなー•••




「北東からここまで頻繁に帰ってくる余裕が、

貧乏学生だった俺にあるわけないだろ!

仕送りなしで奨学金•バイトだけで

学費や生活費やりくりしてたんだから、

それで勘弁してくれよ。

だいたい母の日の祝いや父さんのお供えの

品とかはちゃんと送っておいただろ?」

「僕も一度ボランティアで行きましたけど、

被災地でこいつも頑張ってましたから、

大目に見てやってください、お義母さん。」

「まあ、雅樹君がそう言うんやったらね。」



おい、こら。

どんだけ息子<婿やねん。

なんで久しぶりに実家に帰って来て

こんなにアウェー感を味わわなきゃいけないんだ。





「うーあうーむにゃー。」

「うん?美咲、おねむか?」

「離乳食もミルクもいっぱい食べたもんねー。

マー君、美咲寝かしてくるから貸してー。

司さん、ちょっと手伝ってもらっていい?」

「いいですよ。」


食事中父親である雅樹の膝の上で

終始ご機嫌だった美咲ちゃんが

おねむのサインをだしたことで、

俺は母の吊るし上げから解放された。


我が姪っ子よ、またフォローしてくれたな。

今度ぬいぐるみでも買って来てあげよう。




そんなことを思いながら姉と姪、そして司さんが

リビングから出て行くのを生暖かい目で見守る俺。

俺もこれから生まれてくる子どものために、

赤ちゃんのお世話

勉強しなくちゃなー。







PM8:00



食器の片付けや洗いものを

雅樹共々手伝った後、

俺と雅樹は、

奥さん達二人を待ちながら、

互いの近況を簡単に

報告し合っていた。


ちなみにうちの母親は隣の部屋で

刑事ドラマに没入中である。





「しかしもう子どもとはなー。

やることやってるねー、マー君♪」

「•••お前まで勘弁してくれ。

ぶっちゃけ同級生でも僕くらいしか

子持ちなんていないから、

大学や研修先の病院でいじられまくりなんだ。

産科や小児科の先生には

『その経験を生かしてうちに来ないか?』なんて

冗談まじりに誘われるしな。

まあ、そういった先生達や看護士の人達に

色々アドバイス貰えるから、

若輩パパとしては助かってはいるんだが。」

「真面目だねー。」




小学生時代からの幼馴染は

相変わらずのマメな男であった。


流石江田校の暴走王清水渉の

右腕にしてストッパー、

斉藤雅樹元副会長様である。


彼のおかげでどれだけの人間が

俺の中2病的必殺技の魔の手から

逃れられたか分からない。




江田校生徒会において、

北村•土屋の究極コンビ、

そして『救世主』とよばれた友生先輩達を

引き継いだ俺たちの代が、

『黄金世代』ともてはやされたのも

殆どこいつのおかげと言えるだろう。

俺だけでもニュースになる出来事は多数

起こせただろうが、同時にそのニュースの

半分近くが不祥事すれすれ、

いや放送事故レベルになっていた気がする。

俺も大学時代に丸くなったとはいえ、

中高では結構とんがっていたからなー。



「しかしそんなお前が、

卒業もしていないのに

子ども作るってのは驚きだな。

もちろん今は大学でサポートも色々あるし、

姉さんはすでに学位とって働いているんだから、

全然問題ないとは思うんだが。

偶然’当たっちまった’ってわけじゃないんだろ。」

「当たり前だ。

とはいえ薫さんに対して、

『博士号取れたらご褒美に何でも言うことを聞く』

なんて約束をしてしまった時の自分の浅はかさを、

今でも呪いたい気分ではあるが•••。

いや、そんな約束をしていなかったとしても

僕が薫さんに本気で詰め寄られたら断れるはずなどないか。」

「俺は幼馴染がそこまで自分の姉貴にぞっこん

だったことを気づかなかった過去を抹消したいがな。」

「あの時は色々済まなかった。

ただ10年以上想っていた相手から

思いがけぬ告白を受けた男子高校生の

心情を斟酌してくれると大変助かる。」





俺が大学進学の際、

北東の地へと逃げるように

旅立った時の経緯を謝罪する雅樹。


そういえばこの件についてまともに

話すのは始めてだったな。

折角だから昔の話も

このお盆の期間に色々話せたらいいな。




「いや、今になったら、

俺にもお前の気持ちが分かるよ。」

「司さんの件も申し訳なかった。

薫さんからは急に行って驚かせる

ってだけしか聞いてなかったんだが、

彼女を見たときのテンションの上がり方が

尋常ではなくてな。

連絡を取るのも禁止されていたし、

どうしようもなかったんだ。」

「流石にその点については少しは

抵抗してくれと言いたいがな。

まあ、気に入った『おもちゃ』を見つけた時の

姉さんの行動力がどうしようもないレベルなのは

俺も重々承知してはいるが•••」

「本当、その点については

実に良く似た姉弟だと思うよ。」

「•••否定できねー。」




小中高大、そしてうろなでの

自らの所業を思い出し、

頭を抱える俺。


•••父親になるんだし、

もう少し落ち着いた人間になろう、

マジで。






「ちょ、薫さん、いきなり何を!」

「ふふふ。司さん、観念しなさい。

ほら、ぬぎぬぎしましょうね。」

「た、助けてくれー!!」

「「はあ!?」」



廊下から聞こえて来た

互いの相手の声に耳を疑う俺たち。


あの二人美咲を寝かしにいったんじゃ、

ないのか?




そんな疑問を俺がいだいていると、

苦労人たる義兄が実に申し訳なさそうな

顔をして俺に呟いた。


「すまん、渉。

また薫さんの悪い癖が発動したかもしれない。」

「へ?」

「何か薫さん司さんに関して『あること』に

直感的に気づいたらしくてな。

今日の買い物でそれを確かめる

道具を買ってくるとか昨日寝る前言ってたんだ。

なあ、心当たりあるか?」

「司さんに関して?

そんな特に•••、

も、もしかして!

おい、姉さん、

ちょっと待て!!」



姉さんが『どこで何を』しようとしているのかひらめき、

慌てて止めに入ろうとする、俺。


しかし時すでに遅しであり、

俺が到達するより前に

リビングの扉が勢い良く開かれてしまった。




「はーい!

お待たせー!!

今からとっても楽しい発表会を

始めたいと思いまーす♪

お母さん、そのドラマ、

リビングのテレビで

ちゃんと録画してあるから、

一旦中断してー。

そっちでやって大丈夫だよね?」

「いいわよー。」




喜色満面でリビングに現れ、

そのまま隣の仏間へ進撃を開始した、

うちの暴走女王。


その隣に手を引かれて佇む司さんは

顔を真っ赤にしてプルプル震えていた。




その様子にこれから何が起こるのか

思い描き、

真っ青になる俺。


ま、まさか、このタイミングで’暴露’

する気じゃないだろうな!!



そんな俺を見て憐れむように肩を叩いた雅樹は、

出会ってから今まで告げたことのない、

残酷な台詞を口にした。

その言葉が俺にトドメをさすことを、

恐らく分かった上で、

それでもせめてもの情けとして。


「諦めろ。」


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


無事、エアコンの修理が完了しました。

実はいつの間にか復活していたのですが、

今後水漏れが今後起こらないようにホースの修理と

ショートしていた基盤の取り替えをしてもらいました。

何とか数日で直って良かったです。


作品の方は13日が長々となってしまっておりますが、

次で終わりです。

何が明らかになるのか、

多くの方はお分かりかと思いますが、

梅原、そして清水の反応をお楽しみください。


明日の肝試しイベント、

どうなるのかなー。

楽しみ♪

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