8月13日 その4 娘認定と草むしり
PM5:00
「うわー、司さん、料理上手!
お芋の煮っころがしがこんなに
おいしいものだなんて、
私、知らなかった!!」
「薫さん、オーバーですよ。」
「いや、でもほんまに味付けが
繊細やわぁ。
うちら適当やから、
こういう細いのはどうにも
上手くいかへんねん。」
「そうそう。
お母さん、カレーとか鍋物とか
大掛かりなのはおいしいんやけど、
おおざっぱだから。
お味噌汁の豆腐はいつも
べちょべちょだもん。」
「あんたも大して変わらへんやん。
雅樹さん、毎回微妙に焦げた
焼き魚や生姜焼き出されて、
よー文句も言わへんと食っとーわ。」
「お母さん、ひどーい!!
これでも頑張っているんだから。
ふん、マー君は
『いつもおいしいですよ。』
っていってくれるもん!!!」
一緒に夕食を作りながら、
仲良くがやがややり出した女性陣。
司さんの料理がべた褒めされるのは当然として、
姉さん、母さんの互いの料理に対する文句合戦も
どこか懐かしい。
関西出身でザ•おおざっぱな母さんの料理が
そんな感じなのは自明の理なのだが、
確か有機化学の研究者で微細な物質の合成とかを
日々やっているはずの姉さんが、
料理となるとかなり適当というのは不思議な話だ。
それでいてお菓子とかでは細かい
デコレーションとかはできるから、
本当に良く分からん。
「あはは。
でも私にはお二人の作ってくれた
朝食有り難かったですよ。
お味噌汁は良く煮込まれていて
飲みやすかったですし、
焼き鮭はほぐされた上に
骨や皮をしっかりとって貰ったおかげで、
とても食べやすかったですよ。」
「あ、あれはちょっと一部焼きすぎちゃったから、
大事な身体の人に変な部分食べさせる訳にはいかないし。」
「柔らかいほーがええって薫に言われたから、
いつも以上に煮込んだんやけど、
じゃがいもなんかも大分とけっちゃって、
ほんまごめんねー。」
「いえいえ。
体調不良を気遣っていただいて嬉しいです。
どちらにせよ、お二人の温かさが伝わってくる
素敵な朝ご飯でした。」
「もーーー、司さん、可愛い過ぎーーー!!
ねえ、お母さん、ヘタレなワー君のことはおいておいて、
もう司さんはうちの娘ってことでいいんじゃない?」
「何ゆうてるんよ!
こっちはもう完全にそのつもりやから。
司さん、もし万一渉が浮気とかアホなことしくさったら、
すぐ私らに言うんよ!!
そんなダボはこの海江田の港湾に、
コンクリ詰めにして沈めたるから!!!」
「薫さん•••お義母さん•••」
二人の言葉に涙ぐむ司さん。
•••正直母さんの台詞は
どこの89○やねんと思ったが、
恋人と家族が仲良くやってくれそうなのは、
息子としては素直に歓迎したいと思う。
「渉、何にやにやしてるんよ!
はよう草むしり終わらせんと
日くれてまうで!!」
「なあ、帰って来たらなんでいきなり
草むしりなんだよ?
雅樹だって今臨床実習でこっちに来てるんだろ。」
「何言うとんねん!
日々病院で頑張っている婿さんに
暑い中そんなことさせられへんわ!!
だいたい親不孝にも何年も
実家に帰ってなかったんやから、
少しは貢献せえ。
それが終わったら仏壇の掃除やで。
長い間お父さん放っておいたんやから、
少しは恩返しせな!!」
「•••へいへい、わかりました。」
婿はいいけど、息子はあかんっていうのは
どういう理屈だと思ったが、
反論するだけ無駄なので、
そのまま草むしりを再開した。
確かに墓参りすら大学入学後はまともに
行ってなかったから、
少しくらいこき使われるのはしょうがないか。
その間の力仕事は多分、
雅樹の奴が色々やってくれていたんだろうし。
そう言えば雅樹に会うのも
姉さんとの結婚式以来だよなー。
この前あったらしい江田校の同窓会には
うろなの仕事が忙しくていけなかったし。
あいつも今の臨床実習が終わったら、
来年卒業試験で医師国家試験、
合格して晴れてお医者さんになっても
研修医として安月給の数年間だもんな。
その後も専門医認定試験や大学院に
通ったり、一端の専門家として
やっていけるのは大分先だもんなー。
医学部行っても普通の医者では大変だから、
その後国家公務員になったり、
または全然違う分野に転職したり、
この国の最優秀と呼ばれる人材達も
一筋縄ではいかないんだよなー。
雅樹ん家は流行っている開業医で、
ここらへんの最大の病院である
土屋病院ともいい関係を作っているみたいだから、
経済的には安泰だろうけど、
お医者さんが患者さんの相手や
臨床研究に集中出来る環境作りに
教育界としても協力していかないといけないわなー。
江田校の同級生で医学部に行った奴は多いけど、
何でも出来るスーパーマンみたいな奴なんて
殆どいなかったんだから、
患者さんの心理サポートだとか、
もしものときの訴訟対応だとか、
そういう面をサポートできる
多角的な人材の提案、育成を
高校•大学も行っていかないと。
うろなは町長も総合病院の宮崎院長も
そういう方面に理解がある人だし、
せっかく連携担当になったんだから、
色々と地域として何が出来るか考えてみたいな、
時間があったら雅樹に意見を聞いてみるか。
猛暑の中で庭の草むしりをしながら、
遥か遠くにみえる大きなビルであくせく
働いているのであろう、
幼馴染にして、かつての右腕、
そして義理の兄となった野郎の
しかめっつらを思い出して、
俺はこっそり笑っていた。
結局まだあいつとサシで飲んだこともなかったな。
この盆の期間にそんな機会も作れれば面白いか。
「渉ー、大丈夫かーー?
濡れタオルとスポーツドリンク置いておくから、
ちゃんと休憩しながらやれよーー!」
「ありがとうございまーす!」
料理の仕込みが終わったのか、
縁側へ熱中症対策グッズを
持って来てくれた司さんに、
大きく手を振る。
本当に良く出来た人である。
すでにもうこちらの家族との
顔合わせは万全に近い状態ではあるし、
彼女とお腹の子どものこともあるから、
一気に婚姻届提出までもっていきたい
所である。
しかしプロポーズについてはお盆の間に
上手く機会を作るとしても
妊娠についてはどうするかな。
妊娠検査薬で妊娠を確認出来れば、
雅樹や土屋先輩のツテを使って
土屋病院の産婦人科で診てもらう
ことはできると思うんだけど、
どうやって切り出すべきか。
まさかいきなり
『お○っこください』って言う訳にもいかないし。
さっきは勢いで言うことが出来そうだったけど、
改めて言い出すとなるとなかなか決心が•••。
麦わら帽子の下、
新たに表面化して来た難題に関し、
俺の思考は再び袋小路にはまり込んでしまった。
この後ある人物の活躍によりこの悩みは
解決されるのであるが、
後々になってこの時点でもっと考えておくべきだったと
後悔する羽目になるのを、
今の俺が知る由もなかった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
本当は清水の姉の旦那が帰って来て
夕食を食べる所まで進めたかったのですが、
甲子園決勝を見ていて、
この部分の執筆が長引いてしまったので
ここで区切らせていただきます。
この分でいくとその6まで行ってしまうかも
しれませんが、何とか頑張ります。
肝試し•バザーまでにプロポーズ編終わるのは厳しいか•••
とりあえず全部上手く行っているという感じで
そちらの方は書いていただければ幸いです。
とはいえおおっぴらには9月までしない予定なので、
ご自由に書いていただいて大丈夫です。
ご迷惑をおかけしますが、
よろしくお願いします。