5月27日 その2 かわいい生徒達
「先生。清水先生。起きてください。」
そう揺らされて目を覚ますと
そこは天国、なんてことはなく
相も変わらず剣道準備室だった。
「先生、大丈夫?」
そう言って心配そうに見下ろしてくる
ボーイッシュな女子生徒は文芸部の河野涼だった。
見た目も口調も少々男っぽいんだが
実はとても優しい子なんだよなー。
こういうギャップには先生、
弱いんだぞー。
「もう一体何やったんですか。
梅原先生剣道場の端っこで
のの字を書いていじけてましたよ。
今度はどんなセクハラしたんです?」
そう捲し立ててくる美少女は
同じく文芸部の桜沢香乃子だ。
この子はとてもきれいで物腰は丁寧なんだが
気が強いんだよなー。
綺麗な薔薇には棘があるっていうか、
まあ、こういう子に限って色々脆かったり
するから、その部分を手折って楽しむのも•••。
危ない、危ない。
俺は『教師』なんだ。
『生徒』に対しては壊すのではなく、
ちゃんと育てることを考えてやらないとな。
「鬼小梅の着装が乱れてたからその辺をいじったりしたんだろ。」
少し離れた所から聞こえた声に首を傾けると
こいつも一応文芸部である水野透馬が
けだる気に壁にもたれかかっていた。
全くこいつはやる気がなさそうに
見えて良く物事が見えているよ。
あの色々薄く無気力な感じが
内面の激しさを隠すためのベールであるのかは
まだ俺にも分からないが、
その本心が実に気になる奴の一人だ。
こいつがこのままのスタンスを貫いていくのか、
それとも俺のように仮面を使い分けるようになるのか、
はたまたそのどれでもないのか、
どうこいつが変わっていくにしても本当に楽しみだよ。
「し、清水先生。ついに本当に梅原先生に
乱暴を働いたんですか!」
水野の言葉を聞いて勘違いした桜沢が
まるで俺が性犯罪者であるかの如く激高してきた。
そんなわけあるか。俺は梅原先生を愛でたいだけで
傷つけるつもりなど毛頭ない。
ああ、河野そんな悲し気な目をしないでくれ。
「違う。俺は無実だ。俺は何もしていない。
俺はただ『見た』だけだ。
信じてくれ、河野!」
俺は痛む体を押して立ち上がると
河野の手をぎゅっと掴んだ。
俺を糾弾していた桜沢は
びっくりして一瞬止まってしまったが、
俺の言った意味に気づくと顔を真っ赤にして
俺と河野の間に割り込んで来た。
「何が無実よ、この変態教師!。
完全に有罪じゃないのよ。
涼から離れなさい、この色情狂!。」
俺から一気に距離をとった桜沢は河野を俺から
守るようにぎゅっと抱きしめていた。
本当こいつら仲がいいな。
河野の顔は桜沢に隠れて良く見えないが、
きっと色んな意味で恥ずかしがっていることだろう。
うんうん、女の子同士でいちゃいちゃする様も悪くないな。
「ホントどうしようもないな。」
俺の変態さについてのものなのか、
この状況全体に対してのものなのかは分からないが、
騒ぎの一歩外でぼそっと言った水野の台詞が、
ことの本質を見事に言い表している気がした。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
他の作品も「うろな町作品一覧」リンクからどうぞ♪
深夜さん(現 氷月 深夜さん)の文芸部の生徒達とがっつり絡ませてもらいました。
この後で清水先生は生徒のことを実はよく考えてるんだよーという
エピソードを入れようと思いましたが、白々しい気がするのでやめます。
もし問題があったら修正しますので、遠慮なく言ってくださいね。