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8月13日 その2 可愛い姪っ子と予行演習

AM10:30


「め、姪っ子?」

「全く、意味不明な勘違いをしおって。

お前のお姉さんの娘さんで、

斉藤美咲(さいとうみさき)ちゃんだ。」


懐かしのリビングで、

俺は頭に濡れたタオルを載せながら、

赤ん坊を抱いた司さんの説明を聞いていた。


ちなみに頭に濡れタオルが載っているのは、

熱中症対策などではなく、

先ほどの失礼極まりない勘違いに対して放たれた、

藤堂先生直伝の踵落としによるたんこぶを冷やすためである。


ちなみに避けられなかった原因として、

彼女の技のキレと長旅の運転で疲れていたこと以上に、

足を振り上げた際に見えた司さんのパンツを

ガン見してしまったことが主であることについては、

墓場まで持って行きたいと思う。




「今年4月に生まれたばかりらしいんだが、

お前、本当に知らなかったのか?」

「はい。

そもそも姉さんだけでなく母さんにも

俺の携帯番号どころか、

住所すら教えてなかったんですから。」

「•••もしかしてお前の家、

ものすごく仲が悪いのか?

昨日のお姉さんやお義母さんの

口ぶりからはとてもそんな風には思えなかったんだが。」

「そこまでではないですよ。

大学時代の住所は向こうも知っていましたし、

俺の大学の入学式と卒業式には

二人してわざわざ来てたりしてましたから。

姉さんの結婚式にも無理矢理拉致されて

連れて行かれましたし。」

「どんな関係なんだ?お前の家族•••」

「まあ、後で家族が揃えば分かりますよ、

嫌になるくらい•••」




ぶっちゃけ、うろなの住所を教えなかったのは、

分かるのは時間の問題だとしても、

少しの間くらい新天地で静かに暮らしたかったからだ。

もし本当に必要があればあの二人なら、

恐らく全世界、草の根かき分けてでも

探し出すに決まっているのだ。


姉さんの世界的な学術、学生ネットワークと、

母さんの超絶おばちゃん口コミにかかれば、

どんな逃亡のプロであっても逃げおおせることは

できないだろう。

ていうか母さんの方は実際、近所で起こった

家出、逃亡事件などを解決して、

警察署から表彰状を何枚も貰っているのである。

表には出ていないが、その全てに姉さんも一枚

噛んでいるらしい。

あんな二人にいちいち連絡先を教えていたら、

何に使われるか分かったもんじゃない。




「おぎゃーーー!!!」

「ああ、ごめん、ごめん。

おむつが濡れて気持ち悪いんだよな。

渉、そこにある替えのおむつと

濡れティッシュ取ってくれ!」

「え、ああ、これですか?」

「そうそう。

ほら、拭いてやるからなー。」

「あー、きゃきゃー。」

「気持ちいいか、そうか。」


美咲ちゃんの泣き声で中断される、

我が家の赤っ恥披露。

微妙な雰囲気になった所でナイスフォローだ、

我が姪っ子よ。


それにしても司さん、赤ちゃんの世話慣れてる

感じだよな。一人っ子じゃなかったっけ?




「ああ、うちの道場に来ていたママさん達から、

母様が稽古中は預かったりして、

その手伝いを良くさせられていたからな。

何となく何をしてほしいのか分かるんだよ。」


司さんの野生の勘はこんな所でも活躍するのか•••

いや、経験に寄るものでもあるだろうし、

どっちかっていうと母の勘って感じなのかな。




「久しぶりだから、勘が鈍っているかと思ったが、

案外いけるものだな。

というか昔以上に分かる気がするのは、

流石に思い過ごしか?

赤ちゃんグッズも昔にはなかったものが色々

あるみたいだし、面白いな。

渉、すまんがこの使用済みオムツ、

隣の部屋にある、紙おむつ処理機に入れて来てくれ。」

「紙おむつ処理機?」

「紙おむつ専用のゴミ箱みたいなものだ。

ふたを開けてそのまま捨ててくればいいから。」

「わ、わかりました。」




おっかなビックリ中味入りのおむつをもちあげ、

縦に細長いゴミ箱みたいなものに入れる俺。


あ、全然臭わない。

こんなのあるんだなー、すげー。


なるほど、司さんすでに経験値が

けっこうあるんだ。

これは旦那として頑張って勉強しないと。

というか、司さん、勘が冴えているのは

ママになったからでは•••、

あー、いつその話切り出せばいいんだろうか!!






「あうあーーーーー!!!」

「渉ー、お腹がすいたみたいだから、

台所に行ってミルクの入った哺乳瓶とって来てくれー!

すでに作ってあるやつがあるからー!!」

「は、はい、わかりました!」






赤ん坊は大人のつまらぬ悩みを

斟酌してくれたりはしない。

自分の欲求を素直に表明するだけだ。

こっちは受け身になって振り回されるしかない。


とはいえ、それがうだうだしている自分にとっては

無駄な思考のスパイラルを中断させてくれて

ある面助かってもいるのも事実である。


子どものいる風景とは、

かくも時間の流れが違うものなのか。

自分が父親になったことを自覚したことで、

今まで思っても見なかった

世界が見えて来ている気がする。


なるほど、すでに俺は親になった気でいたが、

これから全く別の世界で少しずつ成長していかなくちゃ

いけないんだな。

思いがけない里帰りに辟易していたが、

こういう経験が出来るんだったら、

そこまで悪くはないか。




「ああーーー!!」

「渉ーー、美咲が待ってるから早く来てくれーーー!!」

「すいません、ただいまーー。」




可愛い姫様達に急かされ、

動きを止めて考え込んでしまっていたことを

反省しつつ、台所へと急ぐ。


遠くない未来に

これが日常になるという予感に

少し口元を緩ませながら。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。



答えは姪っ子でした。

すぐに勘づいた方もいらっしゃって流石です。


あとトチ狂った清水を成敗するのに、

藤堂先生直伝の技を使わせていただきました。

綺羅さん、こんな技使ってよろしかったでしょうか?

師匠として一言ありましたらお願いします。


お姉さん、お母さんを登場させるつもりでしたが、

赤ちゃんを介した二人のやり取りが楽しかったので

これで一区切り。

赤ちゃんの世話なんて遥か昔すぎて

完全にファンタジーなので、

変な点があればご指摘いただければ幸いです。


次で清水もげんなりの二人を登場させたいと思います。

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