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8月12日 覚悟はできてるか?

PM2:00


「こっち、こっちー!

清水君、お疲れ様。

座って、座ってー。」

「あ、はい、失礼します。」


ここは南小学校近くの喫茶店。

今日は果穂先生の

「今度司ちゃんに関して大事な話があるから、お茶しない?」

という招集に応じて昼食後やってきた次第である。


ちなみに今日は夕方から司さんとうろなタウンモールで

お買い物予定。

お目当てはユキちゃんからプレゼントされた絵のお返しと、

•••婚約指輪をジュエリーショップに見に行く予定である。


注文から受け取りまで数ヶ月かかるらしいから、

早めに動いておくことにこしたことはない。

ただこの夏休み中にできれば結納、

無理でも先方へのご挨拶と打合せくらいは

しておきたいからなー。

この前はもう婚姻届出す所まで考えて

書類はもう用意してしまったけど、

流石に焦りすぎだった気がする。

司さんのご実家はその辺りちゃんとしてる

らしいから気をつけねば。




本日は恐らく俺が本気で司さんと

付き合う気があるのか、

もっと言えば、

「責任取る気あるのか」

問いつめられるのだろう。

司さんの親友であり、

うろなの先輩教師である

果穂先生とはこれからもいい関係を

作って行きたい。

不足点は多々あるはずだが、

全力をもって俺の誠意を伝えないとな。

頼む、ゼ○シィ、俺に力を!






「暑いわねー。

清水君、アイスコーヒーでいい?」

「大丈夫です。」

「すいません、アイスコーヒー二つ、

お願いします。

この前は果菜達の面倒見てくれてありがとう。

動物さんを沢山見れたって、

二人ともとても喜んでたわ。」



まずはこの前のお礼からということだろう。

先日のうろな動物園訪問の話を振って来た。

このジャブで油断しないように気をつけないとな。

逆にこっちから仕掛けてやるか。


「いえいえ。こちらとしても楽しかったですから。

司さんも大分果菜ちゃんたちと仲良くなったみたいですね。」

「おーっと。いきなり’司さん’呼び!

清水君、本題をわきまえているようね。

そうよ、あなたが不在の間にあの3人で

一緒に寝ていたりしたんだから。

しかも二人が寝てしまった後は、

色々ガールズトークしたのよ。

•••『週に何回か?』とかね。」

「ごほ、ごほ。」




飲みかけのお冷やを吹き出しかける俺。

果穂先生、ストレート過ぎますって。




「ちなみにうちは今でも週1よ。

子どもが生まれてからもちゃんとスキンシップを

とらないとダメよ。

コスプレグッズなんかも使って

マンネリ化を防ぐのも大事だからね。」

「聞いてませんから、そんなネタばらししないでください!!

でもご助言ありがとうございます。」



マジ、この姉ちゃん、凄すぎる。

本当、このあけっぴろげさは

尊敬に値するわ。




「まあ、それはそれとして単刀直入に聞きましょう。

清水渉君、梅原司さんのに」

「もちろん、覚悟は出来ております。

この不肖、清水渉、

この夏休み中に結納を済ませるための

手はずは整えていますし、

すでに婚姻届提出に

必要な書類は完備しております。

まだまだ至らない所ばかりとは

思いますが、人生の先輩として

ご助言•ご鞭撻の程よろしくお願いします。」

「•••」



やばい、意気込みすぎて、

果穂先生の言葉を遮ってしまった。

しかし机に額をこすりつけて

しまっている以上、

彼女の反応を確認することもできない。

果たして、俺の返答は合格か、不合格か!?











「ふーーー。

とりあえず、顔をあげなさい。

それだけ考えているんだったら

私から言うことはないわ。

おめでとう、清水君。

あと司ちゃんをよろしくね。

困ったことがあったら、

いくらでも手伝ってあげるから、

遠慮なく言ってちょうだいね。」

「か、果穂先生•••」



穏やかに微笑みながら

自分たちを祝福してくれる

果穂先生の姿に思わず、

目頭が熱くなった。




「しかしいくら君とはいえ、

意外な程早かったわね。

いつ頃なの?」

「うーん、6月の始め、

梅雨を飼い始めた頃くらいから、

うちに通ってくれるようになって、

その次の週、ショッピングモールへの

訪問後稽古を休んでまで看病してくれたり

するようになって•••。

でもやっぱり大きいのは

6月中旬にユキちゃんっていう

北の森に住んでいた女の子を

助けにいったときですかね。

あの時に冗談半分ながら色よい

返事を貰えましたし、

森の中でも何かあったような•••」

「え、そんな早かったの!?

しかも始めては森で!!

キャー、やらしすぎるーー!!!」


果穂先生、大興奮。

でも何かピントがずれている気が。


「いや、いつ頃司さんが

デレ始めたかっていう話ですよ。

もちろん果穂先生の貸してくださった

至高のコスプレジリーズの効果は

大きかったですが。」

「え!?あ、そ、そうなの。

ちょっと先走っちゃったかな、

アハハ。

じゃあ、ぶっちゃけ、

’手を出した’のっていつなのよ、

この色男。」



暴走を笑ってごまかしながら、

コノコノ、といった感じで

にじり寄ってくる果穂先生。

本当、いい根性してるよ、

この人。




「喫茶店で話す内容かは

かなり気になりますが•••。

まあ、それも果穂先生の

フォローがあってこそですから、

正直に白状しますよ。

夏祭りですよ、夏祭り。

あの日の司さんの浴衣姿に

ぽーっとなって、

自然と押して行ったら、

彼女からOKが出て

そのまま自宅で•••。

って、マジで何言わせるんですか!

興奮しすぎてあんまり

覚えていないから余計恥ずかしいんですよ。」

「なるほど。その辺も含めて頑丈そうな

清水君の理性を、あの日の大人メイクが

完全に粉砕してしまったと。

私、グッジョブ。

司ちゃんの証言とも合致するし、

恐らくその日がビンゴかなーー。

その日以降はちゃんとしていたみたいだし。

しかし初日でってどんだけ命中率いいのよ、

でもその日は確か夜中寝かしてくれなかったんだっけ、

ごにょごにょ•••」




こちらの恥ずかしい告白を

適当に流して何やら呟き始めてしまった、

果穂先生。

後半は正直何を言っているのか、

良く分からなかったが、

どういうことなのだろう?

何だかとても重要なことな気がするのだが。




「うん、まあ、それについては

ちゃんんと診察してもらえば分かるしいいか。

それでちゃんと管理職には言ったの?」

「このお盆に両家を回ろうと思っているので、

盆明けにと考えています。

先方に言うのも緊張しますが、

正直自分の実家に言いに行く方が

面倒ですけどね。」

「そこは後で揉めないようにちゃんとしておきなさい。

ただでさえ、すでに色々マズい点があるんだから。

まあ、今の時代だし、ちゃんと責任取るなら、

そこまで問題にはならないと思うんだけどね。」

「やっぱ古い家だと婚前って自体まずいんですかね?

お義父さん、剣道の達人らしいし、

司さん以上に勘が良かったらどうしよう!?」



うわー、怖えーー。

司さん一人娘のはずだし、

可愛い娘に手を出しやがって、この野郎、

刀の錆にしてやるとか言われたら•••

なんかお盆の訪問がだんだん怖くなって来た。



「まあ、その点も文句言われる部分は甘んじて受けなさい。

やったことの責任を取るのが大人の務めです。

で、結婚式はいつぐらいを予定しているの?

あー、司ちゃんの白無垢、激写したーい。」

「一応来年の春頃を考えているんですが。

難しいですかね?」

「はあー!?

予定日近くにできるわけないでしょ!!

もうその辺りのスケジューリングもしっかり

しなさいよ。

やるんなら、安定する秋頃か、

いっそ終わってからでしょ。」

「え、予定日?

さすがに今から頑張ったとしても、

多分予定日は来年の夏頃になるんじゃないんですかね?

それとも春は教職員の結婚が立て込むから、

冬にした方がいいんですかね?

でも始めての受験対応があるから不安なんですよねー。」

「今から頑張る?

何言ってるの??」

「え、はい、子どもも欲しいですし、

これからは計画的に励もうかなーっと。」

「はい!?」






果穂先生が、顔を顰めて身を乗り出して

きたことで、俺はようやく二人の話が

根本からすれ違っていたことに気がついた。




「もしかして清水君、実は気づいてなかったの?」

「何をですか?」

「司ちゃんが先日から体調を崩していた原因。」

「果穂先生は気づいていらっしゃったんですか!?

だったら言ってくださいよ。

俺、すごく不安だったんですから。」

「いや、君がどういう心づもりなのか、

確かめるのが先かと思ったから、

今日の席を設けたんだけど•••

まあ、責任を取るっていうなら

同じことだからいいとは思うんだけどね。」

「一体どういうことなんですか?」

「だから•••」



果穂先生が「これだから男は•••」

みたいなあきれた目で見つめてくる。

一体俺は何を’やらかして’しまったのだろうか?

不安げな俺に対し、果穂先生は軽くため息を

つくと、意を決したように口を開いた。







「だから司ちゃんのあれは、病気じゃないの。

むしろおめでたいことなの。」

「おめでたい?」

「そりゃ、女性にとっては本当に大変なんだけどね。

でも『つわり』も喜びのうちよ。」

「*&%!?は、え、そ、それはつ、つまり」

「そうつまり」




最後に果穂先生は少しもったいつけるように、

そして口元を若干にやつかせながら、

究極の一撃を俺にお見舞いした。









「司ちゃん、妊娠しているわよ。

多分あなたの子どもを。」








その瞬間、世界がひっくり返ったような気がした。

もう驚きとか喜びとか、

そういう次元を遥かに超えてしまった、

怒濤のごとき感情の奔流に、

俺は自分が自然と立ち上がっていたことにすら

気づかないでいた。


司さんのお腹に俺との子どもが•••





完全に茫然自失となった俺を現実に引き戻したのは

果穂先生の鋭い言葉だった。


「怖くなった?」


その言葉を聞いて顔をそちらに向けると、

果穂先生は依然として口元に

微笑みを浮かべてはいるが、

その目は全く笑っていなかった。


『本当に親になる覚悟はあるのか?』


そう値踏みするように。




その母親としての迫力を

見せつけられた俺は•••、

口元を少し緩めながら、

その目をしっかりと見つめ返した。




「はい。教師になる時に覚悟は

したつもりですけど、

誰かの人生を背負うっていうのが

こんなに恐ろしいものだっていうのは、

やっぱり自分で経験しないと分からないですね。」

「嬉しくないの?」

「いいえ。

踊り出したい程嬉しくて、

本当は今すぐ司さんを抱きしめに行きたい気持ちは

強いんですけど、

それ以前に自分が父親になったんだっていう

責任の重さを受け止めることで

今は一杯一杯なんです。」



はあー。

何とかそう言いきって、

息を吐いた俺に対して、

果穂先生は少しだけ

目元を緩めてくれた。



「まあ、70点くらいかな。」

「意外と高得点ですね。」

「まあ、今の今まで気づかない上に、

母体を大事にせずに盛っていた時点で

0点というかマイナスにしてあげても

いいんだけど。」

「•••すいません。」



ロリブルマプレイとか言ってて、

本当にごめんなさい。



「まあ、それを勘弁してあげると、

ちゃんと色々わきまえているみたいだから、

ギリギリ合格点をつけてあげてもいいかな。

やっぱり人に言われて気づく時点で

マイナスは大きいけど。

まあ、でも本人もちゃんと気づいては

いないみたいだからしょうがないか。

はい、果穂お姉さんのお説教はここで終了。

本当はもっと色々レクチャーしてあげたい

ところだけど、それは後回し。

今日のお勘定は私が持ちます。

とりあえずあなたのやることは?」

「今すぐプロポーズして来ます!!!」

「アハハハ♪それもいいか。

じゃあ、行ってこーーい!!!」

「ラジャーーーーー!!!!!!」





上着を引っ掴んで、

喫茶店から駆け出す俺。

司さん、今、会いに行きます。









PM3:00


しかしそんなに甘くないのが人生というもの。


「司さん!!!」

「うなー。」


俺が自室に駆け込んだ時、

梅雨が出迎えてくれたものの、

そこに司さんの姿はなかった。


あれ?と俺が思っていると、

梅雨が一枚のメモ用紙を

くわえて持って来てくれた。


それを読んだ瞬間、

本日二度目の世界暗転。

今度は流石にガクッと来て、

床にへたり込んでしまった。




こ、こんなタイミングで、

来てたなんて•••。



「うなー。」



心配そうに俺に駆け寄る梅雨の

頭を一撫ですると、

俺は近所迷惑考えず、

天井に向かって雄叫びをあげた。




「姉さーーーーーーーん!!

勘弁してくれーーーーーーー!!!」



俺はすでに車の中にいるであろう犯人と

その共犯者、

そして被害者たる愛しい恋人の

姿を頭に思い描きながら、

この後どうしようか、

完全に途方に暮れてしまった。





ちなみにメモ用紙の内容は以下の通りである。


「ワー君、お久しぶり。

事前に言っても逃げられそうだから、

住所を調べさせてもらって、

電撃訪問してみました。


そしたらなんと可愛い女の子が洗い物中。

ついにワー君、少女誘拐に走ってしまったのかと

心配してしまいましたが、

あなたの恋人さんだと聞いて、もう感激。

あまりに可愛いのでそのままマー君の車に

乗ってもらってお持ち帰りしちゃいました。


返して欲しかったら、

今年はちゃんと帰省してくださいね。

お母さんやオネストが待っていますし、

それにお父さんもあなたに会いたいはずですから。

司さんには家についたら携帯をお返ししますので、

連絡してあげてくださいね。

じゃあ、待ってるからね。

チャオ。



あなたの大好きな(かおる)お姉ちゃんより♡」



シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


ということでようやくネタばらしとなりました。

梅原おめでたです。

あまりおおっぴらにする

つもりはありませんが、

実は気づいていたよという

ネタを今後出していただいても

かまいません。

というか出していただけると嬉しいです。

新学期には中学校で正式に報告するはずですので、

学生のみなさん、妊婦を気遣ってやってくださいね。

あ、エロ清水の方はいくらでもいじっていいですよ(笑)


あと名前だけですが、桜月りまさんの

ユキちゃんのお名前ださせていただきました。

次のお話で触れようと思いますが、

タカさんの家に梅雨を預けようと思いますので、

よろしくお願いします。



そしてお姉ちゃん登場。

元シスコンはこのお姉ちゃんに対抗出来るのか、

こうご期待。


ちなみにこのあと13日から18日まで

清水と梅原は

うろなを離れます。

もう一つの作品とクロスオーバーさせながら、

清水に色々ちゃんとさせようと思います。

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