8月11日 萌萌パニック
PM3:00
「ねえ、ヤスお兄ちゃん。
どんなの作ろうかな。」
「萌が好きなの作ればいいだろ。
難しくても鎮先輩辺りが手伝って
くれるんだろうし。」
「カラスマントだよ!
気障だけど実は優しい怪人さんなんだから!!」
「はいはい。
あんまり動くとせっかくもらった
UVカットの帽子落っことすぞ。」
いったい俺は暑い中何をしているのだろう。
今日は夕方に10年目研修に果穂先生と
出かけていた司さんが帰ってくるので、
夕食を用意して待っておいてあげようと
早めに学校を後にしたはずなのに•••。
それがどうして俺は中学生カップル?の
後ろをこそこそ付け回しているのだろうか。
「あの、金髪クソ野郎、
俺の萌の頭を親し気にポンポンしやがって!
それは俺の特権だと知っての狼藉か!!
おい、清水、あれ、お前の所の生徒だろ!
今すぐ不健全性的行為の現行犯で
あいつを警察に突き出せ!!!」
「俺はお前の方をストーカーとして
突き出したい気分だよ。」
そう、俺がこんなストーカーまがいの行為に付き合わされている元凶は、
何故か帽子にサングラスをかけて変装した末期のシスコン、
萌ちゃんのバカ兄貴こと、鹿島茂である。
そもそもの始まりは、俺が帰る途中で見かけた
萌ちゃんと合田という変わった組み合わせに驚いている時に、
いきなり鹿島兄に近くの茂みへ引っ張り込まれたことなのだ。
そこでおかしな変装をした鹿島兄から、
萌ちゃんが退院して家に戻って以降
文芸部の友達や梅原先生以外の誰かと時々
メールや電話でやり取りをしていたこと、
今日この前の水着コンテストでもらった
UVカットつば広帽子をかぶり、おめかしをして
家を出て行ったことにビビッと来た(汗)ことなどを、
別に聞いてもいないのに熱く、暑苦しく語られたのである。
俺は妹のプライベートに口を出すなと止めたのだが、
このまま放っておくと大騒ぎになりかねないことから、
いやいやながら鹿島と一緒に二人の後を
つけているのである。
しかしよくよく考えてみるとあの組み合わせは
意外ってほどではないのかもしれない。
確か合田の母親は看護士であり、
萌ちゃんの担当でもあったと
彼女の主治医である神原先生に聞いたことがある。
そう言えばこの前の保護者面談の時に
合田の母親から母子家庭であって大変であるものの、
息子が家事を手伝ってくれたり、
時には院内学級の子どもの相手までしてくれているのだと
聞いたことがある。
しょっちゅう髪を染めたり、
先生に喧嘩を売ったりしてとても内申点がいいとは
言えないのだが、
本当はいい子なので何とか高校進学についてはお願いしますと
彼女から涙ながらに頼まれて、学校では見られない生徒の
別の一面を見た気がしたもんな。
司さんや木下先生を言い負かすぐらい口はたつし、
国語は学年でも上位だから、
何とか奨学金のある私立か
自己推薦とかで行ける特色のある学校に
押し込んでやれないか、検討してやらないと。
子どもの相手とかも慣れてるだろうし、
ボランティア活動に今度参加させてみるかな。
「あの野郎。
これ以上萌に近づきやがったら、
その局部使い物にならなくしてやるからな!
•••ただ、清水。
あのガキの金髪自体は
そもそもマズいんじゃないのか。
多分受験生だろ、あいつ。」
「分かってるよ、それくらい。
夏休み明けまでになんとかさせるよ。」
いきなり冷静になるなよ、この腐れ秀才。
そう、その前にあいつの髪だけは何とかまた
染めさせないといけないがな、本当に。
俺は年下の少女を優しげにあしらう
少年の姿を見ながら、苦笑を押さえることが
できなかった。
PM4:00
「そう、Yはそんな感じだぜ、萌姉ちゃん。」
「こ、こんなのでいいの?」
「OK、OK。涼維、補足することは?」
「隆維、だから俺は説明係じゃないって。
萌先輩、最後Gの丸みを整えたら、
さらによくなると思いますよ。」
「ありがとう、涼維君。」
「•••」
「涼維、いいかげん綺麗な姉ちゃんアガリ症から脱しろよ。」
「なんだよ、そのイタい病名は!」
「ははは。早くも萌ちゃんのかわいさに
やられたか、少年よ。
新学期、制服を着た彼女の姿にうち震えるがいい!」
「萌ちゃん、だんだんカラスマントがギリギリに
なってきたから気を付けてね。」
「ノワール!さすがにひどくねー!!」
「確かに鎮先輩、ノリノリなのはいいっすけど、
内容がぶっちゃけ微妙っす。
完全におやじっすね、発言が。
マジでロリガラス、定着してもしらないっすよ、俺は。」
「ああ、この口の減らないエセ不良めーーー!
先輩を敬わない奴には、悪の裁きを下してやる!!!」
何でそんなことになったのかは不明だが、
目の前では見事な逆ハーレムが展開中。
アクセサリー作成を頑張る萌ちゃんの両隣には
日生の双子が陣取って手取り足取り教えており、
それをカラスマント、ノワール、合田が見守っていた。
さらには少し離れた所で日生兄貴の片割れが
料理の合間にチラチラと様子を伺っており、
山辺の別の学校に通っているという兄貴も
洗いものをしながら興味深そうにその様子を
観察していた。
「わー、なんかかわいい子達がいっぱいいるー!」
「みんな、けっこうイケテルよ!!」
コスプレしているものもいるが、
なかなかのイケメン達が乙女ゲーの如く
外のパラソル席付近に勢揃いしているからか、
ARIKAの周りには中高生女子やお姉様方が
集まって来ていた。
本来なら彼らは皆ARIKAのお手伝いであるはずだから、
太陽さんたちから注意があってもおかしくないと思うのだが、
そこは商売人。
「今が売り時よ!睦、海、空、行きなさい!!」
「ただいまからレディースサービス始めます!
女の子はデザート全て100円引きです!!!」
「冷たい濃厚マンゴープリン、今出来上がりました、いかがっすかー!!」
「暑いこの季節にぴったりのミントブルーハワイサンデーありますよー!」
「どうしようか、デザート出来上がったんだって。」
「ちょうどサービス開始なんてラッキー♪」
集まった女性陣を一網打尽にしようと、
太陽さんの号令の元、
臨時サービス開始、人気デザート•新デザートの投入を行うARIKAの面々。
飛ぶように売れるデザートを渚ちゃんや山辺が必死に
なって渡し、半分もみくちゃにされながらお金を受け取っていた。
その様子を見て、男性陣も接客に加わり始めたことで、
さらにお客さんはヒートアップ。
追加注文がさらに発生して店内は半分パニックに陥っていった。
結果的に置いてきぼりにされた萌ちゃんと合田は
あまりの状況の変化にキョトンとしていた。
一番落ち着いていたのはいつのまにか二人のいる
パラソルの席に座ってニコニコしていた汐ちゃんかもしれない。
「すげーな、なんか。
萌ちゃんが来た時点ではそこまで混んでなかったのに。
そもそも別に合田以外はいつもバイトしている面々の
はずなんだが•••」
「それが萌の魅力なんだ!!
必ずしも萌自体を目標にしているわけではないんだが、
自然と人があの子のいる場所に集まってくる。
元気になればきっと萌は大きなビジネスチャンスを
掴めるはずなんだ!!!」
「なるほどね。
まあとにかく、2学期から学校に行く上で、
中高の連中と知り合いになれたのは良かったな。
その上でその人を集める才能が花開けば
楽しい学校生活が送れるだろう。
もちろん妬まれることもあるだろうけど、
その点は俺や司さんがフォローしてやればいいし。」
「ふん!貴様らの助け何ぞ借りなくても、
萌ならきっと大輪の華を咲かせるに決まっている。
なんて言ったって、宇宙一可愛い俺の妹なんだからな!!
•••おい、いい加減、その手を離しやがれ!!!
一体、どうやっているんだよ!
全く体が動かせないぞ!!」
ARIKAの喧噪から100m程離れた
林の中で俺は鹿島を組み伏せながら、
話をしていた。
ちなみになんでそんなことをしているかというと
萌ちゃんの両隣に日生の双子が座った時点で、
「何故、モールの教室には来ずにそんな奴らに教えて
もらおうとするんだ、萌ーーー!!!」と、
理性を失った鹿島が
ARIKAに向かって突撃しようとしたからである。
萌ちゃん達だけでなく、ARIKAの人達、
海水浴客全体に迷惑なので、土屋先輩直伝の
捕縛術で鹿島の動きを封じさせてもらった。
流石、伝説の本田先輩すら恐怖したという秘技だ。
体格では勝る鹿島を一切身動きさせずに
組み伏せることが出来ている。
「猛獣にこの海岸を荒らさせる訳にはいかないからな。
お、萌ちゃんがカラスマント達に頭を下げている。
今から家に帰るみたいだ。
こんな所でブラブラしているのが見つかったら、
可愛い妹に失望されるぞ。」
「な、何だと!
よし、今すぐ帰って萌の大好きな
カレーを作ってやらねば!!
だからさっさとそこをどけ!」
「はいはい。
多分さっきの様子だとお前に(も)
作ったアクセサリーをくれるはずだから、
知らないフリしてもらってやれよ!」
「そうなのか!
俺は、俺は•••、兄として最高に
幸せものだ!!
萌、お礼として
最高においしいカレー作ってやるからなー!!!」
俺がその戒めを解くと、
鹿島は水を得た魚の様に
猛スピードで海岸から走り去っていた。
手をつなぎながら仲良く海岸線を歩く
二人の姿を見ることもなく。
うんうん、あおりが上手く効いたようだ。
二人っきりの時間も大切だもんな。
さてお邪魔虫はさっさと退散するとしますか。
合田、送り狼にはなるなよ。
鹿島が去ったのを見届けた俺も
司さんが帰ってくるまでに戻ろうと
さっさと海岸を後にした。
萌ちゃんに寄りかかられて
恥ずかしそうな彼の姿に目を細めながら。
ちなみにその後鹿島に会った時に
萌ちゃんにもらったというSHIGERU
キーホルダーを見せつけられて
非常にうざかったことをここに追記しておく
加えて夏休み後半俺に個別指導を頼みに来た
合田の筆箱にYASU♡と
描かれたキーホルダーが
着けられていたことを
鹿島には内緒にしてやったことも。
季節は夏。
少年少女は息するように恋するべきだ。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
予想以上に沢山キャラを出してしまいました。
とにあさん、小藍さん出演キャラに問題があったら
言ってくださいね。
では本題に入る次の執筆に入ろうと
思います。頑張ります。