8月9日 夏の動物園は忙しい?
PM2:00
「司ママ、動物さんいっぱいいるんだよね。
早くいきたーい。」
「いっぱーい。」
「こら、果菜、美果、走ろうとするな。」
「梅原さん、美果ちゃんの方、私が手つなぎますよ。
まだ本調子ではないんですから、無理しないでください。」
「宇美さん、すいません。
草薙さんちに案内してもらえるだけでもありがたいのに。」
少し曇った夏休み中盤。
俺が泊まり込みの初任者研修に出る頃に
司さんも学校に復帰した。
復帰したとはいえ、
司さんの体調は万全ではなかったため、
俺が研修中の間は小林家に泊まってもらって
いたのだが、それで今まで以上に
小林家の娘達と仲良くなれたようだ。
『司ママ』と呼ばれ、彼女達を優しく
諭すその姿は本当のお母さんの様である。
そんな姿を見ていると
ついこの間、彼女との結婚を決意したばかりなのに、
すぐにでも子どもが欲しくなって来てしまう。
産休の時期はできれば春休みか夏休みぐらいからの方がいいだろうし、
逆算すると頑張るなら今か、秋も深まった頃かなー。
しかし現在のペースだと、『きちんとしている』と
言っても遠からずに『当たってしまう』気が•••。
は、俺は何を先走っているんだ。
今も司さんの体調は万全ではないのに、
昨日も遅くまで燃え上がってしまったし。
このエロ清水、バカ清水!
「いえいえ、定期検診のついでですし。
それにARIKAの渚ちゃん特製、
『動物さん、夏でも元気シャワー』の試運転興味ありますしね。
もし上手く行くなら、実家や医院でも使ってみたいですから。
清水先生、機材重くないですか?
いくらか持ちますよ。」
「だ、大丈夫です。
梅雨を持ってもらっているだけで十分です。」
「うなー?」
先導する戸津アニマルクリニックの
久島さんの声かけで
俺はようやく一人突っ込み状態から
我に返ることができた。
4人に徐々に遅れて来ている俺に対し、
梅雨も『大丈夫?』と言わんばかりの声を出しているし、
これくらいでへばっていてはダメダメだな。
現在大所帯で何をしているかというと、
うろなの動物園と言われる草薙さんちに向かっている
所である。
今日は元々小林夫妻が南北小学校合同の研修会に参加するため、
午後から姉妹を預かって梅雨の検診ついでにクリニックへお散歩していたのだが、
そこで久島さんが草薙家に検診に行くというので、
梅雨をいつか草薙さんちのぎん君に会わせようという
話もあったことから同行することにしたのだ。
ついでと言っては何だが、
クリニックに海の家ARIKAの4女渚ちゃんの新作発明品が
来ていたので、草薙さんちで試運転しようという
運びになり、現在俺がその機材を担いでいる所である。
•••今度渚ちゃんに根本的に軽量化が必要だと伝えておこう。
「渉パパ、頑張ってー。」
「がんぱっちぇー。」
「渉、無理はするなよ。」
こちらを応援してくれる姉妹と
気遣う司さんを見ていると
メラメラと負けん気が起こってくる。
こちとらこれから旦那になり、
父親になって行くんだ。
擬似的とはいえ嫁や娘の前でかっこわるい所
見せられるか!!
「ふ、不肖、清水!
ファイト、いっぱーつ!!」
今一度気合いを入れ直して、
小走りで4人に追いついて行く。
後もう少し、根性出して頑張ろう。
PM3:00
「このミストすごく気持ちいいですね。
しかも必要な材料を投入すれば、
不足しがちなミネラルをミストに含ませる
こともできるんですよね。」
『もっと暑い時にはシャワーモードも出来るんだってな。
これなら夏にへばっちまう奴も大分減りそうだゼ!』
「ぺんちゃんなんか毎年しんどそうだからな。
これで元気になってくれたら夏も私の至福の時間が
大増量だ!」
「湊、ぺんちゃんは暑いからあんたにひっつかれたくない
わけじゃないのよ。
いい加減理解しなさい。
まあ、でもペンちゃんやサイコちゃんだけでなく、ウラシマさんなんかも
増えて、温度変化に弱い子が少なくないからこれは助かるわよね。
シャワーを上手く使えば、レオ君やカルビ&ベーコンの体を洗うのも
今までよりも楽になるかも知れないわ。
浄化システムがあるみたいだから、池の水を使うことも出来そうだし、
なかなか経済的みたいね。
基本太陽光発電みたいだけど、今日みたいな曇りの日は
家庭用電源も行けるみたいですし。
清水先生、モードの切り替えはどうするんですか?」
「ううー。」
「すいません、暑さでギブアップしてしまった
みたいなので、もう少し休ませてやってもらえませんか?」
曇りとはいえ30度を軽く超える熱気の中、
機材の移動と設定を終えた俺は、
作業後、完全にへたり込んでしまった。
現在草薙家の縁側で司さんに膝枕され、
側に座った小林姉妹に団扇で風を送ってもらっているという
体たらくである。
まあ、家主の天兵君だけでなく、
よくこの家に来ているらしい、
頭にハムスターを載せた子や
ボーイッシュな子にも好評なようで
苦労した甲斐があった。
久島さんも興味津々のようで、
loveふぁみりあやクリニックにこのシステムが
導入される日も近いのかもしれない。
ああ、でもとにかく暑くて死にそー。
司さんの膝の上で死ねるなら本望なんだが•••。
「渉パパ、暑いの暑いの飛んで行けー。」
「とんでちぇー」
「氷持って来ましょうか?
梅雨ちゃん、ぎんはリビングで寝ているだろうから
一緒に来ない?」
「うなー♪」
心配して氷を持って来てくれるらしい天兵君に
同行して家の中に入って行く梅雨。
あの梅雨が人見知りをしないなんて、
さすがこれだけの数の動物達の主人だけのことはある。
地味な印象の子だが、
他にはない何か特別なものをもっているのかもしれないな。
そうこうしているうちに
冷気に引き寄せられてか、
はたまたマイナスイオンでも感知したのか、
動物達が元気シャワーの周りに集まって来た。
犬やハムスター、モモンガやリスにみどりがめなんて辺りは
まあ、ペットとして理解出来るが、
ニワトリに馬、子豚という家畜?といいたいものから、
わにがめやペンギンなど、それ飼っていいのか?と
聞きたくなるものまで実に多彩である。
「おっきなかめさんだー。パパが言ってた、ガメラさん?」
「がめちゃー」
モモンガとかリスとか可愛いのは色々いるはずなのに、
二人のお気に入りは
美果ちゃんなら乗ってしまえそうな、
大きなワニガメであった。
確か肉食であるはずなので、
危険がないのか若干心配ではあったのだが、
常連のみんなは気にしていないようなので、
多分大丈夫なんだろう。
実際ぺたぺた触ってくる二人を特に
嫌がる様子もなく受け入れているし。
あ、リスがワニガメの背中によじ上ってきた。
しかもその後姉妹の体にも上ってうろちょろしている。
なぜかその様子を離れた所にいるみどりがめがどこか
暗い目で見つめている気がするんだが、どうしたんだろうか?
動物同士にも色々複雑な関係性があるのかもしれない。
ハムスターやモモンガはつがいがいるみたいで仲良くしている
みたいだしな。
「きゅっきゅっきゅーー」
「コケコッコーー」
「ヒッヒーン」
「ブヒ!」
シャワーの下で歌うように鳴くペンギンとその周りを
グルグル走り回りながら叫んでいるニワトリ。
それを見ながら何故かどつき合っている、
馬と子豚。
うーん、カオスだなホント。
でも何となく仲良さそうに感じるのだから、
不思議だ。
これだけ多種多様な生物達がきちんと共生して
いけるのだとしたら、人間が自分たちのつまらぬ
差異に対して目くじらを立てたり、
いつまでも争っていたりするのは本当にバカらしいよな。
この草薙さんちの動物園はそんなことを学ぶ材料に
なるかもしれない。
天兵君に今度小学生とかを連れて来ていいか聞いてみようか。
”テンちゃんやみんなをよろしくね、先生”
動物達の姿を見て物思いに耽っていると、
不思議な声と寒気が体に走ったかと思うと、
その後体に籠っていた熱が一気に引いていた。
一体何があったのだろう。
「ん?なんかおかしな気配がしたと思ったが、
どうしたんだろうか?
お、渉、熱は引いたみたいだな。
全く熱中症にでもなったら大変なんだぞ。」
「す、すいません。」
勘の鋭い司さんも何かを感じていたみたいだが、
おでこを合わせて熱を測られたせいで、
聞くタイミングを完全に逸してしまった。
「おおー、アツいねー。
あの堅物だった梅原先生があんな風に
男といちゃいちゃするなんて驚きだよ。
ヒナも負けていられないな。」
『男女の仲にはやはりスキンシップが大事なんだゼ。
さあ、ヒナ、テンちゃんが戻って来たら、
その胸にレッツダイブ、ほげ!?』
腹話術をしているはずなのに、
その発言を遮るように、
頭上のハムスターを押しつぶしたヒナタちゃん。
その顔は無表情ながらどこか朱がさしていた。
このうろな動物園に関わる人間達にも色々あるようである。
なんか誰かによろしく言われた気もするし、
彼らが困った時には手を貸してあげますか。
そんなことを考えながら、
俺が体を起こして草薙家の庭全体を見渡すと、
うっすら夕日が差し込み始めていた。
シャワーの流れにその光が差し込むことで、
うっすらと虹ができているのを見て、
俺は今後に向けた決意を新たにしていった。
俺と司さんとの間にかかった虹を
もっと広げて行ってやるのだと。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
ずいぶん遅くなってしまいましたが、
裏山おもてさんのうろなの虹草、草薙家を訪問させていただきました。
人間、動物共に色々なキャラのみなさんを出させていただきましたが、
大丈夫だったでしょうか?
問題があったらご指摘お願いします。
あと書ききれなかったので
もしよかったら梅雨とぎんさんの対面がどうなったか
どこかで書いてもらえると嬉しいです。
以前一度会いに来てくれたことがあったんですよね?
またとにあさんの宇美さんに同行していただき、
小藍さんの渚ちゃんの発明品を小道具として使わせて
いただきました。
こちらについてもおかしな点があったら言ってくださいな。
久しぶりの更新でなんかふわふわした感じでした。
連続山ごもりも終わったので、
継続的に書いていけたらと思います。
ここからは萌ちゃんのARIKA訪問をはさんで、
プロポーズ編を頑張りたいと思います。
ちょっとしたサプライズも挟みますので、
そちらも含めてどうぞよろしくお願いします。