7月7日 天塚先生女難に屈す
PM2:00
「天塚先生、これでいいの?」
「そうそう、その計算で大丈夫だよ。」
ここはうろな北小学校の教室である。
本日用事で来られない小林拓人先生の
代役として、
日曜教室と呼ばれる学習会の監督役兼
ボランティアとしてやってきた
うろな高校学園生活環境部の面々の
引率に今日はやってきていた。
目の前では部長の天塚君が低学年の
女の子に九九の計算を教えていた。
妹さんがいるだけあって彼は
小さい子のお世話にもなれているようで
安心だ。
「姉ちゃん、やっぱ分数のかけ算なんて分かんねえよ。」
「そ、そんなこと言わないで金井君!
ほら、こことここをかけたら上手く行くよ•••多分。」
「なんか頼りねえなー。
ていうか、姉ちゃん、おっぱいすげえ大きいよな。
何食ったらそんなになるんだ?」
「ううー•••、そんなにジロジロ見ないでーー。」
日向さんは高学年の男の子相手に苦戦中である。
教えてる子はガキ大将系みたいだし、
大人しそうな日向さんにはちょっと
荷が重かったかな。
まあ、でも男の子の方も彼女に興味を
持っているみたいだからもう少し様子を見ますか。
「フフフ。そんなに固くならなくても大丈夫よ。
お姉さんが手取り足取り優しく教えてアゲル♡」
「は、はい。」
「もうカチコチになりすぎだよー。
もっとリラックスしなさいな。」
いや、霧島さん、君主人公の初めてを
狙うお姉さんキャラじゃないんだから、
小学生を誘惑しないでください。
そりゃ、君の爆乳が机に押し付けられていたり
したら思春期間近の男の子はガン見しちゃいますって。
相田君、冷静にね。
こっちはこっちで上手くいっているような
おかしな方向に行っているような•••。
流石天塚君が「エロイン」呼ばわりしていた
ことはある。
中々の破壊力だわ。
チラッ。
一瞬梅原先生がこちらを
見ていた気がしていたが、
気のせいかな。
今日は朝からあまり話を
してくれない。
ああー、あんまり覚えていないけど、
お祭りの後やりすぎたのかなー。
「清水先生。丸付け終わりました。」
「お、水鏡サンキュー。
うんうん、ミスもないし大丈夫だ。
ありがとうな。」
「いえ。あなたの望んだ通りの水鏡栗花落
であるなら幸いです。」
うん、やはりまだまだ主体的とはいかないか。
梅原先生に聞くと天塚君のおかげで大分
積極的になってきたらしいんだがなー。
まだまだ基本はお願いされたことを
忠実にやるってだけみたいだから、
先生役ではなくて、プリントの丸付けを
やってもらっているんだけど。
まあ、でもそもそも今日の教室への参加自体
天塚君達がやると聞いて梅原先生に自分から
参加をお願いして来たみたいだし、
それだけでも大きな成長なんだよな。
いやはや、天塚君モテルねー。
そんなことを考えていると
やっていたプリントが満点だった
ご褒美なのか、教えている女の子の
頭を撫でてあげている天塚君に
霧島さんがスタスタと近づいて行った。
どうしたんだ?
「ねえ、柊人さん、一つだけ
確認したいことがあるのだけど。」
「ん?恵美、何か用か?」
怪訝な表情をする天塚君に
霧島さんは藍色の瞳に真剣な
想いを込め、こう言い放った。
「あなたって、実は•••、
ロリコンなの?」
「なんでそうなるんだ、アホ!!」
ポカン。
霧島さんの衝撃の一言に
驚いた天塚君は反射的に
彼女の頭をどついていた。
ははは、クールな彼には
珍しいリアクションだな。
「痛ーい。何するのよ。」
「それは僕の台詞だ!
いきなり何言い出すんだ。」
「だって私のダイナマイトボディには
ほとんど反応を示さないのに、
そんな小さい子にニタニタしちゃって。
これはもう未熟な体にしか欲情できない
としか。」
「小学校で何口走ってるんだよ!!
僕は先生役として生徒と仲良くして
いただけだ。
お前こそ小学生男子に谷間を見せつけるわ、
パンチラするわ、エロインどころか、
ほとんど痴女じゃないか!!!」
「ひどい、幼馴染でメインヒロインの私に
なんてこと言うの!?」
「ふ、二人とも喧嘩しないで•••」
キャンキャン言い合う天塚君と
霧島さんを日向さんが何とか止めようとしていた。
中々面白い展開だが、流石に梅原先生が睨んでいるし、注意しておこうかな。
「3人とも騒ぐのはそれくらいにしておこうね。
そろそろ算数の時間は終わりだな。
仲直りも兼ねて、3人で低学年の子達の
漢字の書き取りを手伝ってあげてくれないかな?」
そう言って3人の配置を変更させた。
天塚君は少し嫌そうだったが、
後二人は非常に乗り気で喧嘩を切り上げてくれた。
さてさてこれでどうなるか、もうしばらく観察しますか。
俺は3人がさっきまで教えていた子達に次の
指示を出しながら、そんなことを考えていた。
その後3人は仲良く低学年の子達を
教えていた。
日向さんも慣れて来たようで、
遠慮がちではあるが、
鉛筆を持つ子ども達の手に
自分の手を添えて
書くのを手伝ってあげたりしている。
うん、うん、教えていく側も成長している
のが見えていいね。
こういう機会は生徒達を大きく
進歩させるから、
高校の正式な行事に取り入れられないか、
今度田中先生に相談してみようかな。
そんなことを考えていると
一瞬手が空いた天塚君が
俺に話しかけて来た。
「そう言えばお話では
清水先生って、いつも
梅原先生にくっついていると
聞いていましたが、
今日はほとんど話してもいないですね。」
この野郎、人が気にしていることを。
俺が近づくと
「このけだもの」
みたいな目でどこか怯えた風に
見てくるからどうにも近づきにくいんだよな。
それでいてチラチラ彼女の視線を感じるから
一体何なんだと思う。
「まあ、僕には関係ありませんが、
精々頑張ってくださいね。」
それだけ言って、また別の子の
指導に向かって行った。
言いたいだけ言いやがってー。
覚えてろよー。
彼の毒舌に対して復讐の
機会を伺っていると、
天塚君と日向さんが
話をしているのが
聞こえてきた。
「天塚君、小さい子を教えるの上手だね・・・。」
「まあ、妹いるしね。
今は大分愛想なくなっちゃたんだけど、
昔はあいつもこんなだったなーと思うよ。」
「•••も、もしかして、天塚君って•••シスコンさん?」
「な、何言ってるんだよ!」
「ご、ごめんなさい•••」
お、天塚君、さっきのロリコン疑惑より
動揺が大きい。
こっちは全く的外れというわけでも
ないらしい。
これはちょっとつっついて見ようかな。
「なあ、水鏡、ちょっといいか?」
「なんでしょうか?」
「天塚君の望む君になりたくはないか?」
「•••是非」
よしよし、これも彼女を積極的にさせるための
方法だからな。恨むなよ、天塚君。
俺が水鏡に耳打ちしている間に
事態はさらに混沌として来た。
天塚君と日向さんの会話を聞いていた
霧島さんがそこに乱入し、
「柊人さんシスコンだったの!
それなら早く言ってくれればいいのに。
私は幼馴染属性だけでなく、
お姉ちゃん属性も完備しているのよ。
さあ、お姉ちゃんの胸に飛び込んで来なさい!!」
「ず、ずるいよ、霧島さん!•••わ、私もクラスの女の子
達から『妹にしたい。』って言われてるんだよ•••。
お、おにいちゃん、蓮華のお胸、さ、触りたい?」
「二人とも何考えてるんだよ!!!」
すでに彼の周りはピンクでカオスな雰囲気に
満たされていた。
それでは状況を決定的にすべく、
最終兵器を投入しますか。
俺に促されて水鏡がすたすたと
天塚君に近づいて行く。
「み、水鏡か!ちょっと助けてくれ。」
藁をも掴む思いで水鏡に助けを求める天塚君。
普段の彼女ならきっとその言葉に従って
くれるであろうが、今の彼女は別の
「主体性」を持って動いている。
彼女は天塚君の右手をそっと掴むと、
その手を自分の左胸にもっていき、
なんと”鷲掴み”にさせた。
「な、何をするんだー!!」
「兄様。私の体でしたら、
好きにしてくださっていいんですよ。」
「そ、その口調は弓枝の!
誰だ、水鏡にこんなこと吹き込んだのは!!!」
「こりゃ、負けてられないわね。
ほら、柊人さん、お姉ちゃんの胸の方がもっと大きいでしょ。」
「あ、天塚君の両手が•••。
うー•••、お、おにいちゃん、蓮華の
お胸はとっても柔らかいよ。」
「後頭部に胸を押し付けるなー!!
だ、誰か助けてくれー。」
両手で無理矢理先輩•後輩の胸を掴まされ、
さらには後頭部に同級生の胸を押し付けられている、
端から見たら天国、実際は地獄の少年の姿が
そこにはあった。
ふふふ、名付けて『天地快痛陣』。
人間あまりの快楽や興奮を与えられると
冷静さを保てなくなり、痛みすら感じる
ようになる。
相手にダメージを与えるのに快楽を
用いることだって可能なんだよ、
天然ジゴロ君。
普段面倒ごとを極力避けて上手く立ち回っている
彼にはいい薬だろう。
たまには当事者として狂乱の中で悶えることも
必要だよ。
この経験を糧に彼が更に大きな人間になって
くれることを祈っている。
「小学校でなに、不埒な真似をさせてるんだーーー!!
そこの3人!さっさと離れろーーー!!!」
「ぐふぉ」
「「「は、はい」」」
俺に飛び蹴りをかまして
吹っ飛ばした梅原先生は、
鬼の形相で天塚君に迫っていた女子3人を
叱り飛ばした。
先生の怒気に当てられて、
冷静になった3人は自然と距離をとったが、
中心にいた天塚君はぐったりと
机にへたり込んでしまっている。
「全く、人の気もしらないで、
アホなことをうちの生徒にやらせおって!
恥ずかしがって遠慮していた私がバカみたい
じゃないか!!」
梅原先生は怒りが収まらない様子で
ガルルと俺に対して牙を向いている。
良かった。
先生が元気なさげで心配だったんだけど、
やっぱり生徒のトラブルにはきっちりと
駆けつけてくるんだよな。
やっぱ、梅原先生大好きです。
机ごと床に転がっていた俺は
自分の痛み以上に梅原先生の
芯が変わらないことを確認出来た
喜びで一杯だった。
しかし周りの小学生達には
ちょっと格好悪い所を
見せちゃったな。
せっかくのボランティア活動だから
高校生のお兄さん、お姉さんを
ロールモデルにしてほしかったんだが、
最後の最後にケチがついちゃったかな。
そんな不安をいだいていたが、
金井君と相田君の
アホなのか真剣なのか分からない会話が
つまらぬ懸念を吹き飛ばしてくれた。
「なあ、シンヤ、高校生って”スゲエ”な。」
「そうだね、ダイサク、すごく”アダルト”だったね。」
「こういうのをスッチー肉林っていうんだよな。」
「スッチーじゃなくて高校生だよ、ダイサク。酒池肉林だって」
「う、うるせえ!!とにかくあんないい目を見るためには
分数の計算も頑張って勉強しなくちゃいけないんだよな。
今度小林先生に放課後教えてもらうか。」
「そうだね。」
高校生達のオバカな痴話喧嘩は
多感な小学生男子二人のやる気を呼び起こす
ことに成功したらしい。
天塚君、君の尊い犠牲は生かされたようだよ。
彼の女難に栄光あれ。
二人の会話を聞いて苦笑いを浮かべる女性陣と
へたり込んだままの天塚君をしり目に、
俺は逆さになったままでニヤニヤし続けていたのだった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
何故か、修正が反映されず、
1時間以上四苦八苦しておりました。
今回で2度目ですが、
どういう現象なのでしょうか?
気を取り直して
アッキさんからご依頼のあったボランティア話ですが、
こんなんでいかがでしょうか?
一応いただいたアイデアを参考にしましたが、
大分天塚君のキャラを崩してしまった気もするので、
問題があったらいってくださいね。
あと南小ではすでに彼らがボランティアを
やっていたので、北小を舞台に設定し、
三衣 千月さんの北小コンビをお借りしました。
オチにつかってしまいましたが、
良かったでしょうか?
アホなネタに巻き込んでしまったので
ダメだったら遠慮なく言ってくださいね。
この後剣道大会くらいまではお休みして
もう一つの連載を再開出来ればと思います。
まだ絡んでいない方との絡み話を何話か挟むかもしれませんが。
またお話があればコラボ話も書いてみようかと
思いますので、お気軽にお声かけくださいね。
それでは失礼します。