7月6日 その3 夜空に咲く華の下で
PM7:00
大盛況だったカラオケ大会が
終わると夏祭りも残す所
締めの花火だけとなっていた。
町役場の人たちが打ち上げ花火の
設置を行うと共に、
手持ち花火を配ってくれている。
果菜ちゃんと美果ちゃんは
秘書課の新人さんにもらった
手持ち花火を持って駆け回っており、
酔っぱらった果穂先生を介抱する
拓人先生に代わって俺と梅原先生が
二人の面倒を見ていた。
「渉お兄ちゃん、綿あめ食べたーい。」
「わちゃあめー。」
「はいはい、混んでいるから、
手を繋いでいきましょうね。
梅原先生、美果ちゃんお願いします。」
「分かった。美果、そんなに
走るとこけるぞ。」
興奮して暴走気味の5歳児と3歳児を
何とか捕まえると、
俺達はマサムネ君の屋台に向かっていった。
「あ、司先生!」
綿あめを頬張る二人の世話を
しているとユキちゃんと賀川さんの
カップルと遭遇した。
「おー、ユキ。
その花火柄の浴衣綺麗だな。」
「オジサマが用意してくれたんです。
司先生の梅柄も素敵ですよ。
お化粧もしてますし、
いつも以上に可愛いですね。」
「ははは。ありがとう。」
そう言ってじゃれあっている姿は
本当の母娘か姉妹の
ようで、見ていて実にほっこりした。
「お姉さんウサギさんみたいで、可愛いー。」
「うしゃぎたーん。」
果菜ちゃんたちはユキちゃんの
白い髪と肌、赤い目が気になるようで、
その手を遠慮なくペタペタ触っていた。
「あうう。」
「こら、二人ともお姉さん、
困っているからやめてあげなさい。」
「「はーい。」」
流石小林家の娘さんたち。
梅原先生に注意されると
すぐに離れていった。
「あ、ウサギのおねえちゃんと司おねえちゃんの
髪飾りお揃いだー。」
「おしょろいだー。」
しかし姉妹はユキちゃんと梅原先生の髪飾りに
気づいてまた大興奮。
本当に子どもは元気だよな。
そしてそれを微笑みながら見ている
二人の後ろ姿はお祭りの雰囲気の中で
一際輝いている。
記念に一枚写真を撮っておこうか。
うん、実にいい感じだ。
賀川さんもユキちゃんに見とれている
ようだし、他にも何枚かとって
今度あげるとしよう。
周りを見回すと他にも
いろんなカップルが歩いていた。
それも単に二人組ではなく、
うちのクラスの芦屋と稲荷山に
どこかで見た猫っぽい女子高生や
文芸部の3人など両手に花の組み合わせも結構いる。
なかなかみんなお盛んだな。
まあ、二人組でも藤堂さんと星野さんや
直澄に田中先生等、それはいいのか?
という組み合わせもあるが。
というか流石にあの二人は•••。
「梅原先生、あそこで木下先生の
腕に抱きついている女の子って、
もしかして1年の横島楓じゃないですか?」
「え?・・・ああ、そうか。
いつも三つ編みに眼鏡なのに、
髪を下ろしてコンタクトでもしているから
分からなかったのか。
色々危なっかしい子だったんだが、
最近木下が面倒を見るようになって落ち着いて来たと
思っていたんだ。
ただいくら何でも夏祭りで中学校の教師と教え子が
あそこまでいちゃついているのはまずいな。
止めに行くか?」
「いや、まあ、実は横島って結構スタイルいいんで、
今の感じなら傍目には女子大生ぐらいに見えますから。
みんな気にしていないんで、わざわざ注目を集めるのも
どうかと。ここは木下先生に任せてみませんか?」
「んー、そうだなー。
確かに最近誰かにアドバイスを受けたとか言って
やる気になっていたしな。横島の件もあいつが言い出した
ことだし、ここは見守っておくか。」
そんな感じで二人をスルーしてしまったことで、
木下先生が後々色んな意味で責任を取らされる羽目になった
というのはまた別のお話である。
PM8:30
ひゅるるーーーー、ババン!!
手持ちの花火をやりおえてしまい、
俺達は小林夫妻のいる席まで行って、
果菜ちゃんたちを膝に乗せながら、
打ち上げ花火を見ていた。
ちなみに果穂先生は拓人先生に
膝枕してもらっていた。
「たまやー。」
「渉おにいちゃん、何言ってたの?」
「花火が上がる時に言うかけ声だよ。
昔の花火屋さんの名前から来てるんだ。」
「じゃあ、私も言う!たまやー。」
「ちゃまやー。」
「かぎやーっていうのもあるんだぞ。
せえので言おうか?せえの。」
「「「かぎやー。」」」
本来なら梅原先生と二人っきりで
花火を見ているはずだったので、
その点はちょっぴり残念ではあるが、
子ども達を膝に乗せて一緒に見ると
いうのも何だか本当に家族で来ている
みたいでこれはこれでとても楽しかった。
「梅原先生。」
「ん?どうした?」
「果菜ちゃんたち可愛いですね。」
「そうだな。何だか本当に娘が出来たみたいだ。」
梅原先生も嬉しそうな様子である。
元々子ども好きな人だしな。
いつも以上に母性的な雰囲気を醸し出していた。
いつか本当に彼女と家族としてこんな時間を
過ごせるとしたらどんなに素晴らしいだろう。
「家に残して来たうちの娘が少し可哀想ですね。」
「確かにな。帰ったら梅雨に高級猫缶でもあけてあげようか。」
「そうですね。いつかまた”家族”で来たいですね。」
「そうだな。」
「俺とあなたと子ども達で。」
「うん。へ?」
驚いてこちらを振り向いた梅原先生を
ただじっと見つめ返す。
先生の顔が徐々に朱に染まっていく。
「そ、それはどういう?」
「文字通りの意味ですけど。
嫌ですか?」
「い、嫌•••••じゃない。」
「じゃあ、いいじゃないですか。」
そう言って俺は後ろ手で彼女の手を掴んだ。
顔を赤くしたままの彼女の体温は実に高いが、
それがとても心地よい。
しばらくそのまま花火を見ていると
彼女の手がもぞもぞっと動き
俺の指に彼女の指が絡められた。
ビックリしてそちらを見ると
こちらを見ずにボソッと
「嫌か?」
と聞いて来た。
胸が一杯になった俺が言えたのは
「いいえ。」
の一言だけであった。
夜空に大輪の華が咲き誇る下で
俺と彼女の縁も花開く。
誰もが見つめるようなきらびやかさは
そこにはないが、
何事にも代えることの出来ない
確からしさがそこにはあった。
誰にも知られず、
想いを確かめ合ったその短い時間が、
半ば永遠のように感じられる。
織り姫と彦星の年に一度の逢瀬というのも
そんな時間なのかもしれない。
恋と花火はいつの時代も刹那的でありながら、
心にいつまでも残っていく。
そんなことを感じる夏の夜だった。
PM9:00
「みなさんのご協力のおかげで
素晴らしい夏祭りとなりました。
本当にありがとうございました。
気を付けてお帰りください。」
町長の挨拶で夏祭りも終わりを
迎え、それぞれが家路についていく。
漸く果穂先生も復活し、
俺たちの膝で眠り込んでしまった、
果菜ちゃんたちを引き取って、
帰りどうするのか聞いて来た。
「ごめんねー、二人のラブラブタイムを
邪魔しちゃって。この埋め合わせはちゃんと
するからね。
ねえ、折角だから二人はゆっくり歩いて帰ったらどう?」
そんな風に言われて、普段なら梅原先生は怒り出すはずなのだが、
「まあ、夜風にあたりたいし、そうするか。
清水、大丈夫か?」
なんて言って来たものだから、
ただただ首を縦に振ってしまった。
「おー、司ちゃん、大胆ーーー。
では今宵は織り姫と彦星の如く、
組んず解れつお楽しみくださーい。」
そんな風に茶化しながら走り去る
果穂先生と苦笑しながらついて行く
拓人先生。
今日は色々ありがとうございました。
「うるさーい!
全く、あの酔っぱらいは。」
梅原先生はそんな風にプリプリ怒っているが、
まだ俺の手を握ったままである。
「それじゃあ、帰るか。
梅雨も待っているだろうしな。」
「えっと、いいんですか?本当に。」
「何だ、嫌なのか?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか!」
「じゃあ、問題ないな。
私は下駄で歩きにくいんだから、
ちゃんとエスコートしてくれよ。」
「も、もちろんです。」
やばい、今日の梅原先生は素敵過ぎて
全く冷静になれない。
ちょ、マジこのまま家に連れて行って
俺は大丈夫か?
そんな俺の焦りをしり目に
梅原先生は俺に半ば体重を預けてくる。
色々柔らかくていつも以上にいい匂いで
俺の理性が一気に溶かされていく。
そして最後のトドメ。
「なあ、清水。」
「は、はい。」
「さっきの言葉に嘘偽りはないな。」
「当たり前じゃないですか!」
「そうか。じゃあ、•••
優しくしてくれよ。」
その瞬間血が全て沸騰してしまった。
正直その時点で記憶がほとんど
途切れてしまったのが後々考えてみても
残念でならない。
その後どうなったかについて
詳しく知るのは
我が家の愛猫ただ一匹である。
彼女の緑眼だけが七夕の真実を
知っている。
それが明るみになるのかどうか知るのは
まさしく神のみである。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
以上で夏祭り話は終了です。
最後は思いっきりいちゃいちゃさせてみました。
何か大分予定と違う展開になりそうですが、
それもまたこのコラボ企画の魅力かなと。
さてどうなることやら。
桜月りまさんに、梅原とユキちゃんの後ろ姿描いてもらいました!
嬉しー!!!
始めは簡単に髪飾りの設定をお願いしていたら、
実際にデザインを描いていただけて、
さらには実際のお祭りで二人が身につけている様子まで
絵にしてくださいました。
初挿絵、感謝感激です。
ユキちゃんたちとの絡みの場面も見ていただけたら幸いです。
またアッキさん提供の横島さんをさっそく木下に
絡ませてみました。
実際の二人のやりとりはまたどこかで書けたらと思います。
ご意見があれば是非お願いします。
他の方も色々登場させていただきましたが、
気になる点があればご指摘くださいね。
今後についてですが、
ある意味ここまで(というか前回の第二回考える会までで)
第1部みたいな感じですので、
今後はラストに向けて、まだ絡んでいない方との絡みや
他の方とのコラボを優先しながら、多少不定期にはなるでしょうが、
ゆっくり進めて行きたいと思います。
取りあえずアッキさんからボランティア話を振られているので、
それを書いていこうと思います。
もう一つの連載も再スタートさせるつもりですので、
よろしければそちらもご覧ください。
今後ともうちの二人をよろしくお願いします。




