6月17日 その2 作戦会議走行中
PM3:30
バス停『うろな家前』につき
タクシーを降りると
見るからに厳ついおっさんが待っていた。
「おお、小梅ちゃん、ひさしぶり。
ってことはあんたが噂の清水か?
オレはうろな工務店の前田鷹槍だ。
前置きはこれくらいにして、嬢ちゃんが待ってる。
さっさと行こう。」
「分かりました。お願いします。」
「こちらこそ、お久しぶりです。
タカさん、よろしくお願いします。」
俺たちは軽く挨拶を交わすとさっそく
森の中に入って行った。
道中話を聞くと彼はうろな工務店の
2代目社長さんらしい。
宵乃宮さんから土曜日にガスと井戸の配管が壊れたと
連絡があったのらしいのだが、
いたずらだと思って後回しにしていたらしい。
ただその後電話もかかってこないので
様子を見に来てみたら、ちょうど賀川急便の
配達員の人に会って宵乃宮さん家まで
案内してもらったそうだ。
そこで応急修理や宵乃宮さんの手当を
賀川さんと一緒にやったらしいが、
彼女が母親を待つためにどうしても病院にいきたくないと
ごねるのでこちらにお鉢が回って来たと。
そんな所のようだ。
「やはりあの時の家には人がいたのか。
もう少し観察していたら気づいただろうに。」
「すいません。私が急かしたせいで。」
「お前だけのせいじゃない。
気づいてやれなかったのは私も同罪だ。
ただ後悔は後だ。
さっさと行ってやらないとな。」
そう言って梅原先生はさらにスピードを上げて行く。
前田さんも全く問題なさそうに歩調を合わせるが、
俺にはかなりキツい。
日頃からなまっているからこんなことになるんだよな。
稽古だけでなく、ジョギングとかも始めてみようか。
「そう言えば前田さん。
下にあった軽トラは工務店さんのものですか?」
「ああ、そうだが、どうした?」
「いえ、彼女を説得したとして
病院まで運ぶ足が必要だなっと思いまして。
やっぱり直澄達に来てもらうか。」
「賀川のもトラック、ヘルプに持って行かしちまったんだよな。
よし、俺も応援を呼んでやる。
8人乗りのワゴンならいけるな。」
「ありがとうございます。その方が広くて
彼女を横たわらせることもできそうですね。
念のため、こちらも呼んでおきます。」
「おうよ。」
そう言って俺は直澄を、
前田さんは店の若い衆を
走りながら呼び出した。
直澄は剣道部の監督を木下先生に
任せて、先生の車を借りてこちらまで
来てくれるらしい。
あいつならタブレット端末を常備してるだろうし、
連絡や情報共有を考えたらその方がいいだろう。
うろな工務店からも若手の鳶職さんが
ワゴンを持って来て、代りに軽トラを
引き取って戻るということだ。
前田さんもワゴンの鍵をもっているらしいから
問題ないんだと。
地元民で道路状況は熟知しているそうだから、
病院までの運転は彼に頼むとしようか。
もちろん、救急車を呼ばずに済めばの話だが。
さらに相当しんどいが
宵乃宮さんについての続報も
手元のスマホを見ながら頭に入れておく。
「寒いならば手を出して温めたくなるような色」ね。
俺もそこまで絵画に詳しくはないが、
この色遣いといい、数日間ぶっ倒れながらも
病院に行くのを拒絶した根性といい、
なかなか内に秘めたものは強そうだ。
それでいて1年以上帰ってこない母を
待ち続ける子どもらしさももっているときている。
まあ、面倒な女の子の相手はそれなりに経験がある。
取りあえず基本戦略は無間封頼殺からの母の温もり
って感じかな。
梅原先生期待してますよ。
俺の前を走る梅原先生は
息すら切らしていないものの、
目は真剣そのもの
一刻も早く現場に着こうとしていた。
これなら30分強で着けるかもしれない。
俺にとっては地獄だが、
この前のデスロードが意外な耐性を付けさせていたのか、
しんどいはしんどいがまだ余裕がある。
これなら現地での作業も問題ないだろう。
「清水、もう少しスピードあげられるか。」
「ぐっ。まだいけますよ。」
「その荷物も持とうか。」
「こいつは色々”繊細”なんでいいですよ。
そっちの着替えや飲み物類持ってもらっただけで十分です。」
「•••私はがさつか?」
「いや、そういう意味ではなく•••。
でも豪快なあなたも好きだー!」
「アホ!森の中で何を叫んでるんだ!!」
「あー、いつもの打撃に比べて威力はないけど、
あたまペシンもいいですね。」
「このどマゾ!!!」
「あんたら、何やってるんだ•••。」
走りながら夫婦漫才をかましていた
俺たちに前田さんが呆れたように突っ込んだ。
どんな状況であっても梅原イジリはやめられない。
本来なら体力の消耗を出来るだけ押さえるべきなのだろうが、
走ってテンションの上がった俺たちは
キャンキャン騒ぎながら、
しかし全速力で森の中を駆け抜けて行ったのだった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
道中でのこの後に向けてのフリが長くなってしまったので
ここで切ります。
桜月さん、タカさんのキャラと展開大丈夫ですか?
問題があったら言ってくださいね。
なぜか、清水のマゾレベルが上がってます。
ありがとう、デスロード。
次はいよいよ救出編です。
清水の新技(今回は中2技ではありません)をご堪能ください。