表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/124

6月14日 潮騒の中で

PM7:00


夏の浜辺もようやく日が落ちてきて涼しくなってきた。

二日続けての浜辺ではあるが、昨日とは打って変わって

波の音だけが聞こえてくる静かな景色である。

そんな場所であるから

隣に横たわる女性の「はあー」というため息が

よりはっきりと聞こえてきた。


「お疲れ様です、梅原先生。」

「なんかどっと疲れた気がする。

天狗仮面に日生のお母さん、

ホントこの町は良くも悪くも

濃いのが多いよ。」




ここはうろな町北東にあるビーチの砂浜。

学校の仕事を終え、視察がてらここに

やってきたのだが、色々あったものだ。


始めにこの前知り合って一緒に合同企画の

準備をしている天狗君に出会ったんだが、

彼こっちの軽口を真に受けて梅原先生を

いじってくれたものだから、

調子を合わせたら大騒ぎになってしまった。


先生の裏拳を食らって、気づいたら

二人がVSモードに入っていたから

内心慌てて止めに入ったんだが、

怪我の功名だったな。


天狗君への対抗意識を逆手にとって、

梅原先生にケイドロ大会への参加を

促すことができた上に、

こちらの希望していた警察役だからな。

さてさてこの後早速果穂先生に

メールしておかないと。


婦警梅原・・・、げへへ。

俺も捕まえてくれー。

あなたという牢獄に一生縛り付けてください!




「何がおかしい」

「いやいや、何だか明日久しぶりに

剣道以外の本格的な運動をすることになったなーって、

苦笑いしていただけですよ。

風邪で寝込んでいたせいで体もなまっていたんで

ちょうどいいんですが、

何分長距離走は得意じゃないもので。」


あぶない、あぶない。

妄想も大概にしないとな。


それにしても”デスロード”かー。

長距離は軽いジョギングぐらいならいいんだけど、

真面目に走るとなるとどうしても

ボロが出やすくなるからな。

この前の鹿島との大バトルで思ったんだが、

やっぱり俺は体力的に余裕がなくなると、

本性が出やすくなるんだよな。

あんときは熱で錯乱していたってことで

梅原先生にはごまかせたけど、

今後は気を付けないと。




「ああ、そうか。

安請け合いしてすまなかった。

まだ体に不安があるなら無理するなよ。」


そう言って梅原先生が実に心配げにこちらを

覗き込んできた。


この一週間、梅原先生は大分俺の体のことを

気遣ってくれている。

さすがに金曜日夜から日曜昼にかけて

ブッ倒れたのはまずかったな。


心配してもらえるのは実に嬉しいんだが、

ツッコミもさっきの裏拳が久しぶりな

くらいで、どうにもやりにくい。

先生にはいつもバカなことで怒って

笑って元気でいてほしいんだ。

結構考え込むところがあるタイプな

気がするから深刻にならないように

気をつけてあげなくちゃな。




「そう言えば海の家の日生さんたちって

ご兄妹なんですよね。

うちの1年の隆維と涼維がお兄さんの方のお子さんで

妹さんの方のお子さんが今高校生なんでしたっけ?」

「まあ、あそこの家は色々複雑だからな。

鎮や千秋がうちの中学にいたときも、

色々掛け合ってみたんだが、

どうにも暖簾に腕押し気味で。

本人たちはいい子達で

自分たちの状況を受け入れているのだが、

あの年代で変に大人びている連中を

見ているとどうにも心配になってくる。

子供でいろ、なんてあいつらの事情や思いも

知らずに言うことはできないが、

それでもちゃんと甘えたい時に

甘えられているのかを思うと、

どうにも放っておけないんだ。

お兄さんの方も変わってはいるが

しっかりした人だからちゃんと

気は配ってくれていると思うんだが。」


そう言って梅原先生は今度はさっきよりも

小さくしかし色々な思いを込めたように

ため息をついた。




本当に教師になるために生まれてきた

ような人だよな。

厳しい躾をされたせいか基本きちっと

しているのに、どこかおっちょこちょいで、

でも生徒に何かあれば

全てをかなぐり捨てて向かっていく。


目標とすることが出来て

でも親しみが持てて

困ったときは頼り、甘えることができる。

こんな大人は子供達の周りにそうはいないだろう。


梅原先生がどのように今の彼女になっていったのか、

少しずつ知っていけたらいいな。

剣道のこと、ご家族のこと、教師を目指したこと、

教師として頑張ってきたこと、

そして一人の女性として思うこと。


願わくばそれを受け止めるのが自分でありたい。

どれが本当の自分かも分からない、

何枚もの仮面をかぶった俺だけど、

このわき上がる感情はきっと深いところからの

ものな気がする。

半分遊びのつもりだったはずなのに、

知れば知るほど彼女に

のめり込んでしまっている。


鹿島の件ではっちゃけてしまったことも含め、

俺の中で何かが戻ろうとしているのか、

それとも根本的に変わろうとしているのか、

まだ俺にも分からない。

正直不安がないわけではないが、

悪くないと思うのも事実だ。


ふふふ、教師なんて似合うはずないと

思っていたけど、

意外と性にあっているようだ。

あとは梅原先生とこのうろな町に感謝だな。

ありがとよ。






あーでもしかし、星空の下、

好きな人と二人で浜辺で寝っ転がっているって

なんか美味しすぎるシチュエーションだよな。

しかも梅原先生はいつもより湿っぽくてきれいな感じ。

あー、もうたまんねー。




このままの雰囲気に流されると正直止まらなく

なりそうだから、いつもどおり行ってみますか。


「梅原先生」

「ん?どうした?」

「好きだーーー!!!」

「ギャーーーー!!!」


俺はアンニュイな感じになっている梅原先生を

抱きしめたまま砂浜に押し倒すと

そのまま砂浜をゴロゴロ転がりだした。


「あははははは」

「わーーーーー」


俺は笑いながら、梅原先生は大混乱に陥りながら、

共に砂まみれになりながら転がっていく。


俺も目が回ったところで止まって梅原先生を砂浜に降ろし、

自分も仰向けになって砂浜に寝っ転がった。




「な、な、な、何をするんだーーー!!」

「いや、まあ、色々ままならないですけど、

バカやって海見て、この星空を見たら少しは

元気が出るかなーと思って。

しかし細かい砂粒ですよね。

砂まみれになったと思ったら簡単に落ちていきますよ。」


俺は息を切らしながら、詰め寄る梅原先生にそう答えた。

真剣に考えることも重要だけど、

馬鹿になることも大切だ。


「い、意味がわからん!

大体少しはムードとかそういうものを・・・。

はあー、私はこいつに何を期待していたんだ・・・。


まったく、明日休みだとは言え、

服が砂だらけじゃないか。

服の中にまで入ってきているし。」




ブツブツ文句を言いながら

砂を払い始めた梅原先生を見て、

改めて俺はにやっと笑った。


それでいいんですよ。

もう少し、このじれったい感じを楽しませてください。

俺が色々覚悟が出来るまで

ちょっとだけ待ってもらえると嬉しいです。

ムードのある展開はその時のお楽しみということで。





「さてもう暗くなってきましたし帰りますか。

明日も色々大変そうですし、帰って英気を養いましょう。

この大きな貝殻でも梅雨のお土産に持って帰りましょうか。」

「ああ、そうだな。

でもこの音がなる貝も喜びそうだ。

あの子がもう少し大きくなったら、この海で取れた

お魚でもあげたいな。」

「そうですね。今度は南東の漁協の方にも行ってみますか。」


梅雨の話になると梅原先生はすっかりそっちに気を取られてしまった。

少し妬ける気もするが、

”子ども”の将来について彼女と話すのも悪くはない。


「あー、でも服に入った砂がもさもさする。

早くシャワーを浴びたいな。」

「ふざけたことしてすいません。

お詫びにお背中流しましょうか。」

「おお、殊勝な心がけだな。

・・・んな訳あるか、

このエロ変態アホ清水!

って、何逃げ出してるんだ、

待たんかーーーー!!!」

「ははは、やっぱり怒った顔の

方が可愛いですね。

では明日に向けてウォーミングアップといきましょう!」




俺は先生をからかうと同時に打撃を避けるために

走り出した。


本人は一切気づいていないだろうが、

男女で砂浜を走るというのも中々ムードのある

シーンな気がする。

うん、この砂浜でのやり取りを脚色して

観光客用のキャッチコピーでも考えようか。


俺はそんなことを考えながらも、

夜の砂浜をそれなりに全力で駆けぬけていった。


うろなの潮騒は静かなようで騒がしい。

実にうろな町らしい音色であった。



シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


今週色々忙しく全然執筆できていませんでしたが、ようやく投稿できました。

本当なら東部を色々紹介するつもりが、単に夜の砂浜で二人がいちゃつく

だけの内容に・・・。まあ、これはこれでいいか。


二人をこの日作品に出演させてくださった

三衣千月さん、とにあさんありがとうございました。

それぞれのキャラの名前を出させていただきましたが

気になる点があったら言ってくださいね。

是非今後共絡ませていただければ嬉しいです。


土曜日は森に行き、山にも行きとなりそうです。

これで北にも西にも行けるから、日曜日はお休みにしようかな。

あ、デスロード後でどうせ清水動けないか(笑)

月曜日に色々頑張るために英気を養ってもらいましょう。

では皆さんよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ