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6月7日 その4 一番大切なもの

「全く、難病の妹に未認可の新薬を

使ってやるためとはいえ、

金を稼ぐのにもう少しまともな

会社を選びやがれ。


外資系コンサルタント会社といえば

聞こえはいいが、法律違反スレスレの

超ブラック投機会社じゃねえか。


県議会議員に献金して高速道路建設の議決を

促して、国まで上がって来たら持ち株会社を通して

政治献金を行っている政党に圧力をかけて予算に繋げる。

その莫大な予算で関連する土木建設業、潤う商業施設の

株を売り抜けるってどんだけ無茶苦茶なんだよ。


全く被災地ブローカーの次は何やってるんだ、あの会社は。

正直二度関わり合いになんかなりたくなかったのに。」


「うるさい。

外資系とは言っても、

投機ショック以降、

こちらがどんなに優秀だろうが

新卒に数千万払う会社なんか

そうはないんだよ。


このうろな町はこれからの発展が著しく、

また町長の交代で運営に隙があるってことで

俺が派遣されて来たんだ。


しかも厳密には法律違反はやってない。

あくまでも基本はショッピングモールの利益の

増大と管理会社の株価上昇を狙っての交渉だ。」






俺は鹿島に「妹さんの件で重要な話があるから

どこか人払いできる場所を用意しろ。」と持ちかけた。

するとこのまま話を進めることがまずいとようやく

理解した鹿島は俺を資料室とかいう部屋に案内した。


梅原先生には「妹さんの件で少し彼と相談してくる」

と一応断りは入れたが、

いきなり外で轟音やの叫び声やのが聞こえてきていた状態で、

無理矢理笑顔を作った俺の言葉をどれだけ信用してくれたのやら。

終わった後、どうやって言い訳しようか。

あー、心配してたら、さらに気持ち悪くなってきた。




そして部屋に入り、外に声が漏れないと

確認した直後、俺は体調の悪さを含めた全てのイライラを

ぶつけるように鹿島を怒鳴りつけた。


俺の口調はすでに教師のそれではなく、

相当荒れたものになっていた。

正直鹿島もエリートコンサルタントの地位を追われて、

自暴自棄になっており、

相当乱暴な言葉づかいであったためお互い様という感じではあった。


ともかく先ほどまでの二人の会話を聞いていた人間には

とても同じ人間同士の会話だとは理解出来ないだろう。

もちろん内容もとんでもなさ過ぎて意味不明だろうが。






「”厳密”にはって、ほぼグレーじゃなくて

ブラックだろう、この詐欺師共!

被災地でやった献金を用いて誘導した補助金のむしり取りを転用して、

補助金自体は地元のハイエナ達に食いつかせて、

自分たちは株価の上昇による売り抜けで稼ごうとしやがって。

反省するどころか、よりやることがタチ悪くなっただけじゃねえか。


ああ、もうあんな頭の利用の仕方を間違えてる連中の相手を

するのに大学で嫌気がさしたから、

このほどほどの田舎でのんびりやろうと思ったのに。

なんで人が楽しく先生やってるのを邪魔してくるんだよ、お前らは。


お前だって、ここの病院に妹を入れたのは、

設備の充実度だけでなく、緑豊かなこの環境が、

妹の体にいいと思ったからだろ。

その自然を破壊するような計画に

手を貸すなんて、

頭腐ってるんじゃねえか!」


「知ったような口をきくな!

俺だってそんなことは分かっているんだ。

元々のミッションはあくまでもショッピングモールの

利益の増大とそれによる株価の上昇のみだったんだよ。

普通に客足の増大を広告を効果的に打つ等して進めただけだ。


それがあのクソ議員、何のコネがあったのか、

上層部に高速道路建設の話を持ちかけやがったんだ。

それで丁度この町にいた俺がその担当者にご指名だ。

すでに萌はこっちに移って来ていたし、

総合病院の先生に新薬の投薬に関する協力も取り付けたあとだった。

ヤバくても進める以外どうしようもなかったんだよ!」




そういうことかよ。

鹿島”も”被害者ってか。


あの野郎、教育改革とか抜かして

10年以上同じ学校にいる教師を強制移動とか

学習時間の確保のための部活動は短縮とか

うちの県では野蛮な武道はカリキュラムから排除するとか

俺と梅原先生の仲を引き裂くような政策ばかりかかげやがって。

あまつさえ、こんな面倒くさいヤマをこの町に持ち込みやがっていたのか。


よし、あのクソ議員死刑決定。

絶対に失職に追い込んでやる。

まともに表を歩けなくしてやるから覚悟しろ!




鹿島の話を聞いて

最終的に鉄槌を食らうべき人間が誰か

見定めた俺は暗い炎を心の中で最大火力にした。


そんな俺の前で

事件について言いたいことは全て言いきったのか、

鹿島は崩れ落ちるように座り込んでしまった。


「でもいったいどうしてくれるんだよ。

管理会社の営業課長職は決して給料は低くないが、

萌の治療費を考えると全然足りないんだよ。

しばらくは貯金でなんとかなるが、

俺はあいつに大人になっても元気で生きていて

ほしいんだよ。

そのためだったら何だってする覚悟だったのに。

テメエのせいですべてダメになっちまったじゃないか!」


そう食って掛かる鹿島の声は半分涙声だった。


こいつは元々全国最難関とされる大学に通う

普通の優等生であったらしい。

それが両親の事故死や妹が難病を発病したことで

状況が一転。

なんとか妹の治療費を稼ぎ出すために、

親の保険金を元手に危ない橋を

いくつも渡ることになってしまったらしい。

卒業後その経験を金に代えるために、

外資系企業の中でもかなり危なく

しかし実入りは抜群にいい先ほどのコンサル会社に入り、

出向社員としてこのショッピングモールの営業部に来ていたらしい。

妹の病状も安定し、仕事自体も比較的安全な仕事ができたと思っていたら

今回の騒ぎに巻き込まれたようだ。


そう、殆ど全てを失ってしまった気でいるこのシスコン男にとって

今はもう泣くしかないようなどん底の状況なのだろう。


全く男の泣き顔など見苦しいだけだ。

さっさと例の電話は来ないのか。

「あの人」のことだ、

すでに財団の認可は

何とかしてくれているはずなんだが。






プルルプルル、プルルプルル、プルルプルル。


そんなタイミングでまたもや

鹿島の携帯が鳴り出した。


しかし鹿島は出ようとしない。

携帯を手にしてはいるが

がっくりうなだれたままである。


「早く出ろよ。」

「うるさい、もう放っておいてくれ。」


この、バカ兄貴。

こんなところでヘタれやがって、

本当にもう世話が焼けるな。


「ふん、所詮お前の覚悟なんてそんなもんか。

どうせお前にとって一番大切なのはそのちっぽけな

プライドに過ぎなかったんだろう。

何が妹のために何でもするだ。

結局お前は自分の自己満足のために妹に尽くしていたに

すぎないんだろう。

違うかこのヘタレシスコン!」


あれ、慰めるつもりが喧嘩を売ってしまった。

なんかどうもこいつを見てると怒鳴り散らしたく

なるんだろうな。

どうしてだろう?




しかしこの罵声がほどほど効果的だったようだ。

鹿島は再び怒りを目に宿すとこちらを睨みつけて来た。


「テメエなんぞに何が分かる!!

俺がどれだけ萌を大事にしてきたか、

どれほど萌を愛しているか、

貴様みたいな冷血野郎に分かってたまるものか!

俺にとって世界で一番大切なのは萌に決まってるだろうが!

いい加減なこと言ってるんじゃない!!!」




こいつホント真性のシスコンだな。

ああ、分かった、何でこいつがムカつくのか。

こいつ”昔の俺”にそっくりなんだ。

俺の場合は姉貴だが、

まあ、よくもまあ昔は恥ずかしげもなく、

「お姉ちゃん、お姉ちゃん」言っていたもんだ。

俺のどうしても忘れたい恥部をこいつの痴態が

思い出させるのだろう。


俺が昔の言葉遣いに戻っているのも

そんな影響があるのかもしれない。

まあ、それは一旦置いておこう。

取りあえず、こいつを電話に出させないと。




「分かったから早く電話に出ろ。

その電話がお前の可愛い妹さんの急変を伝える

ものだったらどうするんだ。」

「テメエ本気でぶっ殺すぞ!!!

そんなわけ、え、病院から!

そんな、嘘だ。

萌、萌ーーーー」




恥ずかしげもなく、妹の名前を全力で連呼した

鹿島は大慌てでリダイヤルをしていた。


「すぐに出られず申し訳ありません。

鹿島ですが、妹に何か!

へ、ど、どういうことですか?

来月から妹の薬代が免除!?

それは、どういう•••、

え、あのユウ記念財団の登録患者に萌が。

しかし以前登録申請をした時には

応募者が多く、難しいという

お話でしたが、はい、

急に決まったと。

あ、ありがとうございます。

本当にありがとうございます。」




相手は担当医だろうか。

鹿島は涙を流しながら、

電話口に向かって頭を下げていた。


ちなみにユウ記念財団というのは

難病に苦しむ子ども達とその家族を支援する

ために設立された財団である。

なんでそんな所と俺がコネがあるのかは・・・秘密だ。

これは俺のコネの中でも非常に重要なものの一つであるのだが、

まあ、こういう時でもないと使う時はないからいいか。

別にこのシスコン男のために便宜を図った訳ではない。

俺は”自分の生徒”には優しいだけだ。

萌ちゃん、俺は嘘は言ってなかっただろう。




鹿島は涙を拭かないまま、

しばし呆然としたままだった。

しかしその顔にあるのは先ほどまでの

絶望や怒りではなく、どこかホッとした

ような安堵の表情であった気はする。




しばらくして正気を取り戻した鹿島は

そろそろ戻るかという俺に対して

こう偉そうに言った。


「今回の件に関して俺がお前に感謝すべき

ことなど何もない。

というか俺にはお前を恨む権利すらあるはずだ。

だが、萌のことが”だれかさん”のおかげで上手く

いった以上、その人に免じて今回の件については

俺は誰も恨まないことにする。

当面は無理をして金を稼ぐ必要がない以上、

このショッピングモールの営業課長として

真面目にやっていくつもりだ。

ここしばらくあまり萌の見舞いに行けなかった分、

毎日でも行ってやるつもりではあるがな。

これで文句はあるか!!」


・・・やはりダメだ。

直樹さんのツンデレは多少なりとも

可愛げを感じるのに、

コイツのツンデレにはムカツキしか感じない。

萌ちゃんにとっては最良の結果になった以上、

祝福してやってもいいのだが、

どうしてもそういう気持ちにはなれない。


よし、やはり元シスコンとして大事なことを

こいつに告げてやろう。

別にこのことを告げたとしても

こいつが思い悩むだけであって、

萌ちゃんや他の誰かが苦しむ訳ではない。

現実を思い知れ、このヘタレシスコン!




「別に文句はない。

お前に感謝などされても気持ち悪いだけだ。

ただ一つお前に言っておくことがある。

鹿島、お前は萌ちゃんに元気に

大人になってほしいんだよな。」

「当然だ。」

「鹿島、妹は大人になったら

基本誰か別の男と結婚するんだ。

お前の手元からはいなくなる。

それを忘れるな。」

「•••萌は、萌は、

嫁になんぞやらん!!!」




俺は必死の形相で現実から目を背けようとする

鹿島を見て、また嫌なことを思い出していた。


俺が高校時代全国模試でも最上位層にいながら、

鹿島や直樹さんと同じ大学に行かなかった最大の理由。


それは首都で新婚生活をスタートさせた姉貴の

姿を見たくなかったからでは決してない。

旦那とイチャイチャする姉貴の側にいるのが

耐えられなかったからでは全くない。

絶対にそうではない。






鹿島のアホのせいで

昔のことを色々思い出したためか、

なんか一気に疲れが出て来た。

正直熱もぶり返してきた気がする。

本気でしんどい。


とにかく梅原先生に早く会いたい。

そして様々な過去の過ちを忘れたい。

俺のナンバーワンは誰が何と言おうとあなたです!


俺はその一心で足を前に動かし

梅原先生の待つ応接スペースへと

歩を進めて行った。

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


記念すべき30話。

長くなったのは仕方ないし、

清水の過去についても少し触れようと思っていたのですよ、始めから。


あれ、何か思っていたのと違う。

とりあえず清水のキャラ崩壊が深刻。

今週は「家族」が裏テーマだったので、

清水のお姉さんの話も入れようとは思っていたんですが、

別に元シスコンの設定にする気はなかったんです。

もうちょっと彼のトラウマみたいなのに迫るシリアスな話を

書くつもりがなんか途中から変な方向に。

まあ、彼風邪を引いている設定なので

それでとち狂っていたということで。


鹿島さんが元々単なるやられ役の予定が、

清水と根本的な似た者同士みたいな感じになってしまいました。

これはこれでこういう立ち位置のキャラはいて悪くないと思うんですが、

シスコン度合いが予想以上に深刻に。

なんか、どうしようもない変態をもう一人増やしてしまった

気がします。


あともの凄く裏で色々行われていた感じになってしまいましたが、

今後そんなに絡ませる予定はないのでスルーしていただければ。

一部もう一つの連載作品(ここ1週間ほど更新できていない)の

設定を使っていますが、こちらもあまり気にせずにいただければ。

もちろん現実にはこんな暗躍は行われていないはずです。

もしくはもっとエグイことが行われているかもしれません。


次話はもう次の日に飛んで、梅原先生に看病してもらいながら

今回の顛末と来週(現実では今週)の予定について書きたいと思います。

うわー、マジで現実に追いつけるのか、不安になって来た。

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