6月7日 その3 極高重落撃+α
「先生、いきなりどうしたんですか?
え、い、一体どういう事ですか!?
”全て白紙に戻す”なんて、
何を言ってるんですか!?
あれだけ支援を受けておいて今更何を。
そ、そんな、”政党本部からの圧力”!?
このまま進めるなら次回の公認が得られないって、
そんなバカな!?
先生?先生、待ってください。
まだ、お話が•••」
開け放たれたドアからそんな会話が聞こえてくる。
どうやら”高速道路建設計画に対する県レベルでの議決”
はなしになったらしい。
これで町議会の反町長派がどうこうすることなどできないだろう。
この件については後は町長、あんたに任せるよ。
あんたが町のために後々この計画を進めたいなら好きにしてくれ。
ただし”あんなアホ”をあんたは仲間に入れない事を祈ってるよ。
俺はあんたと梅原先生の件以外で事を構えるつもりはないんだから。
「ちょっと、様子を見てきますね。
お手洗いにも行きたいですし。」
「あ、ああ、分かった。」
状況を上手く飲み込めていない梅原先生は
ずっと首を傾げていた。
その事に対し、申し訳なく思いながらも、
俺は”仕上げ”のために部屋を出た。
部屋の外では鹿島が呆然とした
表情で携帯を持ったまま突っ立っていた。
ここまで手を尽くして進めて来た計画が
水泡に帰したのだから無理もなかろう。
「鹿島さん。」
「•••」
彼は何も言うことが出来ない。
いや、そもそも”何が起こっているのか”
理解できないのだろう。
正直このまま放っておいてもいいのだが、
絶望のあまり自殺でもされたら困る。
一応事情を説明してやろう。
「しかしあの県議会議員さんも情けないですね。
”私がこの地域の経済を、教育を救う”とか
息巻いてた割には、ちょっと偉い
国会議員から苦言を呈されたくらいで
重要な政策を放り投げてしまうんですから。
そんなんじゃ、仮に公認を得られたとしても
次の県議会選挙じゃ、落選するんじゃないですかね。」
「あ、あなたはどうしてそれを?」
そりゃ、そういう圧力がかかるように
俺が各所に働きかけたからに決まってるじゃないですか。
全国最難関の進学校にいて、
そこの生徒会長として
その生徒•保護者だけではなく、
連携担当として他の進学校やお坊ちゃん学校、お嬢様学校と
交流があれば色々なコネが出来ますよ。
それに大学時代もなくなってしまった町を一から作り直すのに
加わったりしたせいで、政治家さんや官公庁などにも
少しは顔が利くんでね。
まあ、もちろんあの議員さんが色々問題を実は起こしてて
これ以上変なことされて明るみになったらたまらないから
っていう向こうの事情の方が大きいんだとおもいますがね。
まあ、そんなことまであなたが知る必要はありませんよ。
「さあ、何ででしょう。
でもあの議員さん、
うろな町議会の反町長派と結託というか、
そっちに圧力をかけたりとか色々
悪い事をしていたって噂ですからね。
バチが当たったんじゃないですか?
というか、鹿島さんこそ、
どうしてそんな人と知り合いなんですか?」
「そ、それは•••」
そりゃ、あんたがこのショップングモールの集客増のため、
あのアホ議員の押し進める高速道路建設事業に協力していた
からだろ。
接待費とか結構使ったんじゃないのか?
この町の未来を左右する内容を、
町の人間の意思を無視して、
上位の権力を用いて決定しようと
するってのは、気にいらねえな。
そういう奴に食らわせるのはこの技と決めてるんだ。
名付けて、極高重落撃。
身の丈に合わない権力を振り回す奴には
それよりはるかに大きな権力をぶつけて叩き潰す。
町に対して県をっていうなら、
こっちは県に対して国を持ち出すだけだ。
もちろんこの技はそういうコネがあって
なおかつ相手がそう動いてくれる理由付けを
探さなくちゃいけないんだが、
まあ、そのために長期間かけて仕込んでるんだよ。
ちなみにこれを考えついたのは高校の生徒会長時代。
連携校の仲が良かった女子生徒に、
教育委員会のお偉いさんを父親に持つクズ教師が、
その権威を盾にセクハラを繰り返していたんだが、
文部科学省や市を巻き込んでそいつを懲戒免職にしてやったんだ。
その際友人から
「確かに人助けだが•••。
正直単なる脅迫よりはるかにタチが悪いというか、
ゴキブリを殺すために隕石を持ち出している
気がするのは俺だけなのか?」
と非常に複雑な顔をして言われたのを覚えている。
確かにとばっちりで同じようにセクハラとか
問題を起こしていた教師十数人の首が同時に吹き飛んだ
らしいが、まあ自業自得だろう。
ただまともな先生達の仕事も増やしてしまったのは
反省だったな。
田崎さんごめん。
まあ、でもそれだけだったらそこまでの問題じゃないと
思うんだけどなあ。
この件が本当に大きな問題になるのは、
あんたの”本当の肩書き”が原因なんじゃないのかね。
さてさてそこまで突っ込むべきなのか、どうか。
ただ”あの会社”だったら、行動は早いと思うんだが。
プルルプルル。
また鹿島の携帯が鳴り出した。
「今度は何を•••、
ディレクターから!?」
あちゃあ、やっぱりか。
そりゃ、あの県議会議員、
そして政党本部からも
”スポンサー”に連絡がいったんだろうな。
ここで連絡があるというのはおそらく•••。
「はい。鹿島です。
え、ちょっと待ってください。
この計画が失敗したからといって、
まだ”出向先”は十分な利益を上げていますし、
そんな、無茶苦茶な。
待ってください、今クビになったりしたら、
妹の治療費が!
今の会社での雇用は維持されるって、
それだけでは•••。
そ、それは、もちろんそんな事になったら•••。
•••はい、分かりました。
今までありがとうございました。
それでは。」
ダン!!
鹿島は電話を切ると同時に
壁を思いっきり殴りつけた。
その顔は今までの生気の抜けた
それでなく、憤怒と憎悪に溢れていた。
予想通り”用済み”か。
それを覚悟で鹿島も入ったんだろうから、
自業自得ではあるが、
妹さんのこともあるし、
最後のフォローはしてやるか。
極高重落撃は中々目的のものだけを
打ち抜くって訳には行かずに
+αもくっついてしまうんだよな。
まあ、だからこの技をここまで大げさに使うのは
2回目だしな。
今回に限っては鹿島にとっても
悪くないと思うんだが、
言われなきゃ分からんわな。
うわー、下手に話しかけると
殴られそうだ。
しょうがない、その時はその時だ。
「鹿島さん。」
「なんだ。」
その目は血走っており、
声色も今までのものとは打って変わった
ドスの利いたものになっていた。
妹を守るために全てを犠牲にして生きて来た
狼の本性が、そこでは露になっていた。
うん、この方が作り物の笑顔よりはよっぽどいい。
「どうやら本当に管理会社の営業課長になられたようですね。
元ゴールドメンクラウド 地域コンサルテーション事業部
うろな町担当コンサルタントさん。」
「やっぱり、テメエの仕業か、清水!!!」
バン!!
鹿島は俺の胸元を掴むと
壁に叩き付けた。
「ぐふ、体調不良の人間に何するんだよ。
萌ちゃんに嫌われるぞ。」
「その口で何を言うか。
萌が死ぬなら貴様も道連れだ。」
あーあー、完全に頭に血が上ってる。
こんな場面誰かに見られたら
傷害罪になるぞ。
折角詐欺や横領の罪をおっ被らされる
のを回避してやったというのにこのバカ兄貴は。
さてそろそろ息も苦しくなってきたし、
説得を始めますか。
「ふざけんな、バカ兄貴!
その大事な妹を救うためにお前が手を汚して
どうするんだよ、この大馬鹿野郎!!!」
「ぐ!!」
大声で怒鳴った俺は最後の台詞と共に
全力の頭突きを鹿島の顔面に食らわせてやった。
誰かに本気で暴力を振るうのは久しぶりだ。
顔を押さえてうずくまる鹿島を目の前に
俺は服の襟を直し、息を整えながら、
この騒ぎを終わらせるための
最後の種明かしの準備を整えていった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
ということで中2病技第二弾です。
何か当初の予定より大分大げさなものになってしまいました。
そしてまさかのハードボイルド展開。
暴力を振う清水はこの場面以外では基本出さないつもりです。
基本口先でなんとかする人間ですから。
それだけ余裕がなく、必死だったということで
お許しください。
あと出て来た会社の名前は完全なフィクションであり、
コンサルタントのお仕事はそんな危ないものではない(はずな)ので、
誤解のないようにお願いします。
次話でこの兄妹のお話に一応のケリを付けようと思います。