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6月7日 その2 笑顔の裏に潜むもの

PM5:00


現在梅原先生に対して熱心な説明を

行っている、鹿島茂(かしましげる)

”絵に描いたような”好青年であった。


「先生方、雨の中お越しいただき

ありがとうございました。

うちのショッピングモールはいかがでしたか?」

「非常に立派な施設ですね。

主に商店街を利用しているので、

こんな感じだとは知りませんでした。」

「まだまだ”当社”の営業部も努力が

足りませんね。

もっと足を使って地域の皆さんに

知ってもらえるように頑張らないと。

でもすごく魅力的な施設ですので

週末の時間の空いた時にでも

また是非お越し下さい。


妹の件についてもいつもお世話になっております。

お忙しいとは思いますが、

よろしければまた萌に会って行って

いただけませんか?

梅原先生が来た日はあの子は

本当に楽しそうにしていますので、

何とかお願いします。」


「そんなに畏まらないでください。

教師として当然のことをしている

だけですから。

素直な彼女と話していると

私も日常の疲れを忘れられますから、

今月中にでも必ず行かせていただきます。」


「本当にありがとうございます。

先生方にはご迷惑をおかけし、

あの子にも寂しい思いをさせてしまっていて、

保護者として情けないばかりですが、

今後ともどうかよろしくお願いします。」




基本は弾けるような笑顔で

施設をそれとなくアピールする一方、

妹さんの話題に対しては平身低頭、

妹思いのお兄さんとして、

必死の懇願をしている。




「ではこのまま打合せの方に入らせて

いただきますね。

基本的に当社としては

”何でも”やらせていただければと

考えております。

やはり出来てまだまだ日の浅い当社は、

商店街さんやスーパーさんと比べて、

まだまだ地域への貢献が足りていない。

当社の施設を使っての探求活動でも、

各店舗における職場体験やインターンシップでも、

できることからやらせていただきます。

当社にはかなり多種多様な業種の店舗、施設が

そろっていますから、

生徒のみなさんにも幅広い経験をしていただけるのでは

ないかと考えております。

系列のショッピングセンターで実施した

授業案などもこちらにご用意させていただいて

いますから、是非参考にしていただければと思います。」




そう非常に前向きな発言をした上で、

カラーの資料まで見せて来た。

その資料も実に良く作り込まれており、

ショッピングモールの管理会社の本社サイドで

用意したとしても”出来が良すぎる”ぐらいである。


梅原先生はその資料を見て半ば感激さえしている感じである。

確かにここまで学校相手にしてくれるところなど、

企業の社会貢献が重要になって来た昨今であっても

中々ないだろう。

生徒指導での地域で起こる非行への対応を始め、

様々な対外交渉に取り組んで来た梅原先生からすれば、

これほど”ありがたい相手”は滅多にないはずだ。




「本当にありがとうございます。

ここまでしていただけるなんて。」

「いやいや、これからの企業は地域•学校と

深い結びつきを持って行かないとダメですから。

そう言う意味で、今回『教育を考える会』で

皆様と更なる繋がりを作る機会を得たことを

本当に嬉しく思っているんですよ。

企画してくれた”新町長には感謝”しています。

こちらとしても皆さんと一緒に成長させていただき

たいのです。

今後ともどうぞよろしくお願いします。」


そう言って会社として連携に積極的であることを

改めてアピールした上で、

向こうからのお願いという形で話を締めた。


いつの間にか”お願いする方が逆転”している。

フフフ。俺の「無間封頼殺」の変化版という感じか。

そこそこやるじゃねえか。

梅原先生がどこか惚けた様子でいるのも仕方がない。




まあ、でも今までの話からでも色々分かったことはある。

なるほど、”表向き”は親町長派って訳か。

これは向こうでもかなりの駆け引きが行われているんだろう。

この町においてこのショッピングモールの雇用は

でかいはずだし、かなりの大票田だろうからな。

反町長派も強気の態度には出られないって訳か。


まあ、そもそも”政党レベルのスポンサー”に

町議会議員で太刀打ちするのは荷が重いか。

どうやら俺の仕込みは大げさではなかったようだ。


さて、そろそろ真面目に口を挟みますか。

このまま行ってもでは是非協力をお願いしますで、

終わってしまい、向こうのシナリオ通りだ。

向こうの様子からまだ”例の連絡”は来ていない

みたいだし、時間を引き延ばしがてら、

探りを入れていきますか。








「いえいえ、こちらこそよろしくお願いします。

では是非今年度から」

「ちょっといいですか?」


梅原先生が具体的な連携案を言い出すのを遮り、

俺は改めて鹿島茂に向き直った。


「どうしたんだ?」

「すいません。いくつか聞いておきたいことが

あったもので。

鹿島さん、よろしいですか?」

「は、はい。何でしょうか?」


おいおい、なに素で驚いてるんだよ。

そこは笑顔で興味深そうに聞き返さなくちゃ。

まだまだ”人たらし”の経験が足りないな。

あんまりがっかりさせるなよ。




「今日、ショッピングモールの駐車場を

見させていただいたんですが、

かなり大型ですよね?

この町の規模で使用率は十分確保されているんですか?」

「ちゅ、駐車場ですか。

いやいや、きちんと採算は取れていますよ。

もちろん更にお客様が来ていただけることを目指して

いるので、かなり広めに作ってはいますが。」


やはり使用率がそれほど高い訳ではないか。

まあ、この辺りは再開発のために安い土地を

買いたたいたらしいし、ショッピングモール自体で

十分な利益が出ていれば問題はないってことか。

もちろん”問題ない”ではダメなんだろうが。




「清水、一体何の話をしているんだ?

今は駐車場なんて関係ないだろう?」

「そうでもないんです。

申し訳ありませんが、

少し任せてもらえませんか?」

「そういうなら、いいが•••」


こちらの説明に、

梅原先生は納得がいかないようだったが、

一応引き下がってくれた。


コソコソやってごめんなさい。

でもあなたをこんな”バカな”話に

巻き込みたくはないんです。




俺たちのやり取りに鹿島は

怪訝な表情をしている。


コラ、そんなに簡単に

表情を崩すんじゃねえよ。

笑顔を基本路線で行くなら、

相手の目の前でそんなに簡単に

気を抜くな。


ああ、そうか。

こいつは俺を

”敵”だとさえ認識できていないんだったな。

それじゃ、仕方がないか。

もう少し突っ込んでいきますか。




「いや、あんなに広い駐車場があったら、

あそこ一杯にお客さんが来て欲しいと言うのが

人情じゃないですか。

その点についてどう思われます?」

「も、もちろん営業課でも電車でいらっしゃるお客様

だけでなく、車で来てくださるお客様を増やすために

努力をしておりますが、どうしてもうろな町の

人口規模ではなかなか難しい点がありまして。」


うわー、それを言ったらなんでそんな規模の

駐車場を作るんだって話になるじゃないか。

こいつ、本当に”担当者”として大丈夫だと

見なされているのか?

なんか逆に心配になってきた。

例の大学出であの経歴から

かなり警戒して来たんだが、

取り越し苦労か?

まあ、それならそれでいい。

本題に入らせてもらおう。




「そうですよね。

出来れば”他の町からも”お客さんが来て欲しいですよね。

でもこの町の周りの道路網はそれほど整備されていないから、

難しいですよね。

東の海岸の観光地化や南の埋め立て地の開発が十分すすんでいない

のもそこら辺が原因なんですかね。」

「ま、まあ、そういう繋がりもありますかね。

確かにこの町へ続く”大きな道路”ができれば、

観光にしても、流通にしてもかなり大きいとは思うんですが。」

「そうなると、どの辺りに作ればいいんですかね。

東の海岸線に作ってしまうと景観を損なう気もしますし。」

「それは、やはり北の森か西の山間部を開発してって

ことになると思いますよ。

確かに”自然は大切ですが、町の発展には代えられません”から。

”町議会でもそういう意見が出ている”そうですし。」




はあー、もう”これで詰み”かな。

正直ICレコーダーに入っているこの音声だけで

反対派を黙らせるのは十分な気がして来た。

とはいえ、こいつがすでに事を大事にしてしまっている以上、

仕方がないか。

悪いが、分不相応な行いをした報いを受けてもらうとしよう。




「すいませんが、一体何を言いたいんですか?

あなたは当社との連携について話に来られたのではないんですか?」


言葉は丁寧であるが、すでに鹿島は俺に対して

怒りの感情を隠しきれずにいる。


こんな感じじゃ、俺が手を下さなくても遅かれ早かれ

”ハジかれて”いただろう。

俺ではなく、己の力不足を恨むんだな。

まあ、若いんだし、まだまだやり直しは利くさ。

お前の”一番大事な部分”は守ってやるから安心しな。




俺は口元に微笑さえ浮かべながら、

多少もったいぶって口を開いた。


「それはもちろん•••、

”高速道路建設事業”についてですよ。」

「えっ。」


プルループルルー。

鹿島が驚愕で色を失う中、

彼の携帯電話がけたたましく鳴り出した。


「し、失礼します。

しばらくお待ちください。」


血相を変えたまま、

鹿島は部屋の外へと出て行った。




彼はその時気づいていたのだろうか。

その着信音が自分を絶望に突き落とす、

地獄の鐘の音であるなどとは。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


何か執筆しながら、

清水の方が悪い奴なんじゃねえか?

と思ってしまいました。

次のお話で中2病技、第二弾の発表です。

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