6月7日 その1 敵情視察
PM4:30
金曜日の夕方ということもあり、
ショッピングモールはかなりの賑わいを見せていた。
全天候型の屋根付き施設であることから、
雨の日ではあるがその集客力が衰える様子はない。
入っている施設も100円ショップのような
大型のディスカウントストアから、
この町にはあまり似つかわしくないとさえ言える
高級ブランドの専門店もそろっており、
さらには映画館を含んだアミューズメント施設
まで兼ね備えている。
施設としての充実度はここだけで全てが賄えて
しまえるのではないかというぐらいである。
正直この規模は町のコミニティ型ショッピングセンターの
枠を超えて、もっと広範囲の商圏をターゲットにした
リージョナル型ショッピングセンター を目指しているのでは
ないかという予測も立てられる。
もちろんうろな駅は大きな駅であるが、最寄り駅ではないし、
車でうろな町外から来るというのは、
現状ではなかなか大変である。
その割に相当の駐車スペースを用意しているというのは
車の利用者が増える”見込み”があるということなのだろう。
なるほど実際見てみるとよりその意図が透けて見える。
これは一朝一夕に考えた計画というわけではなさそうだ。
それなりの根回しは済ませているんだろう。
さてさてこんなヤマを20代中盤で任されるっていう課長さんの
ツラを拝みにいってやるか。
「なあ、清水お前本当に大丈夫か?
顔色が悪い上に、何か顔が怖いぞ。」
俺が心の中で舌なめずりをしていると
心配そうな顔をした梅原先生がこちらを
覗き込んで来た。
「だ、大丈夫ですよ。
昨日点滴も打ってもらいましたし、
熱は下がっていますから。
いや、こんな大きな施設だとは
思わずビックリしちゃて。」
そう言われて思わず動揺してしまい、
俺は必死に笑顔を作り直した。
やばい、やばい。
体調の悪さをカバーするのに
気を取られて、表情を取り繕う余裕がなくなって
いたようだ。
ああ、今日も解熱剤を入れているから、
熱っぽくはないんだが、
やはり体のだるさは抜けてない。
思いのほか相手がデカかったもんだから、
準備に深夜までかかってしまったのが、
良くなかったのかもしれない。
全く俺もヤキがまわったもんだ。
これまで相手して来た海千山千の連中に
比べれば今回の相手はまだかわいい方なのに、
こんなギリギリの状態で勝負に出ないといけないなんて。
ちっ、今更ガタガタ言っても仕方がない。
とにかく気合いを入れて行くとしますか。
「じゃあ、梅原先生、鹿島さんが待っている
管理棟にそろそろ向かいましょうか?
どんな人なんですかねー?」
「この前の会の前にも
妹さんの病院に行った時に
挨拶したが、笑顔の素敵な
真面目そうな人だったぞ。
今回の学校との連携にも
非常に前向きだったはずだし、
今日はかなりサクサク話が
進むんじゃないのか?」
梅原先生は実に好意的な
印象を抱いているようだ。
まあ、そうだろう、
"人たらし”は彼らの必須
スキルなのだから。
これは援軍は期待できなさそうだ。
それなりの下準備が
できて良かった。
まさか、うろな町で
ああいう手合いの相手をする
ハメになるなんて想像も
していなかったからな。
全く、直樹さんに感謝だな。
このヤマを何とかするだけでも
大きな恩返しになるだろうが、
どこかで高原家の仲直りに
ついても一肌ぬぐとしようか。
俺は張りつめた心を少しだけ
ほころばせると、
梅原先生を伴い、
管理棟のある区画に向けて
人ごみをかき分けて行った。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
風邪のせいで、ブラック清水全開です。
続けてお兄ちゃんの登場です。