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6月6日 妹萌

PM4:00


今日はしとしとと一日中雨が降り注いでいた。

6月に入ったというのに、どこか肌寒く、

気分もどこか落ち込んでいる。

うちの梅雨はかわいいが、

この梅雨はやはり苦手である。


「は、ハクション!」

「清水、大丈夫か?

今日一日中くしゃみしているぞ。」


職員室で作業をしていると

梅原先生が声をかけて来てくれた。

正直体調はかなり悪く寒気がするが、

心は温かくなった。


「大丈夫ですよ。

季節の変わり目には体調を崩しやすいんです。

念のため帰りにうろな総合病院に寄ってきます。

ちょっとした野暮用もあるので。」

「そうか。うん、やはり熱がありそうだな。

顔も赤いから無理するなよ。」


顔が赤いのは先生がおでこをくっつけて、

体温を測ろうとしたからですよ。

う、こんな状態で鼻血を出したりしたら、

マジで倒れる。


俺は興奮と悪寒に耐えながら

作業をやりきると、

梅原先生に挨拶をして

職員室を後にした。





PM5:00


「それでは128番の番号札を

お渡ししますので、

番号を御呼びしましたら、

第5診察室の方へお願いします。」


受付で風邪であることを伝えると

大きな病院であるのにも関わらず、

快く案内してくれた。




このうろな総合病院は

うろな町最大の医療機関であり、

地域医療の中核を担っている病院である。

高度な手術も可能な先端病院でありながら、

町のお医者さんとも協力して

地域の人への外来対応も手厚く行っている病院である。


大都市というわけではないこの町にこれだけの

病院を作り上げたのは前町長の功績の一つであり、

そういった功績に基づいた住民の絶大な信頼が

今回の新町長への交代がスムーズに行われた

大きな要因になったのだという。


もちろん町が完全な一枚岩という訳ではなく、

町議会ではほどほどの発展を維持しようとする親町長派と

急速な発展を目論む反町長派で主導権争いがあるのだという。


町長にも「高速道路建設事業」などの反町長派が推進する

事業に対する突き上げがあるだろうし、苦労が絶えないだろう。

今は前町長から続く重役達が押さえているので何とか

なるだろうが、彼らももう何年も働いてはいられない。

秋原さんがいるとはいえ、若い新町長が自分の思ったように

町づくりを進めて行くためには中々障害が多いだろう。


梅原先生の件で譲る気はさらさらないが、

他の件については可能な限り協力してやりたいと考えている。

今回この病院に来たのも、そのためのちょっとした

”探り”であったりもするのだ。

さてどのタイミングで”彼女”の病室を訪れようか?


俺が待合室で待ちながら、この後の計画に付いて

ボーッとする頭を何とか動かして考えていると、

前の席で座っていたグラマラスな美女に小学生っぽい

可愛いらしい女の子が話しかけているのが目に入った。


柊子(とうこ)お姉さんこんにちわ。

今日はどうしたんですか?」

「あ、(もえ)ちゃん、お久しぶり。

最近熱っぽいことも多いから検診にね。

萌ちゃんもお加減いかが。」

「最近は新しい薬が効いているのか、お熱はあまりでないの。

何より茂お兄ちゃんがいい子いい子してくれるから、

萌、すっごく元気が出てくるの!

ああ、もっと良くなって、早くうろな中学校に通いたいなー。

折角この町に来たのに一回も学校に行けてないんだもの。

本当なら萌、今2年生なのに。」


萌と呼ばれた女の子は乗り出すような感じで女性に話しかけていた。

長期の入院患者なのであろう、パジャマ姿で中学生にしては

子どもっぽい外見に白い肌が印象的だった。


まさか、こんなに上手くターゲットに会えるとは思えなかった。

相手の堂島家の娘さんにも今後のことを考えると渡りを

つけておきたいが、今日はやめておこう。

お付きの人らしい女性も来たみたいだし。


「お嬢様。順番が来たようです。

診察室の方に参りましょう。

萌さん、またお嬢様とお話してくださいね。」

「うん。さなえお姉ちゃんも

今度は新しく増えた家族さんの話聞かせてね。

柊子お姉ちゃん、またね。」

「またね、萌ちゃん。」


そう言って、女性二人組は診察室へと向かって行った。


うちの中学の山辺(やまの)も関係者みたいだし、

どこかで堂島家とは接点を作っておかないとな。

さてそれはともかく彼女が行ってしまう前に

話しかけるか?


「萌ちゃん、今お時間いいですか?」

「?お兄さんだあれ?」


いきなり話しかけられた彼女は困惑と警戒の色を浮かべている。


「私はうろな中学の新任教師で、清水渉と言います。

今2年生の担任をしてるんですよ。」

「え、うろな中学校の先生!

しかも2年生ってことは、萌の担任になるかもしれないんですね!

うわー、嬉しいな。

わたし、鹿島萌(かしまもえ)と言います。

あれ?でも清水先生、『萌ちゃん』って言っていただけど

どうして私の名前を知ってたんですか?」

「あなたも私の大事な生徒だからですよ。

まだ新任ではありますが、生徒の名前は全員覚えるようにしてますから。」


もちろん、全員は覚えていない。

彼女のことを知っていたのは、

鹿島茂について調べていて難病に苦しむ妹のことが出て来たのと、

以前梅原先生から病気で学校に来られない生徒の話をされたことが

あるからだ。

さっき堂島さんと話していなければ、この子がその萌ちゃんだとは

分からなかったしな。


そんな俺の思惑をよそに

彼女はいたく感動したようで

両手を合わせながらこちらを見つめていた。


「うわー、清水先生って魔法使いみたいです!

私病気でほとんど学校に行くことが出来ないから、

お友達どころか、先生にも殆ど下のお名前覚えてもらえなくて。


こっちに1年前に来てからは時々梅原先生っていう小さな

女の先生が来てくれていたんですが、

『鹿島さん』としか呼んでくれないので、

清水先生が呼んでくれてとても嬉しいです!

萌、幸せー」


さすが梅原先生、

こういう事情のある子のフォローは決して欠かさないな。

今度下の名前で呼んだら喜ぶことを教えてあげよう。


「そうかい、私も嬉しいな。

今度は中学校のお友達も連れてくるから

楽しみにしていてね。」

「本当ですか!!!

あー、もう幸せで死にそうですー。

今度お兄ちゃんが来たら教えてあげないと。

•••でもお兄ちゃん、お仕事が忙しくらしくて、

ここ最近は週末くらいしか来てくれないんですよね。

萌のために頑張ってくれてるのは分かってるんだけど、

少し寂しいな。」


おお、こちらから話を振る前に

お兄ちゃんの話をしてくれるとは好都合だ。

ここから切れ込んでいきますか。


「ふーん、萌ちゃんはお兄ちゃんが

大好きなんだね。

どんなお兄さんなのか聞かせてくれるかな?」

「もちろんです。

お兄ちゃんはすごいんですよ。

例えば•••」




それから俺が番号を呼ばれるまでのしばらくの間、

彼女からお兄さんの人柄、経歴、

二人の家庭環境や経済状況、

彼女の病状、

うろな町に来た経緯等について、

多くのことを聞き取っていった。


よしこれと今まで調べた情報を組み合わせれば

明日の準備はいけそうだな。

悪いがあんたのアキレス腱突かせてもらうぜ。

もちろん、あんたにとっても彼女にとっても

悪いようにはしないからな。


俺は彼女と別れた後

診療室で点滴を受けながらそんなことを考えていた。








PM6:00


治療を受けた後、

うろな総合病院から帰る途中で

各所に電話して仕込みを進めていった。


先輩達や北東のみんなに

あんまり借りを作るのもなんだが、

またこちらから協力出来ることもあるだろう。

町のため、そして萌ちゃんのためにも、

ここは出し惜しみなしで行こう。


体調はまだ万全ではないが、

大分回復したとは言える。

明日ぐらいは十分持つだろう。

鹿島茂、首を洗ってまってろよ。


俺はまだふらつく足元を気にしつつ、

明日に向けたシュミレーションを

進めるため、気合いを入れ直した。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


妹キャラ投入しました。

明日は兄貴を弄ります。


シュウさんの町長、前町長、秋原さんの名前をお借りしました。

勝手に変な対立を作ってすいません。

次の話でこれは終わりにしようと思いますので、ご容赦いただければ幸いです。

それでも問題があるようでしたら、ご指摘いただければ幸いです。


またとにあさんの堂島さん、平山さんをお借りしました。

堂島さんに病院友達を作ってみましたが、いかがでしょうか?

描写に問題があるようでしたら、ご意見いただければと思います。


なかなか今の時間に追いつきませんが、

お付き合いいただければ幸いです。


さて次話の対決に向けて

清水の中二病な技の名前を新たに考えないと•••。

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