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6月5日 口の悪いツンデレ長男

PM4:30


昨日の商店街に続き、

今日は町の北部にある

うろなスーパーに来ている。


かなり大型のスーパーであり、

どうやら全国チェーンのようである。


商品は非常に安いものもあるが、

かならずしも単に薄利多売という

訳ではなく、輸入商品などの

高級品も結構扱っていた。


町の北部には一軒家も多いことから、

それなりのお金持ちが少なくない。

商店街ではあまり見かけない

商品を置くことで差別化を図って、

そういう富裕層を取り込んでいるのだろう。


高原父は随分このスーパーを

敵視していたようだが、

見た限りでは

商圏を含めて、

商店街との競合を

ある程度避けているように

感じられた。


とはいえ、副店長が

商店街に居る家族と喧嘩して

いるようでは、

どんな余波が及ぶのか、

分からない。

気を付けて対応しないとな。


そもそも挨拶した限りでは

真面目そうな人とという印象しか

受けなかったんだが、

お兄さんの直樹さんて

どんな人なんだろうか?


昨日の話で梅原先生は

面識があるようだから

聞いてみようか?


「そう言えば、

副店長の高原直樹(たかはらなおき)さんて

どんな人なんですか?

梅原先生ご存知ですか?」

「まあ、ある程度はな。

あんまり人当たりのいい

タイプではないが、

悪い奴ではないよ。

話していれば

お前なら感づくだろうさ。」


と、はっきりとは教えて

くれなかったが、

心配ないという様子だった。

梅原先生がそう言うんだから、

きっと大丈夫だろう。


俺たちはバックヤードの入り口に

いた店員さんに声をかけ、

用件と副店長さんを

呼んでくれるように伝えた。








店の奥の事務所のようなスペースで

待っていると眼鏡をかけた若い男性が現れた。


「どうも、高原だ。」

「連携担当の清水と申します。

今日はお忙しい中

ありがとうございました。」

「確かに今日は大分忙しい。

さっさと始めようか。」


笑顔で挨拶するこちらに

ニコリともせずに直樹さんは

向かいの席に腰掛けた。


この直樹さん、

全体的にキツい感じなんだが、

よく見ると眼鏡の奥の目つきも

かなり険しい、というかおっかない。

弟さんと確かに顔つきは似てるんだけど、

受ける雰囲気は全然違う。

正直慇懃無礼(いんぎんぶれい)っていうか、

かなり感じ悪いんですが、

本当に大丈夫なんですか?


俺が疑わしい思いを抱いて

梅原先生を見ると

先生は特に動じた様子もなく、

というか半分微笑ましいものを

見たような顔で直樹さんを見ていた。


「忙しいところすまんな、高原。

というか、相変わらず目つきが悪いな。」

「そちらこそちっこいままだな、小梅さん。

良い年なんだから中身ぐらいは成長しなよ。」


う、梅原先生、何いきなり、

喧嘩売ってるんですか!

直樹さんも、直樹さんで、

いくら何でもひどい言い返し方でしょう。

この二人仲悪いのか?


俺が心配そうに二人を交互に見るが、

お互いに対して気にした様子はない。

いつもこんなやり取りをしているのか?


「まあ、冗談はさておき

昨年も職場体験の生徒を受け入れて

くれてありがとう。

少しは使い物になりそうな奴はいたか?」

「中坊に何も期待なんかしてねえよ。

どいつもこいつもバカばっかりだ。

あの合田とかいうチンピラは少しは

頭が回るようだったがな。

ただ手より口が先に動くようじゃ

まだまだだが。」

「そうか、合田も

『怖い兄ちゃんに死ぬほど絞られた』って

愚痴っていたよ。

まあ、中途半端に粋がっているあいつには

良い経験になっただろう。」


梅原先生はさっさと本題に入ってしまった。

どうにも直樹さんの人間性が掴めない。

ここは梅原先生に任せてみるか。


「別にどうでもいいけどな。

それよりもお前んとこのクズ連中を

どうにかしろ。

次万引きなんか企てやがったら、

即刻うろな署に突き出すからな。」

「本当にすまないな。

言い聞かせた上で体にも

覚えさせているんだが、

染み付いてしまっている手癖は

なかなか治らないようだ。

あいつらの場合親御さんが

色々あきらめてしまっているのも

問題なんだ。

大目に見ろとは言わないから、

こちらにも連絡をくれると助かる。

北小の小林拓人先生からも

今後ともお願いしますと

言伝(ことづて)があったよ。」

「拓さんも苦労してるね。

金持ち連中は本当に始末が悪い。

子どもは子どもでアホみたいな

理屈をコネて自分の間違いを正当化

しようとするし、

親は親でうちの子に限ってとか

ほざきやがる。

両方まとめて説教しちまった時には

さすがに後でとばっちりを食う

拓さんに悪いと思ったよ。」


なんかすごい会話が繰り広げられていた。

さすが大型スーパー。

小学校でも話題になっていた

万引きなんかは大きな問題に

なっているようだ。

ただ直樹さん、罵りながらも

ちゃんと対応してくれているんだな。

拓さんとか言ってるし、

小林拓人先生とも仲がいいんだろうか?


「中学でもそういう親子には手を焼いてるよ。

負担をかけて悪いが、

そういう時には遠慮なく言ってやってくれ。

お前に言われて言い返せるやつなんて

そうはいないんだから。

中学では生徒会長で、

うろな高校でも首席だったお前にはな。」

「まったく、そんなもんで人を

判断するなと言いたいんだがな。

そういう奴らはこっちをスーパーの店員風情

みたいに舐めくさってきやがるんだが、

俺の学歴を聞くと急に手の平を返したように、

へこへこしやがる。

そういう意味では受験、受験と言いながら、

生徒を差別しようとはしなかった、

田中のババアは立派だったてことかねえ。」

「おいおい、田中先生はまだ独身なんだ。

ババアは流石にやめてやってくれ。」


梅原先生は苦笑しながら突っ込んだが、

直樹さんに悪びれた様子はない。

そういえばこの人、

確かこの国の最難関大学出身なんだよな。

うろな高校では滅多にいないということで

半ば伝説と化しているらしい。

それなのに、地元に戻って

スーパーの副店長やってるって

本当に一体なんなんだろうこの人?






俺は結局疑問が晴れないままであったが、

その後二人の会話に加わり、

職場体験やインターンシップなどでの

継続的な協力や商品開発学習などの

新しい試みについて協力を求めていった。


直樹さんはどの活動についても、

スーパーにとっての意義だけでなく、

子ども達に何を学ばせたいかという具体的中身や、

それでこの町をどう盛り上げていくかという全体像に至るまで、

厳しく、しかし詳細に意見をくれて、

条件付きながらもほとんどの内容に同意してくれた。


ただ商店街との連携については

「まだ時期じゃない」と言われて一蹴されてしまったが。


どうやら口は悪いが、頭が切れ、しかも熱い心をもった人物のようだ。

雰囲気や言動は似てないように感じられても、

弟さんと同様魅力的な人物であるように、

最後の方では理解することができた。





PM5:30


「どうでも、いいんだが、ボケ親父や直澄のアホは

元気にしてたか?」

「ほどほどな。

気になるんだったら、会いにいってやったらいいだろう。」

「どうせ喧嘩になるのがオチだろう。

そんなんで親父に倒れられても迷惑なだけだ。

それにお袋も俺たちが毎日ガミガミやっているのより、

少し離れていてもお互い元気で静かにやってるほうが喜ぶだろう。」

「そうか。まあ、気が向いたらでいいから、

直澄にだけでも連絡してやってくれ。」

「へいへい。

まったくいつまでたっても偉そうだな、あんたは。

早く帰りな。」


打合せ終了後、家族の現状について確認できると、

直樹さんはこちらを向きもせずに後ろ手で手を振りながら、

俺たちを追い払うように送り出した。


ただ俺が最後にお礼を言って立ち去ろうとした瞬間

意味深な情報を伝えてくれた。


「なあ、新米先生。あんた、明後日

鹿島茂(かしましげる)っていうのに会いに行くんだろう。」


鹿島茂とはショッピングモール管理会社の営業課長で

今回の担当となっている人物の名前であった。


「そうですが、鹿島さんをご存知なんですか?」

「いや、そんなに詳しくはない。

ただあいつと俺は大学の経営学部の同期でな。

見た目は笑顔の絶えないまともそうな奴なんだが、

色々良くない噂も耳にしたんだよ。

ここが地元である俺とは違い、好き好んでこんな

辺鄙な町に来ているとは思えないから、

ちょっと気になってな。

別にどうってことないだろうが、

少し気を付けてみろってだけだ。」


そう俺に忠告してくれた。

大きなショッピングモールの営業課長にしては

随分若いと思っていたが、色々事情があるのかも

しれない。

探ってみる価値はあるだろう。

これは貴重な情報だ。


「本当にありがとうございました。」

「ふん、礼を言われることじゃねえや。

おら、仕事の邪魔だ。

さっさと帰れ。」


俺は最後にもう一度だけ頭を下げると、

そのままスーパーを後にした。





帰り道直樹さんについて

梅原先生から色々聞くことが出来た。


「簡単に言えばあいつは

いわゆる”ツンデレ”なんだよ。

口は悪いし、実際人に厳しい所はあるんだが、

認めた人間に対してはかなり親身に

なってくれるし、

そうでない人間に対しても、

ボロクソに言う割には根本的には優しいんだよ。

あんなこと言って、ただ単に警察に届けて

ハイ終わり、俺は知らないなんてことは

しないから生活指導担当としても助かっているよ。


これは拓人先生から聞いた話なんだが、

あいつ大学卒業後大手小売りメーカーに入社して、

わざわざ希望を出してこの店の副店長として

出向して来たらしい。


しかもこれはあくまで先生の推測に過ぎないんだが、

その目的はこのスーパーを商店街とできるだけ

競合しない業態に変更させて、しかも

同じグループのコンビニなどを乱立させないように

圧力をかけるためなんじゃないかって。


本当なら幹部候補として本社勤めが約束されて来たのに、

その椅子を捨ててまでこの町に戻って来たのは、

両親の愛したこの町と商店街を、

弟が一人前になるまで

守るためなんじゃないかとまで言っていた。


流石にそれは良い話過ぎる気もするが、

お母さんのお葬式の時に

『親父と直澄のことは任せろ』

と呟いたあいつの顔は真剣そのもので、

その約束を忘れてるとは到底思えないんだよな。」


元生徒のことを誇らし気に語る梅原先生の顔は、

とても嬉しそうで、少し妬けて来た。






この町には町長や師匠を始めとして、

中々奥の深い人物達で溢れている。

まだこの町に来てほんの数ヶ月しか

経っていない俺ではあるが、

あの人たち程ではなくても、

町のために少しは貢献したい気になって来ている。

まったく不思議な町だよ。




それにしても鹿島さんの話は少し気になるな。

改めて彼について洗ってみるか。


俺は今後について決意を新たにすると共に

明後日に向けて再度の情報収集の必要性を痛感し、

駅へ向かうスピードを早めていった。


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


お兄ちゃん実は良い奴です。

ちょっと設定を盛りすぎた感もありますが、

今後上手く使っていけたらと思います。


土日体調が悪く、

更新がほとんどできませんでした。

大分現在に遅れをとっていますが、

何とか追いつかなくては。

日誌を何とか毎日分書いてきましたが、

さすがに少し飛ばすかもしれません。

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