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6月4日 その2 頑固親父と陽気な次男

PM4:30


駄菓子屋を去った後も

梅原先生への歓迎合戦は続き、

本屋、雑貨屋、眼鏡屋、

靴屋、家具屋、衣料品店、

帽子屋、布団屋、

クリーニング屋、宝石店、花屋、

なんと葬儀屋さんにいたるまで、

ちょっとした小物や粗品、

割引券なんかを

梅原先生に差し出していた。


すでに2つ目の買い物袋も

一杯になっている。

一体俺たちは何をしに

ここに来たのか、

一瞬分からなくなりそうだ。


「おーっと、小梅ちゃん、久しぶり。

そろそろうちでカットに来なよー。

ホラ、クーポンあげるから。

彼も小梅ちゃんの可愛い髪型みたいでしょ?」

「もちろんです。」

「マスター長船、今度必ず行きますから、

こいつを乗せるのは止めてください!」

「ははは。小梅ちゃんは怒ってる顔も

可愛いね。じゃあ、

彼氏君も美容室シェーンをよろしくねー」


梅原先生にいきなり話しかけて来た

おじさんはそう言うと

手を振りながら去って行った。

本当梅原先生、愛されてるなー。





そしてようやく商店街の端の方にある、

おもちゃ屋さん、

「ホビー高原(たかはら)」に

辿り着くことが出来た。

ここまで長かったー。


「いらっしゃーい。」

ドアを開けて中に入ると

若い男性が声をかけてきた。


「うろな中学の清水です。

教育を考える会の件で伺いました。」

「清水先生ですね。

商店街活性化担当を押し付けられちやった

高原直澄(たかはらなおずみ)です。

若造ですが、よろしくお願いしまーす。」


そう言って手を差し出してきた高原さんと

俺は握手した。

随分と明るくどこか軽い若者だが、

それもそのはず、

彼は昨年までうろな高校に通っていた

ピチピチの10代である。


「コラ、高原。

『押し付けられちゃった』はないだろ!

ああ、本当にお前が社会に出て

大丈夫なのか?

お前の腕なら剣道で

大学の推薦もらえただろうに。」

「へへ。ごめんね、小梅センセ。

うろ高でも田中先生にそう

言われちゃいました。

まあ、でも昨年親父が倒れちゃいました

からね。

兄貴は近くにいるとはいえ、

親父とは相変わらずだし、

俺がいなくなっちゃうと

天国のお袋も心配するでしょうし。

何より別に勉強好きなわけじゃないですから!」

「あー、何というか、

中学から良くも悪くもさっぱり成長して

いないな、お前は。」


梅原先生はそう言ってがっくりと

しかしどこかホッとしたような顔でうなだれた。


この前、教育を考える会において

あの場では最年少である彼に

ついて聞いてみたところ、

彼がうろな中学の卒業生で

剣道部に所属していた

梅原先生の元教え子であること、

中学時代にお母さんを亡くして

当時担任でもあった梅原先生が

色々面倒を見てあげていたこと、

剣道でインターハイに出場経験も

ありながら親父さんを支えるために

うろな高校を卒業した今年から

実家のお店で働いていること、

などを教えてくれていた。


「じゃあ、連携についての打ち合わせ

さっさと始めましょうか。

場所はあっちのカードゲーム対戦スペースとか

でもいいですか?」

「もちろんです。

今のおもちゃ屋にはこういうスペースが

あるんですね。」

「中高で俺が嵌ってたこともあって、

親父に提案して作らせてもらったんです。

子供たちも大人も楽しめるし、

今のゲームや玩具とかの流行についても

色々話が聞けるんで、

なかなかいいですよ。」


なるほど。

若いながら活性化担当を

任されるだけあって、

人集めや情報収集には

敏感な人のようだ。

これは具体的な話ができそうだな。


「それではよろしくお願いします。」

「こちらこそ!」








PM5:30


話し合いは和気あいあいと順調に進んだ。


こちらが小中高で話し合っていた

商店街への町探検や子どもの見守りに

ついては

「じっちゃんたち、子ども達が来てくれるだけで

喜びますから是非是非。

見守りについても今後も気を配って行きますし、

腕章とか用意してもらったら

『商店街見守り隊』みたいなのもやりますよ。」

と快く言ってくれた。


また職場体験や商品開発学習についても

「後継者がうちみたいに居る所は

少ないからみんな教えたくてうずうず

しているんですよ。

それを機会に住宅街のお客さんもより

来てくれる機会になるでしょうし、

大歓迎っすよ。

商品開発なんかもうろ高との

タイアップなんかは是非。

うちの商店街お店の数や

種類は多いんだけど、

イマイチインパクトのある

商品が少ないんで、

正直ありがたいくらいですよ。

こういうのはマスコミにも

取り上げられやすいですから。」

とコチラも大賛成だった。




加えて高原さんからも

「どうせだったら、うろ高や

教育委員会ですかね?、そこら辺と

協力して高校生なんかは

ちゃんとしたアルバイトととして

どんどん働きに来てもらいたいんですよ。

そりゃ、トラブルもあるでしょうけど、

若い子達が働いてくれるのは、

お客さんにとっても、

一緒に働くジジババにとってもいいし、

もし一人二人でも後継者候補なんかが

出て来てくれたら万々歳ですから。」

とさらにこちらの提案を上を行く

意見を出されたり、

「実は俺、絵書くのが好きで、

通信教育でキャラクターデザインとか

勉強してるんですよ。

それでゆるキャラブームにのって

この商店街のマスコットキャラとか

作れないかなーって思ってるんですよ。

『うろなタン』みたいな感じで。」

と可愛らしいキャラクターの原案を

見せてくれたりした。


俺は予想以上の出来に深く満足しており、

今後町全体の連携を進めて行く上で

強力なパートナーを得られそうだと感じていた。


また梅原先生も『うろなタン』を見て、

「これ可愛いな。必要だったら着ぐるみとか

入ってやるぞ。」とか言って結構

ノリノリだった。




ただその際に高原さんの目が一瞬

キラリと光ったのが気がかりだ。


もしかしたら高原さん、梅原先生狙い!

教師と元教え子の禁断の恋!?

ダメだ、それは許さないぞーーー!!!




そんな俺の熱い視線は気にも留めず、

あはは、と笑っている高原さんに対して

俺は気になっていたことを聞いてみた。


「そういえばさっき、お兄さんが近くに

いるって話をしてましたが、

それってうろなスーパーの副店長の

高原直樹(たかはらなおき)さんの

ことではないですか?

同じ名字でこの前お会いした時に、

二人の顔立ちが似ていらっしゃったので

気になっていたんですが。」


そう俺が尋ねると高原さんは苦笑しながら肯定した。

「そうなんですよ。兄貴は町外の大学出た後、

勤務してる企業からの出向かなんかで

うろなスーパーにいるんですけど、

なかなかこっちの方には来てくれなくて。

折角兄弟で同じ町で働いているんで、

色々コラボしたいんですけどねー。」


やはり、そうか。

それならば明日のスーパーでの話も進みやすいかな、

そんな風に考えていた俺の思考を

野太い声がストップさせた。


「無駄じゃ。あんな”裏切り者”と協力などできるはずがない!」


驚いて後ろを振り向くと、

杖を付いたおじいさんが怒りの表情でこちらを見ていた。


「親父、今日は調子が悪いんだから、無理するなって。」

「おとうさん、ご無理をなさらないでください。」


その様子を見て、高原さんと梅原先生が止めにはいった。


え、お、”お義父さん”!。

梅原先生、高原さんとすでにそんな関係に!

嘘だー!!!


俺が目の前を真っ暗にさせていると、

梅原先生の姿を見ておじいさんは少し表情を緩めた。


「おー、梅原先生。

倅が卒業してからもお世話になっているようで、

本当にありがとうございます。

こんな浮ついた奴ですが、

今後ともよろしくお願いします。」

「いえいえ、”直澄君”は今も私の生徒ですから。」


親公認!

しかも下の名前で呼ぶなんて!

こ、これはもう()るしかないのか、

高原直澄ーーーーーーーー!!!!!!。


俺がどす黒い炎を完全解放していると

高原さんが実に嫌そうな顔で二人に向かって

「小梅センセ、その言い方正直気持ち悪いんですよ。

兄貴と区別するために下の名前で呼ぶのは良いんですけど、

親父の前以外で俺が覚えているのは

剣道の稽古でズタボロにされながら

『さっさと立ち上がれ、アホ澄!』とか

『こんなものも防げんのかボケ澄!』とか

罵声を浴びせられた

シーンだけなんですけど。

親父も親父で、梅原先生におとうさんとか

呼ばれて喜んでるんじゃねえよ。

もう誰も呼んでくれないからって、

そんなんで鼻の下のばしてたら、

お袋が墓の下で怒るぞ」

と言い放った。


あれ?、俺の勘違い?


「い、いや、そんな言い方してたかな、ハハハ。」

「そ、そんなことはないぞ。わしは今でも母さん一筋じゃ。」

元教え子と息子に痛い所を指摘された二人は、

図星だったらしく、分かりやすく目をそらしながらそう言った。


どうやら単にこの親子と仲がいいただそれだけらしい。

ああ、心配して損した。




気を取り直した所で俺はさっきの親父さんの

言葉について、できるだけ刺激しないように聞いてみた。


「えっと、それでそのお兄さんが”裏切り者”っていうのは

どういう」

「そのままの内容じゃ!

あの大バカもの、町外の大学で好き勝手する代わりに、

就職後はこちらに戻ってくる話だったのが、

あろうことか、我が商店街の天敵、

うろなスーパーに勤めるなんてことしよって!!

儂の顔に泥を塗るだけでなく、

小さい頃からお世話になった商店街のみなさん

全員に恩を仇で返す等、不届き千万、

あんな奴、息子でもなんでもない!!!

ただの”裏切り者”で十分じゃ!!!

う、む、胸が苦しい•••」


こちらの言葉が言い終わるのも待たずに、

捲し立てると、興奮しすぎたのか、

胸を押さえてへたり込んでしまった。


「ああもう言わんこっちゃない。

そんな大声出すなって。

ほら、奥に戻るぞ。」

「高原、私が連れて行くから良い。

久しぶりにおかあさんに線香をあげたいしな。」

「え、あー、じゃ、すいません、

小梅センセよろしくお願いします。」


そういうとおじいさんを支えた梅原先生は

奥に引っ込んでしまった。


「すいません、親父が馬鹿な姿をみせちゃって。」

「こちらこそ不用意なことを言ってすいません。

お兄さんとは大分•••」

「そうですね。兄貴は俺と違って頭が良くて

結構良い大学に進学したりしてたんで、

戻って来てくれるというのを親父はすごく

楽しみにしてたんですよ。

それがなんと親父が敵視してる競合店に

行くことになったもんだから、

それ以降あんな感じで。

兄貴は兄貴で考えがあってのことだと思うんですが、

親父が『あんな店辞めて、商店街中を土下座して回るまで許さん!』

なんて言ったもんだから、向こうも(かたくな)になっちゃって。

兄貴も親父譲りで頑固な所がありますから、

それがもう3年ぐらい続いているんですよ。

正直俺がここに残った理由もそれが一つの原因では

あるんですよね。

天国のお袋のためにも、商店街とスーパーの今後の協力の

ためにも何とか仲直りしてほしいですが、これが何とも。」


高原さんは十代とは思えない苦労した表情をして

はあーとため息をついた。


家族の問題とはいえ、連携担当としては見過ごせないな。

明日のスーパー訪問は色々探りながら話をしてみよう。


俺は明日の課題を確認して

戦略の練り直しを一人頭の中で進めていった。

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


梅原先生の元教え子にして元剣道部員

高原直澄君とそのお父さんの登場です。


直澄君は清水と年の近い弟分キャラみたいに

していけたらと思いますので、

この後登場するお兄さんも含めて

高原一家をよろしくお願いします。


あと、とにあさん、マスター長船を

お借りしました。

今度梅原が行くらしいのでよろしくお願いします。

可愛くしてやってください。


次話はこの回のオチと、

書ききれなかったコスプレフラグの話に

ついて書いていけたらと思います。

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