6月4日 その1 商店街のアイドル
PM4:00
現在、商店街を梅原先生と二人で歩いている。
商店街をぶらぶらと回った後に
活性化担当の人と話し合う予定だ。
「まあ、小梅ちゃん。
今日はデート?」
「おばさん、違います。
学校の仕事で部下と
視察に来ているだけです。」
梅原先生はさっそく道行く
マダムに声をかけられている。
さすが10年近くうちの学校に
勤務しているだけあって、
良く知られているようだ。
「商店街には良く来られるんですか?」
「まあな。買い物は大体ここでしている。
職場体験なんかでもお世話になっているしな。」
なるほど。地域との連携は大事ですからね。
ここはどうやら梅原先生のホームのようだし、
案内をしてもらおうか。
「では、主な店を回ってみますか?
梅原先生、職場体験でお世話になっている
お店を中心にご紹介いただけますか?」
「おお、今日は真面目だな。
感心、感心。
よし、案内してやるから付いてこい。」
梅原先生はこちらが特にふざけもせずに
仕事をしようとしていることに満足して
上機嫌で先導してくれた。
正直わざわざ何かしかけなくても
毎日梅原先生の割烹着姿を見て
十分癒されてますし、これも
先ほどは否定されてましたが、
傍から見ると完全なお買い物デートですから。
まあ、そもそも先生をいじる機会は常に
狙っていますがね。
俺はいつもより若干真面目な顔をして、
しかしその心根は何も変わらず、
面白いことが起きないか期待しながら
梅原先生の後ろに付いて行った。
八百屋さん
「おう、小梅ちゃん、今日も可愛いねー。」
「おじさん、お元気そうで何よりです。
今年もお願いしますね。」
「もちろんだ。元気のいいやつを連れて来てくれよ。
たんまりとこき使ってやるからな。
今日は、この大根がおすすめだ。」
「すいません、仕事中なもので。」
「気にしない、気にしない。
とりあえず一本持っていきな。
ほい、後ろの兄ちゃん、袋ごとやるから、
ちゃんと荷物持ちするんだぞ。」
「え、そんな、す、すいません。
帰りにまた寄らせていただきますね。」
「そんな畏まるなよ。彼氏に上手い煮付けでも、
作ってやんな。」
「こいつとはそんな関係じゃ。」
「彼女の料理は絶品です。」
「おい、こら、乗っかるな!」
「アツアツだねー。オジサン妬けちゃうなー」
「おじさーん!!」
梅原先生が八百屋のおじさんを恨めしそうな
顔で見ている。
流石に店の前で俺をどつく訳にもいかず、
困っているしまっているようだ。
その様子を見て周りの店のお店の人やお客さんから
愉快そうに笑う声が聞こえてくる。
どうやら梅原先生は商店街で
娘か孫のように可愛がられているらしい。
これは親御さん達にきっちりと
挨拶をしなくてはいけないだろう。
俺は丁寧に買い物袋を押し頂くと、
しっかりと頭を下げた後、
梅原先生の後について、
八百屋を後にした。
その後も青果店、肉屋、魚屋、
乾物屋、自然食品の店、パン屋、
寿司屋、カフェ、そば屋、
中華料理店、ラーメン屋
など主に食品関係の店に挨拶
するたびに、買い物袋に
商品を放り込まれ、
商店街の真ん中に来る頃には
八百屋でもらった袋が
ほとんど一杯になっていた。
これはすごいな。
娘や孫っていうか
ほとんど商店街のアイドルって
感じだな。
梅原先生の真面目で朴訥なキャラは
高齢化が進んだ店主達の琴線に
触れるらしく、どこでも大人気であった。
一緒に居る俺も色々ネタにされることが
多く、上手く切り返してはいたのだが、
決して気は抜けなかった。
店主達の俺を見る目は、物珍しさ半分、
品定め半分といった感じで、
「うちの小梅ちゃんに軽い気持ちで近づいたら
ただじゃおかないぞ、この野郎。」
という雰囲気を漂わせている人も少なくなかった。
みなさーん、顔は笑ってますが、
目が笑ってないですよー。
俺は梅原先生一筋ですよー。
途中からは連続で親御さんにご挨拶を
している気に本気でなってきて、
買い物袋の重さと共に色々なものが
ずっしりと肩にのっかてきた。
軽い気持ちで付いて来たらなかなか
大事になってきたな。
でも負けないぜ。
ここで頑張れば俺と梅原先生の
仲は町で半公認状態といっても
過言でなくなるだろう。
やったるぜ。
そんなことを考えていると
奥田商店という駄菓子屋さんに到着した。
うわー、雰囲気あるー。
なんか懐かしーな。
水飴に、あんず飴、えびせんべい、
ヤッターめん、フーセンガム類、
ラムネにシガレット、
うま○棒も20種類以上ある!
俺が懐かしさに浸っていると、
梅原先生は奥で座っていた
店主らしきおばあさんに
声をかけていた。
「オクダのおばあちゃん、
ご無沙汰しております。
お体の加減はいかがですか?」
「ん?ああ、こりゃ、えらく畏まった言い方なんで
誰だあと思ったら、小梅かえ。
まあ、ぼちぼちげんきだで。
最近見ねえかと思ったら、
昼間から男引っ張り回しとったんけえ。」
「だからこいつは今年うろな中学校に赴任して来た
新米教師で、私とこいつの関係はただの上司と部下だと
言ってるのに!!
みんななんで、まともに聞いてくれないの、もう!」
梅原先生の反応は、今まで挨拶した相手の中でも
とりわけ親しそうで、どこか子どもっぽくさえあった。
「新任に手だしたんか!
こらあ、果穂の嬢ちゃん以来の手の早さでねえか。
初任の頃授業が上手くいかず、店先でめそめそ泣いていて、
見かねた小学生に駄菓子をおごられ慰めてもらってた、
あの小梅がねー。
長生きするといろんなもんが見れるんだなぁ。」
「だから違うんだって!
あとその話はお願いだから、
人前でしないでーー!!」
先生、小学生におごってもらってたんですか!
何かもう、可愛すぎる。
あ、この糸ひきあめ、昔好きだったんだよなー。
小さい頃は何が当たる楽しみで、
大きい飴が当たった時には飛び跳ねて喜んでいたよな。
よし、今なら箱買いできる。
「おばあさん、この糸ひきあめ、箱ごとくれませんか。」
「ほい、600円だよ。」
「お前は何、大人買いしてるんだアホ!
今は仕事中だと言ってるだろ!!」
二人の掛け合いの合間を縫って
自分の買い物をした俺の後頭部を
チョップした。
フフフ。
先生、いつもの威力がありませんよ。
「えー、兄ちゃんずるい。」
「私やろうと思ってたのに。」
「ごめん、ごめん。
お詫びにみんなに一個ずつあげるから。
おばあさん、いいですか?」
「お前さんが買ったもんだぁ。好きにしな。」
「じゃあ、どうぞ。」
「「やったー!!!」」
周りの小学生達から不満の声があがったので、
おばあさんに了解を得た上で、
1個ずつあげることにした。
うーん、やっぱこういうのはみんなでやるのが
面白いんだよなー。
大人になると
そういう楽しみはなくなちゃうのが
寂しい所だな。
「おー、俺みかん!あたりだー!!」
「あーあ、私は小さいイチゴ。
でもおいしー。お兄ちゃんありがとう!」
「どういたしまして。その代わり
『梅原先生の旦那の清水は気前が良い』って
みんなに言っておいてね。」
「「うん!」」
「小学生に何吹き込んでるんだ、
この大バカものーーー!!!」
梅原先生の全力パンチが俺の
アゴを打ち抜いていった。
フ、それでこそ梅原先生です。
「きゃー、奥さんが怒ったー」
「小梅の、旦那は、マゾ清水ー」
梅原先生の怒声を聞いて、
きゃーきゃー騒ぎながら散って行く小学生達。
「た、頼むから、
小学校でまでその噂を広めないでくれーーー!!!」
「あきらめな。ほい、お前さんの好きなチューチューだぁ。
これでも飲んで落ち着きな。」
「うー、あ、ありがとうございます。
ちゅー、ちゅー。」
すでに中学校では鉄板ですもんね。
でも小中高の連携が深まれば
浸透するのは時間の問題だと思うんですが。
あー、でもチューチューする梅原先生、
かわいい、そして何かエロい。
これも箱買いしよっかなー。
買い物袋を天に掲げたまま、
店先でひっくり返ったままの俺は、
オクダのおばあさんに慰められている
半泣きの梅原先生を見て
そんなろくでもないことを考えていた。
うろな町商店街は今日も賑やかで、
そして平和であった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
商店街巡りですが、
梅原先生大人気です。
あと清水の布教活動がさらに範囲を拡大しました。
着々と外堀は埋まりつつあります。
ちなみに「小梅の、旦那は、マゾ清水ー」
は節付きで、最後は昇り調子になります(笑)
駄菓子屋なつかしー。
昔地元で行っていた所は駄菓子屋もおばあちゃんが
亡くなって閉まってしまったし、
商店街自体がシャッター街になっちゃったんですよね。
何とかこの文化を子ども達に残してあげたいものですが、
どうしたらいいものか。
三衣 千月さんの「オクダのばあちゃん」お借りしました。
口調がこれでいいのかかなり疑問なので、
問題があればご指摘いただければ幸いです。
でも梅原っておばあちゃん子のイメージが合うので
また出させていただけたら幸いです。
本当は天狗仮面やとにあさんのマスター長船も出したかったんですが、
長くなってしまったので、また今度の機会に。
次のお話は活性化担当さんとやりとりです。
梅原先生の次のコスプレへのフラグを仕込みたいと思います。