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5月25日 プロローグその2  鬼小梅

美容院で大分ボサボサに伸びてしまっていた

髪を切りそろえてセットし、

スーツやカッターもクリーニング済みの

ものを引っ張り出し、

歯磨きは3回くらいしてさらに

口臭予防タブレットを4粒飲み込み、

風呂に入り隅々まできれいにした後で、

全身にほのかな香りの香水を振りかける。

よし完璧だ。


俺は可能な限りキメにキメると学校へと

出陣した。

いざ行かん、愛しの梅原先生の元へ。




職員室には予定通り、

3時45分頃到着した。

「不肖清水渉

ただいま到着しました。」

一直線に梅原先生の机に向かうと

そこにはスーツ姿が凛々しい

梅原先生の姿があった。

普段のジャージ姿も良いが、

これもこれですごくいい。


「いつも元気だな、お前は。

その若さを少し分けて欲しいものだ。」

「いえ、先生は十分お若いですし、

いつもお美しいです。」


実際今年32歳になる梅原先生を

すでに30代であると初対面で

わかる人間は存在しないだろう。

いろんな意味で。


「よくまあ、それだけおべんちゃらが

すらすらと出てくるもんだ。

感心するよ。」

「100%本心です。」


先生は呆れたように、

というか半分(さげす)むように

こちらを見て来た。

あー、梅原先生に軽蔑されてしまった。

でもそれがいい、気持ちいい。


「はあー。

もういい、さっさと打ち合わせを

始めるか。」

「はい。了解しました。」


そういうとお手製のメモ書きを

渡してくれた。

アナログ人間である梅原先生は

パソコンを使うのが大の苦手で

正式なテスト以外は

ほとんどのプリント全て手書きだ。

その文字がすごくきれいなんだが、

どこかまるっこくてかわいい感じで

すごく萌える。


まだまだ半人前の俺は梅原先生の

授業を見学させてもらうことも

多いのだが、

授業内容もさることながら

先生が教壇をとっとこ駆け回り

黒板にかわいい文字が量産されていく

様を見ているだけで鼻血がでそうである。


「お前、ちゃんと聞いているのか。」

「もちろんです。結構偉い人たちが

来るんですね。」


梅原先生に指摘され、トリップを一旦解除して

真剣モードに切り替える。


「ああ、警察署の署長やショッピングモールの社長なんてのまで

来ているからな。

まあ、初回の顔見せ以外は中堅どころと若いので

動かすことになるだろうから、

お前もそれぞれの若い連中とちゃんと関係を作っておけよ。」

「私は梅原先生一筋です。」

「お前は本当に人の話を聞いてるのか?」


俺のど真ん中ストレートは見事に打ち返された。

こちらをぎろっと睨む梅原先生もかわいい。

ああ、快感。





「梅原先生、髪染めてる奴を見つけたので

ひっとらえてきました。

大人しくしろ。」


打ち合わせがその後も順調に?すすみ、

そろそろ出ようかという段になって、

体育教師で生徒指導部のおいて

梅原先生の部下に当たる

木下真弓先生が、

その丸太ん棒のような腕に

金髪の男子生徒を抱えて運んで来た。


「離せよ、ゴリまゆ。

汗くせえんだよ。」


男子生徒は屈強な木下先生に対しても

ひるまずに悪態をついていた。


「そんなに汗臭いのか。」

「木下、そこは気にする所じゃない。

合田(ごうだ)、ちゃんと木下先生と呼べ。」


全身マッチョな体格の男性であるにも関わらず、

乙女マインドの持ち主である木下先生が

軽くショックを受けているのに対し、

梅原先生は華麗に突っ込むと

加えて男子生徒に注意した。


「うっせーな、鬼小梅(おにこうめ)

いつもぎゃーぎゃーうっせえんだよ。

そんなだから嫁の貰い手がないんだよ。」


ビキビキ。

あ、梅原先生の怒りメーターが2溜まった。


ちなみに鬼小梅というのは梅原先生に対する

不良生徒達の付けたあだ名である。

いつも口うるさく注意してくる、

小さな女教師に対するあだ名としては

なかなかいいセンスしていると思うが、

そのあだ名は別の意味も持っているので、

梅原先生は非常に嫌っている。


またこの職業、30代女性が独身っていうのは

別に珍しくはないのだが、

梅原先生は多少気にしているご様子。

あなたの王子はここにおりますのに。


「合田、梅原先生だ。

とにかく週明けの授業開始までに

髪を黒く染めてこいよ。

分かったか。」


先生はなんとか怒りをこらえると

丹念に生徒を諭した。

うん、我慢している梅原先生も最高だ。

後ろから抱きしめてなぐさめてあげたい。


しかし調子にのった合田君は

さらに悪口を続けていく。


「黙れ、このロリババア。

いっちょまえにスーツなんか着やがって、

どこの入学式においでなんですか?

中学、小学校、ああ、ごめん、保育園は入園式か。

胸パットなんか入れてもそのナイチチは隠しようが

ないっていうの。

そんなヒール履いたって、短足寸胴が目立つだけだろ。

あー、三十路女の無駄な抵抗は空しいね。」


ビキビキビキビキビキ。

おー、すごい。

的確に梅原先生のコンプレックスを突いている。

この合田って生徒、国語の成績は意外と悪くないんだよな。


そう梅原先生はそのかっこいい雰囲気に反し、

身長140cm(自称)とかなり小柄で

全然悪いこととは思わないが

見事な幼児体型。

それでも何とか大人の女性としてきれいに見せようと

しているのが、本当に愛らしいんだが、

彼にはこの良さがまだ理解できないのだろうか。


「く、口の減らない奴だな。

まあ、とにかく今回は週末ではあるし、

週明けまでに元通りにしてきたら

不問にしてやる。

木下さっさと連れて行け。」

「あ、はい。」


梅原先生はなんとか怒りをこらえると

木下先生に指示を出した。

この後例の会議もあることだし、

ここは穏便にということだろう。

さすが、梅原先生。

大人の判断ですよ。


しかしテンションの上がった合田君は

不良達の間でも合意事項として確認されている

超えてはいけない一線を踏み越えてしまった。

彼は彼女の聖域を汚してしまったのである。


「ふん、知ったことか。

剣道の全国大会の常連かなんかしらないが、

今時剣道なんて汗臭いもん、はやんないんだよ。

無駄にぎゃーぎゃー喚きやがって、

動物園かってーの。

大体女のくせに棒もって振り回すのを

面白がるなんて、欲求不満なんじゃないの?

そんなに突っ込んでほしいのか、あはは。」




ぶちぃ。

ああ、やっちゃた。

俺が一瞬木下先生に目を向けると

先生は諦めたように首を横に振った。


「貴様、今なんて言った。」


梅原先生の声は先ほどまでの声とは

打って変わって、ドスの効いた

その筋の人のようなものに変わっていた。

そしてその顔は目がつり上がり

まさに阿修羅(あしゃら)のようであった。


「私の前で神聖な剣道を侮辱するとは良い度胸だ。

おい、木下、命令を変更する。

こいつの親に連絡を入れてから

剣道準備室に監禁しておけ。

会議から帰ってからこいつに剣道の素晴らしさに

ついてみっちりと教育してやる。」


そう梅原先生の前で剣道をバカにしては決していけない。

すでに段位は師範級である錬士六段、

女子剣道の全国大会である全日本女子剣道選手権大会

において何度も入賞を果たし、

人生を剣道に捧げて来た彼女にとって

剣道は神聖にして不可侵なものである。

これを汚すものはいかなるものであっても容赦しない。

その小さな体躯に鬼神を宿らせ、全てを討ち果たす。

この禁忌にふれてしまった不良達は地獄がこの世に

あるということを身を以て実感するという。


”鬼小梅”というのはその小さな体で大きな男性剣士すら

手玉に取る技量もさることながら、

剣道を侮辱された時の彼女の怒りの凄まじさを表し、

学生時代から多くの相手に恐れられて来た

剣道家としての彼女の代名詞であったそうだ。


梅原先生の激烈な怒気に気圧されて、

何も言えなくなった合田君は

木下先生に担ぎ上げられ、

静かに職員室を後にした。


余談だが、週明けの合田君は

髪が真っ黒になっていたのは

当然のこととして、すべてが真っ白に

なったような抜け殻の状態で

「神様、ごめんなさい。

神様、ごめんなさい。」

とうわ言のように呟き続けていたのだと言う。






あー、俺も梅原先生に全力で

折檻(せっかん)されたい。

でも流石に本気で嫌われてしまうのは

避けたい。

よし、また週明けの稽古でしごいてもらおう。


俺は文芸部顧問であり、

剣道は全くの初心者であるにも関わらず、

無理矢理剣道部副顧問にねじ込んでもらい、

10万以上する防具を買いそろえ、

毎日のように梅原先生に打たれに行っている。

そんな俺のことを生徒達は最近、

”マゾ清水”と呼び始めているらしい。

シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。

他の作品も以下の「うろな町作品一覧」リンクからどうぞ♪


鬼小梅とマゾ清水の生誕です。

やばい、本筋に行くまでに遊びすぎました。

なんとか今日中にプロローグを上げられるように頑張ります。

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