6月1日 その3 梅雨とあーんとにゃんにゃんと
PM4:30
帰りにドライブスルーに寄って
某有名牛丼チェーン店の牛丼を
晩ご飯用に買った。
もっといいものをおごりますよと
梅原先生に言ったのだが、
「ねこちゃんのお世話をしたいから
すぐ食べられるものでいい。」
との言葉でこうなった。
まあ、昼間に『流星』に行けたし、
また今度にするか。
PM4:45
住んでいるアパートに到着。
大家さんに今日と明日駐車場を
借りることは伝えてあるので、
レンタカーを駐車場に止めた。
「梅原先生、買って来たもの少しずつ
運んでいきますので、先に仔猫と家の方
行ってもらえますか?
さっさとキャリーバックからそいつ
出してやった方がいいですし。」
「そうだな。何号室なんだ?」
「104号室、1階の一番奥です。鍵はこれです。」
「分かった。」
鍵を受け取るとと先生はキャリーバックを肩にかけ、
それが雨に濡れないように、
ドアを開けて先に傘をさすと、
車を降りていった。
よしよし、先生は無抵抗。
男の部屋に上がり込むのだという
ことを全く意識していない。
部屋も出来るだけ
片付けておいたたし、問題なかろう。
さて、では順番に持っていきますか。
トイレにトイレ砂、
キャットフードが缶詰に、固形に、おやつ用、
猫用食器や爪研ぎ、
名前や住所が書ける首輪なんかも。
おもちゃやキャットタワーは奮発して結構
買ってしまったな。
この量であの値段だから結構サービスして
くれたみたいだ。
まあ、押し入れもスペースを空けておいたし、
何とかなるか。
傘をさして持っていくのも面倒だから
雨合羽をきてやりますか。
俺は車のエンジンを切ると、
荷物運びのために準備を整えていった。
PM6:30
「ふー、とりあえず終わったかな。」
「お疲れ様。麦茶ってこれでいいのか?」
「ありがとうございます。あー、生き返る。
結構時間かかりましたね。」
車から荷物を全て運び込み、さらに
トイレの設置や餌やトイレ砂などの必要物を
入れる棚の設置、すぐには使わないものを押し入れにしまう等
しているとかなり時間がたってしまった。
梅原先生も手伝ってくれたので助かったが、
勝手が分かっている俺がやった方がいいことも
多かったので、かなり疲れた。
ちょっとした引っ越しの気分だなこれは。
そう言えば姉さんが猫を飼い始めた時も
大騒ぎだった気がする。
「なあ、清水。あの子結局まだキャリーバックから
出て来てくれないんだが、大丈夫だろうか?」
「いきなり別の場所に連れてこられたんですし、
部屋の中もバタバタしていましたから仕方ないですよ。
でもそろそろごはんやトイレの場所を教えてやった方が
いいので出しますか。」
そう言ってキャリーバックの中を覗き込むと
仔猫はプルプル震えながら、端っこで丸くなっていた。
別に引っ張り出しても暴れたりはこいつはしなさそうだが、
無理に引っ張り出すのもなんだし•••。
そうだ、例のものを使うチャンスじゃないか。
お、ナイスだぞ、お前。
俺はあることを思いつくと邪な本心を隠しながら
梅原先生にこう尋ねた。
「先生、別に引っ張り出すこともできるんですけど、
やっぱり最初だし、自分の意思で出て来た方がいいんですよ。
その方が早くこの家に慣れてくれますから。
それで梅原先生には先ほど結構慣れていたみたいですから、
一つお願いしたいことがあるんですが、よろしいですか?」
「私にか?この子のためになるんだったら
何だってやらせてもらうぞ。
どうするんだ?
餌で釣ったりするのか?」
先生、そんな簡単に「何でも」なんて言っちゃだめですよ。
ふふふ、小林先生ありがとうございます。
「それはですね•••」
「なあ、清水。やっぱりこれはおかしいと思うんだが。」
「どうしてですか。
仲間が外にいると思わせることは重要なんですよ。」
「でも、いくら何でもこれは変な気がするんだが。
そもそもこんなもの誰が持って来たんだ?」
「猫を飼うことを知り合いに言ったら、
是非にと貸してくれたんですよ。
きっと上手くいきますって。」
「何か誰かに嵌められている気がするんだが•••」
うーん、鋭いですが、
猫耳カチューシャを頭に付けて、
猫ハンドの手袋を手に付けている時点で
もう完全にどっぷり騙されてますよ。
俺の目の前には普段は死んでもやらないであろう、
「ぬこ梅原」状態の梅原先生が首を傾げながら
座っていた。
ちなみに尻尾なんかもあってこれを付ければ
完全体っぽいんだが、流石に嫌がりそうなので
また今度の機会にしておこう。
ちなみにこのふざけた格好の提供者は
南小の小林果穂先生である。
今日の午前中に昨日の
「女子高生梅原」の隠し撮りを彼女に送った所、
「グ、グッジョブ!流石は私の見込んだ司ちゃんの彼だわ。
はーはー、お、おじさんもおさわりさせてほしいなー。
ぐふっ、鼻血が止まらない•••」
と、2児の母にあるまじき
変態な反応を電話口で示してくれた。
さらに今日二人で猫を買いに行くことを伝えると、
「これは司ちゃんの更なる痴態を
眺めるチャンスの予感!
清水君、すぐに行くから待っててね!」
と言って電話を切ったかと思うと、
30分後には旦那さんの運転する車で
大きな段ボール箱一杯に入った
大量のコスプレ衣装を、
わざわざ持って来てくれた。
その中でも今日はこれを是非にと言われたのが
この猫耳カチューシャと猫ハンドである。
ちなみにこの二つにはうっすらとマタタビのエキスが
しみ込ませてあり、実際に猫を引きつける効果が
あるとのことだ。
これで猫と戯れる梅原先生の姿を
激写してほしいとの
ご依頼である。
流石果穂先生、この短時間で芸が細かい。
「まあ、とりあえずやってみてくださいよ。
ダメで元々ってことで。」
「こんな恥ずかしい格好をして
効果がなかったら怒るぞ!
お前も絶対に写真なんか撮るんじゃないぞ。」
「分かってますって。
カメラなんてもっていないでしょ。」
「そうなんだが、
何故か見られているようで不安なんだ。」
あ、やっぱり恥ずかしくはあるんだ。
しかも鋭い。やはり先生の野生の勘は侮れないな。
とはいえ既に遅い。
あなたは俺の陣地に入ってしまっているんですから。
どういうことかと説明すると
午前中の内に部屋中にデジカメやビデオカメラが
秘密裏に複数台設置されており、
俺の携帯による遠隔操作でいつでも
撮影•録画が可能な状態になっているのだ。
ちなみに何台かは果穂先生が
持って来てくれたものだったりする。
すでにあなたの「ぬこ梅原」への変身シーンは
じっくりと記録させていただきました。
シャッター音も調整してあるため、
機械音痴のあなたには分からなかったでしょうが。
果穂先生、良い絵お届けできそうですよ。
「まあ、いいか。おーい。さっさと出てこいよー。
ごはんやおもちゃがあるぞー。」
「にゃーって言ったら更に良いかもしれません。」
「うー、恥ずかしいな。
にゃー、おいでにゃー。
仲良くしようにゃー。」
すみません、俺も鼻血が出そうです。
これはすごい破壊力だ。
お、俺の理性はいつまで持つのだろうか?
頬を染めながらにゃーにゃー言っている
ぬこ梅原に悶えていると、
仔猫も興味を示してくれたのか、
おずおずとバックの入り口まで出て来た。
そして梅原先生の猫ハンドをクンクン嗅ぐと、
ついにバックから出て
梅原先生の足元でゴロゴロ喉を鳴らし始めた。
「こ、これは上手くいったのか?」
「そうみたいですね。そっとだっこして、
喉の辺りを優しく撫でてあげてください。」
「こ、こうか。」
先生がおっかなびっくり仔猫を抱き上げて、
撫でてやると、仔猫は「んーんー」と
気持ち良さそうに声を上げたかと思うと、
梅原先生に更に近づき、
顔をぺろぺろ舐め始めた。
「な、なんかざらざらしてる。
清水。これは舐めさせておいていいのか。」
「親愛の表現みたいなもんですから、
嫌じゃなかったら舐めさせてあげてください。」
「い、嫌じゃないぞ。
あーでも、本当可愛いな、お前。
なあ、そろそろこの子にちゃんと
名前を付けてやったらどうだ。
お前じゃなんだか、可哀想だ。」
「あー、途中からそのこと忘れていました。」
正直猫と戯れる梅原先生を
どうやって記録しようかとか
ばかり考えていて、
途中から頭から抜けていた。
「折角ですから、
なんか意味がある名前がいいでしょうし。」
「そうだな。
出会った今日の日を象徴する名前もいいかもな。」
「今日は雨で梅原先生と一緒に買いに行ったと。」
「わ、私のことは考えなくていいんだぞ。」
「もう季節は梅雨。
梅雨?梅原先生と雨と猫。」
「どうしたんだ?」
「•••、梅原先生、梅雨ってどう思います?」
「梅雨?じめじめした今の季節のことか?」
「いや、そうじゃなくて、こいつの名前ですよ。」
「へ?梅雨?」
6月の雨の日の中、
俺の家で猫を抱く梅原先生。
その姿を見ていると、
なんかこの名前しかない気がして来た。
「梅雨って梅に雨だよな。
女の子なんだし、もっと可愛い名前でも
良いんじゃないか?」
「梅雨の雨って、嫌がられがちですけど、
農作物にとっての恵みの雨ですし、
そこが過ぎると暑い夏や
豊かな実りが訪れるってことで、
これから美人になっていけ、
みたいな意味も込めてみたんです。
あとこいつの毛色の濃いめのシルバーブルーって、
なんだか、どんよりとした今の空の色っぽいですし。」
「なるほど。確かに元気に大きくなってほしいし、
悪くないか。
よし、今日からお前は清水梅雨だ。
つーゆー。これからよろしくな。」
「うなー。」
先生も納得してくれたみたいで良かった。
梅雨の方も分かっているのかどうかは分からないが、
綺麗な鳴き声で答えてくれた。
PM8:00
梅雨にご飯をあげたり、トイレの場所を教えたり、
さっそく買って来たおもちゃで遊んであげたり
していたら、こちらの晩ご飯が随分遅くなってしまった。
牛丼は冷めてしまったので、レンジで温め直した上で、
インスタントのみそ汁や冷蔵庫にあった
漬け物、卵と一緒に食べることにした。
缶ビールも出してある。
ちなみに梅雨は梅原先生の膝の上である。
「うなー」
「あー、それは食べちゃダメだ。
たしか、人間の食べているものは
あまりやらない方が
いいんだよな。」
「味がついているものは避けた方がいいかなーっと。
お肉とかを少量なら問題ないと思いますが、
さすがに牛丼の牛肉は微妙でしょう。
あとご飯も猫にとっては
あまり消化によくないみたいですから、
ご飯粒をちょっと食べたとかならいいですけど、
沢山食べさせない方が良いと思います。
特に梅雨は消化器系が弱いみたいですから、
成猫になるまでは気を付けてやった方がいいでしょう。」
「だぞー。だからダメだ。
お腹へったら、お前用のおやつを
後で少しだけやるからにゃー。」
先生、まだにゃーが一部抜けてないです。
ああ、萌死しそう。
「雨止まないな。タクシーでも拾うか。」
「私が送っていきますよ。
レンタカー明日まで借りてますから。」
「お前、飲んでるから無理だろ。」
「私の方はノンアルコールです。」
「そういう所、本当そつがないな、お前。」
大分暗くなってきて、
先生も帰りのことを気にし出したので、
先に手を打っておく。
これで俺が帰るタイミングに関して
決定権をある程度握ることが出来る。
ちなみに先生はお酒は好きだが、
決して強くはない。
酔って管を巻いた後はパタッと寝てしまう
ことが少なくなかったとは果穂先生の弁。
皆様、俺の企みが分かるでしょうか、へへへ。
さらにもう一押しいっておきますか。
これも多分少量ながらお酒が入っているはず。
「ごちそうさま。そう言えば先生、デザートにあれ、
食べませんか?」
「あれ?デザートなんて買ってた•••、
そ、それは!ごほ、ごほ。」
冷蔵庫に向かう俺を先生は不思議そうな顔で
眺めていたが、俺が手に持った白い箱に
気づくとむせて真っ赤になってしまった。
「折角のケーキもったいないじゃないですか。
食べましょうよ。」
「いや、確かにそうだが、やっぱ恥ずかし、
なんだ、梅雨。だっこして欲しいのか?」
「うなー。ゴロゴロ。」
「可愛い奴だにゃー、お前は。」
梅雨、ナイスフォロー。
ママゲットに協力してくれ。
ふふふ。この状況なら
思い切ってこんなことも出来るかも。
「食べてみたら気持ち変わりますって。
ほら、あーん。」
「お、お前、い、一体何を。」
「だって梅雨で両手塞がってるじゃないですか。」
「それはそうだが。
あ、梅雨、なんだお腹も撫でて欲しいのか。
もう甘えためー、こうしてやるー。」
「でしょ。ほら、別に誰も見てませんから。
(カメラ以外は)
あーん。」
「うー、恥ずかしい。まあ、いいか。
あーん、はむ。もぐもぐ。
ん?すごい!これものすごくおいしい!
マスター、ケーキまで
こんなにおいしいの作れるのか!」
「確かに絶品ですね。
本当もう少し宣伝すれば大繁盛でしょうに。」
「というか同じフォークで食べるなー!!!」
「別にいいじゃないですか?ほらもう一口どうぞ。」
「しかもそれを使ってまた、ああ、梅雨ごめん、
揺らして欲しくはなかったか?
はむ。本当すごいなー。
とろけるような甘さの中に、
ほんの少しの苦みが効いていて、
絶妙なバランスだ。
時間が経ってもこれだけおいしいんだから、
出来たてはどんな味がしたんだろう。
今度はデザートもかならず注文することにしよう。
って、また同じフォークで食うな、ごほごほ。」
「食べながらそんなにしゃべると喉詰まりますよ。
ほらこれ飲んでください。」
「ごくごく。す、すまん。
ああ、飲み物まで
手づから飲まされてしまった。
ん?その麦茶•••
おい!それ、さっきからお前が飲んでた奴だろう!
か、間接•••」
「先生、間接キスとか気にするんでしたか?
すいません、気が利かなくて。
お口直しにケーキ
もう一口いかがですか。」
「お前は何でそんなに平然としてるんだーーー!!!」
そんなこんなでマスターの
ラブウェディングチョコケーキは
俺たち二人のお腹の中に見事収まってしまった。
葛西先生、ごちそうさまでした。
今度感想を言いに行きますね。
PM10:00
「つーゆー。むにゃむにゃ。」
「うなーん。」
すでに本物の母娘の如く
仲良くなった梅原先生と梅雨のふたりは
床に寄り添って寝入ってしまっていた。
「梅原先生ー、帰らなくていいんですかー?」
「んー」
「もう遅いですし、泊まって行きます?」
「ふん」
ぐふふ、あーはっは。
作戦通り。
梅原先生は完全に寝入ってしまっている。
一応本人に確認もとった。
梅原先生、お泊まり決定である。
ここまで上手く行くとは。
我ながら恐ろしい手際である。
これはもういくしかないんじゃないのか?
俺は梅原先生としがみついている梅雨を起こさないように
そっと持ち上げるとゆっくりと静かにベットまで運んだ。
うおー、梅原スメルがこんな至近距離で。
しかもおの柔肌。
もう我慢出来ません。
いただきまーす。
ん、おっとその前に。
ここまで頑張ってくれた梅雨ではあるが、
さすがにここからはお邪魔なので、
ソファででも寝かせておこうかと
抱き上げようとした時だった。
「うーん。つーゆー。かわいいにゃー。」
なんだ寝言か。びっくりした。
まあ、この後どうせ起きてもらうことに
なるのだから、ここで起きても問題ないのだが。
さて改めて梅雨を移動させて。
「つーゆー。もう大丈夫だからなー。
私が守ってやるからなー。」
梅原先生はそう寝言をいうと
梅雨をぎゅっと抱えてしまった。
お、これはちとまずいか。
まあ、熟睡してはいるみたいだし、
ゆっくりと手を外せば。
「怖がらなくてもいいからなー。
どんな奴でもわたしがたおしてやるからなー。」
ん、何かすごく悪いことをしている気になって来た。
「誰もお前を仲間はずれにしたりはしないからなー。」
梅原先生、ホントに寝てるんですか!
「しーみーず、お前のご主人様も、ああみえて、
すごくいいやつだからなー。
安心して甘えていいんだぞー。」
りょ、良心が、良心がうずく。
「だから元気に大きくなって、うんときれいになれよー。
わたしたちのかわいいつーゆー。」
•••••。
無理。
いくら何でも無理。
あんなこと言われて変なこと出来るかボケー!!
ああ、こんな大チャンスに。
神様のバカヤローーー!!!
はあ、しょうがないから仕事でもしようか。
今週の成果をまだきちんとまとめてないし、
来週の予定ももう少し詰めますか。
はあーーー。
完全にやる気を削がれた俺は
大きなため息をつくと、
パソコンを立ち上げ、
のろのろと作業を始めた。
結局その日寝たのは午前2時を回ってからであった。
ふたりの寝ているベッドで眠る気にもならず、
俺はいつもと同じく一人寂しくソファで寝ることとなった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
期待してくださった方ベタな名前ですいません。
色々考えていたんですが、
他のみなさんの作品で「梅雨」という言葉が出て来たのを見て
やっぱこれかなーと思いまして。
偶然ですが、とにあさんの時雨さんとは近い名前になったので
仲良くしてやってください。どこかで遊びに行きます。
裏山おもてさんの草薙家にも行きたいと思いますので、
ぎんさんとも絡ませていただけると幸いです。
あとものすごくアホなネタですが、
「ぬこ梅原」を書いていて、
仙台に「べこ政宗」っていう牛タン屋さんがあったのを
思い出して、
「ぬこマサムネ」とか面白いんじゃないかとか思ってしまいました(笑)
ディライトさん是非ご検討を•••、まあ、誰得すぎますが。
マホちゃんは喜んでくれるかな、マサムネ君をペット扱いみたいですし。
次話ですが、日曜朝のお話です。
今回最後の最後で空振った清水ですが、
ちゃんといいこともあります。
時間軸に追いつくためにも早めに更新したい
所ですが、多分今日はサッカー日本代表の応援に
ヒートアップしてしまうと思いますので、
ぼちぼちお待ちいただければ幸いです。