6月1日 その1 君がご馳走
AM9:00
週末の俺の朝は遅い。
普段は梅原先生の朝稽古に
付き合うため結構早起きをしているのだが、
基本的に低血圧で寝起きも良くない。
しかも金・土は何かと夜ふかししてしまうため、
次の日は昼前に起きるということも少なくない。
昨日も高校訪問から帰ったあと、
来週訪問する場所のリストアップと
情報収集に時間がかかってしまった。
とりあえず来週は主に商業関係を
回ろうと思っていて、
今週と同様に火・水・金に回るとしたら、
火曜日に商店街、水曜日にスーパー、金曜日にショッピングモール
に行こうと考えている。
それぞれの様子を見学した上で、
担当者に挨拶すればいいだろう。
とりあえず今日にでも
担当者にメールしてみようと思うが、
困ったのはこの予定をどうやって梅原先生に
伝えるかだ。
昨日のは流石に怒っているだろうから、
さてさてどうやって丸め込んだらいいものか?
そんなことを考えていると驚くことに梅原先生から
メールが来た。
「ほんじつ12じしょくいんしつでまつ
はやめにきてねこのおきもちをよんでよしゅうしておくこと」
先生ー、俺への怒りよりも猫ちゃんへの愛が勝りましたか!
何かちょっと複雑だーーー。
俺は梅原先生と連絡が付けられるように安堵しながらも、
釈然としない思いを抱えながらノロノロ起きだした。
PM1:00
「梅原先生ー、ちょっと待ってくださいよ。」
「待たん!この超絶変態!一体どれだけ私に恥を
かかせたら気が済むんだ!」
ラブドリンクを一人で一気飲みし、
支払いを済ませた俺は、
『流星』を出て雨の中梅原先生を追っかけた。
梅原先生を「彼女」だと言ってしまった嘘を
どう取り繕うかと迷っていたら、
マスターに超ド級の梅原イジリをやられてしまった。
梅原先生の恥ずかしがる姿は可愛かったが、
同時に梅原先生の剣幕にも一切動じないマスターの様子に
驚きを通り越して改めて尊敬の念を抱いた。
葛西先生、流石俺の心の師匠です。
勉強させていただきました。
ケーキも後で美味しくいただきます。
「というか、お前の手に持っているその白い箱は何だ?」
「さっきのケーキですけど。」
「あんな黒歴史、さっさとこの世から消滅させてくれ!!!」
梅原先生は怒りながらも既に涙目であった。
「でも先生、マスターが頑張って作ってくれたケーキですし、
実際すごく美味しそうですよ。外面はあんまり気にしないで
後で食べましょうよ。」
「そりゃ、確かにもったいないとは思うが・・・。
ん?ちなみに後でってどういうことだ?」
「そりゃ、後で私の家に来た時に決まってるじゃないですか。」
「えええーーーー!!」
俺の発言に先生は涙を引っ込め、顔を赤くしながら後退していった。
「お、お前、何を堂々と人を家に連れ込もうと。
私に何をするつもりだ!」
「いや、これから猫をペットショップに買いに行くんですから、
当然私の家に連れて帰りますよね。
梅原先生、猫と遊んでいかないんですか?」
「そ、それはもちろん遊びたいに決まってるが。
猫ちゃんの遊び場の配置やトイレの設置とかもしてあげたいし。」
「じゃあ、決まりですね。
実は今日は雨だし、色々買い込むことも見込んでレンタカー予約してるんですよ。
ほら、そこの会社で借りられるんで行きましょう。」
「ちょっ、ちょっと引っ張るな。分かったから、手を離せ。」
俺は半ば強引に梅原先生の手を引いていく。
うおー、小さいけど剣道で鍛えているから固く、
それでいてすべすべ。
ふふふ、名づけて「猫は餌。君がご馳走。」作戦、前菜段階終了だ。
ここで無理にでも話をつけてしまえば、この後ペットショップで
猫に魅入られた先生が、前言を撤回することなど不可能。
先生はさしたる抵抗もせずに俺にお持ち帰りされてしまうだろう。
さてペットショップでのスープ段階においては
先生のどんな愛らしい姿が見れるのだろうか。
そしてその後お楽しみのメインディッシュでは・・・。
梅原先生、今夜は寝かせませんよ、ぐへへ。
俺はとてもこの後ペットショップで動物を愛でに行くようには
見えない野獣のような顔を傘で隠しながら、
レンタカーショップの敷地に足を踏み入れていった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
猫に負けじと邪悪さを強めた清水です。
読者の皆さん、梅原に「逃げてー」と言ってあげてください。
まあ、別に悪いようにはしませんが。
次はペットショップが舞台です。
とにあさんのLove ふぁみりあにお邪魔しますので
よろしくお願いします。