5月31日 その4 無間封頼殺
「い、いきなり叫び出してなんですか?
非常識だとは思わないんですか?」
「いやー、すいません、すいません、
少し気合いを入れようと思いまして。
では打合せを続けましょうか。
まず部活動交流なんですが、
これ、すごい高校側にメリットが
大きいと思うんですよね。」
動揺を隠せない田中先生に
落ち着く暇を与えまいと、
俺は最初の山から一気に突っ込んで行った。
「まず全国レベルの実績が挙げられるなら
というお話ですが、隣にいる
梅原は剣道では全国レベルの選手ですし、
その指導を受けられるというだけで、
そちらの剣道部にとって常時全国を狙えるという
大きなメリットがあるのではないですか?
実際うろな高校に中学剣道部のOBOGが
多く在籍していますし、
中学と高校の部活の連携により、
各顧問が協力しての6年間一貫した指導が
受けられるとなれば、
町外からすでに全国レベルの生徒さんが
うろな高校を受験するということも
期待出来ると思いますよ。
「そ、それはもちろん。しかし剣道部だけでは」
「そこはご安心ください。剣道部ほどすぐに
全国クラスの実績には繋げられないかもしれませんが、
どの部活動においても中高が連携することで
各顧問の指導スキルは飛躍的に高まると思いますよ。
そもそも中高それぞれに各部活の専門家が
いることなんてあり得ない訳ですから、
どちらかにいる専門家がもう一方をフォローする、
あるいは共に情報を共有しあうことで
その指導力は高まってくること間違いないですし、
そのことが先ほど言った6年間一貫した指導という
ことにも繋がってきます。
一貫校でもない公立の中学•高校で部活にこれだけの
強みがあるというだけでも、生徒さんを集める上でも
かなり魅力的だとは思いませんか?」
まずは第一段階。
ドンドン攻め、合間なく提案して行く。
決して向こうに何も言わせない訳ではない。
向こうが反論を切り出した時点で
それを汲み取った上ですぐ切り返し、
相手が防御を固める前に、
向こうが想定する問題点を
乗り越えるような提案を続けて行くのだ。
その中で相手が特に食いつくポイントを探って行く。
「た、確かにうちの新たなアピールポイントには
なりそうですが、しかし部活動はあくまで余暇的な」
「いえいえ、先生もご存知でしょう。
今は大学入試も多様化の時代です。
先日我が国の最高学府と言われる大学が
推薦入試を始めると言い出したことご存知でしょう。
他にもほとんどの大学で推薦や論文試験を重視した
入試方式を導入しています。
そこでこの部活動交流を通した中学生との交流、指導
の経験を材料にしてもらえばそれは、
入試で自分の経験や強みをアピールする上で
先ほども言ったように
他の学校ではなかなかない、強い武器になりますよ。
よろしければ指導に当たってくれた生徒さんには中学校の方から
感謝状をお渡しするなんてこともできますし、
そういうのもポイント高いと思いますよ。」
「そ、そういう方式を利用する生徒には良いかもしれませんが、
うちはやはり一般試験を利用する生徒も多いの」
「そうですよね。でも大学試験の学力試験を解く上でも
そういった経験は重要なんですよ。
普段は知らない相手とコミュニケーションをとり、
さらにその相手を教えていくとう活動は、
生徒さんの総合的な思考力、コミュニケーション能力を
高めるのに非常に有効であるという研究が多く出ていますし、
それが学力試験の成績とも深く関係しているという
のが世界的な学力調査の結果から明らかになっているんですよ。」
「そ、そうなんですか。」
「そうですよ。しかも大学に入った後は正直
学力試験の結果自体よりも、
そういう多様な人と関わった経験やスキルが重要に
なってくるのは先生も大学で感じられたでしょう。
さらに今の大学はほとんどの授業で討論形式や
ワークショップ形式を取り入れており、
単に机の前に一人座って勉強していたタイプには
なかなか厳しくなっているんですよ。
先生も卒業生が折角有名大学に合格したのに
馴染めなくて休学してしまったとか最悪退学してしまった
なんて話をききませんか?」
「う、そうですね、多くはないですが、やはり毎年おります。
あんなに頑張ったのに、どうしてと思うんですが。」
「本当田中先生のように熱心な指導をされておられる
先生方にとっては辛いことですよね。
しかもごく少数であってそういうことがあると、
あの学校から進学してきた学生は使い物にならないとか
大学側から思われてその後の後輩達の受験に
響いたりするんですよね?
私も大学時代に教授達の話を聞いて
ぞっとしましたよ。」
「そ、そんなことになるんですか。」
田中先生は自分の最重要課題にしている大学入試の成果に
関わる情報になってくると徐々に身を乗り出し、
前のめりになりながらこちらの話に聞き入り出した。
これで第二段階到達である。
さてそろそろ仕上げだ。
「残念ながらそうなんです。
ちなみに他に受験や生徒さんの勉強についてお悩みの
ことはありますか?」
「はい。うちの子達は高3になればそれなりに頑張って
勉強するんですが、高2までは全くという子達が少なく
ないんです。ほんの少し、基礎だけでも固めておいて
くれたなら、もっと希望通りの所に行けるはずなのに、
それがどうにも歯がゆくて。」
「うんうん。そうですよね。
高校に入るとやりたいことも多くなりますし、
このうろな町の子ども達は元気ではありますが、
本質的にはやさしくのんびりした子が都会より
多いですからね。
実は田中先生、この部活動の交流がそういった
高1、高2の生徒さんの学習意欲の向上に
効果を発揮するんですよ。
興味ございますか?」
「どういうことですか?是非教えてください。」
「それはですね•••」
完全に相手がこちらの罠にかかり、
向こうからアドバイスを求めて来た段階で、
俺の弁舌法の一つ、
名付けて無間封頼殺の
完成である。
あとは丁寧に相手の困っている点を聞きながら、
それを含んだ形でこちらの要望を飲ませれば良い。
この方法は相手が大きな不安を抱えているとか、
相手が望む分野に対してこちらがある程度具体的な
情報を有していないといけないことなど、
いくつか条件があるが、それさえクリアすれば
仮にそれまで敵対していた相手であっても
こちらの要望を向こうも望む形で
結実させることが可能になる。
ちなみに無間封頼殺の名称は
基本相手を封殺しながら、上手く攻守を入れ替えて
相手に寄り添うように要望を聞き出していき、
こちらの条件を自分から求めて受け入れさせるという、
その無間地獄の如き業の深さから、
付けられている。
これを中学生の時に考えたとき、
「俺って中二病だよな。」
と笑いながら友人に内容を説明したら、
「頼むから犯罪だけは起こすなよ。」
と必死に懇願されたことを覚えている。
まあ、これを悪用•発展させると、
悪徳訪問販売業者とかインチキ霊能者が
商品を売りつけたり、相手を洗脳したり
する時に使う話術に結びつくからな。
今やっている状況も正直グレーゾーンではあるが。
俺は懇願する田中先生に対して
心だけ若干黒く染めると、
部活動交流、小中学校や地域へのボランティア活動、
職場体験や商店街との商品開発学習、
小中高での担当者打合せや小中高合同企画など
こちらの予定していた連携活動を次々と飲ませて行った。
「う、うちの子達いい子ではあるんですけどね。
どうも将来のことをしっかりと考えていない子が多くて。
私も昔そうだったんです。色々頑張っていたつもりだったのに、
大学受験で志望校に落ちた後、みんなが手のひらを返したように
態度を変えてしまって。
生徒達にはそんな苦労を味あわせたくなくて、しかも上からは
実績を上げろと突き上げられてしまって。
ううー、私は生徒達の邪魔をしてたんでしょうか?」
打合せがほぼ終わる頃には
田中先生は顔を涙でぐしゃぐしゃにしながら、
何度もハンカチでそれを拭って話していた。
完全に防波堤を崩された田中先生は
決して大学受験のことしか考えないダメ教師ではなく、
現実と理想の狭間で苦しむ真面目な中間管理職の姿を見せてくれていた。
「そんなこと、ありませんって。
きっと感謝している生徒さん達も多いですから。
これから一緒に頑張っていって、さらに生徒達が
生き生きとした将来を過ごせるように支えて上げましょう。」
「あ、ありがとうございますー。
本当に清水先生だけがたよりなんです。」
さすがにやりすぎたかもしれない。
田中先生の変貌ぶりに
同席していた残り二人は呆れており、
俺に向けて多少不審の目を向けていた。
いくらなんでもあざと過ぎたか。
「そ、それでは今後ともよろしくお願いします。
春日先生、部活動交流の第一弾として
是非時間のある時に中学校に遊びに来てくれるよう、
天塚部長を始め学園生活環境部の方に、
お伝えくださいね。」
「はい。わかりました。」
俺は田中先生に別れの挨拶を切り出し、
最後に春日先生に今後の交流についてお願いをすると
梅原先生と共にいそいそとうろな高校を後にした。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
頑張って中二病ぽい?必殺技名を考えました。
もしもっと良いのがあればご提案ください。
もちろんこんな話術ありません(多分)ので、
深く詮索しないでくださいね。
どこかで部活交流の日みたいなのも作ろうと
思いますが、基本は自由に中高で部活動交流を
やるという感じなので部活動ものを書いてる方は
是非交流話を書いていただければと思います。
特に駄弁り部(学園生活環境部)さんには是非中学校におこし
いただけたらと思いますので、
アッキさん、気が向いた時によろしくお願いします。
次も今回のオチとなるくだらない話を書きますので
ご覧いただければ幸いです。
週末の話を書くのは週明けかな(苦笑)