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11月30日 結婚式その6 この愛よ永遠に•••えっ、終わりじゃないの!?

PM0:10


「「「「おおー!」」」」


お色直し部屋から出てきたのは、

輿を担いだ和装の男達。

その輿で運ばれる白無垢姿の司さんに

スポットライトが当たった瞬間、

会場から大きな歓声が上がった。

綿帽子から見えるその穏やかな顔は

白さが強調されたメイクであるにも関わらず、

見る人をそっと包み込むような

温かみに満ちていた。



前方で黒い紋付袴に着替えた俺が輿から降りるのを手伝い、

ゆっくりとみんなに頭を下げる。

撮影のシャッター音が収まった頃合いで

拓人先生のアナウンスが入った。





「それでは花嫁からご両親への手紙の朗読です。」



俺が懐紙を取り出して広げるのを手伝い、

手紙をそっと支えていると、

司さんはゆっくりと口を開いた。






「お父様、お母様。

今日は私たちの式に来てくださり、

ありがとうございました。

私が今日のこの日を迎えられたのは

今まで温かく見守ってもらえたおかげです。」



司さんの話が始まると会場はすっと静まり返り、

その中でお義父さん達がじっと聞き入っているのが見える。




「お母様。

小さい頃は稽古で身体の大きい子達に敵わず

泣いてばかりだった私を、

『頑張ったね』と

いつも笑って抱きしめてくださいました。

その温もりが嬉しくて、その優しさに応えようと

毎日頑張ることができました。


教師になったばかりの頃、

授業が上手くいかなくて、

生徒が悩んでいるのをどうすることもできなくて、

くやしくて、くやしくて、

どうしようもなくなった時は母様に電話をしましたよね。

私の今思うと恥ずかし過ぎる、情けない愚痴を

ずっと黙って聞いて下さいました。

そしてあの頃と同じ様に毎回『頑張ったね』と

言ってくれました。

その言葉を聞くと故郷とは遠く離れたうろなにいても、

母様の温かさをいつも思い出すことができました。

そのおかげでどんなに電話口で泣きじゃくった次の日でも

生徒の前では怒り、笑うことができました。


どんな辛いことがあっても、

挫けそうでたまらなくても、

剣道をそして教師を続けられたのは、

あなたが与え続けてくれた温かい愛情が

私を支えてくれていたからです。

本当にありがとうございました。」





いつも明るく朗らかなお義母さんの目に

涙がにじんでいる。

きっと今までの司さんとの日々を思い返しながら、

彼女の言葉を噛み締めているのだろう。





「お父様。

いつも強くて厳しいお父様。

子どもの頃はどうしてお父様はこんなに

私にばかり厳しくするのだろう、

本当は私が嫌いなんじゃないかと、

稽古の度に不安でいっぱいになりました。

こんな思いをするなら剣道なんてやりたくない、

そんな風に思ったことも少なくありませんでした。

強いお父様には弱っちい私の気持ちなんて分かるはずはない、

そんなバカな勘違いを心の中でしておりました。



でも中学最後の試合の時、

大将の私が相手の大将に負けてしまって

チームの全国大会予選敗退が決まった後、

涙が止まらなかった私に

『なぜ泣いている?』と珍しく声をかけて下さいましたよね。

『大将なのに部のみんなを勝たせてあげられなくて悔しい。』と言った私に、

『•••お前も剣士になれたのだな。』と呟く様に言って下さったのを、

私は今も忘れることができません。

私が自分が一人の剣士として誰かのための刃であることを、

一人の人間として強さよりも優しさを尊ぶことを誓い続けていられるのは、

お父様のあの言葉があったからです。



私が道場を継ぐのではなく、

教師として生きていくことをお伝えした際も、

私の前では『好きにしろ』とすげなくおっしゃいながら、

絶えず私のことを気にして下さっていたことを

母様から聞いております。

ですからこの前の渉との決闘は本当に驚きましたし、

大変心配もしましたが、

普段からお父様がどれほど私のことを心配してくださっていたのか、

私を本当に大切に思って下さっていたのか、

改めて知ることが出来たのは、とても嬉しかったんです。



あの時までお父様は背中でしか愛情を見せてくださらなかったように、

未熟な私には感じられていなかったのです。

しかし全身全霊をもって渉に向かい合う中で、

全てをかけて私を守ろうとしていたこと、

渉が私を託すに足る人物かどうか自らを犠牲にしてでも

確かめようとされる姿を拝見する中で、

いつもお父様は実は私にしなやかな愛情を

注ぎ続けてくださっていたのだと、

漸く理解することができました。

本当にありがとうございました、」





お義父さんは腕をくんだまま、

むすっとこちらを見続けているようにも見える。

でもそのポーズが涙腺が決壊するのを必死に止めようとする、

彼の最後の意地なのだということが、

司さんと同様に今の俺にも理解することが出来る。



あのバカバカしい決闘を通して、

この人の不器用な愛情を理解出来たことは、

その愛娘を託される上で、

彼の息子となるために、

非常に大事なことなのだったと実感出来ている。

あれは家族の大事な対話であったのだ。

司さんの言葉を聞いてそのことを改めて

確信することが出来た気がする。






「瑠璃子お義母様、薫お義姉様。

今日は来て下さり本当にありがとうございました。

先日お宅に伺った際にはまるで本当の娘であるように

温かく迎えていただき、心から感謝しております。」



えっ、この後改めてお二人に感謝の言葉で終わりじゃなかったっけ!?

いらんよ、この二人には別に



ギロッ!!



•••分かりましたよ。

どうぞ心置きなく俺の嫁さんのありがたい

お言葉を聞いて下さいな。





「お義姉さまにはお腹の子どもの件について背中を押していただき、

お義母さまにはお義父さまの形見でもある、

この婚約指輪を託していただけるなど、

感謝の言葉は尽きませんが、

何よりお礼を申し上げたいのは•••、

こんなに素敵な息子さんに出会わせていただいたことです。」



へ!?



「渉は本当にいつも私を驚かせてくれます。

頭の固い私ではどうすることもできないような状況を

あらゆるものを巻き込んでなんとかしてしまう、

そんなすごい力を持っています。

その癖、その力を使うのはいつも私や友人や生徒達、

自分の大事な人のためだけなのです。


口では、いやいや全部自分のためだけですよとか、

私の全ては私利私欲でできていますとか、

きっと上手くごまかしてしまうのでしょうが、

私は彼の根幹がどこまでも弱さを包み込み、慈しめる強さ、

底抜けの優しさにあることを知っています。

頭のいい彼はもっと楽な道を選ぶこともできるはずなのに、

泣いているだれかを決して見捨てることが出来ない、

いやそれどころか、

『誰かが泣かなきゃいけない状況が許せない。

何としても俺の手で笑わせてやる!』

と自然と考えてしまうんです。

だからお父様と決闘なんてしてしまったように、

自分では到底敵わないような相手にすら

大事な誰か、何かを守る為なら

迷わず立ち向かってしまえるのでしょう。


これから彼と家族になる人間としてはとっても心配です!

でも同時にこれからこのお腹の子のお父さんになる人として、

きっと子ども達の誇りになってくれると思っていますし、

何よりこんなバカで優しくて素敵な渉が私は、

•••大好きです。」



もうやめて!

マジで悶死するから!!

そんなこと全然手紙には書いてないじゃないですか!!!

全部アドリブでって•••もう。




「きっとこんな素敵な人に彼が育ったのは、

彼の学生時代の恩師•仲間達、

うろな町のみなさんを含めた

彼が出会った多くの人達のおかげでももちろんありますが、

やはりずっと大らかに彼の全力疾走を見守って来られたお義母さま、

彼の頑張りの原動力でいらっしゃたお義姉さま、

そして。」




司さんを支えながらも、

顔から火が出そうで

真っ赤になって羞恥に耐えていた俺は、

彼女がふっと言葉をきったのを怪訝に思い、

その顔を覗き込んだ。





そこには司さんの万感の思いを込めた優しい笑顔があった。





「そして、今もきっと優しく見守って下さっている、

彼の憧れであり、誇りであり、原点である亡きお義父さまが

いて下さったからこそだと私は思っています。

私は今日お父様•お母様に自分を産んで大きくしてくださったことと同じくらい、

瑠璃子お義母様、薫お姉様、香お義父様に、

愛する彼と出会わせて下さったことを感謝したいのです。

これからも二人、いえ、四人で皆様のお力をお貸しいただきながら、

幸せな家庭を築いていけるよう精進して参ります。

皆様本当にありがとうございました!!!」




会場から送られた万雷の拍手が彼女を包む。

うちの家族の様に顔を涙でぐしゃぐしゃにしているのもいるが、

それを含めてみんな笑顔であった。





やられた。

完全にやられた。


ここでしっとりとみんなが涙を流しながら感動という所で、

最後に俺がどかんと笑いをという流れを

完全に司さんに持ってかれてしまった。

本当にうちの奥さんはすご過ぎる。



あーもう、本当司さん、最高!!!

こんなにも好きなのにさらに好きになることが出来るなんて•••

彼女こそ真に『想像を超えた人』だよ。


桜也•桃香、お前らの母ちゃんは宇宙一だ!!!!






その後笑顔に包まれた会場で互いの両親への花束と記念品の贈呈、

ほぼ唯一親族でまともにしゃべれる状態であったお義母さんによる

お返しのメッセージがあって、

いよいよ本日のクライマックス、

指輪の交換式への進んでいくこととなったのである。









PM0:25



「ふふふ、見せ場を奪ってしまって、ごめんな。」

「いいですよ。めちゃくちゃ恥ずかしかったですけど、

それ以上に嬉しかったですから。」

「•••最後は期待していいんだろ?。」

「もちろんですよ!!」




最後に改めて別のタイプのタキシードとウェディングドレスに

着替えた俺と司さんは、

俺のラストの挨拶に向けて気持ちを盛り上げると、

控え室を出て腕を組みながらゆっくりと会場の前方に進んでいった。

控え室で力尽きている果穂先生の代りと言っては何だが、

司さんのベールの端を持ってくれている果菜•美果姉妹が無事に

歩けているか気にしながらの移動ではあったが、

その分結婚式の残り少ない時間を、

噛み締める様に二人で一歩ずつ歩いていくことが出来た。



後はユキちゃんデザインのマリッジリングを持って

歩いて来ている汐ちゃんからリングを受け取り、

互いの指にリングをはめて、

俺の挨拶、その後屋外でのフラワーシャワー、

ブーケトス、ゲストのお見送りって進行だ。



司さんのサプライズスピーチに負けないとびっきりの奴を

何とか再構成して組み立てねば!!





俺はゆっくり歩く汐ちゃんの姿を見ながらも、

この後のスピーチに向けて頭をフル回転させていたことから、

会場がどこか『これで終わり』というムードとは異なる、

そわそわしたものであることに気がついていなかった。



会場の招待客は待っていたのである。

もう一つの『結婚式』の始まりを。







「あーっはっは。皆のもの、かかれ!!」



それは暗闇の中の高笑いと共に訪れる夢の続き。

宴はまだ終わってはいなかった。

いや、真の舞台はまだ『始まってすらいなかった』のである。


『裏結婚式』の始まり始まり〜


シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。


感動シーンの方向で行こうと思ったら、

何と梅原の逆襲になりました。

最後までどうなるかお楽しみに。


結婚指輪のデザインを桜月りまさんの「うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話 」に登場する芸術家少女ユキちゃんにお願いしております。これがどう影響するのか、お楽しみに。

またリングガールには小藍さんの「キラキラを探して〜うろな町散歩〜 」より末娘の汐ちゃんにお願いしました。


そしてあの高笑いは誰だったのでしょうか?


昨日は忙し過ぎたため、

力つきて更新出来ずにすいません。

捜索イベントの方は明日から開始となるかと思います。

もう少しお付き合いいただければ嬉しいです。

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