11月30日 結婚式その1 花嫁は光の中で
AM9:30
結婚式開始まで1時間。
さっさと着替えを終えてしまった俺は、
司さんの控え室の前でウロウロしてたのだった。
えっと直澄の発案でいわゆる挙式でやる
指輪の交換やフラワーシャワー、ブーケトスなんかは
後回しにして、
先に披露宴的な感じで始まるんだよな。
でも折角だから最初の入場ではウェディングドレスと
白タキシードで入場と。
えっとその際の進行はどうなるんだっけ?
「何をうろちょろしてるんだ。
新婦の着替えが終わったら呼びにいってやるから、
大人しく控え室にいろ!」
「か、鹿島!」
俺がこの後の進行に関して頭をグルグルさせていると
実にタキシード姿が決まっている鹿島が俺に声をかけて来た。
ゲストの集合はまだ後のはずなのに、
大分早めに来てくれたんだな。
「ああ、すまん、なんか落ち着かなくて。
今日は来てくれてありがとう。」
「別に招待されんでも俺はここの責任者だから
来ない訳にはいかんがな。
まあ、お前のオロオロする姿をゆっくりと
見物させてもらうさ。」
「相変わらずの口の悪さだな•••
萌ちゃんももう来ているのか?」
「すでに着替えも済んでいる。
萌のブライズメイド姿はもう本当に
可愛くて•••
ああ、貴様を斬り殺そうとしたという
梅原のお父さんの気持ちが良く分かる。」
「頼むから会場で合田を襲わないで
やってくれよ。
受験勉強の合間を縫って参加してくれているんだし。」
「ふん、あの糞ガキが海江田受験など身の程知らずが!!
高原兄は大分あいつをかっているようだが、
俺に言わせればまだまだどうしようもない甘ちゃんだ。
萌やあいつの母親が是非にとお願いするから家庭教師を
引き受けてやっているが、
もし萌に不埒な真似を働こうものならその時は•••」
「はいはい、顔が怖過ぎる。
頼むから会場ではいつもの作り笑いを保っていてくれよ。」
何か鹿島と話していたら、
大分緊張がほぐれて来た気がする。
流石にあいつがそこまで気を使ってくれたとは
思わないけど、
ありがたい話ではある。
入場の際には直澄、合田とかと一緒に
アッシャーとしてバージンロードの準備なんかもしてくれるみたいだし、
口は悪いがいい奴ではあるんだよな。
コイツにも何か良縁があればと思うんだけど、
とりあえず萌ちゃんの件に関して色々諦めが付くまでは難しいか。
頑張れ、合田。
「渉先生、司先生の準備ができましたよ。」
「ユキちゃん、ありがとう。
ブライズメイド用のそのドレスすごく似合ってるね。
きっと賀川さんもイチコロだよ。」
「な、何を!
賀川さん今日はピアノ演奏ですし、
邪魔しちゃ悪いから•••。
えっと、じゃあ、果穂先生をそろそろ起こしてきますね。」
「ああ、ドレス関連で徹夜作業だったみたいだし、
別室で倒れ込んでたんだよな。
拓人先生が側に付いてくれてるはずだから、
声をあげればそれで大丈夫だと思うよ。」
「分かりました。」
とてとてと歩いていくユキちゃん。
彼女はウェディングドレスやその他各種のデザインなんかにも
関わってくれたんだよな。
実際のドレス制作は果穂先生や内村さんなんかを中心とした
コスプレイヤー軍団が担当してくれたみたいだし、
手作り感満載のはずなのに、
さっきのユキちゃんのドレスもすごいクオリティーだもんな。
結局当日まで司さんのウェディングドレスがどんなのなのか
教えてもらってなかったけど、
本当に楽しみだ。
では、花嫁の艶姿を拝見するとしますか。
俺はユキちゃんが出て来た花嫁用の控え室の
ドアに手をかけ、ゆっくりと開いていった。
パタン
一瞬中が見えた直後、
そのままドアを閉める俺。
「清水先生、何やってるんですか?
早く花嫁さんをみてやってくださいよ。」
中からユキちゃんと一緒に着付けを手伝って
くれていた葉子さんの声がする。
いやいや、何あの天使。
あれ、マジで俺の嫁さん!?
もちろんいつもの司さんも
可愛くて大好きだけど、
あれは反則だろう!!
あーー、やべーー、
ドキドキしすぎて心臓が止まりそう。
「つまらん一人芝居やってないで、
さっさと入れ!!」
「ちょ、鹿島押すなって!!!」
バタン!!
背後から鹿島に蹴り飛ばされるように中に
叩き込まれる俺。
やっぱりアイツは優しくはない。
「ホラホラ。
ちゃんと見てやってくださいな。」
「す、すいません。」
葉子さんの声に促され、
顔を上げる俺。
そこにいたのは。
光り輝く天女のような花嫁の姿だった。
「ど、どうだ?
どうも落ち着かないんだが、
変じゃないか?」
妊娠している司さんのために
果穂先生が渾身の力で作ったという特製ドレスは、
司さんをとても優しく包み込んでいた。
なんというかもう感動のあまり言葉が出てこない。
「渉?」
ぽーっとなってしまっている俺に、
司さんが少し不安そうに声をかけた。
落ち着け、落ち着け、俺。
「き、綺麗です。
ものすごく。
もう表現のしようがないくらいに。」
「ふふふ、ありがとう。」
この笑顔を見る為だったのだとしたら、
あの辛い修行の日々も大した困難ではなかったような
気さえしてくる。
愛する司さんの花嫁姿は
俺の心を全て溶かしていくかのような
眩い光を放っていたのであった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
夕方になってしまいましたが、
ここから少しずつ更新していければと思います。
多数の方にご出演いただくため、
お礼は最後にまとめてさせていただきます・・・
と言って大分経ってしまったので、
遅まきながら紹介させていただきます。
まずは桜月りまさん、いつも素晴らしい挿絵ありがとう
ございました。
ユキちゃんにも綺麗なドレス姿(具体的イメージはお任せします)
で登場いただき、葉子さんにも着付け手伝っていただきました。
また賀川さんのピアノ演奏も話題に出させていただきました。
「うろな町の森に住んでみた、ちょっと緩い少女のお話 」の皆様には
修行の時にも大変お世話になりましたので、楽しんでいただければ幸いです。
それでは次からは結婚式本番に移らせて
いただきます。
皆様どうぞよろしくお願いします。