5月29日 その2 優しい旦那と合同企画
PM4:30
北小の担当者である小林拓人先生は
多少ぽっちゃりした眼鏡をかけた優しげな人物である。
「お疲れ様でした。ゆっくりしていってくださいね。
梅原先生、昨日は果穂さんの相手をしていただいて
ありがとうございました。
帰ってからも楽しそうに話してましたよ。」
いけいけな果穂先生とは違い、
大分ゆったりした話し方であった。
まだこの夫婦の関係については良く知らないが、
奥さんが主導権を握っているようで、
手綱は旦那の方がもっているのかも知れない。
姉さん女房の操縦か。
是非、どこかでご教授願おう。
「ははは。あいつはいつも元気ですから。
たまに困らせられますが、その時は
拓君に叱られたって言って
後で謝ってくれますし。
こちらこそいつもありがとうございます。」
「いえいえ。私は話を聞いてあげてるだけですから。」
梅原先生は拓人先生と果穂さん話題で
盛り上がっていた。
親友の旦那さんだけあり仲はいいのだろう。
これは梅原先生についても色々聞けそうだ。
個人的にも是非仲良くなっておこう。
「それでは小林先生。今後の連携についての
具体的なお話をさせていただきたいのですが、
よろしいでしょうか?」
「拓人でいいですよ。
果穂さんも担当ですから紛らわしいでしょうし。」
「では拓人先生と呼ばせていただきます。
小学校として今後の学校同士、または町との
連携について何かご希望はございますか?
こちらとしてもまだまだ手探りですので、
何でも言っていただけると助かります。」
今回は真面目モードで話しを進めていく。
実際、きちんと話をしておかないと
連携担当の肩書きが台無しだからな。
「そうですね。まずはやはりうろな中学校
さんとの交流はさらに深めていきたいですね。
北小の子ども達のほとんどがそちらに
進学しますから、
スムーズに適応出来るように、
中学校に行かせていただいたり、
または中学生のみなさんがこちらに
遊びに来ていただけると子ども達も
中学校に親しみが持てると思いますので。
今も学校見学は小6で1回やってるんですが、
もう少しあった方がと思うんですよね。」
ふむふむ。予想通りそこは来るよな。
「是非。進めさせていただければと思います。
正式には管理職とも詰めなければ行けませんが、
部活見学などにも来ていただいたり、
逆に運動部が体育でのお手伝い、文芸部が
読み聞かせなどに北小に伺わせていただければ、
うちの中学生達の将来の勉強にもなりますから。
その点では職場体験学習などでも
北小さんの方に今後も行かせてもらえたら助かります。」
「ありがとうございます。
やっぱり小学生にとって中学生のみなさんは、
ちょっぴり怖いけど憧れの存在っていう感じですからね。
交流を深めて親しみを持つと共に、
目標とするロールモデルになれば、
子ども達の学習意欲も高まりますから。
一緒に作業出来る機会を色々持ちたいですね。」
うんうん、この人かなり話せるな。
教育についても良く勉強しているし、
子ども達についてもかなり考えている気がする。
いい人が担当者になってくれたな。
「是非色々今後も提案させていただければと思います。
他にはありませんか?」
「あとは、果穂さんとも時々話すんですが、
北小と南小の交流の促進ですね。
結構二つの学校は遠いので、
なかなか両校の生徒が一緒に何かをする機会が
少ないんですよね。
共にうろな中学校さんに進学するんですが、
進学後それぞれの出身者がグループに分かれて
いがみあうなんてこともあるそうで、
何とか進学前に互いに顔見知りになっておく、
できれば一緒に活動して友達になっておいて
もらえるといいんですけどね。」
やっぱりな。学校でも北の奴らはとか、
南の連中はとか言って陰口を叩いている
のを聞いたことがある。
良い傾向ではないよな。
「分かりました。中学校としても
生徒指導上有意義なご提案をしていただき
ありがとうございます。
中学校として両校に要望を出してみたり、
先ほどの小中の連携のプログラムの中に
南北小の交流活動も組み込む形での
ご提案をさせていただけたらと思います。
よろしければ小学校で同士でも
果穂先生とも話し合っていただいて
具体的な活動を進めていただけませんか。」
「もちろんです。
今回教育を考える会が立ち上がったことで
夫婦で話し合って来たことが正式に生かせる
ようになって本当に嬉しいですよ。
新町長様々ですね。」
おお、ここでも新町長の評判は悪くないようだ。
気を付けておかないとな。
梅原先生は絶対に渡さん。
「あと清水先生達は今後町の方にも
行かれるとのことですから、
商店街さんや新しい商業施設のみさなんにも
小学校の方から今後もお願いしますということを
伝えていただければと思います。
町探検やお仕事見学などでもお世話になってますが、
盛り場での見守り活動や、
悲しい話ですが、万引きなどへの非行対応も
今後ともご迷惑をおかけすることになりますから。
もちろん私も直接挨拶に伺いますが、
何かあった時に間に連携担当さんに入っていただけると
助かりますので。」
学校だけじゃなくて地域との連携を考えているのもさすがだな。
どこかで個人的に飲みに行くのもいいか。
梅原先生行きつけの「流星」っていうのに一度行ってみて、
よければそこでやってみるか。
まあ、梅原先生とのデートが先だが。
「なるほど。
こちらとしても町の方に挨拶に行く時の
足がかりとして助かります。
学校側が迷惑をかける場面も多々あると思いますが、
逆に地域で買い物をしようみたいなのを
教育活動に入れていって
商店街の活性化活動と繋げていくみたいな提案をすれば
互いにwin-winな関係が作れるかもしれませんね。」
「是非、お願いします。
こちらも案を考えてみますね。」
よしよし、とりあえずこんな所かな。
あともう一個。
明後日の高校への繋ぎとして少し提案をしておくか。
「最後に一つご提案があるのですが、
明後日私は高校に伺わせていただいて
中高の連携について話し合わせていただくのですが、
小中、中高それぞれだけで話し合って行くというのも
なんですので、小中高の担当が一緒に集まる
機会を設けませんか?
また別にというのは大変なので教育を考える会の前後に
茶飲み話程度からでもいいと思うのですが。」
「いいですね、それ。
私もうろな高校の主担当である田中倫子先生とは
以前から面識があったのですが、
細かい話をしたことはなかったですから。
高校生のみなさんに勉強が苦手な子の
学習ボランティアや遊び相手になってもらったり
するとこちらも助かりますし、
教師を目指す生徒さんの経験にもなると思いますから、
そんなこともその機会に話をできればいいですね。」
うむうむ、反応はいい。
ではこれはどうか。
「賛同していただきありがとうございます。
それともう一つ実はまだ完全な構想段階なのですが、
先生方だけでなく子ども達、生徒さん達、
小中高生が一緒に何かできないかと考えているのですよ。
この町は山も森も海もあって、
自然の中でキャンプや散策等色々な活動ができる
気がするんですよね。
そこで私が引率役になって他の担当の先生方にも
協力をお願いして月に1度ぐらい、土日に有志を募って
合同企画をやってみたいんです。
始めは少人数でもいいと思うんで、
顧問をやっている文芸部や剣道部の生徒をさそって
みて、高校さんにも生徒会とかボランティア系の部活の
生徒さんに声をかけてもらってと思っているんです。
もちろん特に小学生は安全のこともありますから、大変だとは
思うんですが、どう思われますかね。」
そう問いかけると拓人先生は目を見開き
今日一番の反応をしてくれた。
「素晴らしいです。
この町ボーイスカウトとかガールスカウトみたいな
活動があまりないんですよね。
小中高が固まってる割には子ども達が
みんな一緒に何かやるイベントがほとんどない。
うんうん、是非協力させてください。
お兄さん、お姉さんと一緒にというのは
緊張するものでしょうが、小学生にとって
非常に貴重な経験になりますから。
果穂さんとも相談してまずは物怖じしない
子達を集めてみますね。
清水先生、新任なのに本当にアイデアが豊富ですよね。
新しい方が増えることに不安も持っている人もいるようですが、
この町にとってやはりエネルギーのある人が入って来てくれるのは
やはり素晴らしいです。」
「ははは。ありがとうございます。ただやはり前から住んで
いらっしゃる方の色々な知恵をお借りしないと
こういった新しい活動は上滑りしてしまいますから。
今後とも色々ご教授いただけたら助かります。」
「もちろんです。一緒に頑張っていきましょう。」
最後は拓人先生とがっしりと握手をして
打合せは終了となった。
これは思った以上の成果が得られた。
今後の活動が楽しみである。
PM6:00
拓人先生と話し込んでしまったため、
かなり薄暗くなってしまった。
予定では学校の方に戻るつもりだったが、
このまま直帰でいいかな。
というか、同じ車両に乗っている
これから探検にでも行くかのような
格好のおじさんは何なんだろうか?
西の山に行くのかもしれないが、
この時間に何をするんだ?
各地域についても今後調べてみるか。
そんなことを考えていると
ふと梅原先生がぼーっとこちらを
眺めているのに気がついた。
そう言えば今日の打合せでは
途中からほとんど何も言ってなかったな。
まあ、メモを書くのに忙しそうだったから、
仕方ないかもしれないが、生徒指導関係は
梅原先生にも話を振るべきだったよな。
反省反省。ちょっとフォローしておくか。
「梅原先生大丈夫ですか?」
「ふえ?な、何だどうした?」
梅原先生は俺に話しかけられて
かなり驚いたようで目をきょどらせた。
先生、その反応は少し傷つくんですが。
「いや、さっきの打合せであんまり
話していなかったから大丈夫かなっと。
あと先生の担当の部分で勝手に
話を進めてしまってすいません。
次回はきちんと先生のご意見も
伺いますね。」
そういうと先生は一度目を閉じて言った。
「いや体調は問題ない。
生徒指導関連の部分もお前の提案に
付け加える点がとりあえずなかったから、
口を挟まなかっただけだ。
気にするな。」
努めて冷静にそう述べたのだが、
なんか違和感を感じる。
「それならいいんですが。
ただこっちをみていらっしゃったので、
何か手違いがあったかなっと。
何もなければいいんですが。」
そう言うとビクッとしたかと思うと
また目をそらした。
何か怪しい。
「いや、別に何にもないぞ。
何もない、何もない。」
そんな訳ないでしょう。
そうだ、今日はあんまり先生を
いじっていなかったな。
最後に少しちょっかいをかけておくか。
「もしかして俺に惚れましたか?」
「はあー!」
先生は顔を真っ赤にして反応してくれた。
うん、一日一回はこの顔を見ないとな。
「いやいや、今日は努めて真面目にやりましたからね。
純朴な先生としてはいつもふざけた私の変貌に、
ギャップ萌えでキュンとなっちゃったのかと。
あいつやればできるじゃないか、とか
教育の話をしている時はすごいな、とか
思ってくれたんじゃないかと。
いやー、モテる男はツライですね、ははは。」
俺は大げさに髪をかきあげると
改めて梅原先生の方を振り向いた。
俺はそこにすでに怒り出している梅原先生の
姿を想像していたのだが、
現実は少し違っていた。
そこにいたのは湯気が立ちそうなほど
顔を紅潮させ、口をぱくぱくしている
今までにない梅原先生のリアクションだった。
あれ、もしかして図星?
マジで?
「梅原先生?」
俺が改めて話しかけると
それに対する先生の反応は
激烈だった。
「は!ないない。そんな訳はない。
熱く語る姿は結構かっこいいとか、
いつもあんな感じだったらいいのにとか
一切思ってないからな。
わ、私は用事があるからここで降りる。
明日の朝稽古遅れるなよ。
じゃあな。」
そういうと到着したうろな駅へと
先生は飛び降りるように、降りて行った。
俺はその素早い行動を目をぱちくりさせながら
ただ眺めていることしか出来なかった。
もしかして俺、単純に正攻法で攻めた方がいいのかな。
いや、でも梅原先生をおちょっくたときのあの
反応は最高だし。
あー、俺はどうすればいいんだ。
アホな俺の悩み等無視して
電車は定刻通り発進し、
家のある町の西部へと向かっていった。
シュウさん達の企画、『うろな町』計画に参加させていただく作品です。
他の作品も以下のURLや「うろな町作品一覧」リンクからどうぞ♪
更新が遅くなってすいません。
今週は本業が激務過ぎて昨日も帰ってご飯食べたらすぐ寝てしまいました。
昨日の分も本日中に更新出来ればと思います。
大分本文長くなってしまいました。
今後に向けてのネタ出しの意味もあったのですが、
特に最後の小中高合同企画は
どこかで学校関係のキャラを集めて
山や海で色々絡ませようという意図があるので
学校を舞台にした作品を書いている方は
そのお話を書いた時にはキャラを出演させて
いただけたら嬉しいです。
水着回とかも作りたいのでその時には
それぞれの作品の方で詳細を書いて
もらえるとさらに嬉しいです。
もちろん地域の方として参加してもらっても
いいので、よければみなさんネタを考えてみてくださいね。
あとほんのちょいとだけここもとさんの
「うろな町でツチノコを探し隊」より
川崎さんのツチノコ探しに行く途中を書かせてもらいました。
電車ではいかないとかあったら言ってくださいね。
この後ツチノコ談義を吹っかけてもらってもかまいません。
西の山に行く時は清水の案内してやってくださいね。
コラボ作品URL
うろな町でツチノコを探し隊
http://ncode.syosetu.com/n7518bq/