就寝前の星に纏わる物語 (月の美しい夜には)
親の事情で
凄い田舎へと引き取られた僕に
たった一人の友達が出来た…
二人で過ごす日々は短かった。
月の美しい夜には、和くんを思い出す。小学5年生の頃…
両親が離婚した。
お父さんは、女の人と家を出ていった。
大人には…大人の事情があるのだろう。
僕は母の実家に引き取られた。…
母は仕事が手放せず。
僕はばあちゃんとの二人暮らしを余儀なくされた。
こんな…田舎で何にも無い…ど田舎で…
勿論…分校…のみんなとも馴染めず…
自分の不幸を呪っていた。…
ただ…ただ…自分の不幸だけが…
怨めしかった。
学校へも通わず…
ただ…部屋の隅で壁を見詰めうずくまる僕に…
ばあちゃんは…
『がっこうになんぞ 行かんでもええ…』
と言い。
猫の額ほどの畑を耕しに行った。畑には…玉ねぎ、人参、大根、ネギ…
など…多数の野菜を植えている。
夏には…豆等も植えるらしい。
あんまり…家の隅っこで、じっと、していても始まらない事に気付き…
ぽちぼち…
ばあちゃんの手伝いをするようになった。
大根を吊るして干したり。
白菜をゴリゴリと塩揉みをしたり。
都会に住んでいた頃には、スーパーで簡単に買える物が…
これ程手間と暇が架かるのか?…
と解った。
ある日…ばあちゃんは、『やることが無いんやったら、無理に手伝いをせんでええ…』
と言い…
僕を庄屋の本家と呼ばれる。
《牟田さん》の家に連れて行った。…
本家の牟田さんの家には、僕と同い年の和義くんが居た。
和くんは…
体が弱く…当時の医学では…
完治は難しい病気に蝕まれていた。
ばあちゃんは
僕に…
『がっこうに、なんぞ行かんでもええから…
本家の和くんの相手をしとれ…』と言い残し…畑仕事に戻っていった。
和くんは…
僕が欲しい物を全て持っていた。
夕食を一緒に食べてくれるお父さん…
いつもニコニコして優しいお母さん…
沢山の本や色んな資料…
中でも和くんの宝物…
天体望遠鏡…
全て…僕は欲しかった。そして、和くんは
色んな事も知っていた。
小学5年生とは思えない程の知識…
中でも天体の話が好きなようで…
良く遠くを見詰める様な眼差しで、
話をしてくれた。
体調と天気が良い夜には…
天体望遠鏡も覗かせてくれた。
月のクレーター
赤い火星…
縞模様の木星…
リングの美しい土星には息を呑んだ。
星座の早見表は僕に譲ってくれて…
宝物になった。
野山を駆ける様な事は出来なくても…
和くんと過ごす一日は楽しかった。
そんなある日…
二人で天体望遠鏡を覗いていると…
『僕はあと…10日で星になるんだ…』
とポツリと和くんが呟いた。
『えっ?…どういう事?…和くん…縁起でも無い…』と苦笑いする僕に…
『実は…僕…未来が見えるんだ…
僕は…後…10日で星になる。
運命には…
逆らえ無い。君の未来も知っている。
だけど…未来なんて知らない方が…
良い。君は君の人生を確り踏みしめながら、歩くんだ。』
そして、その日の日付が変わろうとする頃…
和くんの具合が悪くなった。
村の診療所では手に負えず…
大学病院へ運ばれた時には…
既に意識は無かった。和くんの意識は戻る事無く…
当時の医学では
なるべく苦しまない様にする事が精一杯らしく…
体に色んな管を付けられたまま…
10日後に静かに息を引き取った。
和くんの遺体を乗せた車が本家の牟田さんの家の前に停まり中から和くんを抱き抱えてお父さんが出てきた。
そして…家の中に入り仏壇の前に寝かせた。
その日…通夜を迎えたが村の人が総出で鯨幕を張ったり…
酒や料理の用意を済ませて行く…
和くんのお母さんは和くんの側から動かない。
二十歳まで生きる事は出来ないと言われていても…
諦められないのだろう。…
明日には和くんは
骨になってしまう。
少しでも…
側に居たかったのか?。
子供の僕にはよくわからなかった。
初七日が終わり
次に本家の牟田さんの家に行ったのは…
49日の事だった。
挨拶を済ませて、
仏壇で静かに微笑む和くんの遺影に両手を合わせ…
和くんのお母さんが一枚の手紙をくれた。
中を開くと…
君がこの手紙を
読む頃…
僕は星になってる。
でも…悲しまないで欲しい。
僕は毎年君に会いに行くから…
お盆の頃…
東の空から君に会いに行くから…
悲しまないで欲しい。
僕は…大人になり
就職もした…
結婚もして子供も出来た。
毎年お盆の頃になるとペルセウス流星群が東の空から
和くんのメッセージと共に降ってくる。
家族みんなで和くんを出迎える。
こんな月の美しい夜には和くんを思い出す。
メッセージを携えて地上に戻ってくる
魂の流れ星…
眠れない夜には是非にも夜空を見上げて見て下さい。
もう…
逢うことの無い…
あの人の
メッセージが届くかも知れません。




