青
「しまった…」
「? どうしたの」
とある学校にある美術室。そこには、今日は休日であるにもかかわらず、一人の少年と少女がいた。
「いや、ちょっと色が足りなくなってさ」
この二人、学校の美術部に入っており、今は部で出されている課題を行なっていた。が、二人は課題の進みが遅く、このままでは間に合わないことが確実だったため、休日である今日も学校に来て描いていた。
「何が足りないの?」
「んー、青。青色」
課題は風景画。少年は湖を選んで描いており、休日に来て描いたおかげか、あともう少しで終わるとこまで来ていた。しかしここで問題発生。足りると思っていた青色がなくなってしまう。
「なるほどねー。じゃあ、はい」
すぐに事情を知った少女は少年に手を差し出す。その手の中には青色の絵の具があった。
「おおっ、悪いな…って、それ新品じゃないか」
「そうだよー。買ったばっかりなんだよー。ということは、私に何かお礼をしなきゃねー」
にこにこと笑いながら少年に絵の具を渡す。
「別にいいけどな。何をご所望で、お嬢様」
「そうだね…じゃあ、今度買い物に付き合うってことで」
そう言うと、それじゃあねと美術室を後にする少女。既に彼女は描き終えていた。
「うわっ。言っちゃった言っちゃったよ」
美術室を出てから少し距離があるところで、少女は恥ずかしそうに呟いた。
「いくら一緒に出かけたいからって、絵の具をすり替えたのはちょっとやり過ぎちゃったかな」
少女は自分の行動を思い返す。本当は少年の青は彼が計算していた通り足りていたが、少女は誘いたいがためにわざと足りないものとすり替え、後で新しいものを渡すということを計画した。
「…まあ、いいかな」
すこしの自問の後、どんな服を着ていこうかと鼻歌を歌いながら考え始めた。
「ふうっ」
少女が去った後、少年は小さく息をついて椅子にもたれかかる。
「まあ、終わり良ければすべて良し。かな」
そう言って、少年はポケットから何かを取り出す。それは、あと少ししか入っていない青色の絵の具だった。
「隠すならちゃんと隠せっての」
そう言いながらも、少年の表情は柔らかく穏やかなものだった。
「さて、さっさと終わらせますかな」
少年はそばに置いておいた筆を持ち、再び描き始めた。