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第六話−新しい仲間−



 お茶を飲み、いくらかの軽食をつまんだ後、僕はジェシーの両親に挨拶をしてジェシーに言われたとおり、裏庭へ忍び込んだ。


「こっち、こっち!」


 ジェシーが裏庭に面した出窓から身を乗り出して、一所懸命な手招きをしている。

それを僕は裏庭に行く中で見つけ、すぐさまジェシーのいる出窓まで駆け寄った。

 するとジェシーは足元から大きな緑と紺のチェック柄の籠を出し、気張ってぼくに手渡した。

籠は思ったよりも重く、僕も危うくバランスを崩しそうになった。


「気をつけて! くれぐれも、私のパパやママに見つからないようにね!」


 僕は一旦、籠を地面に置いてから顔を上げ、返事をした。


「わかってるよ。 じゃあ」


 ジェシーは、一度貰ったクセに、またそれを他人に押し付けることを、両親が好ましく思わないと察したのだろうか。 だが、僕が貰わなければ、間違いなく、この仔は施設に連れて行かれてしまう。

 笑顔とともにジェシーに手を振って、重たい籠を抱えて裏庭を出て行った。

 裏庭の出口に差し掛かった瞬間、僕はもう一度振り向いた。

 後ろのほうで、まだジェシーは手を振っている。 僕はにっこりと笑って、ジェシーの家をあとにした。


 家に帰るまでの間、あまりに大きな箱を抱えているものだから、道行く人々に怪しい目で見られた。 特に、同世代の子からは、じろじろと見られて、ついでにささやかれているような気もした。

 やっとの思いで家についた頃には、籠の重さで手の平がしびれて赤くなっていた。


「ただいま」


 しびれた手をぶんぶんふりながら、僕は玄関を上がる。

 すると母さんがリビングからやってきた。


「おかえり。 ちゃんとご馳走様って言ったでしょうね?」


 僕は、ここで初めて"ごちそうさま"と言い逃していたことに気づいた。

 きっと、緊張しすぎていたせいだ。


「あ、う、うん……」


 僕はそういいながら、猫の入ったかごを背後に隠す。


「そう。 明日はどうするの?」


 去年までは、おじさんの家でパーティをすることになっていた。 しかし、今年は違う。

 その理由を母に言ったらきっと驚くだろう。


「ジェシーのうちでパーティをするらしいんだ。 行っても良いかな」


「別に良いけど……。 でも、レンディ? その籠は何なの」


 驚かなかった。 しかも、母は後ろに隠しておいたかごを指差した。


「明日の仮装パーティに着ていく服だよ」


 僕は、嘘がばれないように、無理やり笑顔を作った。


「あらそう」


しかし、母さんは、"どうも怪しい"というように、しつこくかごを見回した。 だから、僕は母さんの目を盗んで、部屋に戻っていった。


 後ろで母さんが、「……レンディ? また窓が空きっぱなしになっていたわよ? ちゃんと閉めてくれないと困るんだから!」などと、叫んでいる。 いつものことだ。 僕は、暑がりだから、よくお風呂から出たときに、ベッドの脇にある窓をあけておくクセがある。 だが、時々窓を閉め忘れて寝てしまうのだ。 空き巣や強盗なんかが入ったら大変だからと、いつも母さんに注意される。 だが、ほとんどの場合、閉めよう閉めようと思っている間に、ぐっすりと眠ってしまうのだ。


 それはさておき、母さんに猫の件を気付かれまいと、僕は急いで二階へあがった。 母さんのいる前で猫が鳴き出したら困るからだ。 でも幸いなことに、今は静かに眠ってくれているらしい。

 僕は、部屋の窓に鍵を閉めてから、ベッドの上で籠のふたを開けた。 まさか同封されていたエサの袋で猫がつぶれてしまっているのではあるまい……。 いや、猫は無事だった。 籠の奥底でキラリと目が光っている。 きっと僕におびえているのだろう。


 不安に思うのは猫のことよりも、母さんが何時僕の部屋に入ってくるかだ。 どうやって隠せるだろう? いや、ここはどうどうと白状するべきか……? もしかしたら、新しい家族が増えた、と言って喜んでくれるかもしれない。


 それにしても、まだ小さいから、トイレなんかはひとりでできないだろうし、かたいキャットフードも食べられないはずだ。 だが、ジェシーが添付してくれたえさはどうやらかたいタイプのキャットフードらしい。 どうしたこった。 別の献立を考えなくてはならない。

 キャットフード以外で食べてくれるとしたらなにがあるだろう? ミルク? それと……やわらかくしたパンかな。

 僕は、早速台所へ行って、牛乳とパンを取ってきた。


「さあ、ごはんだ」


 僕はミルクを飲ませようと、猫をミルクの入った器の前に置いた。

 しかし、猫はあたりの匂いをかぐばかりでなかなかミルクを飲んでくれない。


「ほら、ここだよ!」


 僕は猫の体を持って、猫の顔をミルクに近づけさせた。

 すると猫は鼻をミルクでびしょびしょにしながら、小指の第一関節くらいしかない小さな舌

を少しずつ出して中身を飲みはじめた。


 僕はもう猫を下に下ろしても構わないと思い、そっと猫の体をおろし、牛乳と一緒に持ってきたパンの袋をあけた。

 パンを猫が食べられるくらいの大きさに小さく手で刻み、ミルクの入った器に浸してやった。


「そういえば、お前の名前、まだ決めてなかったな。 ジェシーも特に何も言ってなかったし……お前、名前がほしいか? ほしいよな。」


 夢中でミルクを舐めている猫を見ながらぼんやりと考えていた。

 するとドアノブを無理やりまわそうとするや否や、激しドアを叩く音が聞こえてきた。


(やばい、母さんだ……!)


 ドアの向こう側で母の怒鳴り声が聞こえる。


「レンディー?! 早くお風呂に入りなさいよー!」


 そういえば、もう五時である。 いつもなら、お風呂に入っている時間だ。


「わかってるよ、今すぐいくから」


 僕はドアの向こう側の母にそう合図すると、ミルクを夢中で舐めている猫を抱えあげ、籠の中へ戻した。 器やパンの袋といった証拠はすべてベッドの下に隠し、もう一度怪しまれる点が無いか確認したあと部屋の鍵を開けた。

 すると、母は待ち構えていたかのように、僕に問い詰めてきた。


「あんた、どうして部屋に鍵なんかかけているのさ」


「別に? なんでもないよ」


 僕が顔を伏せて横に目をそらした。

 しばらくすると、母はフンとためいきをついて僕の前から去っていった。 それからは母がまた入ってこないように部屋のドアに鍵を閉め、風呂場へ向かった。

 風呂に入っているときが一番落ち着く。 あわ立てた湯船につかっているあいだ、僕は何週間か前に送られてきた謎のメールのことについて考えた。 リトル・ビニーという名前は、リップやケビンとは関係ないこと。 リップにもメールのことを聞いたけど、ケビンと同じような反応しか返さなかった。

 そもそも、何故ハロウィンの日にシルヴァニア公園に呼び出したのだろう?

 シルヴァニア公園といえば、敷地がとても広くたはじめて散歩しに来た人なら迷ってしまうようなところだ。 深く暗い森の中に小道が張り巡らされているだけで、サイクリングロードとしては有名だが、一般の人でキャンプしにきたりするような人はめったにいないだろう。 なんと言ったって、"でる"とのウワサが後を絶たない心霊スポットなのだから……。


 それに、ただ、"シルヴァニア公園"と聞いただけでは、一体何処に待ち合わせていればいいのかわからない。

 そもそも、得体の知れない相手からのメールに載せられている僕って一体……。 そう考えてみるとなんて笑える話だろう。 得体も知らない相手に、ただ遊ばれているだけかもしれないのに、こんなに真剣になってるなんて。

 そうこう考えているうちに、自分の部屋の鍵を閉めたかどうかについて心配になってきた。

 風呂から上がったとき、僕はまっさきに部屋へ向かった。


 大丈夫、鍵は閉まっている。 ん? よくよく思い出してみれば、あの時ちゃんと鍵を閉めたじゃないか。 どうしてこんなにビビッているのか。 猫のことで挙動不審になるくらいなら、一層のこと猫のことを母に白状してしまったほうが楽だ。

 でも、母さんは……いや? ここははっきりと! ……でも、やっぱり遠まわしに……ええーい! 頭の中がごっちゃこちゃになってきたぞ! 一度、落ち着きを取り戻してから考え直そう。  僕の勇気のなさには自身でもほとほとあきれる。

 僕は明日のこともろくに考えず、早々に眠りに就いた。 夜風が気持ち好い……。



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