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第二話−廃墟的な学校−


 さあ、これから日記を読むぞ!

 ウフフ、信じてもらえないかもしれないが、この日記には、未来のことが書いてある。

 しかし、それらは絶対に起こりえない。 だって、もう済んだことだもの。

 あれ? 未来のことが書いてあるはずなのになのに、もうすんだって、おかしいことかな……


―――そんなことを考えながら、僕は日記の一ページ目を開いた。


***


「ねえねえ、ここの学校知ってる?」


「ああ、知ってる。 廃校になったんでしょ?」


「それが、まだやってるらしいのよ!」


 すると、まるでそのことをアピールするように、不気味な鐘の音ともいえないチャイムが鳴った。

 僕の通っている学校のチャイムは、きっとどこの学校のどんなに古臭い鐘が慣らす音より不気味だろう。


 低く地面を這うように、何十もの重々しい鐘の音が重なり、やがて巨人のうめき声のように響きを変えて、去ってゆく……なんとも言い難い鐘の音だ。

 何も、この学校は百年以上の古い歴史を持っているらしく、来年改築されるらしい。


巨人のうめき声のようなこの鐘の音も、典型的な電子音のチャイムに変わるのだそう。

毎日、子守唄代わりに聞いてきた"(それ)"とわかれるのは少しさびしい。

が、大昔のゴシック建築を意識してデザインされているかのような……そう、夜はまるで、”闇の悪魔城”のような学校が新しく現代的なデザインに変わるのかと思うと、もっとさびしくなる。


だって、そうだと思わないか? こんな、学校、めったに無いって。

なかなかイかしてるじゃないか。それなのに……



今日も、あと何回聞けるのかわからない、その音を聞きながら、僕は授業の終わりに目を覚ました。 実は、さっきの会話で話題になっていたのが、僕の通っている学校なのだ。


「今、何時……?」


あたりは授業が終わったことをいいことに、喋り声や物音でにぎわっている。


先ほど闇の悪魔城のような……とは言ったが、どこの教室だって昼間は明るいし、やわらかな日差しが教室中に行き渡っている。

それはまさしく退廃的でありながらもやすらぎの感じられる空間だ。

だからというのもなんだが、僕はいつも昼寝してしまう。


 僕は、頬をさすって寝跡がついていないか確認した後、いかにも「寝起きです」といったようなかすれ声で、前の席に座っているジェシーに時間を問い掛けた。

 するとジェシーは頭の上できつく二つに結ばれた金髪を揺らし、くるりと振り向いて賢そうな口調できっちりと時間を答えてくれた。


「二時四十分よ。あら、レンディ。また居眠りしていたの?」


「おかげさまで」


 授業が始まる前からきちんと予習したノートを用意していたような彼女とは違って、僕は何一つノートを取っていない。


 そんな彼女を相手に出た言葉はこんなものか。


 さて、そろそろ僕の自己紹介をしよう。

 僕の名前はレンディ・クローズ。クローズの"クロー"は"からす"という意味らしくて、どうも僕は気に入らない。 汚らしい黒髪がまさにそのカラスっぽくて。

 でも何故かカラスには嫌われている。理不尽だ。


 それに僕は彼女と違って身だしなみが整っていないのが特徴らしい。

彼女にいつも指摘されるんだ。前髪が長すぎるとか、そのくるくるパーマをなんとかしろとか……。

 でも、直したってすぐ元に戻る天然パーマだから、どうあがこうと無駄な抵抗だった。

ジェシーは「カラスを百度洗ってもサギにはならないってこのことね」と、言っていた。

なんのことだろうと思い、あとで調べてみたら”生まれ持ったものを変えようとしても無駄だ”という意味らしい。ガッカリだ。


 それに、黒髪に茶色のひとみで日本人っぽいとかよく言われるけど、本当はイングランド出身だ。


 僕の学校の制服は、白いワイシャツに黒くて膝丈の釣りズボン。

女子は黒いプリーツスカートで、男女ともエンジ色のリボンタイをつけることになっている。

とても、シンプルで古臭いデザインだけど、僕が通える学校といったら、この学校しかなかったから、仕方が無い。


 僕は、必ずといって良いほど視界に入ってくる長い前髪を振り払いながら、鉛筆を握りとってせかせかと黒板の字を写し始めた。


 いつ、黒板の字が消されてしまうのも、時間の問題だからだ。授業の終わりはいつもこんな感じ。 普通教科なんて、飽き飽きしちゃって……。

 特に数学なんかは格好の居眠り授業さ。

 でも、数学の先生は黒板に字を書くとすぐに消してしまうから、途中で途切れている部分は、ジェシーに見せてもらっていた。


 今日の午後の授業はこれでお終いだった。何ごとも無く一日が終わってしまった。朝、学校に言ったかと思いきや、もうその道を反対に歩いている。

 そんな毎日の繰り返しだから、僕にとっての一週間はとても早いものだった。


 毎日ニへん、僕は、学校の一階大廊下にある不思議な木の彫像に挨拶をしている。今日も、帰る間際、その不思議な木に挨拶をした。

 別に話かけるワケじゃないけど、なんとなくいつも目にとまるから。ただ、それだけ。


 その不思議な木にはいたるところに象徴的な細工が施されている。

 でも、詳しいことは全然わからない。それについて知っている人がほとんどいないから仕方が無い。

 なんてったって、僕の通っている学校は宗教に関連しているワケではないから。

 ここからは僕の推理だけど、おそらく昔、この学校は何かの教会として使われていて、そのなごりを受けて、あの不思議な木の彫像がおかれているんだと思う。


***


 今日は週末。どんよりとした空……でも、雨は降らないらしい。今日は最高の図書館日和だ。

 図書館日和なんて誰が決めたと思う? 僕さ。

 晴れていると家にいるより外に出たくなるし、雨の日は出かける気がしない。

その中間を取って"曇りの日"を図書館日和としているのさ。


 図書館に行くだけだったら、外の空気を据えるし、一日のほとんどを室内で過ごせるだろう?

これこそ、曇りの日の最適な使い方というヤツじゃないか。


 僕は、今日返すはずの本である、


・天文科学と神秘 リトル・アーリー著 ジャック・リブソン訳

と、

・宇宙自然科学 ライラット・バリエント著

と、

・魔法戦士キリマン・ジェーロの冒険第七巻〜運命の歯車〜 作 クレイシー・ミザリー 絵 フィオナ・キャロル

と、

・ギリシャ神話と年中星座観測 エバリー・スミス著


を、お気に入りの黒いリュックに詰めて、去年小遣いを溜めてやっとの思いで買ったマウンテンバイクをこぎながら図書館へ向かった。

 流石に、四冊も難しそうな本が詰まっているものだからリュックがずっしりとしていて重心を取りづらい。

 だが、いつものことだから、僕はうまく重心を崩さないように肩をぎゅっと上にすぼめながら自転車をこいだ。十五分ほど地元のメインストリートを抜けていったところで、目的の図書館についた。



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