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第十二話−哲学的な一週間−

 おそらく、僕はあの後、服を着たままベットで寝てしまったんだろう。

 気が付けば夜中の2時を回っていた。 それに気づいたのも、僕の傍らで携帯電話がうるさくバイブレーションしていたからだ。

 僕はそれを開いてバイブレーションの原因を突き止めた。


ああ、またリトルからか。

シルヴァニア公園に来てほしいだろと?

こんな夜中に……。


 ふと気が付けば、僕は既にシルヴァニア公園にいた。 辺りは人の気配が無く、僕しかいない。 暇を持て余して髪の毛を指に巻きつけていると、やがてその人物が現れた。 白い仮面。 リトル・ビニーだ。


「今日君を呼び出したのは他でもない。 この商品を買ってもらうためだ」


 彼はそういうと、右手に持っていた黒いアタッシュケースの中からビニールのクッションで包装されたある物体を取り出した。 彼はそれの中身をおもむろに空け、僕に見せた。


「これはなんですか?」


 思わず疑問が飛び出す。 その物体の奇妙さに。

 しかし今回も、僕は丁寧な言葉を使うようにした。 噛み付かれるのが嫌だからだ。

 それにしても、この物体……一体なんなんだ? 丸い筒のような形をしている。 短いパイプのようだ。 透明のプラスチックでできたボディの中には黒い砂利のようなものがつめられている。


「水道に取り付けるだけで、水道水をアルカリイオン水にできる代物だ。 損所そこ等じゃ手に入らない。 元々、千五百ポンド(日本円にすると約30万円)なんだが、今回は特別プライスで千ポンドだ。さらに特典がつく。買うなら今しかないぞ?」


 まさかとは思っていたけど、本当にセールスだったなんて……がっかりだ。


「買いません。 帰してください」


 すると、男は僕にみくびられたとでも察したのか、今までの態度とは打って変わって、僕に牙をむいた。


「何だと?! お前、これから最悪な運命が待ち構えているというのに、その態度は何だ?」


 あれ? 話のつじつまが合わない。 おかしい。


「違うよ! たとえ最悪な運命が本当に待っていようが、それをどうするかは僕が決めることだ! その前にセールスなんてお断り!」


 僕はめいっぱい首を振った。


「真実はいつも、灯台元暗しではないのか?」


 どうしてこの男が、この前見た夢の内容を知っているんだ……?


「あれは貴方が話していた言葉なの?」


 すると彼が反応するまもなく、あたりの景色が一気に回転し始めた。

 自分が回っているというわけではないのに、景色がどんどん飛んで……目が回りそうだ……ううっ、気分が悪い。 僕とリトルビニーの二人を残して、景色は去ってゆく。

 やがてあたりは何も無くなった。 壁もなければ天井も無い。 床だって抜けている。 まるで宇宙空間に二人だけ置き去られたかのようだ。

 僕の目の前にいる彼は、僕のことをじっと見ていた。 仮面の下から覗く視線が怖い。

 しかし、怖いだけではない。 僕はそのとき、彼の顔面に左眼を切り裂いたような傷跡があることに気づいた。 仮面には目とその周りを少しだけ覗かせるくらいの穴と小さな空気穴しかあけられていなかったが、その隙間からでもわかる傷跡だった。

 もしかしたら、これは彼とはじめてあったときに見間違えたものか。 もしくは、目が充血しているということから発したただの妄想か……?


 と、いうことは、もしかして夢を見ているのか? 妄想の産物であるはずのものがね実際にあるということは、現実ならありえない。 夢だとしたら、ここからは何でも思い通りにできるはずだ!


 ……その時、僕の心の中には"彼のマスクの下を見てみたい"という嫌らしい欲望が沸いて出てきた。

 よし、奴のマスクを取っ払ってやろう! 僕は彼に近寄った。


「ね、そのマスク取れないの?」


「果たして取れるかな?」


 挑発的な発言にも僕は動揺しない。 だって、夢だから、何でも思い通りにできるんだもん!


「取ってあげるよ」


 僕はにっこりと笑いかけると、彼のマスクの縁を掴み、勢いよく取り外そうとした。しかし、どんなに力を込めてもびくともしない。


「どうして取れないんだよ!この……っ!」


 だめだ。 躍起になればなるほど、仮面は石のように頑固で硬くなってゆく。 指が入る隙間すらほとんど無い


「無礼者が!」


 突然、リトルビニーが怒鳴った。 すると彼は、右腕を勢い良く振って僕を投げ飛ばした。 なんて乱暴なんだ……!

 僕はぶざまな音を立ててリトルビニーの右側に倒れこんだ。 地面が無いはずなのに、何故だか痛みが走る。 変なところだけリアルだ。

 リトルビニーは僕のことを下目使いでにらみつけると、フンとひとつ鼻を鳴らした。


「二度と私の前に現れるなよ。 小僧」


 彼はそう言ったあと、僕に背を向けて去っていった。


 その瞬間、何ともいい表せない恐怖感にかられた。 この先に、もし彼が言ったとおりの最悪な運命が待ってたたらどうする……?

 今更になって、話を上手く進めて彼に付いていけば最悪な運命から逃れられる気がした。 この恐怖感から開放される気がした。 地面に這いつくばっている僕からは、彼がまるで成金のように見えた。

 僕は必死になって彼に泣きついた。 格好悪いだとか、そんなの気にできない。 だって……


「違うんだよ! ただ……これは、好奇心で……」


 しかし、リトルビニーは僕のことを気に求めず、ただ、ただ前に進むばかりだった。


――……待って!


 いくら手を伸ばしても彼に届かない。

 気が付くと、彼の姿は僕の部屋の天井に変わっていた。

 今、僕がいるところが、自分の部屋だという事に気づいた。 僕はさっきまで空中に向かって手を伸ばしていたのだ。 それに、全身が妙に疲れている。

 今まで夢の中でそれが夢だと気づけたことは、何度かあったけど、こんなに思い通りにならなかった夢は初めてだ。 まるで、相手もそれが夢だとわかっているみたいで、頭の中がもやもやする。


 昨日の一件で、僕はかなり疲労を溜めていたらしい。 枕もとにある目覚し時計で時間を確認したら……七時半だ。 遅刻寸前!


 僕は慌てて着替え、一階に降りた。

 リビングでは母が既に朝食を用意していた。


「もう遅刻寸前よ。 さっさとごはん食べなさい」


「はーい」


僕はふわあと一つあくびをかいて、目をこすりながら朝食の席に就いた。


「レンディ? そういえば私の服が何着かなくなっているんだけど、これはどういうこと? まさか、勝手にもっていったんじゃないでしょうね?」


 まさか。

 昨日のハロウィンパーティには、何も着ていかなかったはずだ。 だとしたら、昨日家の中を捜査していたときに、気付かなかったんだ。 母さんのクローゼットの中は、服がみっしりと詰め込まれているから、服の一着や二着がなくなってもわからない……でも、何故母さんの服が…? やっぱり、昨日のあれは……。


「まったく。 それに値が張るモノばかりがなくなってるわ。 これはもしかして……」


 そうに違いない。


「やっぱり空き巣が入ったのかな」


 僕がぼそりとつぶやくと、それを聞くなり母はすっとんきょうな声を上げた。


「空き巣?! やっぱりって、貴方、何か隠しているんじゃないでしょうね?」


「実は……」


 僕は、昨日の出来事を一部始終話した。 家に帰ってきたら、窓が開いていたこと、そして猫がいなくなっていたこと。 リトルとのかかわりについては、黙ってある。 こればかりは隠しとおそう。 母さんのクローゼットについては、気付かなかったと説明した。

 僕が説明し終わると、母は、「なんで昨日のうちに言ってくれなかったの」と怒鳴って、僕をゆすりまくった。 その後、母は、警察に連絡し、空き巣を捕まえてくれるように頼んだ。


「近所の人にも目を光らせてもらわなきゃ。 さ、レンディ。 食事が済んだらさっさと行きなさい」

 

 僕が、玄関を出た瞬間、足元からすすすっと猫が家に入り込んできたので、驚いた。 猫は、昨日の出来事がなんでもなかったかのように、悠然としている。 なんだか腹立たしかった。

 すると、母が後ろからこう付け足した。



「それと、とにかく、今週いっぱいは外出禁止。 留守番よ。 いいわね?」


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