兄貴②
というわけで現在デュランと共にギルドを出て街の外へ来ている。いつも子供達と一緒に訓練しているあの場所だ。やはりギルドメンバーの練習場も街の外が定番の様である。
デュランは既に臨戦態勢。準備運動もそこそこに俺を見てきた。
「時間制限は特にいらねーな」
「大丈夫ですか? ぶっ続けって結構大変ですよ?」
「俺を誰だと思ってやがる。『剛腕のデュラン』を舐めちゃいけねぇ」
そういえばそんな二つ名があったっけ。にしても剛腕とは見たまんまだな――俺は丸太の様なデュランの腕を一瞥した。
「んじゃ、早速始めるとするかね」
「ハァ……りょーかい」
「行くぜッ!!」
言うや否やデュランはその巨体からは想像も付かないスピードで突進してきた。
「ぅおっつ!?」
俺は活真功で身体を強化すると寸での所でそれを交わす。擦れ違い様に風を切り裂く様な音が聞こえてきた。
ったく、えげつない速さだ。
「お、やるねぇ」
そう言いつつデュランは既に次の攻撃に入っていた。
今度はその剛腕を振り翳し、ただ振り下ろす――チョッピングなパンチだ。聞けば単純な攻撃であるが、その腕の太さとスピードを経験すると単純な攻撃とは呼べない。
俺はそれをバックステップで回避する。すると次の瞬間には俺のいた場所にデュランの腕がめり込んでいた。
「……マジっすか」
その攻撃力は最早トレーニングという概念の範疇を越えている気がするが、デュランにしてみればそれこそ気のせいなのだろう。
「ハッハーッ! それでよけたつもりか!?」
「え?」
「ぅおらッ!」
デュランが何をしたのかわからないが彼の掛け声と共に突如地面に亀裂が入った。その亀裂は真っ直ぐ俺の足元まで走ってくるといきなり何かを噴き出す様に爆発した。
「グッ……」
爆発の衝撃が俺を襲う。そしてその勢いで後方へ吹き飛ばされた。デュランは無防備になった俺をそっとしておいてくれるはずもなく、そのまま追撃してきやがった。
「よいしょーーッ!」
彼は猛烈な速さで以て吹き飛ぶ俺の下に素早く潜り込むと強烈なアッパーカットを放ってきた。デュランの拳――メロンぐらいの大きさはあるかもしれない――が背中にめり込む。
「イッッッ」
その痛さ――プライスレス。ってか痛い。いやいや、チョーいてーからッ!
そんな激痛を抱えつつも俺は上空に舞い上がり、身動きの取れない状況が続く。すると更なる追撃を加えようとするデュランの気配がした。
流石にここいらで反撃の一つぐらいはかましてやりたい。俺はデュランに悟られないよう掌に魔方陣を描く。
背後にデュランの気配が迫る。そして勢い良く跳躍してきた彼は俺の更に上へ舞い上がる。その顔は戦いを心から楽しんでいる、と言った表情だ。
「っしゃーー! もういっち――」
「へへ、残念!」
俺は魔方陣をデュランへ向ける。
「――サンダーボルトッ!」
パチンという音と共に魔方陣が帯電する。刹那――魔方陣から解き放たれた無数の雷がデュランに襲いかかった。
「ぐぁぁぁぁぁあッ」
魔法をモロに食らったデュランは空中でバランスを崩し地上に急降下していく。俺はバランスを取りながらその後を追った。