終・スリフトの依頼⑨
魔法が消え去ると本当にそこで天変地異があったかの様に大地が姿を変えていた。
目立つのは二つの魔法が衝突、消滅したポイント――ベルガザールが落下した時に出来た窪みを遥かに超える、とても大きなクレーターが出来ていた。
更に言えば魔法が消滅した際の衝撃で空を覆っていた厚い雲が消え、暖かな光を放つ夕日が顔を覗かせていた。
自分で言うのも憚れるが、あの魔法にこれ程の威力があったとは驚きである。
ベルガザールはというとそんな光景に気を取られる様子もなく、ただじっと俺を見ている様だった。俺は負けじとベルガザールを睨み返す。
すると――。
「ククク……」
笑った?
「ククク……ハハハハハハハッ!」
「な、何が可笑しい!」
「ハハハハ――面白イ! 面白イゾ人間ッ!」
「面白い……だと?」
「マサカ我ガ終焉ノ大火ヲ打チ消ストハナ」
言ってベルガザールは顔から笑みを消すと地上に降りてきた。俺達はいつでも動けるようにと武器を構える。
「ソウ構エルナ。貴様ト少シ話ガシタイ」
「話? へっ、俺から話すことは何もないけどな」
「フン、魔力モ破力モ尽キカケテイル状態デヨク吠エル」
あら、バレてる? ぶっちゃけもうヘトヘトだっての。とは言えここは流れ的に強がってみせるべきだろう。
「で、話って何だ?」
俺は疲れてないけど、的な空気を醸しつつと腰を下ろした。
「貴様、最後二我ガ魔方陣ヲ真似タナ?」
あらら、バレてる? だったら仕方ない。全てを話してやろうではないか。
「まぁな。ギリギリお前から勉強させてもらったよ」
「フン、ナルホド……ソレガ貴様等ノ言ウ『成長』トイウヤツカ」
「それがどうした」
「クハハハ――貴様等四人ハ初メテ我ヲ楽シマセテクレタンデナ。モシコレカラ再ビ成長スルト言ウナラバコノ場ハ見逃シテヤル」
「何?」
いきなり何を言い出すのか。いや、見逃してくれるのなら嬉しいけれども。
「成長スル機会ヲ与エル。成長シタラ再ビ我ト戦エ」
「は……はぁ?」
「フム、今宵ハ月満ツル夜――再ビ月満ツル夜二合間見エヨウ、人間」
ベルガザールはニヤリと笑うと踵を返した。
「ちょ、何言ってやがる! 勝手に決めんじゃねぇ!」
「フン、ソレダケ吠エラレルナラ次会ウノガ楽シミニナルナ」
クソ、完全におちょくられてる気がする。俺は怒り任せて立ち上がった。
「……舐めてんじゃねぇぞ」
「ククク、サラバダ」
「お、おい! ベルガザールッ!」
俺の呼び止めにベルガザールは翼を広げつつ振り返った。その瞳からは僅かながら怒り、もしくは憐れみが込められいるように感じる。
「一々ウルサイ奴ダ。目二余ルヨウナラココデ全テヲ終ワラシテヤッテモイインダゾ?」
「ち、違うわい! いいか、今度会った時は絶対にぶっ飛ばしてやっからな!」
「ククク、楽シミダナ」
「それとな!」
「フゥ……マダ何カアルノカ?」
「お前普通に喋れ! 一々カタカナ変換するのメンドーなんだよ!」
「何?」
「ま、まぁあれだ! 次会うのを楽しみにしておけ!」
ベルガザールは「フッ」と笑うと山脈へ向かって飛び去っていったのだった。
奴がいなくなると辺りはいつもの平穏を取り戻したようだった。風が吹き抜ける音だけが耳に届く。
「終わったの?」
エルリックが山脈を眺めながら問いかけてきた。その質問に対する答えを頭の中で考える。
「終わった、ねぇ――いや、違うな。たぶんこれが始まりだ」
「……そっか」
エルリックはわかったのかわかってないのか、頭をポリポリ掻きながら空を仰いだ。
「じゃ、帰るか」
「はい!」
三人の返事が綺麗に重なる。しかし三人共目に力が籠っていた。もしかしたら既にベルガザールとの次なる戦いに備えているからかもしれない。
「しゅっぱーつ!」
フィリアが元気よく歩き出す。俺も彼等に置いてきぼりを食らわないようしっかり歩いていかねばなるまい。フィリア、アベル――そしてエルリック。その三人の背中を見つめながら俺は歩き出した。
しばらく歩くとエルリックがくるりと後ろを振り返り「そう言えば先生」と問いかけてきた。
まだ何か聞くことがあるのだろうか。
「ん? 何だ?」
「カタカナヘンカンって何?」
「――え?」
「さっき言ってたでしょ、カタカナヘンカンがどうとか」
「あ、えっとぉ……うん、その~あれだ。こっちの話」
ホント、こっちの話……。