続・スリフトの依頼⑦
聞けば俺を起こすちょっと前にその声は聞こえたのだとか。とは言えこの雨――確信は持てないらしかった。
「そうか……うん、わかった。で、どっちから聞こえてきた?」
俺は両手を広げて右と左を交互に見た。ちなみに目の前には舗装された山道が左右に延びており、左は緩やかな下り坂――その先には俺達が朝出発した麓がある。そして右は反対に山脈の入り口――つまりは緩やかな上り坂が続いている。
「たぶん……」
言ってエルリックは右を指差した。
「じゃあ先生がちょっと見てくるからみんなはここで待ってなさい。それと――」
携帯を取り出しエルリックに手渡して続ける。
「何かあったらルカに連絡。前に使い方教えたから大丈夫だよね?」
「はい」
「良い子だ――行ってくる」
俺はエルリックの頭をそっと撫でるとエルリックの指差した方角へ向かって歩き始めた。
滝の様に打ち付ける雨は相も変わらずで、ものの数秒で再び全身ずぶ濡れになってしまった。クソ、ちょっと乾いてたのに……。
とまぁ雨に悪態をつきながら数分程歩いて、何の気なしに振り返ると雨の飛沫がスモークの様に立ち込め、その先にいるはずの子供達の姿を隠していた。大人しくしてくれていることを祈りつつ先に進む。
そしてしばらく辺りの様子を窺いながら進むと、雨の降る音に紛れて何やら別の音が聞こえてきた。しかしそれはエルリックが言っていた助けを求める様な言葉でなく、どちらかと言うとこれは――うん、金属音だ。
そう、例えば剣と剣がぶつかり合う様な、そんな感じの音が聞こえる。俺は更に注意深く歩を進めることにした。
段々と音が大きくなってくる。しかもこの雨の音に負けない程の大きさだ。一体誰が戦っているのだろうか――そんな変な期待にも似た感情を抱きつつ緩やかなカーブを曲がった時だった。
突如としてかつて見たことの無いような光景が目に飛び込んできた。それは一言で言えば『凄惨』と形容するしかなく、その光景に思わず俺はたじろいでしまった。
横転した馬車、血まみれの馬に首無しの馬。その周りを囲む様にして倒れている甲冑を纏った者達。頭蓋を潰された者もいれば、運良く頭蓋は無事でも下半身が無い者もいる。つまりは皆総じて、致命的なダメージというか怪我を負っていることに間違いはなく、結果――辺り一面血の海だった。
それはあまりにも非日常的すぎて逆に冷静になってしまう程だった。だからこそ出てくる言葉はただ一言「マジで?」だけだったりするのだが――。
俺は一先ず周囲を見渡し、敵らしき姿が見えないことを確認すると生存者がいないか探し始めた。あ、ちなみにだがようやく死体のグロさを理解して二回程リバースした。
話を戻すが一向に生存者は見つからなかった。それもそうかもしれない――何たって綺麗に五体揃っている者がいないのだから。
一応念のため頭の残っている者は兜を外して確認してみたが単なる徒労に終わってしまった。ただわかったことと言えば甲冑を纏っているのは様々な種族の人達で、皆悔しそうな顔をしていたということだった。
斯くして一通り確認し終えたわけだが、胸に残るは何とも表現し難い嫌な感情だけだった。やはり俺は血やら痛々しいものが苦手なようだ。
ともあれ残すは未だ絶えることなく聞こえてくる、あの剣がぶつかり合う様な音の発信源に向かうだけだ。いや、別に向かう必要は無いかもしれないが、毒を喰らわば何とやら――ここまで来たのだから最後まで確認しなければ気が済まない。
一度深呼吸をして気分を転換させると音のする方へ体を反転させた。が、そこでふと思いついたことが一つ。それは、まだ馬車の中を確認していなかった、ということだ。




